離婚「知っトク」ブログ

別居中の生活費,離婚後の養育費はどうやって決めたらいいか③(収入の算定)【離婚】【婚姻費用】【養育費】

2017.10.12
  • その他

1,はじめに
今回は,これもよくあるご相談ですが,
①当事者に収入がない場合、どうやって婚姻費用・養育費を決めるのか
 ②収入はないものの公的給付や年金等を受給している場合や実家から援助を受けている場合、どうやって婚姻費用・養育費を決めるのか
について、お話いたします。

なお、以下にいう「義務者」とは婚姻費用や養育費を支払わなければならない方、「権利者」とは婚姻費用や養育費をもらえる方をいいます。
 
2,義務者が退職して無職になってしまった場合
(1)問題となる事案
たとえば、サラリーマンの夫と専業主婦の夫婦において、サラリーマンの夫が退職して無収入となり、「収入がないから支払うことができない」などと婚姻費用や養育費の支払いを拒んだ場合、妻は夫から婚姻費用や養育費をもらうことができないのでしょうか。
(2)退職した場合の婚姻費用・養育費
結論からいいますと、現在無収入になってしまっているとしても、潜在的稼働能力があれば、婚姻費用や養育費の支払いを免れることはできません。この場合、潜在的稼働能力に応じた収入を認定して、婚姻費用や養育費を算定することになります。
(3)どのようにして潜在的稼働能力の有無や程度が判断されるか?
潜在的稼働能力の有無や程度については、学歴や資格の有無、過去の就労歴や経験、年齢、健康状態、就職活動の状況、監護している子の年齢や健康状態、再就職が困難な事情の有無等の具体的事情に照らして、判断されます。
また、退職の経緯も重要な判断要素のひとつとなります。たとえば、婚姻費用や養育費の支払いを免れようとして退職した等の事情がある場合、潜在的稼働能力があるとみなされる可能性が高くなります。支払いを免れるために退職したかどうかは、退職の時期、退職理由、退職前後の義務者の言動、新たな就職先を探す努力の程度等から判断されます。
(4)潜在的稼働能力があるとして、その収入はどのように認定するのか?
潜在的稼働能力があると判断された場合、その潜在的稼働能力の程度に応じた賃金センサスを用いるなどして、収入が認定されます。また、退職前と稼働能力が変わらないと判断されれば、退職前の収入がそのまま認定されることもあります(退職前と同様の業務につけない事情がなく、ただ強制執行を免れるためだけに退職した場合等)。
 
3,権利者が無職の場合
(1)問題となる事案
①権利者が退職した場合や、②権利者がもともと専業主婦であった場合に問題となります。
(2)①権利者が退職した場合
前述した義務者が退職してしまった場合と基本的には同じように考えます。
(3)②権利者がもともと専業主婦であった場合
専業主婦として長く家事に従事してきて、就労経験がない場合、年齢にもよりますが、すぐに就労先を見つけることは困難と判断され、収入がないものとして認定される場合があります。
他方、主婦であってもパート経験がある方などは、稼働能力があるとして、賃金センサスによる同年齢のパート収入程度の年収が認定されることもあります。
 
4,公的給付を受けている場合
(1)児童手当について
児童手当を受けている場合、それを収入の一部として加算するのかという問題があります。
これについては、児童手当制度は、子どもの成長を社会全体で応援するという観点から実施されているものであるため、婚姻費用や養育費の算定の際の当事者の収入認定において、考慮しないとされています。
(2)生活保護について
扶養義務者(配偶者等)の扶養は、生活保護に優先します(生活保護法4条2項:私的扶養優先の原則)。
したがって、婚姻費用額等を算定する際に、生活保護の受給額を権利者の収入として考慮することはできません。
 
5,年金を受給している場合
年金は公的給付の側面もありますが、夫婦で協力して保険料を納付した老後の所得保障形成の側面もあります。そのため、年金は、他方配偶者の扶養にあてられるべきものとして、収入とみなされます。
※年金の受給には職業費がかかっていないため、職業費を控除せずに基礎収入を算定しなければならない点に注意が必要です(年金生活者の基礎収入割合は、53〜62%になります)。
 
6,権利者が実家等から援助を受けている場合
実家等からの援助は好意に基づく贈与ですから、権利者の収入には加算されません(夫婦間や未成熟子の親子間の扶養義務は、成熟子の親子間の扶養義務よりも優先されます)。
よって、たとえ権利者が実家から多額の援助を受けていても、養育費や婚姻費用が減額されることにはなりません。
ただし、権利者が実家からの援助があるため働いていないとしても、潜在的稼働能力が認められれば、その稼働能力に応じた収入をもとに算定されることになります。