離婚「知っトク」ブログ

妊娠・中絶した場合に慰謝料いくら?弁護士がわかりやすく解説しました。

2017.12.07
  • 男女トラブル

1,はじめに
彼氏の子どもを妊娠したけど,おろせと言われた。彼氏に中絶費用と慰謝料を支払ってほしい,という相談は珍しくありません。

2,慰謝料請求をするには?
慰謝料請求の法律上の根拠は,民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求です。
この条文によると,

慰謝料請求ができるには,
①相手の違法な行為によって
②権利や法的利益が侵害されて
③損害(精神的苦痛)が生じたといえることが必要となります。
3,性交渉も中絶も同意のうえで行われた場合
交際相手との性交渉は、通常お互いの同意の上で行われます。避妊具なしで性交渉をすることに同意があれば、妊娠もお互いの同意のうえのものということになります。
また、中絶する際も、多くはお互いの同意の上で行います
(女性に産みたい気持ちもありながら、彼氏の要望を受け入れて中絶する場合も、暴力等で意思を抑圧されてやむなく応じた場合等を除き、双方の合意があったといえます)。
このような場合は、リスクを女性が受け入れている以上、不法行為とはいえません。
したがって、女性から男性に対する慰謝料請求をすることはできません。

4,妊娠について女性の同意がなかった場合
無理矢理性交渉をされた場合(レイプ)は、妊娠することについて女性の同意がないわけですから、当然ながら,中絶に至ったことに対する慰謝料を請求することができます
(そもそもレイプ自体に対する慰謝料も請求できます)。
また、避妊する約束だったのに、実際には避妊していなかった場合も、妊娠することについて女性の同意がなかったわけですから、慰謝料を請求することができます。
ただし、コンドームを付ける約束で途中ではずされた場合には妊娠の同意がなかったといえますが、膣外射精で性行為をすることに同意していて(または特に拒まず)、それにより妊娠をした場合は、女性も妊娠のリスクをある程度覚悟していたといえるため、慰謝料を請求することができない可能性が高くなってしまいます。

5,結婚を前提に交際していたのにじつは既婚者であった場合
結婚を前提に交際していたため、妊娠してもよいと考えて性交渉したのにもかかわらず、実際には既婚者で妻がいたために中絶を求められるというような事例もあります。
このような場合、女性の妊娠に対する同意は男性に嘘をつかれたためですから、慰謝料を請求できることがあります。

6,妊娠は同意していたが、中絶の際に男性の協力がなかった場合
基本的には、性行為や妊娠に同意があった場合は、中絶をしたとしても慰謝料を請求することはできません。
しかし、最近の裁判例の中には、避妊しないで性行為することに同意があって妊娠し、中絶した場合であっても、事情によっては慰謝料を支払うべきとする裁判例もあります。
東京高等裁判所平成21年10月15日(判時2108号57頁)は、双方が合意の上で性行為をした結果妊娠したという事案において、女性は中絶によって肉体的・精神的に苦痛を受け、また経済的負担を負うのだから、男性は、女性の苦痛や負担を軽減し、解消する法的義務があるとしました。そして、男性がその義務に背いて、女性の不利益を苦痛や負担を軽減し、解消しようとしなかったなら、それは不法行為である(女性が男性から苦痛や負担を軽減解消する行為の提供を受けることができる法的利益を侵害している)としました。
この判決では、女性が中絶するかどうか悩み、相談を求めていたにもかかわらず、男性が「相談してください」とはいうものの、「正直どうしたらいいかわからない」との対応しかとらず、中絶同意書にサインするなどの受動的対応のみに終始し、具体的な話し合いに応じなかったため、女性が重篤な精神疾患等を発症して精神的な苦痛が生じた等の事情から、不法行為の成立を認め、男性側に女性のこうむった損害の半分の慰謝料の支払いを命じました。損害の全額ではなく、半分の支払いのみであるのは、男性と女性の共同行為によって女性の損害が生じたという考えからです。
従来は、このようなケースでも慰謝料の支払いはほとんど認められてこなかったため、画期的な判断といえます。

7,中絶慰謝料の請求方法
中絶による慰謝料を請求するには、弁護士に依頼し、内容証明郵便による請求を行い、交渉を行うことが一般的です。
ご本人で内容証明を送ったというケースも散見されますが,ご本人名義ですと相手に対するプレッシャーがあまりありません。
「弁護士から手紙がきた」ということが相手に対するプレッシャーになります。ですから弁護士名義の内容証明を送付することが効果的です。
相手が任意の交渉に応じなかった場合や交渉が決裂した場合は、調停や裁判による解決を図ることになります。
実際に慰謝料を請求する際は、手持ちの証拠で立証ができるかどうかが鍵になることも多いです。そのため、中絶慰謝料請求を視野に入れている女性は、中絶をするかどうか迷っている段階から弁護士に相談することをおすすめします。