離婚「知っトク」ブログ

離婚相談の対応実績が豊富な弁護士が解説!不貞慰謝料請求に対する減額交渉のポイント

2022.07.08
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不貞慰謝料請求とは何か

一方配偶者に不貞行為があったことを理由に、当該配偶者またはその不貞相手に対し、慰謝料を請求することをいいます。
不貞行為についての慰謝料請求は、不法行為に基づく損害賠償請求です。

不貞行為とは、
「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいい、相手方の自由な意思に基づくものであるか否かは問わない。」とされています。
(最大判昭和48年11月15日民集27巻10号1323頁)

既婚者と性的関係を結んだとして、慰謝料請求をされた場合には、どうしたらよいのでしょうか。自分で解決するべきか、弁護士に相談するべきか迷うことがあると思われます。
慰謝料請求をされてしまった場合に、どのように対応していくのがよいのか、減額できる事由はあるのか等について、弁護士が解説します。

そもそも、どういった場合に慰謝料を支払う必要があるのか

一般論としては、不貞をした者に故意または過失がある場合、当該夫婦間の婚姻関係が不貞行為開始時に破綻をしていない限りは慰謝料を支払う責任が生じます。

肉体関係がなければ慰謝料を支払わなくてもよいのか?

不貞行為=肉体関係であるとすると、肉体関係がない場合には、慰謝料を支払わなくてもよいと考えられそうです。しかし、保護法益が「婚姻共同生活の維持という権利または法的保護に値する利益」であることからすると、肉体関係がなくとも、上記の保護法益を侵害した場合には慰謝料を支払わなければならないということもあります。

実際に、肉体関係までは認められないものの、上記保護法益の侵害はあるとして、慰謝料請求を認めた裁判例があります。
その裁判例(東京地裁平成17年11月15日判決 判例秘書搭載)は、次の通り述べています。
「被告Y1は,Aと肉体関係を結んだことが立証されてない以上,被告Y1の行為について不法行為が成立する余地はない旨主張するけれども,婚姻関係にある配偶者と第三者との関わり合いが不法行為となるか否かは,一方配偶者の他方配偶者に対する守操請求権の保護というよりも,婚姻共同生活の平和の維持によってもたらされる配偶者の人格的利益を保護するという見地から検討されるべきであり,第三者が配偶者の相手配偶者との婚姻共同生活を破壊したと評価されれば違法たり得るのであって,第三者が相手配偶者と肉体関係を結んだことが違法性を認めるための絶対的要件とはいえないと解するのが相当である……」(注 下線は筆者による。)

上記の裁判例は、被告(慰謝料請求を受ける側)がAさんを既婚者であると認識しながらAさんと交際関係を継続し、Aさんの夫である原告に対し、
「Aさんと一緒になりたい。」、「Aさんと結婚したいので離婚してほしい。」などと告げ、その後原告とAさんが離婚したという事案です。
被告が、Aさんは既婚者であると認識しながらAさんと結婚したいという希望を持ち、原告に対しAさんとの離婚を懇願し続け、その結果原告とAさんは離婚することになりました。
被告のこのような行動は、原告とAさんの婚姻共同生活の維持という権利または法的に保護すべき利益を破壊するものといえるので違法であると評価をしたものと解されます。
このように、肉体関係がなくても慰謝料請求が認められる場合があります。

高額請求がなされた場合にはどうしたらいいか?

たとえば、「慰謝料として1000万円を支払え。」、「慰謝料として1億円を支払え。」という請求がなされた場合について考えます。
このような記載がなされた書面やメールが、不貞をされた配偶者本人やその代理人弁護士から届いた場合、一般の方はとても驚くと思われます。
もっとも、裁判例上、1000万円や1億円の請求が認容されることはほぼありません。
だからといって、対応しないで放置していた場合には、気づかないうちに訴訟へと発展していく可能性もあります。
そのため、このような請求を受けた場合には、直ちに弁護士へと相談を行うのがよいでしょう。

減額交渉の可能性について

(1)不貞慰謝料を請求された場合

不貞慰謝料請求をされた場合には、まず、記載内容をしっかりと読みましょう。相手は、いつの話をしているのか、どういった理由から請求してきているのかについて確認をしましょう。
そのうえで、疑問に思うことがあった場合には、すぐに返事をするのではなく、まずは自分で事実関係を整理してみることをおすすめします。
弁護士に相談に行くにあたっても有用なので、時系列表を作成してみるとよいでしょう。

【時系列表例】

日にち 出来事 特記事項
20XX.05.29 Aさんとマッチングアプリで知り合う。 Aさんは独身とプロフィールに書いていた。
20XX.06.15 Aさんとアプリ内のメッセージのやり取りをしてデートの約束を取り付ける。 Aさんは土日や平日の夜遅くはあまりデートできないと言っていた。
20XX.07.04 Aさんとデートをしてその日は食事だけして解散。 また会いたいなどと言われる。
20XX.07中旬頃 旅行に誘われる。 お盆期間はどうかと言われる。
20XX.08.13~08.15 二人で〇〇へ旅行にいく。宿泊先で肉体関係を持つ。
20XX.08末頃 仕事でしばらく忙しいから会えなくなると言われる。 LINEでやり取りをしていたが、返信の期間が空くようになり、ほとんど返事も来なくなる。
20XX.10.3 Aさんの妻の弁護士から手紙が届く。内容を読むと、「あなたは、Aさんが既婚者であると知りながら、Aさんと肉体関係に及んだ。あなたのこの行為は違法なので、慰謝料300万円を請求する。」と書かれていた。

 

(2)減額の可能性について

(1)のとおり整理すると、自分がどういう認識でいつ頃、何回程度関係をもったのか明らかとなります。このような事実関係が浮かび上がってくると、減額の要素が見えてくることとなります。減額の要素のみならず、そもそも、請求者の請求が認められるのかという点に疑義が出てくるかもしれません。

そもそも相手の請求が認められないと評価される可能性のある事情

①肉体関係がない
②婚姻関係が破綻している
③既婚者であることの認識がない
④婚姻関係が破綻していると認識していた 等

減額の要素となる事情

①不貞行為の期間が短い、回数が少ない
②不貞行為発覚後にすぐに関係を解消している
③慰謝料請求者とその配偶者の婚姻期間が短い
④慰謝料請求者とその配偶者の婚姻関係が相当程度悪化している
⑤不貞行為について謝罪をした場合 等

(3)減額交渉

(2)記載のような事情がある場合には、それらの事情があることを理由に請求を排斥する交渉や減額交渉を行っていくこととなります。もっとも、不貞をされた側は、やはりやりきれない気持ちがありますから、その点を踏まえた対応が必要となってきます。

減額交渉の流れ

不貞慰謝料の請求がなされる場合、通常は、不貞をされた配偶者本人またはその弁護士から書面やメール等で通知書が届きます。
その通知書の内容を読んで、対応を考えていくこととなります。
ここで重要なのは、その連絡を無視しないということです。連絡を無視してしまうと、相手方は、裁判へと進んでいく可能性があります。裁判となれば、訴状が家に届きます。
そのうえ、裁判所に決められた期限までに反論する書面を作成し、提出しなければなりません。もちろん、裁判所から指定された日に裁判所に行く必要も出てきます。
そのような事態へと発展することを避けるためにも、相手方から来た連絡は無視せずに、弁護士に相談する等して適切な対応をとるようにしましょう。

不貞をされた配偶者本人から連絡が来た場合に対処する方法は、自身で対応するか、弁護士をつけるかの二択です。
不貞をされた配偶者の弁護士から連絡が来た場合には、弁護士をつけて対応する方が好ましいです。
双方で、請求内容に関する合意ができた場合には、合意書を締結することは必須です。再度請求されることを防ぐ観点から、しっかりと内容を決めましょう。
交渉の際に注意するポイントは、以下の4つです。

①仮に、当事者同士で交渉をする場合には、公共の場所で会う

お互い冷静になって話をするためにも、公共の場所(第三者の目がある場所)で交渉しましょう。

②相手方の話を一通り聞く

相手方の話について、思うところはあるでしょう。しかし、その場で反論、弁解をすると相手の感情面に火をつけ、事態が悪化していく可能性も否定できません。相手方が「質問に答えなさい。」、「何か言い訳はないのか。」と詰問してきた場合には、「弁護士に相談します。」とだけ告げて、その場を離れることとしましょう。

③感情的にならない

相手方は感情的になってお話しをしてくる可能性が高いです。こちらもそれに応酬して感情的に対応してしまうと、相手方はより怒りを増幅させてしまうおそれがあります。

④その場で結論を出さない

その場で相手方から金額の提示があり、「これで解決するならば応じてもいいかな。」と思ってしまうこともあるかと思います。もっとも、その場で金銭を交付したのみで終わらせてしまうと、後日再度請求されてしまう可能性も否定できません。そのため、相手方から「合意書にサインをしてほしい。」、「〇〇円払ってくれたら終わりにする。」と言われても、その場で合意書にサインをしたり、金銭を交付することはせず、「持ち帰って検討する。」、「弁護士に相談する。」とだけ伝えましょう。

弁護士に相談、依頼するメリット

弁護士に相談、依頼するメリットは、5つあります。
①事態の悪化を防ぐためのアドバイスが得られる。
②相手方の請求が法的根拠のあるものなのかを確認することができる。
③相手方の請求に対し、どのように対処をしていけばよいのかを確認することができる。
④相手方からの請求に自身で対応しないで済む。
⑤感情的な対立を避けて、紛争の解決につなげることができる。

不貞慰謝料請求を受けた場合、事態を悪化させないためには初動が重要です。
請求を行う側は、感情的になっている場合もありますから、相手の感情の波を立てることなく、粛々と対応を行うことが必須となってきます。
当事者同士で対応するとなると、感情的対立が先鋭化することもありますので、そのような事態を避けたいということであれば、弁護士に依頼をすることをおすすめします。

また、弁護士に依頼をすれば、自身で対応する必要がなくなります。日常生活で忙しいなかで、紛争の対応を行うことは精神的にも肉体的にも厳しいことが予想されます。
その負担を軽減するためにも、弁護士をつけて交渉していくことが好ましいです。
さらに、弁護士が対応する場合には、相手の過剰な請求については一般的な相場の範囲内で収めていく交渉ができることとなります。

弁護士に依頼をした場合には、精神的負担を低減しつつ、紛争に対応するわずらわしさもなくなり、相場の範囲内で紛争を解決してくことが可能となります。
お困りの際には、ぜひ、弁護士への依頼をご検討ください。