夫婦のモラハラとは|モラハラ夫(妻)の特徴とモラハラの対処法
- 離婚の原因
モラハラとは、正確にはモラルハラスメントと言い、道徳や倫理に反する言動や態度で人の心を傷つける暴力のことです。
モラハラ加害者から日常的に攻撃を受けていると、いつしか「自分が悪いではないか」と思い込み、被害に気づきにくくなるのが、モラハラの恐ろしい点です。
この記事では、夫婦間のモラハラについて、次の点を解説します。
- モラハラチェックリストとモラハラ加害者の特徴
- 夫婦間のモラハラを解決するには
- 夫婦間のモラハラで離婚する前にすべきこと
夫婦間のモラハラとは
夫婦間のモラハラは、相手を見下して、日頃から継続して相手に対し暴言や侮辱、人格否定をして、自分の思う通りに支配することです。
執拗に嫌がらせを行い、相手を精神的に追い詰めることから、モラハラは精神的DVとも呼ばれています。
なお、2023年の司法統計によると、調停や裁判を申し立てた理由のうち(複数回答可)、精神的虐待と回答した割合は、男性が約21%で全体で2番目、女性が約26%とと全体で3番目に多い結果でした。
これは、不倫よりも多い割合です。
夫婦喧嘩の場合は、その時喧嘩をしたとしても、時間の経過と共に「自分にも悪い点があったかもしれない」と考え直して謝るなど、歩み寄りを見せて問題を解決するのが一般的です。
モラハラ加害者の場合は、些細な出来事で異常なほど相手を攻撃して、後から思い返して反省や歩み寄る努力を一切しません。
夫婦関係が対等かどうかという点も、大きな違いと言えるでしょう。
しかし、夫婦喧嘩とモラハラの線引きは難しく、DVのように目に見える被害がないために、「どこに相談すればいいのかわからない」「他人から理解されない」など被害者が孤立しやすいという特徴もあります。
モラハラ夫(妻)のモラハラ行為チェックリスト
モラハラは、些細なことで繰り返し被害者を攻撃し、被害者に「自己否定」「無力感」を感じさせて支配する特徴があります。
「モラハラかわからないけど、夫(妻)の言動にモヤモヤする」という人もいるでしょう。
ここでは、モラハラ行為の特徴を挙げます。
こうした行為を受けている場合は、医療機関やカウンセラーに相談して、専門家の客観的な意見を聞くことが大切です。
暴言や侮辱して人格否定をする
見た目を侮辱する言葉から、「バカ」「使えない」「無能」「頭がおかしい」「価値がない」など人格を否定する発言はモラハラに当たります。
特に、パートナーが何か些細なミスをすると「お前が悪い」と執拗に責め立てます。
パートナーからすると、日常でも些細なミス一つで人格否定が繰り返されるため、気が休まりません。
また、モラハラ加害者は、時にはパートナーだけでなく、パートナーが大切にしている家族や友人、子どものことまでも侮辱します。
威圧的な態度をとる
暴言がなくても、頻繁に威圧的な態度をとり、被害者を委縮させることもモラハラに該当する可能性があります。
例えば、何かするたびにため息をつく、舌打ちをする、不機嫌になる、無視をするなどです。
中には、パートナーが楽しそうにしているだけで、気に入らない態度をとることもあります。
些細なことではありますが、日頃からこうした威圧的な態度を繰り返されると、精神的なダメージも積み重なっていきます。
暴力や脅迫行為をする
モラハラが、暴力や脅迫行為にエスカレートすることもあります。
直接的に体を殴る行為や、物に当たり散らす、気に食わないことがあると「殺すぞ」と脅迫するなどが挙げられます。
ここまでくると、身に危険が迫っているため、すぐに加害者から離れるようにしてください。
生活費を渡さずに経済的に困窮させる
生活費を渡さずに経済的に困窮させる行為も、モラハラに該当します。
生活費を渡さないだけでなく、お金がかかるからという理由で病院に行かせないことや、「誰がお前を養ってやってるんだ」「収入が少ないくせに」などの暴言や威圧的な態度をとるなどが挙げられます。
また生活費を渡さない行為は、法律で定められた夫婦の協力・扶助義務違反に該当し、離婚や、慰謝料が認められる原因(悪意の遺棄)にもなります(民法第770条1項2号)。
束縛して自立を妨げ他人との交流を制限する
束縛して自立を妨げ、他人との交流を制限するのもモラハラの特徴として考えられます。
例えば次の行為が挙げられます。
- 「お前にはできない」など能力がないと言って仕事をやめさせる
- 友人と出かけると不機嫌になる
- 常に行動を監視して、報告させる など
こうして他人との交流を制限して孤立させ、自分から離れないようにするのはマインドコントロールの手法だとする指摘もあります。
子どもを利用して孤立させる
中には、子どもを利用して、家族の中で被害者を孤立させることがあります。
例えば、子どもに悪口や嘘を吹き込み、家庭内で無視をするなどが挙げられます。
こうした行為は、子どもにも悪影響です。子どもが傷つくだけでなく、将来的に他人に対しても同じように接する恐れがあります。
また、被害者に対するモラハラ行為が、子どもに移るケースも考えられます。
子どもにも被害が及んでいるのであれば、早めに対策を講じなければなりません。
モラハラ夫(妻)の特徴
モラハラ加害者にはいくつか特徴があります。
モラハラ行為とも照らし合わせて、もし当てはまる場合は、今後どう付き合っていくのか考える必要があるでしょう。
ただし、あくまでも傾向であるため、参考程度に考えてください。
家族がモラハラ気質
夫(妻)がモラハラ気質である場合、その親など家族もモラハラ気質であることがあります。
子どもは生まれた時から親の言動を見ているため、無意識に親の価値観が強く刷り込まれることが考えられます。
例えば、「妻は夫に従うべき」「男は強くなければいけない」「立場が下の人間には厳しく指導する」などが常識と考え、「常識から外れることは許されない」と思い込んでいることがあります。
常に自分が正しいと思い誤りを認めない
モラハラ加害者の特徴として、常に自分が正しいと思い、決して誤りを認めない特徴があります。
ミスや間違いや欠点を指摘すると、全てを否定されたと思い込み、自分のプライドを守るために相手を攻撃します。
また、相手に対して暴言や侮辱、行動を制限することは「相手のためにやってあげていること」で正義や善意だと信じて疑わない傾向もあります。
モラハラだと指摘しても、正義や善意にもとづいて行動しているため、「自分が正しいことをしているのに、歯向かってくる相手が悪い」「むしろ自分は被害者である」と考えて、モラハラに気づきません。
中には、「常に正しくある自分」がアイデンティティになっていることもあり、事実を捻じ曲げてでも、失敗はすべて相手のせいだと主張します。
背景には、子どものころから刷り込まれた価値観が関係していることも多いです。
依存的で過干渉
モラハラ加害者の特徴として、被害者の言動に異常に干渉してくる点が挙げられます。
嫌がらせをするほど嫌いな人間であれば、関わらないようにするのが通常です。
モラハラ加害者が、異常なほどパートナーに執着するのは、自分を見捨てて離れていってほしくないからと指摘されることがあります。
自分から離れていかないように常に心配や不安を抱えて、暴言や侮辱などを手段として、パートナーを支配すると言われています。
裏を返せば、自分に自信がないことの現れだと言えるかもしれません。
また、パートナーに対して「自分の言うことを聞くだろう」と過剰な期待をする傾向もあります。
そのため、パートナーが思い通りに動かないと、勝手に裏切られたと思い込み、攻撃的になることがあります。
外面がよく他者の評価が高い
モラハラ加害者は完璧主義でプライドが高く、世間体を気にする傾向があり、家庭外では「素敵な人」「立派な人」と呼ばれるなど、他社からの評価が高いのも特徴です。
他者からの評価を高めるために、家庭外でストレスを抱えて、家庭内で爆発させるケースもあります。
自分よりも立場が上、権力がある人間にはいい面ばかりを見せますが、自分よりも立場が下だと考えるパートナーや、後輩、店員などには威圧的な態度で接することもあります。
そのため、加害者を知る人にモラハラの相談をしても、信じてもらえないことがあり、パートナーが孤立する原因とも言えます。
障害を抱えている
近年は、モラハラの背景に、発達障害があると指摘されることがあります。
例えば、ADHD(注意欠陥多動性障害)の場合、衝動的な行動を抑えるのが難しく、感情を咄嗟に言語化するのが苦手な特徴があります。
この特性ゆえに、パートナーに対して感情的に怒りだして、暴言を吐いてしまうことが考えられます。
もし発達障害の傾向があるのであれば、専門病院を受診することで、改善される可能性があるでしょう。
夫婦間のモラハラを解決するには
「パートナーのモラハラは治せないのだろうか」と思う人もいるかもしれません。
モラハラ加害者は、常に自分が優位に立ち、相手を支配しないと気が済みません。
「自分が正しい」という考えを変えられないため、「お前が間違ってる」に行き着くことになり、話し合いで解決するのは困難でしょう。
モラハラを治すには、凝り固まったこれまでの価値観や考え方を変えなければなりません。
そのため、不可能でないにしろ、かなりの年月をかけて、辛抱強く付き合う覚悟が必要です。
ここでは、モラハラについてどう対処すべきか解説します。
専門病院やカウンセリングに行く
夫婦間でモラハラを解決するのは難しいため、専門病院やカウンセリングに通い、モラハラを改善するのが現実的な方法です。
例えば、発達障害や、自己愛性パーソナリティー障害などが原因であれば、投薬やカウンセリングによって、改善する可能性はあります。
また、自分自身も、被害者であることを自覚し、モラハラを受けやすい性格的特徴を理解するのに役立ちます。
ただし、相手の同意がないと、一緒に通うのは難しいでしょう。
モラハラを気づかせる
モラハラ加害者を変えるためのきっかけは、モラハラに気づかせることです。
しかし、あなたがいくら「それはモラハラだ」と指摘しても、前述の通り「正しい自分を否定する相手が悪である」と思い、一層頑な態度を取る可能性があります。
あなただけでモラハラに気づかせるのは難しいでしょう。
モラハラ加害者を支援する団体もあるため、まずはそうした団体の集まりに参加してみるのも一つの方法です。
過去モラハラ加害者であり、同じ考え方をしていた人と繋がれば、考え方を変えられるかもしれません。
参考:G.A.D.H.A
別居して距離を置く
別居をして距離を置き、冷却期間を設けるのも一つの方法です。
別居をして実際にパートナーがいなくなることで、今までパートナーが生活を支えてくれていたことに気づいて反省する可能性があります。
また、あなた自身が、モラハラ加害者に支配されていたことに気づいて、離婚に踏み出せるケースもあるため、別居は有効です。
ただし、表面的に反省だけした加害者が、復縁を迫ってくる可能性があります。
結婚を継続するかどうかは慎重に判断しなければなりません。
弁護士のサポートを受けることで、別居中の生活費(婚姻費用)を請求できます。
また、弁護士が代理対応をしてくれるため、加害者と直接やり取りをする必要もなくなります。
離婚する
モラハラ被害から抜け出すには、思い切って離婚をするのが一番です。
「子どももいるし自分さえ我慢すれば」「離婚後に自立できる自信がない」という人もいるでしょう。
しかし、「子どもが成人するまで」「パートナーが定年になるまで」「パートナーが亡くなるまで」待っていては、自分の人生や幸せを失うことになります。
いきなり離婚をするのが不安であれば、まずは経済的な自立や別居などの小さな一歩からで構いません。
離婚の準備を進める中で、やっぱり離婚したくないと思えば別の方法を考えましょう。
夫婦間のモラハラで離婚する前にやるべきこと
モラハラ加害者との離婚は、相手が反対する可能性があるため、慎重に進めることが必要です。
離婚を切り出す前に、しっかりと準備を進めておきましょう。
離婚の条件を考えておく
離婚をする際は、金銭的な清算や親権などを決めておく必要があります。
相手に離婚を切り出す前に、次の離婚条件について、あらかじめ考えておきましょう。
- 親権はどちらが得るのか
- 養育費はいくらにするのか
- 面会交流の方法や頻度はどうするのか
- モラハラに対する慰謝料を請求するのか否か
結婚生活の中で築いた財産は、夫婦の共有財産として、原則半分に財産分与されます。
自分が親権を得る場合は、自分で生計を立てる手段や住居の確保だけでなく、近くに頼れる人がいるかどうか、どこに住むのかも考えておく必要があります。
男性の場合は、親権を得るのが難しい傾向があるため、どのような対策が必要なのか事前に確認しておきましょう。
モラハラの証拠を確保しておく
モラハラは、慰謝料請求の対象となります。
ただし、慰謝料を請求するには、モラハラの被害を受けた事実を立証する必要があります。
そのため、別居を開始する前に、次のモラハラ被害を受けた証拠を確保しておきましょう。
- モラハラの音声や動画
- モラハラの内容を記録した日記やメモ
- LINEやメールなどのやり取り
- 医師の診断書や通院記録
- 公的機関への相談記録 など
モラハラの証拠を集める際のポイントについては、関連記事を参考にしてください。
【関連記事】モラハラで離婚する場合の慰謝料相場|慰謝料請求が難しい理由
弁護士にも相談しておく
モラハラで離婚を検討した場合は、事前に弁護士に相談しておくことが重要です。
そもそも、モラハラ加害者と離婚について話し合いをしようとしても、反対されたり、話し合いができなかったりすることがほとんどでしょう。
話し合いで離婚に合意できない場合は、離婚調停を経て、裁判による離婚という流れで進めることになります。
しかし、裁判で離婚を認めてもらうには、相手のモラハラや、法律上の離婚事由に当てはまることを立証する必要があります。
このように、離婚には時間がかかるため、事前準備が欠かせません。
事前に弁護士に相談をしておくことで、今後の見通しや、それにもとづいた証拠の収集、離婚をするのに効果的な方法を教えてもらうことができます。
モラハラについてよくある質問
モラハラの慰謝料の相場は?
モラハラの慰謝料の相場は、おおむね50万円~300万円と言われています。
ただし、モラハラの慰謝料は、モラハラ被害を受けたという証拠を集めて、立証する必要があります。
また、モラハラの慰謝料の金額は、モラハラの内容、被害を受けた期間、モラハラによる精神疾患の有無などによっても左右されます。
詳しくは、関連記事を参考にしてみてください。
【関連記事】モラハラで離婚する場合の慰謝料相場|慰謝料請求が難しい理由
モラハラはどこに相談したらいい?
モラハラを相談できる窓口は次の通りです。
- NPO法人よつば:モラハラも含め幅広い離婚の相談ができる。電話の他メール相談も可能。
- みんなの人権110番:ハラスメントやいじめなどの人権問題について電話相談可能。
- よりそいホットライン:DVから生活の悩みまで相談できる。電話、チャットなどで相談可能。
- 専門病院やカウンセリングルーム:モラハラで心身に不調がある場合は、精神科、心療内科、カウンセリングルームなどで相談可能。専門的なアドバイスが期待できる。
もし加害者から暴力などがある場合は、すぐに警察に通報して、身を守るようにしてください。
モラハラ夫(妻)の弱点は?
モラハラ加害者は、次のような人が苦手な傾向があると考えられます。
- 理路整然と論理的に反論してくる人
- 自分の思い通りにならない人
- 自分よりも立場や上の人
モラハラ加害者が人を支配する手段は、人格否定など恐怖や無力感を抱かせることです。
そのため、自分の言動に反応しない人や、反論してくる人は思い通りに動かせないため、苦手なタイプと言えるかもしれません。
同様に、物理的に距離を置かれてしまうと、直接的な支配はできなくなるため、モラハラから抜け出すのに有効です。
モラハラが嫌で不倫したがこちらが悪いの?
モラハラ加害者に嫌気がさして、他の異性と不倫をする人もいるかもしれません。
しかし、いくらモラハラ加害者が嫌でも、モラハラと不倫は別の問題です。
不倫は、法律上、離婚の原因や、慰謝料請求の要因となります。
さらに、離婚原因を作った有責配偶者として、不倫した側からの離婚が認められない可能性があります(民法第770条1項1号)。
自分がモラハラを受けているかわからないときはどうすべき?
「パートナーの言動にモヤモヤする」と感じても、常日頃からモラハラ加害者の叱責を受け続けていると、相手が悪いのか、自分に原因があるのか分からなくなることがあります。
自分がモラハラを受けているかどうかわからない場合は、友人や、モラハラの相談窓口などに相談して、客観的な第三者の意見を参考にしてください。
その上で、カウンセリングに通うなどして対策を講じるか、別居をするか、離婚をするか検討しましょう。
まとめ
家庭内にモラハラ加害者がいると、対等であるはずの夫婦関係は従属的になってしまいます。
あなただけでなく、子どもの心や成長にまで大きな害悪が及ぶため、早急に抜け出す必要があります。
もし職場であれば、第三者の働きかけにより、抜け出せる可能性がありますが、閉鎖的な家庭内では、自分が断ち切る努力をしなければなりません。
「でも本当にモラハラかわからない」「どうやって抜け出せばいいかわからない」「怖い」という人は、第三者に相談することから始めましょう。
また、重要なのは「自分が受けている被害がモラハラかどうか」ということではありません。
あなたが今の生活を苦しいと感じているかどうかです。
もし苦しいと感じているのであれば、別居をするのか、離婚をするのか、自分で決めることが大切です。
当事務所でも、モラハラによる離婚の相談をお受けしています。離婚を検討している人や、別居から始めたい人は、お気軽にご相談ください。