DV離婚は証拠がないと難しい?DV加害者との離婚方法や対処法
- 離婚の原因
パートナーのDVにもう耐え切れず離婚をしたいと思っても、「怖い」「本当は自分が悪いのかも」「子どものために自分が我慢すればいいんだ」と悩んでいる人もいるかもしれません。
どのような理由があっても、まずはあなたとお子さんの身を守ることが先決です。
DV加害者との離婚は困難な部分が多いため、もし離婚を検討しているのであれば、ポイントを押さえておくことが重要です。
この記事では次の点を解説します。
- DVで離婚する際の注意点
- DVの証拠がない場合
- DV離婚の進め方と弁護士について
なお、配偶者から暴力を振るわれて、ケガをするなど危険が迫っている場合は、警察に相談して、シェルターに入るなど加害者から離れ、身の安全を確保するようにしてください。
目次
DVとは
DVとは、ドメスティックバイオレンス(家庭内暴力)の略で、配偶者や恋人など密接な関係にある人、もしくはあった人から行われる暴力全般を指します。
警視庁によると、配偶者からのDV(暴力)の相談件数は約8万件とDV防止法が施行されてから過去最多となりました(データは2023年のもの)。
上記はあくまでも警察に相談した件数であり、実際の被害はもっと多い可能性があります。
暴力と聞くと、「殴る」「蹴る」といった身体的な暴力を連想するかもしれませんが、近年DVも細分化されて認識されるようになりました。
身体的暴力 | 殴る、蹴る、髪をつかむなど、身体に対する暴行 |
精神的暴力 | バカ、死ねなどの暴言、人格否定、大声で怒鳴る、脅迫する、些細なミスを執拗に責め立てる、行動を制限して孤立させるなど恐怖で支配する行為 |
経済的暴力 | 生活費を渡さない、お金の使い方を極端に制限する、働かない、働かせない、浪費者借金をするなど金銭的な自由を奪う行為 |
性的暴力 | 性行為の強要、避妊の拒否、嫌がっているにもかかわらず性的な動画や写真を撮影する など |
DVは夫から妻へのものだけでなく、妻から夫に対して行われるケースもあります。
家庭内で行われるものでも、暴行罪、傷害罪、脅迫罪などに該当する可能性があります。
加えて、子どもの前で行われる「面前DV」は心理的虐待とも言われ、子どもに大きなショックを与えるだけでなく、人格形成にも大きな悪影響を及ぼします。
参考:DV(ドメスティック・バイオレンス)と児童虐待 ―DVは子どもの心も壊すもの―|男女共同参画局
DVによる離婚が難しいと言われる理由
DVによる離婚が難しいと言われる理由はいくつかあります。
パートナーが離婚してくれないだけでなく、逆上して暴れる恐れがある点も、離婚を切り出すのにためらう理由でしょう。
また、DV加害者の問題だけでなく、話し合いで離婚に応じてくれない場合は、法的なステップを踏む必要もあります。
- 家庭裁判所で離婚調停を行い、調停委員を通じて離婚の合意を得る
- 調停が不成立の場合は、裁判を起こして、裁判官に離婚を認めてもらう
当然ながら、双方対立することになり、調停が不成立に終わることも多いです。
調停不成立の場合は、裁判を起こすことになりますが、裁判官に離婚が認められれば、パートナーがどんなに拒否しても離婚が成立します。
ただし、裁判で離婚するには、法律上離婚が認められる「法定離婚事由」に該当していなければなりません。
法定離婚事由には、不倫や3年以上の生死不明などがありますが、DVの場合は「婚姻を継続しがたい事由」だと認めてもらう必要があります。
そのため、DVで離婚をするには、裁判に発展する可能性を考慮して、裁判官にDVだと納得させる証拠を押さえておくことが不可欠です。
DV加害者に離婚を切り出す際の注意点
DV加害者と離婚する方法の前に、離婚を切り出す際の注意点を解説します。
離婚を切り出す前に証拠を確保しておく
DV加害者と離婚をする場合は、別居や離婚を切り出す前に証拠を確保しておく必要があります。
こちらが離婚を考えていると知られると、パートナーが警戒して、証拠を得ることが難しくなる可能性があります。
離婚や慰謝料の請求に必要となるのが、次のような証拠です。
- 医師の診断書や通院記録
- ケガや壊れた物の写真
- 暴力を振るわれている映像や音声
- 警察などの公的機関への相談記録
- 加害者にされたことや言われたことの記録・日記
暴力が行われた時点で、映像や音声を記録しようとすると、相手に気づかれる可能性があるため、スマホを充電しながら録音アプリを起動しておくなどの方法が考えられます。
DVは頻度や内容、期間、被害の程度などによって慰謝料の金額が増減します。
そのため、できる限り証拠を集めておくことが肝心です。
また、どのくらいの期間、どの程度の証拠を残すべきかなど、無料相談を活用して、弁護士のアドバイスを受けるようにしてください。
【関連記事】DVによる離婚の慰謝料相場|DVの証拠がない場合は?
安全を確保してから離婚を切り出す
また、あなたの身の安全を確保してから離婚を切り出すことも不可欠です。突然離婚を切り出されたパートナーが暴れる可能性があるためです。
理想は、別居をしてから、第三者を交えて離婚の話し合いを行うことです。金銭的な余裕があるのであれば、パートナーがいないタイミングで別居しましょう。
また、次のような方法も考えられます。
- 親を頼って実家に身を寄せる
- 警察や行政に相談してDVシェルターに避難する
- 民間のシェルターに避難する
DVシェルターに入居できる期間は、2週間から1ヶ月程度です。そのため、その期間内に別居の手続きを行い、離婚を目指すことになります。
仮に別居できるだけの費用がなくても、生活保護の利用や「母子生活支援施設」への入居、支援してくれるNPO法人を紹介してもらえることもあります。
また、警察や配偶者暴力相談支援センターに相談することで、裁判所からDV加害者に対して保護命令を出してもらえる可能性があります。
保護命令は、被害者や子ども、親族への接近や面会要求などが禁止され、これに反すると1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科されます。
家を出ることや、DVについて相談することは大変勇気が要ります。
しかし、まずは第三者、行政、警察、弁護士などに相談して、自分や子どもの身を守ることから始めましょう。
参考:保護命令の種類|裁判所
自分で交渉できない場合は弁護士に相談する
もしパートナーと離婚できない場合は、弁護士に相談や依頼することが有効です。
弁護士に相談することで、DVで離婚する際に必要な証拠やその集め方、離婚や別居の手順などのアドバイスを受けることができます。
特に注意したいのは別居です。正当な理由(DVなど)がある別居は問題ありませんが、別居の経緯などによっては、夫婦の同居義務に反したなどの反論を受け、不利になるケースもあります。
そのため、離婚や別居を進める際は、弁護士に相談するのが一番です。
また、依頼することで、あなたに代わりDV加害者と離婚の交渉をしてもらえたり、別居中の生活費(婚姻費用)、財産分与、養育費を請求してもらったりできます。
「でも弁護士費用が用意できない…」という不安を抱えている方も多いでしょう。後述する無料相談などについても参考にしてみてください。
精神的に自立することが大切
パートナーとの離婚を決意して手続きを進めようとすると、相手が謝罪をして復縁を求めてくることがあります。
しかし、決して応じないことをおすすめします。
謝罪をして優しい態度を示すことで、さらにあなたをコントロールしようと考えている可能性があります。
今までも暴力を振るった後に優しい態度をとってくるなど経験があるはずです。
その度に「この人は本当は優しいけど不器用なのだ」「この人を理解できるのは自分だけ」「自分の対応が悪かったのかも」と考えていませんか?
こうした考え方は、DVの被害に遭いやすい人や、DV被害に遭った人の特徴と言われています。
加害者と離れることで「自分で生きていく自信がない」「頼れる人がいないため見放されたくない」といった不安定な心理になることがあります。
このような場合、自分で判断できない状況に陥っている可能性があるため、心療内科やカウンセリングを受けるなどして、自分の状況を再確認するのがおすすめです。
なお、「子どもの父親を奪うことになるかも」と考える人もいますが、むしろ一緒にいる方が悪影響であることを理解しましょう。
参考:DV 被害をのりこえるために|国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
DV加害者と離婚する方法
ここでは、DV加害者と離婚する方法を解説します。
第三者同席のもとDV加害者と話し合いを行う
まずはパートナーと別居するなどして、物理的な距離を置いた上で、第三者を交えて離婚について話し合いましょう。
交渉する場合は、弁護士が同席するのが望ましいです。弁護士がいることで、パートナーも自分が不利になるような動きはしにくくなると考えられます。
ただし、パートナーが逆上して暴力をふるう場合は、すぐに警察に通報してください。
もっとも、第三者を交えた交渉であっても、パートナーが自分の非を認めて離婚に応じることは考えにくいです。
DV加害者からすれば、離婚の交渉を持ちかけられただけで面白くないでしょうから、あなたの非を責めたり、あなたに痛手を負わせるような反論や脅迫をしたりしてくることが予想され、建設的な話し合いは期待できないでしょう。
話し合いが困難なら離婚調停を申し立てる
話し合いが困難だった場合や、初めから困難が予想される場合、もしくはパートナーと対峙するのが怖い場合は、相手の住所地を管轄する家庭裁判所に、離婚調停を申し立てます。
離婚調停は、夫婦一人ずつ調停室に呼び出されて、調停委員と話をする形で進行します。
事前に裁判所に事情を説明しておけば、夫婦を呼び出す時間帯をズラしたり、夫婦がそれぞれ待機する別室に調停委員が行き来したりするなど、夫婦が顔を合わせずに済むような配慮をしてくれます。
調停委員はあくまでも中立であり、調停は落としどころを探る場です。
そのため「相手はああいってるけど、事実なのか」「相手の提案を受けてみては?」などストレスに感じるやり取りも多いです。
そういったケースでも、DVの証拠を提示することで、調停委員がこちらに味方してくれる可能性があります。
離婚調停は、調停委員と話をするため、弁護士なしでも進めることができます。ただし、調停は月1回、平均の審理期間は6ヶ月~1年です。
そのため、弁護士を味方につけて望んだ方が、今後の見通しを立てやすく、精神的なストレスも軽減されます。
参考:司法統計|裁判所
DVの離婚調停が不成立なら離婚裁判を起こす
DVの離婚調停が不成立になった場合、今度は強制的に離婚を認めてもらうために、離婚裁判を起こすことになります。
前述の通り、離婚裁判では証拠が不可欠です。また、裁判となると複雑な書類提出や手続きが必要となるため、弁護士に依頼した方がよいでしょう。
離婚したいけどDVの証拠がない場合
パートナーと離婚したいと思っても、相手が素直に応じない限り、調停や裁判に発展します。
裁判となった場合は、やはりDVの証拠がなければ、DVがあったと認定されず、離婚も慰謝料も認められません。
そのため、別居を開始する前に、DVの証拠を押さえておくことが肝心です。
仮に、DVの証拠がない場合は、3~5年程度の別居を経ることで、離婚が認められる可能性があります。
一定期間別居をしていることで、夫婦関係は破綻しており「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当すると判断されるためです。
ただし、前述の通り、別居の経緯によっては「家庭を捨てた」と反論されて、こちらが不利になる可能性があります。
いずれにしても、弁護士に相談の上、DVの証拠集めや別居の準備など助言を得ながら進めた方が確実です。
DVによる離婚は弁護士に相談可能
DV離婚は弁護士の必要性が高い
DVによる離婚は、弁護士の必要性が高い事案です。
DV加害者と離婚する場合、まず証拠集めから始めなければなりません。
また、さまざまな支援がありますが、自分が何から始めればいいのか、判断するのも難しいでしょう。
別居のタイミングなども見極める必要があります。そのため、離婚やDV離婚の実績がある弁護士のサポートを得ることで、準備を整えて、スムーズに離婚できる可能性があります。
何より、DV加害者に対峙する際に、心強い味方となってくれます。
無料相談を受けている弁護士もいる
DV被害を受けている場合、相手が経済的DVを行っていることも多く、金銭的な余裕がないという人もいるでしょう。
しかし、今は無料相談を受けている弁護士や法律事務所も数多くあります。費用の不安も含めて、まずは相談に踏み出すことが重要です。
なお、弁護士には守秘義務があるため、あなたの相談内容が外部に知られる心配はありません。
加えて、弁護士に相談しても依頼が必須ではありません。持ち帰ってじっくり検討しましょう。
まずはDV加害者がいないタイミングで、弁護士に相談してください。
費用が負担できなければ法テラスを利用する
弁護士費用を負担できない場合は、法テラスを利用する方法があります。
法テラスとは、国が設立した法的トラブル解決の総合案内所です。
貧困などの事情で法的サポートが受けられない人に向けて、次の支援を行っています。
- 同じ問題につき3回まで無料相談可能
- 相場よりも安く弁護士に依頼できる
- 弁護士費用立替制度(民事法律扶助)を利用して弁護士費用を立て替えてもらえる
- 弁護士費用の支払いは、月々5,000円~と分割払いにできる
ただし、収入が一定以下などの条件や、審査に通る必要があります。
もし条件を満たせないような場合は、弁護士に有料相談をしながら、自分で手続きを進める、分割払いに対応している弁護士に依頼するなどの方法も考えられます。
なお、当事務所では、自分で手続きを進める人にアドバイスを行う「バックアッププラン」を用意しておりますので、気になる人はお気軽にご相談ください。
弁護士に依頼する方法はいくつかあります。無料相談を活用して、費用も含めて相談した上で決断するのでも遅くはありません。
「どのように離婚するか」「どういう方法が考えられるか」「弁護士が必要か否か」など、今の疑問の解消や、判断材料を集めるようにしましょう。
DV離婚に関するよくある質問
DV離婚の慰謝料の相場は?
DVで離婚する場合の慰謝料の相場は、おおむね50万円~300万円と言われています。
ただし、DVの期間や頻度、内容、ケガの程度などによって金額は異なります。
いずれにしても、証拠が必要となります。個々の事案によって、どの程度の証拠が必要なのか異なるため、弁護士に相談しましょう。
一度きりのDVで証拠がない場合は?
一度きりのDVで証拠がない場合、基本的には裁判で離婚を認めてもらうのは難しいです。
入院が必要なほどのケガであれば、ケガの写真や医師の診断書、警察に相談するなど証拠を残しておいてください。
また、DVは長期的、繰り返し行われる傾向があります。そのため、もし次に被害を受けそうな場合に証拠を集める方法もあります。
ただし、一度のDVで身に危険が迫る恐れもあります。可能ならば別居するなど、物理的な距離を置いた上で、DV以外の理由で離婚を進めることもできます。
身に危険が迫る場合は、すぐに警察に通報するなどして、シェルターへの避難や、接近禁止命令を申し立ててください。
こうした通報の記録もDVの証拠となる可能性があります。
DVで離婚調停する場合の注意点は?
DVで離婚調停をする場合は、次の点に注意しましょう。
- 調停委員を味方につけるために、DVの証拠を提示する
- 今の状況や自分の希望を理解してもらえるよう、順序だててわかりやすく伝える
- DV加害者のように、相手の欠点を挙げて攻撃しない
- DV加害者が復縁を迫っても、惑わされたり、耳を傾けたりしない
離婚調停では、DV加害者が「DVなんて存在しない」と主張してくることが予想されるため、証拠を提示して冷静に主張しましょう。
また、④も重要です。DV加害者は、プライドが高く世間体を気にするため、調停委員にもいい顔をして「反省している、復縁をしたい」と主張してくる可能性があります。
だとしても、相手の言葉に惑わされたり、耳を傾けたりしないことが大切です。
ここで復縁を選んでしまうと、またDV加害者から逃れることができなくなりますし、再度離婚をするのでも手続きをやり直さなければなりません。
「離婚したい」という「あなたの気持ち」を忘れずに臨むようにしましょう。
【関連記事】離婚調停とは|離婚調停の流れや申立方法や期間をわかりやすく解説
DVで離婚しても面会交流はしないとダメ?
片方の親の判断だけで、面会交流を拒否することはできません。
ただし、DVが離婚理由となっている場合は、調停や裁判で面会交流の拒否が認められる可能性があります。
万が一、面会交流をすべきだと判断されたとしても、次のような方法で、面会交流を実施する余地はあります。
例えば、次の方法が考えられます。
- 面会交流の方法を手紙やプレゼントの受け渡しだけにする
- 面会交流支援団体を利用して、面会交流に立ち会ってもらう
- 家庭裁判所の面会交流室で調査官立ち合いのもと面会交流を行う(施行的面会交流)
DVの程度によってどのように対応すべきか異なります。面会交流は子どもの権利です。
もし実施に不安がある場合は、第三者が同席する形で行うなど検討しましょう。
まとめ
DV加害者と離婚をするには、しっかりと証拠を集めて、手順を踏んで進めることが重要です。
また、DV加害者と一対一で対峙するのは危険なため、第三者を介入させて、手続きを進めるようにしてください。自分とお子さんの身の安全が第一です。
パートナーと離婚をする際は、恐怖を覚えたり、本当に上手くいくのか不安になったりするでしょう。
しかし、自分で考えるのにも限界がありますし、悪い想像ばかりしてしまうかもしれません。
だからこそ、警察、行政、そして弁護士に相談してください。
あなたが勇気を出して相談することは、必ず大きな一歩となりますし、振り返った時に「頑張った」と自分を誇れるようになるでしょう。