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経済的DVとは|生活費が足りない場合の対処法と相談先を紹介

2024.10.25
  • 離婚の原因
  • DV・モラハラ
お金がない通帳

「パートナーが生活費を渡さず生活が苦しい」「お金がもったいないから病院に行くなと言われた」など、身に覚えはありませんか?

このように相手を金銭的に苦しめる行為は、経済的DVの可能性があります。

経済的DVをするパートナーと一緒にいると、生活は苦しくなり、相手と離れるのも難しくなる恐れがあります。

この記事では、経済的DVについて次の点をわかりやすく解説します。

  • 経済的DVの概要や具体的な行為
  • 経済的DVで生活費が足りない場合の対処法や相談先
  • 経済的DVで離婚はできる?

経済的DVとは

経済的DVとは、相手の金銭的な自由を奪い、支配するDVやモラハラの一種です。

明確な定義はありませんが、日本政府のWEBサイトでは、DVの一種として、「生活費を渡さない」などの経済的圧迫を挙げています。

男女共同参画局によると、配偶者からのDV被害に遭ったことがある人は4人に1人(25.1%)、経済的DVの被害を受けた人は約15人に1人(7.8%)でした。

経済的DVはまだ認知度も低く、被害者自身が被害を受けていると気づきにくいため、実際にはもっと多くの人が被害に遭っている可能性があります。

経済的DVが起きやすいのは、夫婦間の収入に格差がある場合です。

片方が専業主婦(主夫)や、共働きでも出産や育児のために休職や退職している女性が被害に遭いやすい傾向があります。

経済的DVチェックリスト

「お金の使い方に厳しい」と聞くと単に節約家だと考えがちですが、それをパートナーに強いて、経済的に困窮させると、経済的DVに該当する可能性があります。

経済的DVに該当する具体的な行為は次の通りです。

  • 十分な生活費を渡さない
  • 収入を教えてもらえない
  • お金の使い方を極端に制限する
  • 外で働くことを認めない
  • 働かない
  • 浪費や借金をする
  • 収入に関する暴言を吐く

十分な生活費を渡さない

経済的DVの一つが、十分な生活費を渡さないことです。

例えば、パートナーの方が収入が少なく、働いている側が十分な収入があるにも関わらず、生活ができるだけの生活費を渡さないケースが考えられます。

十分な生活費を渡してもらえないことで、親から援助してもらったり、借金をしたりしてやり繰りをしている場合は、経済的DVだと言えるでしょう。

なお、2023年の司法統計によると、離婚調停や審判を申し立てた人の動機(複数回答可)のうち、離婚の動機として「生活費を渡さない」と回答した女性の割合は28.9%で、「性格の不一致」(38%)に次いで多い割合でした。

一方で、パートナーが生活費を渡さないものの、自分の収入だけで何とかやり繰りできるという場合は、経済的DVだと判断されないと考えられます。

収入を教えてもらえない

十分な生活費を渡してもらえないだけでなく、収入を教えてもらえない場合も、経済的DVにあたることがあります。

夫婦には、互いに協力して扶助する義務、生活に必要なお金は夫婦で分担する義務が民法で定められています。

(同居、協力及び扶助の義務)

第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

(婚姻費用の分担)

第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

引用:民法第752条、第760条 – e-Gov

お互いに収入を知る権利があり、収入に応じて生活費を分担する必要があります。

お金の使い方を極端に制限する

節約のために、お金の使い方を制限したり、無駄をなくしたりすることはあります。

しかし、パートナーが使うお金を極端に制限して、困窮させる行為は、経済的DVだと考えられます。

例えば、子どもが学校で勉強するために必要なものを購入させなかったり、医療機関の受診を認めなかったりする行為が挙げられるでしょう。

そもそも結婚期間中に得た収入は、夫婦どちらが稼いだお金であっても、夫婦共有の財産です。

外で働くことを認めない

生活が苦しいのに、パートナーが外で働くことを認めないことも、経済的DVに該当すると考えられます。

相手が外で働くことを制限する人は、自分だけが金銭的な自由を確保して、パートナーが別居や離婚をできないようにして、支配したいと考えている可能性があります。

働かない

病気やケガなどが原因で働けないことはあります。しかし、そのような正当な理由がないのに働かず家計を支えようとせず、生活が苦しい場合も経済的DVに該当する可能性があります。

浪費や借金をする

ギャンブルなど身勝手な理由で浪費や借金をする行為も、経済的DVだと判断される可能性があります。

特に、パートナーには節約を強いているのに、自分だけ好き勝手に浪費や借金をしている場合は、経済的DVだと判断されやすいでしょう。

なお、片方がギャンブルなど個人的な理由でした借金は、パートナーや家族が連帯保証人でない限り、返済義務は生じないため、肩代わりをする必要はありません

一方で、生活を維持するためにした借金(日常家事債務)は、夫婦が連帯して責任を負うことになります。

収入に関して暴言を吐く

上記の行為に加えて、収入に関して暴言を吐く行為も、経済的DVに該当する可能性があります。

例えば、「誰が養ってやってるんだ」といった暴言だけでなく、「稼ぎが悪い」などの暴言が挙げられます。

このような暴言は、経済的DVだけでなくモラハラにも該当します。

【関連記事】夫婦のモラハラとは|モラハラ夫(妻)の特徴とモラハラの対処法

経済的DVで生活費が足りない場合

経済的DVで生活費が足りない場合、自分で収入を確保することが望ましいです。

ただし、働くのが難しい場合や、相手に働くことを制限されている場合もあるでしょう。

ここでは、経済的DVで生活費が足りない場合の対処法を紹介しますので、参考にしてみてください。

話し合いで改善を求める

経済的DVで生活費が足りない場合、まずは話し合いで改善を求めるのが一つの方法です。

単にお金が足りないと伝えるのではなく、月々何にいくらかかっていて、毎月いくら足りないのか、家計簿やレシートなど証拠を示して、説明しましょう。

ただし、経済的DVをする人は、モラハラ傾向があることが多いです。

そのため、真摯に話し合いをしても、相手が改善してくれないことも考えられるでしょう。

実家を頼る

可能であれば、実家を頼るのが現実的です。金銭的な援助だけでなく、別居ができるまで実家に身を寄せることも考えられます。

また、相手には働くことを禁止されていないものの、子どもがいて働けない場合は、日中子どもの面倒を見てもらい、働いて収入を得る方法もあります。

婚姻費用を請求する

経済的DVを受けている場合は、婚姻費用を請求しましょう。

婚姻費用とは、夫婦や未成年の子どもが、夫婦の収入に応じた生活をするにあたって必要な生活費のことです。

同居中は、夫婦で生活費を分担する義務がありますし、別居をしても離婚していなければ、収入が多い側が少ない側に対して、生活費を支払う義務があります。

婚姻費用は、夫婦間の話し合いにより決められます。

しかし、話し合いが難しい場合は、裁判所が作成した「婚姻費用算定表」をもとに算出します。

相手が支払いに応じない場合は、家庭裁判所に、「婚姻費用分担請求調停」を申し立てる方法もあります。

調停では、調停委員を通じて、婚姻費用の支払いを請求できます。

場合によっては、調停委員が相手に生活費を支払うように説得してくれることもあります。

調停の申し立て手数料は、1,200円と、連絡用の切手代のみです。

調停を行っても相手が支払わない場合は、審判という手続きに移行して、裁判所が支払いを決定します。

婚姻費用は、請求をしない限り支払い義務が認められません。調停を申し立てた段階から発生することになりますので、早めに請求してください。

なお、婚姻費用分担請求調停は、同居中でも申し立てが可能です。ただし、同居中に申し立てると、今以上に夫婦仲が険悪になる可能性があります。

可能であれば、別居してから請求した方が、精神的負担は少ないでしょう。

公的支援を利用する

経済的DVで生活が苦しい場合は、次のような公的支援を利用しましょう。

児童手当 ・子どもの年齢に応じて月1~1.5万円の支給

・役所で申請する

・ただし、所得の高い方が申請者になるため、生計を別にする必要がある

住宅確保給付金 ・住居確保ための家賃や敷金などを支給してもらえる

・受給条件は、①世帯の合計貯金額が100万円を超えていないこと、②月の世帯収入が各自治体の基準額以下であること、③求職活動中であること

・役所や福祉協議会で相談する

生活困窮者自立支援制度 ・仕事が見つからず生活が苦しい人やDVなどから家を出た人などを対象とした支援

・仕事探し、住居確保、一時的な衣食住の提供などが受けられる

・市役所の生活支援課で相談する

生活保護 ・受給条件は、①月の収入が一定以下、②資産や貯金がない、③親族から経済的な援助が見込めない

・世帯収入で判断されるため別居する必要がある

・各自治体の福祉事務所で相談する

②住宅確保給付金は、④生活困窮者自立支援制度の一つです。

生活困窮者自立支援制度では、DVなどで家を出た人にも、住居確保などの支援を行っています。

児童手当は離婚をしていなくても受給できますが、申請者は所得が高い方となるため、自分が受け取るには生計を別にする必要があります。

同様に、生活保護は離婚をしていなくても受給できますが、世帯収入で受給条件を満たしているかどうか判断されるため、別居をした方が受給しやすくなるでしょう。

また、生活保護では、親族に対して経済的援助が可能かどうか「扶養照会」が行われます。

経済的DVなどの事情により家を出た事実を伝えることで、扶養照会が行われずに済むことがあります。

ただし、生活保護を申請する際にも、婚姻費用の請求を勧められる可能性があります。

他にも、各都道府県にある女性相談支援センターに相談することで、サポートを受けられる可能性があります。神奈川県の場合はこちらです。

経済的DVで離婚はできる?

経済的DVは離婚事由になる

経済的DVによって、離婚が認められる可能性があります。離婚は夫婦双方の話し合いで合意できれば、離婚届を提出するだけで可能です(協議離婚)。

ただし、相手が離婚を拒否する場合は、調停を申し立て、調停で決まらなければ裁判で離婚を認めてもらわなければなりません。

裁判で離婚を認めてもらうには、法律で定められた離婚の理由「法定離婚事由」が必要です(民法第770条)。

例えば、不倫(不貞行為)は、法定離婚事由の一つに該当します。

法定離婚事由にはさまざまなものがありますが、経済的DVは「婚姻を継続しがたい重大な事由」、もしくは「悪意の遺棄」に該当する可能性があります。

「悪意の遺棄」とは、正当な理由もないのに、夫婦の同居・協力・扶助義務を守らないことです。

ただし、悪意の遺棄が認められるのは限られたケースであるため、実務上は「婚姻を継続しがたい重大な事由」を主張していくことになります。

裁判で離婚するなら証拠の確保が必要

調停や裁判で離婚をする場合は、経済的DVがあったことを調停委員や裁判官に知ってもらう必要があります。

証拠がない場合、こちらがいくら経済的DVであると主張しても、相手が否定してくる可能性があるからです。

次のような証拠を集めておきましょう。

  • 生活費を入れてもらえなかったことがわかる預金通帳
  • 生活が苦しいことがわかる家計簿
  • お金に関して相手から言われた暴言の録音記録
  • 経済的DVについて記録した日記
  • お金に関するLINEやメールのやり取り

パートナーが借金や浪費をしている場合は、借金の請求書、相手の給与明細、クレジットカードの利用明細、領収書など、借金や浪費がわかる証拠も有効です。

今ある証拠が有効かどうか、どのような証拠をどのくらいの期間集めればいいのかなど、わからないことがある場合は、弁護士に相談してみましょう。

【関連記事】DVによる離婚の慰謝料相場|DVの証拠がない場合は?

経済的DVはどこに相談すればいい?

経済的DVは次の相談先に相談できます。

DV相談ナビ#8008 配偶者暴力相談支援センターに匿名相談可能
DV相談+ 専門の相談員が電話で24時間365日対応

電話:0120-279-889

チャット:午後12:00~夜10:00

毎週日曜15~21時は男性相談対応

NPO法人よつば 幅広い離婚相談が可能

電話:050-1868-8189

受付:午前9:00~午後8:00

また、神奈川県の場合は、かながわ男女共同参画センターでDV相談を受け付けています。

公的支援の相談は、各自治体の生活支援課や福祉事務所に相談してみましょう。

経済的DVでよくある質問

共働き夫婦でも経済的DVになる?

経済的DVの特徴は、パートナーに金銭的な自由を与えずに困窮させることです。

共働き夫婦でも、片方の収入が少なく、もう片方から十分な生活費を渡してもらえずに、生活が苦しいのであれば、経済的DVが成立する可能性があります。

一方で、片方から生活費を渡してもらえなくても、自分の収入だけで生活でき、困窮していないのであれば、経済的DVに該当しないと考えられます。

カップルでも経済的DVになる?

カップル間でも、次の行為はDVに該当する可能性があります。

  • デート代を一方に全て負担させようとする
  • 借りたお金を返してくれない
  • 同棲中などで、自分の貯金や現金を勝手に使われた など

ただし、デート代の返還を求めても、贈与だと判断されるなど、裁判では認められない可能性があります。

もしお金を貸すのであれば、必ず相手に借用書を書いてもらいましょう。

いつ・いくら貸したのか・いつ頃までに返済するのか・期日までに返済できない場合は全額を返済するなどの内容を記すようにします。

借用書などがない場合、お金を貸したことが立証できません。そのため、必ずお金を貸した証拠を残すようにしてください

経済的DVで離婚する場合財産分与や養育費は請求できる?

経済的DVで離婚する場合も、財産分与や養育費は請求できます。

財産分与は夫婦の役割や収入に関係なく、公平に2分の1にして分けるのが原則です。

もし相手に浪費がある場合は、その浪費分を考慮して財産を分けることも考えられます。

同様に、養育費は子どもを育てるために必要な費用で、子どもと同居していない側の親が負担する義務があります(民法第877条)。

相手が支払いに応じないのであれば、最終的には地方裁判所に、強制執行を申し立てて、財産の差し押さえも検討しましょう。

ただし、強制執行を申し立てるには、執行文を付与した離婚協議書(公正証書)や調停調書、判決などが必要です。

離婚調停で調停が成立すれば、調停調書を交付してもらえます。

相手が支払わない場合は、離婚調停、離婚後であれば財産分与請求調停や、養育費請求調停を申し立てましょう

【関連記事】養育費とは|養育費の相場や支払い義務・取り決め方法や計算例を解説

まとめ

経済的DVは、相手の金銭的な自由を奪い、困窮させて追い詰めることです。

経済的DVを受けていても、「相手が働いているから仕方ない」と考え、被害に気づかないケースも考えられます。

経済的DVによって生活費が足りない場合は、婚姻費用分担請求調停を申し立てることも検討しましょう。

ただし、支払いが認められるまでには時間がかかりますし、相手が応じない場合には、強制執行などの手続きを行う必要があります。

いずれにしても、一人で対応するのは容易ではありません。

経済的DVの被害を受けている場合は、必ず実家の援助や公的相談窓口などに助けを求めて、力を借りるようにしましょう。

当事務所でも、DVやモラハラ、離婚の相談を受けています。お気軽にご相談ください。

この記事の監修者

この記事の監修者

中間 隼人Hayato Nakama

なかま法律事務所
代表弁護士/中小企業診断士
神奈川県横浜市出身 1985年生まれ
一橋大学法科大学院修了。
神奈川県弁護士会(65期)