セックスレスが理由で離婚できるケース|離婚慰謝料の相場を解説
- 離婚の原因

セックスレスが続いたり、夫婦で話し合うことができなかったりした場合、離婚を考える人は少なくありません。
夫婦生活はコミュニケーションや愛情を確認する行為の一つであり、非常に重要な問題です。
この記事では、セックスレスを理由に離婚できるケースや離婚慰謝料の相場について解説します。
夫婦生活を拒否されて傷ついた人、突然離婚と慰謝料を求められてショックを受けた人、両者に向けて解説しますので、参考にしてください。
目次
セックスレスとは
セックスレスの定義
一般社団法人 日本性科学会によると、セックスレスは「特殊な事情が認められないにもかかわらず、カップルの合意した性交やセクシャル・コンタクトがいずれも1ヶ月以上なく、その後も長期に渡ることが予想される場合」と定義しています。
パートナーと1ヶ月以上性的な接触がない場合は、セックスレスの定義に当てはまると考えられます。
ただし、実際は仕事の忙しさや出産・育児の期間などを考慮すると1ヶ月以上接触がないという夫婦も少なくありません。
また、法律上明確なセックスレスの定義はありませんが、おおよそ1年以上夫婦生活がない場合は、セックスレスだと判断されると考えられます。
セックスレスで離婚する人の割合
セックスレスによる離婚率はどの程度なのでしょうか?
また、2023年の司法統計によると、家庭裁判所で離婚調停を申し立てた動機として、性的不調和と回答した夫の割合は10.5%、妻の割合は6.3%でした(複数回答可)。
株式会社Liamが、セックスレスの経験者300人を対象に行ったアンケートでは、セックスレスで離婚に至った人の割合は25.2%とされています。
アンケート結果まとめ
・セックスレスによる離婚率は、25.2%となりました。
・セックスレスになった時期は、結婚1年目〜3年目が59.3%となりました。
・セックスレスになった原因は、「育児や仕事の疲れ」が1位となりました。
・セックスレスによる浮気率は、男性が46.2%、女性が20.1%となりました。
・セックスレスの改善を試みた男女は、65.9%となりました。
・セックスレスに有効な改善策は、「スキンシップを増やす」が1位となりました。
実際は、調停を申し立てずに話し合いで離婚をしているケースもあるため、セックスレスを理由に離婚している夫婦は少なくないと考えられます。
セックスレスを理由に離婚はできる?
夫婦で合意していれば離婚は可能
セックスレスを理由に離婚できるかどうかは、離婚の方法によります。
夫婦が話し合って合意に至れば、離婚理由に関係なく離婚を成立させられます。一方、夫婦の話し合いで合意が難しい場合は、次のステップとして家庭裁判所で離婚調停を申し立てることになります。
離婚調停では、調停委員を介して離婚の話し合いを行います。夫婦で直接話し合わずに済み、第三者である調停委員が間に入るため、冷静な話し合いが期待できます。
離婚調停の場合でも、離婚理由に関係なく、双方が合意に至れば離婚が可能です。
【関連記事】協議離婚とは|協議離婚の流れや弁護士費用・デメリットを解説
裁判では婚姻を継続し難い重大な事由に該当するか
離婚調停で合意に至らない場合は、最終的に裁判で離婚を判断してもらうことになります。裁判で離婚が認められるためには、法律上離婚が認められる「法定離婚事由」が必要です。
法定離婚事由としては、不倫やDV・モラハラといった理由が該当します。
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
なお、セックスレスの場合、法定離婚事由の一つである「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかが問題です。
「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、夫婦生活が修復困難なほどに破綻している場合に該当します。
過去の判例では、裁判所は「夫婦の性生活は婚姻の基本となるべき重要事項である」(最高裁昭和37年2月6日判決)と名言しています。
そのため、セックスレスにより夫婦関係が修復困難なほどに破綻をしていれば離婚原因として認められる可能性があります。
「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかは、以下の事情から客観的に判断されます。
- セックスレスに至った経緯
- セックスレスの期間
- 性交渉を拒否した理由や頻度
- 夫婦関係改善のための努力の有無
- 双方の責任の程度 など
【関連記事】離婚できる5つの条件|必要な別居期間や書面化までの流れ
セックスレスで離婚が認められるケース
セックスが「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するか否かは、セックスレスの期間だけでなく、セックスレスの原因によっても異なります。
例えば、以下のような理由の場合は、セックスレスの正当な理由がないとして、離婚が認められる可能性があります。
正当な理由がないのに一方的にセックスを拒絶している
セックスレスで離婚が認められる可能性のあるケースの一つは、正当な理由がないのに一方的にセックスを拒絶している場合です。
例えば、年齢的にも身体的にも、性交渉ができない合理的な理由がないにもかかわらず、パートナーを一方的に拒絶し続けているケースです。
特に、夫婦で「子どもは作らない」と合意していないにもかかわらず、妊娠・出産を希望するパートナーを無視して性交渉を拒否した場合などは、離婚原因として認められる可能性があります。
ただし、性交渉を拒絶している事実だけでなく、その後夫婦関係を改善するために双方がどの程度努力したかも重要な判断要素となります。
セックスレスで夫婦関係修復の努力もなかった
セックスレスで離婚が認められるのは、片方が正当な理由なくセックスを拒絶しているだけでなく、かつ、夫婦関係改善の努力もしていないようなケースです。
夫婦には協力し合う義務があり、夫婦関係を改善する努力を双方で行う必要があります。
東京地裁平成29年8月18日の判決では、性交渉がないだけでなく、性的関心を示さないことや、キスや法要などの身体的接触もない夫婦関係に対して不安に感じる妻の心情に、夫が気づいていながらも、身体的な接触や言葉を交わすなど夫婦の精神的な結びつきを深めることもしなかったとして、離婚・慰謝料の支払いが認められています。
セックスレスの原因が不倫だった
セックスレスに至った原因が不倫(不貞行為)だった場合は、不貞行為そのものが法定離婚事由に該当します。
【関連記事】不貞行為とはどこからどこまで?慰謝料や証拠を簡単に解説
セックスレスで離婚が認められないケース
一方で、セックスレスの原因にやむを得ない事情があれば、離婚が認められない可能性があります。
病気など正当な理由でセックスができない
パートナーの病気や精神的な理由で性的関係が持てない場合は、正当な理由があるとして、セックスレスによる離婚が認められない可能性があります。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
- うつ病など精神的な病気で性交渉ができない
- 仕事が忙しい、単身赴任で性的な接触が物理的に不可能
- EDや高齢により性交渉ができない
- 妊娠や出産などで性交渉ができない など
ただし、正当な理由があっても、改善の努力を怠り、離婚が認められたケースもあるため、夫婦間で話し合い、改善の努力をすることが望ましいです。
特に加齢やEDによる性交渉の拒否は深刻です。男性側はその事実を認めたがらず、女性側は拒否される明確な理由がわからず、「自分に問題があるのでは?」と悩むケースは少なくありません。
セックスレスについて夫婦で話し合うのには勇気が要りますが、二人で乗り越える努力が求められます。
離婚を求める側が原因でセックスレスになった
離婚を求める側の行動が原因でセックスレスになった場合も、セックスレスが離婚原因として認められない可能性があります。
例えば、自分が不倫やモラハラをしていて、それが原因でセックスレスになった場合、離婚原因は不倫やモラハラだと考えられます。
このようなケースでは、離婚を求める側が離婚原因を作った「有責配偶者」と判断され、原則として離婚は認められません。
【関連記事】離婚したくない人が弁護士に相談するメリット|無料相談の方法や費用
セックスレスで離婚慰謝料を請求できる?
不法行為に該当すれば可能
民法では、他人の権利や保護される利益を侵害した場合に、それにより生じた損害を賠償する義務を負います(民法第709条)。
そのため、セックスレスが原因で夫婦関係が破綻し離婚に至った場合、精神的苦痛に対する慰謝料が認められる可能性があります。
例えば、以下のようなケースでは、離婚慰謝料が認められることが考えられます。
- 正当な理由なく性交渉を拒絶し続け離婚に至った
- 不倫が原因でセックスレスとなり、離婚に至った など
セックスレスの慰謝料の相場は十数万円~100万円程度
セックスレスの離婚慰謝料の相場は、十数万円から100万円程度だと考えられます。なお、以下のような事情がある場合は、慰謝料が増額される可能性があります。
- 結婚してから一度も性交渉がない
- 不倫により性交渉を拒否している
- セックスレスに対して、相手が改善の努力を一切しない
- 相手が拒絶する際に暴言を吐くなど態度がひどい
- 婚姻期間が長い・未成年の子どもがいる など
さらに、セックスレスの期間だけで慰謝料の金額が決定するわけではありませんが、セックスレスの期間が3年程度にも及ぶ場合も、慰謝料が増額されることがあります。
慰謝料が発生しないケース
一方で、以下のようなケースでは、性交渉ができないやむを得ない事情があったとして、慰謝料が認められないと考えられます。
- 病気などで性交渉ができない
- 夫婦どちらも性交渉を望んでいない
- 完全にセックスレスでなく、定期的に性交渉があった など
セックスの慰謝料請求には証拠が必要
離婚慰謝料を請求するには、セックスレスである証拠が必要です。夫婦の話し合いで離婚と慰謝料の支払いに合意できれば、証拠までは求められません。
しかし、相手が離婚や慰謝料の支払いを拒否した場合、裁判で争うことになります。
裁判では、証拠にもとづいて離婚原因や慰謝料が判断されるため、事前にセックスレスの証拠を集めておくことが重要です。
証拠としては、以下のものが該当します。
日記や手帳のメモなど | お互いの生活状況(起床、帰宅、就寝時間がわかるメモ)や性交渉を拒否された日時、会話、その時の心情など |
会話の録音やLINEなどのやり取り | 性交渉を拒否された内容がわかる録音データやLINEのやり取り |
重要なのは、性交渉が可能な時間的余裕があるにも関わらず、正当な理由もなく拒否をしているとわかる具体的なやり取りや、日時、頻度を示すことです。
セックスレスは、暴力のように形跡が残りにくいため、こうした細かい証拠を積み上げることが大切です。
また、記録の取り方やどの程度の期間記録するのか、慰謝料の相場などについては、弁護士に相談しながら進めるとよいでしょう。
【関連記事】弁護士を立てずに自分で慰謝料請求をする方法|請求の注意点と流れ
セックスレスで離婚する前に考えた方がよいこと
これまで夫婦生活を拒絶されて、夫婦の話し合いで改善を試みようとしてきた側にとっては、離婚は悩みに悩みぬいた結論です。
一方で、パートナーの苦悩を理解していたものの、積極的に向かい合うことができなかった側にとっては、セックスレスによる離婚の請求は突然のことに感じられるかもしれません。
以下では、セックスレスで離婚する前に考えた方がよいことをいくつか紹介します。
セックスレスの原因は何か
セックスレスで離婚を希望する場合は、今一度セックスレスの原因について確認することが重要です。
夫婦関係が冷え込んでセックスレスに至ったと思い込んでいても、実はパートナーが不倫をしていたというケースも少なくありません。
改めて、パートナーの見た目や生活の変化などを見て観察してみるとよいでしょう。
セックスレス解消に向けてやれることをしたか
セックスレスは、拒絶される側にとっては、非常にショックで辛い問題です。
恥ずかしさや惨めな気持ちから口をつぐんでしまい、パートナーに対して正面から話し合いができていないケースも少なくありません。
離婚後に後悔しないためにも、最後の最後にもう一度、自分の気持ちを伝えて、パートナーに向き合ってみることが重要です。
また、パートナーにどう切り出していいかわからない場合は、カウンセラーなどに相談してみるのも一つの選択肢です。
離婚後の生活の準備は整っているか
セックスレスで離婚をする場合でも、離婚を切り出す前に離婚後の生活の準備を整えておくことが重要です。
特に、自分が子どもと暮らす場合は、経済的な自立が必要です。離婚後の住まいや仕事、収入、そして子どものための生活環境を整えてから、離婚を切り出すのが望ましいです。
【関連記事】離婚手続きの流れ|離婚前・離婚後のやることリスト
慰謝料以外の離婚条件を決めたか
離婚する際には、離婚慰謝料だけでなく、親権や養育費、財産分与などの離婚条件をしっかりと決めておくことが重要です。
子どもがいる場合は、親権者で揉めることもあります。また、子どもと一緒に暮らす場合は、養育費を取り決めておくことで、離婚後の生活を安定させることができます。
ただし、自分が望んだとおりの離婚条件でスムーズに離婚できるとは限りません。双方が離婚条件で譲歩しなければ、いつまでも離婚が成立しない可能性があります。
特にセックスレスが原因で離婚をする場合、裁判まで争うと時間もお金もかかることになります。そのため、離婚条件の優先順位を決めておき、それ以外は譲歩することも大切です。
【関連記事】
離婚時の親権の決め方や決まる基準は?母親が負ける場合はある?
養育費とは|養育費の相場や支払い義務・取り決め方法や計算例を解説
離婚の財産分与とは|財産分与の割合や対象となる財産
弁護士に相談したか
セックスレスが原因で離婚する場合は、特に弁護士に相談することが重要です。セックスレスによる離婚は裁判まで発展する可能性があり、裁判を見据えて証拠収集や戦略を立てる必要があります。
一方で、セックスレスで離婚を切り出された側にとっても、弁護士に相談することで、法的な反論や適切なアドバイスを得られます。
当事務所でも、法定離婚事由による離婚相談や慰謝料の事案に対応した豊富な実績があります。
男女双方の弁護士が在籍しているため、「異性には話しにくい」という場合でも、ご安心ください。一人で抱え込まずに、お気軽にご相談ください。
【関連記事】
無料で離婚相談ができる窓口3つ|離婚相談は誰にすべき?
離婚問題を依頼する弁護士の選び方|失敗しないためのポイント
離婚にかかる弁護士費用はいくら?相場や内訳・安く抑えるポイント
セックスレスの離婚に関するよくある質問
何年セックスレスだったら離婚できる?
セックスレスが離婚理由として認められるかどうか、法律上具体的な期間などの基準は存在しません。
しかし、1年程度にわたってセックスレスが続き、かつそれに対して夫婦関係修復を怠っている場合は、婚姻関係が破綻していると判断される可能性があります。
ただし、個別の事情によって異なるため、弁護士に相談して具体的な対応を検討することが重要です。
セックスレスの頻度・期間は離婚や慰謝料に関係する?
セックスレスの頻度や期間だけで離婚や慰謝料が認められるわけではありませんが、判断材料の一要素となります。
例えば、セックスレスの期間が3年に及ぶケースでは、慰謝料が増額されることもあります。
ただし、セックスレスの経緯、改善の努力、不貞行為の有無、婚姻期間や子どもの有無によっても異なります。
夫(妻)からセックスレスで離婚を求められたがどうしたらいい?
夫(妻)からセックスレスで離婚を求められ、対応に困った場合は弁護士に相談することが望ましいです。
セックスレスで離婚を求められても、裁判で離婚が認められるかどうかは、セックスレスの原因や経緯などによっても異なります。
特に、健康上の理由や正当な事情がある場合には、離婚原因として認められない可能性があるため、そのような方針で主張を組み立てることが重要です。
ただし、問題の本質はセックスレス以上に、夫婦で話し合いを持てなかったことだと考えられます。裁判への対策はもちろん、今ある時間の中でパートナーに向き合う時間を確保することが重要です。
【関連記事】不倫・浮気で慰謝料請求されたらすべきこと|お金がない場合の対処法
まとめ
セックスレスで離婚や慰謝料請求が認められるには、①正当な理由がないのに性交渉を拒絶されたこと、②セックスレスについて相手が夫婦関係修復に努めなかったこと、③セックスレスの証拠があること、などが重要です。
ただし、離婚原因や慰謝料請求が認められるかどうかは、個々の事情によっても大きく異なります。
セックスレスが原因で離婚する場合は、裁判も視野に入れて動く必要があるため、弁護士に相談しながら進めるのが望ましいです。
セックスレスは夫婦にとって深刻な問題です。セックスレスを理由に離婚を希望する側はもちろん、離婚を求められた側も、一人で抱え込まずに弁護士にご相談ください。