父親が離婚で親権を勝ち取るケースとは|共同親権の影響は?
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離婚で親権を得たいと考えるお父さんは多くいます。離婚時の親権が決まる基準では、特に育児の実績(監護実績)や子どもと過ごした時間が重視されます。
母親が虐待をしていたり、精神疾患などで育児環境が不十分だったりする場合、父親が親権者となることもあります。
離婚時に親権を得るには、育児の実績をしっかりと積み上げ、自分の主張を適切に訴える必要があり、計画的に進めていくことが大切です。
さらに、2026年5月までに共同親権が施行されるため、親権に与える影響についても解説します。
目次
離婚の親権獲得で父親はなぜ不利なのか?
政府統計によると、2022年に離婚時に母親が親権者となった割合は85.9%でした。
ここでは、離婚の親権獲得において、なぜ父親が不利なのかその理由を解説します。
父親が不利になる理由を理解して、その点を補うことが大切です。
仕事と育児の両立が難しいから
親権で重視されるのは、主に育児を担ってきた実績、子どもと過ごした時間、育児環境が整っているかどうかです。
また、子どもが小さい場合は体調不良などの変化も起きやすいため、早退や欠勤がしやすい環境が整っているかも考慮されます。
日本では共働き世帯の割合は7割に達しますが、依然として父親が主な稼ぎ手となり、母親が主に育児を担うケースが多いのが現状です。
女性は、出産・育児でキャリアを断念することが多く、社会復帰が難しい場合があります。
男性が稼ぎ手とならざるを得ない事情や、積極的に育休を取りにくい環境など、社会的な構造も影響し、監護実績を積むのが難しい実情があります。
母性優先の原則があるから
親権が決まる際には、母性優先の原則が重視されます。
乳幼児期の子どもは母親と引き離すべきではないという考え方から、子どもが幼いうちは、母親が親権になる傾向があります。
別居により継続して育児ができないから
親権では、これまでも育児を行ってきた継続性も重視されます。
離婚時には夫婦が別居するケースもありますが、子どもが幼い場合、母親が子どもを連れて別居するケースが多いです。
この場合、父親は子どもと過ごす時間が減り、育児の継続性が認められにくいため、親権獲得において不利になる可能性があります。
親権を決める際に重視されるポイント
離婚時には、親権をどちらの親にするのか決めなければ離婚が成立しません。
夫婦の話し合いで決定しない場合、離婚調停、調停が不成立なら離婚裁判で親権者を決定します。
裁判所は「子の福祉」、つまり、どちらが子どもの親権者となった方が「子どもにとって幸せか?」という観点から親権者を決定します。
裁判所が重視するポイントは以下の通りです。
継続性の原則 | 主に育児を担ってきた親のもとで、子どもが安定して生活できている場合に、その現状を尊重するという考え方 |
母性優先の原則 | 乳幼児期の子どもは母親と引き離すべきではないという考え方 |
子の意思の尊重 | 子どもの意思を尊重すべきという考え方 |
兄弟不分離の原則 | 兄弟姉妹を引き離さないようにすべきとする考え方 |
面会交流の寛容性 | 面会交流を積極的に許容する姿勢のこと |
その他 | これまでの育児の実績
子どもに対する愛情 親の監護能力 親の年齢や健康状態 子どもと一緒に過ごせる時間(勤務状況や子どもが病気の時の対応) 離婚後の育児のサポート態勢、祖父母の援助 離婚後の住まいや、学校など生活の変化の有無 経済力 など |
特に、育児の実績や継続性などが重視されるため、この点を補うことが大切です。
男性が親権を得るためのポイントについては後述します。
親権者が父親になる可能性のあるケース
前述の通り、育児の実績などにおいては母親の方が有利です。しかし、以下のようなケースでは、親権者が父親になる可能性があります。
- 父親が主な育児を行ってきた
- 母親が子どもに対して虐待やネグレクトをした
- 母親に精神疾患や犯罪行為などがあり、監護能力・育児環境が整っていない
- 子どもが父親との生活を希望している
- 母親が子どもを置いて家を出た、別居時は父親が育児をしていた など
②の子どもに対する虐待には、妻から夫へのDVやモラハラも含まれます。特に、子どもの前で行われる「面前DV」は、虐待行為だと判断されます。
また、③の監護能力や育児環境が不十分な例として、自傷行為やうつ病などの精神疾患、アルコール依存症や犯罪行為などが挙げられます。
父親が日常的に育児を担っていたり、別居後も世話をしていたりした場合は、継続性が評価され父親が親権を得られる可能性があります。
「不倫の事実は親権に影響するか?」といった相談も多く寄せられますが、不倫は親権に直接影響しません。
親が不倫をしていたとしても、それだけで「子の利益」を害しているとは判断されません。
ただし、子どもを放置して不倫相手に会っていたなどの事情がある場合は、親権獲得に影響する可能性はあります。
「不倫した母親に親権を渡したくない」という相談も多いです。
親権における有利・不利は個々の事案によって異なるため、弁護士への相談をおすすめします。
父親が親権を取るためにすべきこと
父親が親権を得るために、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 育児や子どもと過ごす時間を積極的に確保する
- 一方的な子連れ別居には法的な対応を行う
- 離婚後の育児環境を整える
- 離婚の時期を見極める
- 調停や裁判に備えておく
- 弁護士に相談する
監護実績を積むには時間がかかるため、すぐに離婚を切り出すのではなく、十分な準備を整えて計画的に進めることが重要です。
育児や子どもと過ごす時間を積極的に確保する
親権では、主に育児を担ってきた側で子どもが安定して生活できるのであれば、その現状を尊重する「継続性の原則」が重視されます。
そのため、同居中や別居期間中に積極的に育児に関与し、子どもと過ごす時間を確保することが大切です。
離婚調停や裁判では、親権を得たい主張だけでなく「実際に行動が伴っているか」が評価されます。
子どもと同居している場合はもちろん、仮に子どもと別居になってしまった場合でも、以下のように積極的に子どもと関わりましょう。
子どもと同居している場合 | 子どもの食事の準備、洗濯、寝かしつけなどの日常的な世話
子どもが病気の場合は病院に連れて行く 子どもの塾の送迎、学校行事への参加 休日に子どもと過ごす時間や頻度 残業や飲み会を減らすなど |
子どもと別居している場合 | 子どもに電話をする、手紙を書く
子どもの様子を気に掛ける 生活費を負担する 面会交流を求めて、子どもと会う時間を増やす など |
また、前述の通り子どもと別居すると、育児の実績を積む上では不利です。可能な限り別居をせず夫婦で話し合うことも大切です。
一方的な子連れ別居には法的な対応を行う
離婚時には、母親が子どもを連れ去り別居するケースがあります。
正当な理由がなければ「違法な連れ去り」と判断される可能性があります。
正当な理由があると判断されるケース | 子どもが虐待されていた
配偶者からDVやモラハラを受けていて、子どもへの影響が懸念された 夫婦合意の上で別居をした |
違法になるケース | 保育園や学校の帰宅途中に、子どもを待ち伏せて連れ去った
嫌がる子どもを無理やり連れ去った 子どもを騙して連れ去った など |
上記以外にも、連れ出す手段や経緯などによっても違法かどうか判断が異なります。
別居期間中に相手が監護実績を積むと、親権獲得には不利に働きます。
しかし、相手から子どもを無理やり奪い返せば、子の奪い合いとなり、親権で不利になるだけでなく、場合によっては未成年者略取罪など犯罪に該当する恐れもあります。
子どもを取り戻したい場合は、家庭裁判所に以下の手続きを申し立てましょう。正当な法的手続きを経て子どもを取り返すことが大切です。
子の引き渡し調停(審判) | 子どもを引き渡すように求める手続き |
子の監護者指定調停(審判) | 離婚するまで間に、父母どちらが子どもの面倒を見るべきか家庭裁判所に判断を求める手続き |
審判前の保全処分(仮処分) | 緊急性のある場合に、審判の判断が出る前に子どもを仮に引き渡す手続き |
調停は話し合いで引き渡しを求めるため時間がかかります。
そのため、引き渡しの審判、監護者の指定の審判、そして、審判の結果が早く出るように緊急時には仮処分も同時に申し立てましょう。
これらの手続きは専門的かつ緊急性が高い事案であるため、親権問題に詳しい弁護士に相談し、手続きを進めるようにしてください。
離婚後の育児環境を整える
離婚後に親権者となった場合、子どもが安心して生活できる環境を整えることが重要です。
特に男性は、子どもの病気や緊急事態が生じても、すぐに欠勤や早退ができないケースもあります。
両親や兄弟など自分の親族の協力を得て、サポート体制を事前に整えておくことがポイントとなります。
また、離婚後の居住環境も重要視されます。子どもが安定した生活を送れる環境を維持するため、可能な限り現在の居住地に留まり、同じ学校に通えるなどの配慮も大切です。
離婚の時期を見極める
乳幼児期の子どもに関しては「母性優先の原則」により、母親が親権を得やすい傾向にあります。
しかし、実務上は10歳頃から子どもの意思も親権の判断に考慮されるようになります。
また、15歳以上の子どもについては、親権者指定の審判においては意見を聞くことが義務付けられています。
そのため、監護実績を積み重ねつつ、ある程度子どもの意思が尊重される時期に離婚を検討することも一つの選択肢です。
調停や裁判に備えておく
調停や裁判では、親権者を決める基準を理解し、自分の主張を理解してもらえるように伝えること、主張を裏付ける資料を用意しておくことも重要です。
現在の育児の状況 | 子どもとの同居の有無、今どのように子どもと関わっているのか
育児にあてられる時間、勤務状況、子どもが病気などの対応 親族からの協力の有無 自分の収入 面会交流の可否や実施状況 |
これまでの育児の実績 | 子どもの世話(食事、洗濯、寝かしつけ、塾の送迎など)、学校行事への参加、休日の過ごし方など具体的な関わり方 |
証拠となる資料 | 母子健康手帳
保育園・幼稚園の連絡帳 子どもと出かけた際の写真 メール・手紙などのメッセージの記録 手帳や日記 診断書やお薬手帳 など |
子どもの送迎や連絡帳で保育士などと連携しておくことも大切です。
他にも、調停や裁判では、家庭裁判所の調査官が、父母や子どもと面談、家庭訪問などを行い、調査を行うことがあります。
こうした調査官の調査に対しても、以下の点を意識して対応するようにしましょう。
- 常識的な態度で調査に協力的な姿勢を示す
- 家庭訪問の際は、整理整頓をしておく
- これまでの子どもとの関りを具体的に説明する
- 不利な事情があれば、その原因と今後の具体的な改善策を伝える
弁護士に相談する
離婚を検討した段階から弁護士に相談することで、親権獲得に向けた具体的な準備やリスク回避のアドバイスを受けることができます。
特に養育実績は短期間では積めません。子どものためにも、日常的に育児に積極的に関与し、計画的に進める必要があります。
また、調停や裁判になると、平日昼間に裁判に出席したり、書類を提出したりする必要があります。
弁護士に依頼することで、法的手続きや書類作成、配偶者との連絡も一任でき、精神的な負担も軽減できます。
万が一、親権が得られなかった場合でも、養育費や面会交流など適切な条件での離婚が期待できます。
不利になりやすいからこそ、法律の専門家のサポートを検討しましょう。
父親が親権を得られなかった場合の対処法
可能な限り努力を尽くしても、親権が得られない場合があります。その場合は、面会交流の取り決めや親権者変更を検討しましょう。
面会交流を求める
親権が得られなかった場合でも、面会交流について取り決めを行いましょう。
面会交流とは、離れて暮らしてる親子が、会って話したり、遊んだり、電話や手紙などで定期的に交流することです。
離婚後も親には面会交流の権利が認められており、子どもにとっても両親の愛情を感じる大切な機会となります(民法第766条1項)。
面会交流については、以下の点を取り決めるようにしましょう。
- 面会交流の頻度(月〇回、週〇回など)
- 面会交流の実施時間
- 面会交流を実施する場所(監護者の自宅、公園など)
- 子どもの受け渡し方法
- 当事者の連絡方法
- プレゼントのやり取り
- 学校行事への参加や宿泊の有無
- 面会交流の際のルール
面会交流は子どもの生活に負担をかけない範囲で行うことが重要です。
また、母親が面会交流に消極的な場合、以下の理由が考えられます。
- 養育費を支払わないから
- 面会交流の際に子どもに悪口などを吹き込まれたくないから
- これまでにDVやモラハラがあったから
- 過去に不倫をされたから など
特に、自分が良かれと思って接していた方法でも、相手によってはモラハラだと受け取られてしまうこともあります。
面会交流を実施してもらえない場合は、相手の不満の原因を理解し、双方歩み寄ることが大切です。
親権者の変更をする
離婚時に親権を得られなくても、状況が変われば親権者の変更を申し立てることは可能です。
親権者の変更が認められるケースは以下の通りです。
- 親権者が子どもを虐待・育児放棄をしている
- 親権者が重大な病気や行方不明、死亡した
- 15歳以上の子どもが親権者の変更を希望している
- 親権者が仕事などの関係で育児ができなくなった など
親権者の変更は、両親の話し合いだけでは変更できません。必ず家庭裁判所に「親権者変更調停」を申し立てましょう。
共同親権になった方が父親は有利?
2026年5月には、離婚後の親権が単独親権だけでなく、共同親権も選べるようになります。
共同親権が選択できれば、離婚後も父母双方が親権を持ち、教育方針や進学、転校などの重要事項を話し合って決定できます。
ただし、子どもと暮らせるのはどちらか片方の親であり、食事や買い物、習い事などの日常生活や、手術など緊急時には、同居している親が単独で親権を行使できます。
そのため、共同親権となっても、別居している親が子どもと関わる機会は限定される場合があります。
一方で、親権を共有することで育児の責任を父母双方が持つため、積極的な関与が期待されています。
共同親権の導入によって父親が必ずしも有利になるとは言えませんが、制度上、親子の交流機会が増えると考えられます。
父親の親権についてよくある質問
離婚の親権が父親になる確率は?
政府統計によると、2022年に離婚時に母親が親権者となった割合は85.9%でした。そのため、父親親権者となる確率は、統計上約15%程度です。
親権者が父親になった場合養育費を請求できる?
養育費は、子どもと離れて暮らし、監護権を持たない親に支払い義務があります。
そのため、親権者(監護者)が父親となった場合は、母親に対して養育費を請求できます(民法第766条)。
養育費は、夫婦の話し合いで取り決めるほか、裁判所の養育費算定表を元に、月の養育費の金額を決定することが多いです。
ただし、養育費は、両親の収入や子どもの年齢・人数をもとに算出されるため、受け取る側の年収が高い場合には、養育費の金額が少なくなる可能性があります。
親権と監護権を分けるメリットはある?
親権には、大きく分けて財産管理権と身上監護権が含まれます。身上監護権とは、子どもと同居して世話や教育を行う権利です。
親権が得られない場合でも、身上監護権を分離して行使することで、子どもの生活に関与することが可能です。
親権と監護権を分ければ、両親それぞれが子どもとの心理的なつながりを保つことができます。
ただし、監護権を得ても財産管理権は親権者にあるため、例えば子どもが銀行口座を開設する際には、財産権を持つ親権者の同意が必要です。
このように、親権と監護権を分けるデメリットもあります。
まとめ
父親は、母親に比べて子どもの面倒を見られる時間が限られ、監護実績が不足している場合、親権獲得において不利になることがあります。
どうしても親権を得たい場合は、主張だけでなく、実際に行動を起こすことが何より大切です。
また、夫婦でいられなくなったとしても、子の両親として信頼関係を築き、協力して育児を行うことも不可欠です。
親権や面会交流で悩んでいる人は、親権問題の実績がある弁護士に相談しましょう。当事務所でも豊富な実績がありますので、お気軽にご相談ください。