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不貞行為の慰謝料の請求方法とは?不貞行為の定義、慰謝料の相場を弁護士が解説

2023.04.05
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本記事にアクセスしてくださった方の多くは、「配偶者が不貞行為をした時は慰謝料を請求することができる」ということ自体はご存知かと思います。それでは、具体的にどうすれば慰謝料を請求できるのでしょうか。

本記事では、弁護士が、理論と実際の両面から、不貞行為を理由とした慰謝料の請求方法について解説します。

慰謝料請求ができる条件とは

そもそも、不貞行為を理由とした慰謝料請求は、法律的にはどういった権利を根拠としているのでしょうか。

この点、個人と個人の関係を規律する「民法」という法律の709条に、根拠となる条文があります。

不法行為による損害賠償

第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

この条文で規定されている損害賠償請求権が、他人の違法な行為によって被害を受けた場合にその被害をお金で償わせるための権利として広く使われています。逆に言うと、自分が受けた被害を加害者にお金で償わせたいのであれば、この条文に書いてあることに自分のケースが当てはまらなければならないということになります。

つまり、配偶者のある行為を理由に慰謝料請求を検討する際は、その行為が法的にみてあなたの「権利又は法律上保護される利益を侵害」するレベルのものといえることが、慰謝料請求をするための重要な条件になります。

不貞行為に対する慰謝料は請求可能?

配偶者の不貞行為を理由とする慰謝料請求は、法律上、民法709条の規定する損害賠償請求権の行使といえるので、一般的に請求が認められています。すなわち、不貞行為が、他人を殴って怪我をさせる行為や交通事故を起こす行為などと同程度に「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為であるといえるからこそ、不貞行為「によって生じた」精神的な苦しみという「損害を賠償」することを求めることができるという構造になります。

ここで、「不貞行為」と似たような意味の言葉で「浮気」「不倫」という言葉もあると思います。日常的にはこれらの言葉はあまり区別しないかもしれませんが、法律的には「浮気」「不倫」と「不貞行為」は別の概念であると考えられています。すなわち、過去の裁判例で、不貞行為は「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と定義づけられており、性的接触に満たない身体的接触や単なるデート等は不貞行為には基本的に含まれないと理解されているのです。

なぜ、法律はこのように不貞行為の範囲を限定するのでしょうか。それは、民法が夫婦に「貞操義務」を課していると解釈されることに大きな理由があります。

貞操義務についての詳しい解説はこちらのページをご参照ください。

貞操義務とは、「夫婦がお互いに配偶者以外の者と肉体関係を持たない義務」のことをいいますが、この義務が法律上の義務であると解されているからこそ、それに違反する行為が「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」すると捉えられるのです。このことからは、裁判例が不貞行為の定義を上記のように貞操義務に違反する行為であると考えていることは、言わば必然のことといえます。

したがって、現実の慰謝料請求の場面においても、「配偶者が第三者との間で肉体関係を持っている」という事実がどの程度きちんと確認できるかという点が重要になります。

不貞行為の慰謝料の相場

不貞行為を理由として慰謝料を請求しようとする時、やはり「どれくらいのお金がもらえるのか?」ということは気になるポイントかと思います。

ただ、結論から言うと、不貞行為を理由とする慰謝料の金額には、はっきりとした相場はありません。

この点、例えば「物を売ったのに代金を支払ってくれない」という場合であれば、単純にその代金と同額のお金の支払いを求める、ということになりますが、不貞行為を理由とする慰謝料請求は、支払ってくれないお金そのものの支払いを求める訳ではありません。不貞行為を理由とする慰謝料請求によって被害者側が求めているのは、精神的な怒りや苦しみを感じることを強いられることの償いです。そのため、その精神的な怒りや苦しみをお金で評価する必要があるのです。

そして、精神的な怒りや苦しみはその人の心の中の動きであるため、その正確な大きさというのはその人にしか分からず、また他の人と比較することもできません。このような性質から、精神的な怒りや苦しみをお金で評価することにはどうしても一定の限界があります。そこで、実務では「このような事案であれば、普通の人ならこれくらいの怒りや苦しみを感じるだろう」と推測される大きさによって、慰謝料の金額が決められています。具体的には、不貞行為の具体的な態様、不貞行為の相手の人数、属性、不貞行為をしていた期間、回数、頻度、その他事例ごとに様々な要素を考慮することになります。また、過去に類似する事案があった場合、その事案でいくらの慰謝料が認められたか、という点も考慮されることが多いです。

このように、不貞行為を理由とする慰謝料の金額の相場観をお伝えするのはなかなか難しい面があるのですが、強いて言えば、「初めは500~300万円で請求し、交渉又は訴訟の結果300万円~100万円が認められる」というケースが多いように思われます。もっとも、悪質性の髙いケースや不貞行為を行った配偶者が高収入だったというケースでは、1000万円以上の慰謝料請求が認められることもあります。

不貞行為に対する慰謝料請求をする際の注意点

ここまで、不貞行為を理由とする慰謝料請求をとりまく理論を中心にご説明してきました。では、実際に不貞行為を理由として慰謝料請求をする際は、どういったことに注意すればよいのでしょうか。

証拠を押さえること

第一には、配偶者が第三者と肉体関係を持ったという事実を立証できるような証拠をきちんと押さえることが重要です。なぜなら、現実に配偶者に対して不貞行為を理由として慰謝料請求をしたとして、配偶者が自らの不貞行為について認めれば大きな問題にはなりませんが、否定した場合はそのままだと支払いをさせることは難しくなります。

配偶者が自らの不貞行為を否定したり、慰謝料の支払いを拒否したりした場合、請求をした側としては、その状況を打開するために訴訟等の裁判所を使う手続に移行せざるを得ません。ただ、裁判官は、不貞行為の現場を直接見ることができる訳ではありません。そのため、単に「不貞行為があったので慰謝料を請求します。」と主張するだけでは、裁判所は受け入れてくれません。したがって、裁判所という中立な第三者が見ても「不貞行為がある」と判断できるだけの証拠が必要となるのです。

それでは、具体的にどのような資料をどれくらい集めれば証拠となり得るのでしょうか。上記のとおり、不貞行為が「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と定義づけられていることからは、この定義に近い位置にある事実を立証できる証拠であればあるほど有力になります。より具体的には、「配偶者が第三者とラブホテルに入って数時間出てこなかった」事実を示す探偵の報告書、配偶者がいったんは不貞行為を認めていた事実がある場合はその時の音声の録音データやLINE・メール等の文章が考えられます。

もっとも、これらのような決定的な資料がなくても、すぐに諦める必要はありません。なぜなら、上記の定義に遠い位置にある事実でも、それを複数積み重ねることで、不貞行為を立証することができる可能性があるためです。例えば、配偶者と第三者のLINEのやりとりがあるということのみでは直ちに不貞行為があったと断言することは難しいかもしれません。しかし、これに加えてLINEのやりとりにリンクした他の資料(LINEで旅行の約束をしていたのであれば旅先でのツーショット写真、ホテルに行く約束をしていたのであればホテルを予約したメール等)があれば、それらの資料の「合わせ技」で不貞行為を立証していくことが可能となってくるのです。

では、結局どのような資料がどれくらい手元にあればよいのでしょうか。これを判断するために役に立つのが、「今、このような資料が残っているということは、過去にこういうことがあったと考えるのが自然だろう」という視点です(専門的には「経験則」と言います)。この視点に立つことで、おのずから、過去に不貞行為があったと考えることが自然だといえるレベルまで証拠を集めればよい、という答えが出ます。この視点は弁護士のみならず裁判官も日頃から用いているものですので、皆様もぜひ取り入れていただければと思います。

不貞の相手方のみへの慰謝料請求可否

不貞行為を理由とする慰謝料は、不貞行為、すなわち配偶者が第三者と肉体関係を持ったことを理由に請求する慰謝料なので、配偶者のみならず、配偶者の不貞行為の相手方となった第三者にも請求することができます。また、法律上は配偶者の不貞行為の相手方となった第三者のみに請求することも可能です。ただし、配偶者の不貞行為の相手方となった第三者のみに請求する場合、大きな注意点が2点あります。

1点目は、その第三者が最終的に合意された、または認められた慰謝料の金額の全てを支払った場合、配偶者に対して支払った額の半額相当分の支払いを求めることができる点です。専門用語で求償権と呼ばれているものですが、これをそのままにしておくと、支払った額の半額相当分については、結局夫婦間でお金が循環したにすぎないという結果に終わってしまいます。特に配偶者と同居している場合は、家計が同じなので実質的にはお金は動かなかったということにもなり、慰謝料請求をした意味が失われてしまいかねません。そこで、交渉の中で、第三者に対して求償権を放棄するよう働きかけることが重要になります。

2点目は、法律上、慰謝料請求をせずに一定期間が経過した場合、慰謝料請求をすることができなくなるルールが存在しているところ、その基準が配偶者に請求する場合と第三者に請求する場合とでずれる可能性がある点です。このルールは、消滅時効(民法724条)と呼ばれており、以下のように、慰謝料請求をすることができなくなるまでの期間を2通り定めています。

①損害及び加害者を知った時から3年間

②慰謝料請求の原因となる行為(不法行為)の時から20年間

第三者に対して請求する場合は、①については「不貞行為があったということ及び不貞相手である第三者の氏名を知った時から3年間」と解釈されます。これに対して、配偶者に対して請求する場合は、「離婚成立日から3年間」と解釈されます。このため、例えば、「数年前の不貞行為を理由に配偶者と離婚することにした」というケース等で、配偶者には慰謝料請求ができても、不貞相手である第三者には最早慰謝料請求をすることができないという結論になり得ます。

したがって、不貞行為の存在や、不貞相手である第三者が誰かということが分かった場合、可能な限り早期に、そもそも慰謝料請求をするのか、するとして誰に請求するのかということの決断をする必要があります。

請求相手が慰謝料の支払いに応じない場合の対処法

以上、慰謝料請求を現実にする際の注意点についてご説明しました。しかし、どんなにこちらが注意を払って万全の態勢を整えて請求しても、なお慰謝料の支払いに応じないということはあり得ます。(弁護士として不貞行為を理由とする慰謝料請求の現場に携わっている立場からは、一回の慰謝料請求ですんなり支払ってもらえることの方が圧倒的に少ないと感じます。)

このように、請求相手が慰謝料の支払いに応じない場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

慰謝料請求の流れ

そもそも、慰謝料請求をする際に、いきなり裁判所に訴訟を提起するということは滅多にありません。訴訟手続きは請求相手の側だけでなくこちら側にとっても多大な労力を必要とする手続きなので、可能な限り避けた方が望ましいという点のみならず、裁判所側も日夜膨大な数の紛争を処理しているため、真に裁判所を介入させないと解決が困難な紛争にリソースを集中させるようにしなければ、回りまわって私たち市民が受ける司法サービスの質の低下につながりかねないという点があるためです。

すなわち、弁護士にご依頼いただく場合は、一般的には、まずは相手に対して「このような不貞行為があったので、慰謝料○○○万円を請求します」という内容を記載した書面を送付します。この書面に対する相手の反応次第で、交渉を行うか、交渉できるような状況ではないと判断して訴訟を提起するか、対応を分けていくということになります。例えば、相手が一切の慰謝料支払いを拒否すると言っているのか、それとも「○○万円なら支払います」といった対案を出しているのかという点一つとっても、その後のこちらの行動は分かれます。前者であれば直ちに訴訟の提起を考えるかもしれませんが、後者であれば交渉を継続してその対案についての意見を回答することになるでしょう。

このように、慰謝料の請求は、請求を受ける相手方が必ずいるという関係上、実際にどのような経過を辿っていくのかはやってみないと分からない面があります。そのため、請求をする側としては、相手の反応をある程度予測したうえで、「話し合いの中で解決することを目指すのか、訴訟をすることを厭わないか」という点や「初めの請求金額とは別に、どれくらいの金額であれば譲ることができるのか」という点について早い段階で考えておくことが重要といえます。

調停・訴訟について

ある程度話し合いをしたものの、どうしても折り合いがつかない場合や、そもそも請求をしたのに無視をされる場合等は、裁判所を介入させるのもやむなしということになります。この点、上記でご説明したとおり、裁判所を介入させる手続きとして代表的なものは訴訟ですが、もう一つ取りうる手段として「家事調停」「民事調停」を申立てることが考えられます。「家事調停」は配偶者を相手とする場合で、離婚を求める調停(通称「離婚調停」)に付随する申立てとして慰謝料請求をすることが一般的です。「民事調停」は不貞相手である第三者を相手とする場合で、こちらは純粋に慰謝料の支払いのみを求めるものです。

調停を選ぶメリットは、調停委員を間に入れた話し合いという手続の性質から、直接相手と対面しなくても良いという点や、訴訟に比べて「戦い」「対立」という感覚が強まらないいため、手続の後の人間関係に悪影響を及ぼしづらいという点が挙げられます。そのため、特に民事調停は、「共通の友人がいる」「仕事上の付き合いが今後も継続する」といった場合に選択することがあります。もっとも、この場合であっても、調停手続によって解決しなければやはり最終的には訴訟によらざるを得ないことになるため、「それならば最初から訴訟で良い」とお考えになる方も多いです。

不貞行為の慰謝料請求に関してお悩みの方は弁護士法人なかま法律事務所へ

本記事で解説したとおり、不貞行為を理由とした慰謝料請求については、どれくらいの資料があればよいのか、金額はどれくらいが妥当なのか、どのように話し合いを進めていけばよいのか…等々、迷うポイントが多々あります。さらに、これらの迷うポイントについては、個々の状況や事情次第で最適解が変わってくる厄介さもあります。そのため、お一人で悩まれず、早い段階から弁護士によるそれぞれの具体的な状況、事情を踏まえた専門的な判断を加えることを強くお勧めします。

弊所では、離婚事件の経験豊富な弁護士とスタッフが、あなたのお悩みに寄り添い、解決に全力を尽くします。平日18時までの初回相談は無料でお受けしておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

この記事の監修者

中間 隼人Hayato Nakama

なかま法律事務所
代表弁護士/中小企業診断士
神奈川県横浜市出身 1985年生まれ
一橋大学法科大学院修了。
神奈川県弁護士会(65期)