モラハラで離婚する場合の慰謝料相場|慰謝料請求が難しい理由
- 慰謝料
モラハラは、被害者を執拗に攻撃して、傷つける精神的DVと言われており、離婚時に慰謝料を請求できます。
夫婦間のモラハラ行為の具体例として、次のものが挙げられます。
- 暴言や侮辱して人格否定をする
- 威圧的な態度をとる
- 暴力や脅迫行為をする
- 生活費を渡さずに経済的に困窮させる
- 自立を妨げ束縛して他人との交流を制限する
- 子どもを利用して孤立させる
- 些細なミスを執拗に責め立てる など
ただし、ケガなど目に見える被害が生じるDVと異なり、立証が難しい点があります。
この記事では、モラハラで離婚時に請求できる慰謝料について次の点を解説します。
- モラハラで離婚する場合の慰謝料の相場
- モラハラの慰謝料請求が難しい理由
- モラハラで慰謝料を請求するための証拠や手順
モラハラ離婚の慰謝料の相場
モラハラで離婚する場合の慰謝料の相場は、50万円~300万円と言われています。
民法では、故意や過失により、他人の権利や利益を侵害した場合、加害者は生じた損害を賠償する責任を負います(民法第709条、710条)。
そのため、加害者に対して精神的な苦痛に対する慰謝料を請求することができます。
また、モラハラの慰謝料は、次の事情を考慮して、金額が決定されます。
- モラハラの内容
- モラハラを受けた期間
- モラハラによる精神的な疾患の有無・程度
- モラハラ加害者の経済力 など
モラハラの内容が、第三者が見ても酷く、長期間に及び、それにより精神的な疾患が生じたような場合は、慰謝料が増額される可能性があります。
モラハラの慰謝料請求が難しい理由
モラハラ被害は慰謝料を請求できますが、実際に慰謝料を支払ってもらうのは難しいケースが多いです。
ここでは、モラハラの慰謝料請求が難しい理由を解説します。
物証が残らず立証が難しいから
モラハラの慰謝料請求が難しい理由の一つは、DVによるケガなどのように、目に見えた被害がないからです。
もちろん、モラハラの被害に遭っていれば、強い精神的な苦痛を感じますし、心身にまで不調をきたすことがあります。
しかし、モラハラは、日常的な侮辱や人格否定、威圧的な態度が行われ、物証が残りにくいです。
また、咄嗟に行われる加害者からの攻撃に、恐怖や苦痛を感じて、すぐさま記録に残せないことも考えられ、立証が難しいケースが多いです。
単なる性格の不一致だと判断される可能性があるから
慰謝料の請求は、当事者の話し合いで合意できれば、相手から支払いを受けることができます。
相手がモラハラを認めることは考えにくいため、裁判でモラハラの慰謝料を認めてもらうことになるでしょう。
しかし、いくらモラハラを主張しても、明確な証拠がなければ、単なる夫婦喧嘩や性格の不一致だと判断される可能性があります。
性格の不一致だと判断された場合、慰謝料は認められません。
育ってきた環境や、価値観が違う者同士が夫婦になれば、性格が合わないのは当然であり、一概にどちらが悪いか言えないためです。
そのため、モラハラで慰謝料を請求するのであれば、しっかりとした証拠を押さえておくことが必須となります。
モラハラの慰謝料請求で必要な証拠
ここでは、モラハラの慰謝料請求をする場合に、必要な証拠を解説します。
モラハラの音声や動画
モラハラの証拠となるのが、モラハラ被害を受けている際の音声や動画です。
音声や動画の中でも、誰がどのような発言をしているのか明らかなものがあると一番です。
しかし、モラハラ被害を受けた瞬間に、動画を撮影するのは難しいでしょう。
モラハラの音声であれば、相手に気づかれないように録音できる可能性があります。
モラハラを録音するコツは次の通りです。
- モラハラが始まったら、スマホの録音アプリや、ICレコーダーを起動できるようにしておく
- スマホを充電しながら、録音アプリを常時作動しておく
- 長時間録音可能なICレコーダーを常に作動させておく など
モラハラが行われやすい場所に、録音機器を置いておく方法もありますが、くれぐれもモラハラ相手に知られないように注意してください。
また、誰が発言しているのかわからない場合は、日記などの記録も併せて、モラハラの事実を立証することができます。
モラハラの内容を記録した日記やメモ
モラハラの内容を記録した日記やメモも、証拠となります。
こうした日記やメモは、手書き以外にも、スマホやパソコンの記録でも構いません。LINE投稿による日記もおすすめです。
LINEであれば、日時や投稿内容を後から書き換えることはできないため、信用度が高く、相手に知られる可能性も低いです。何より手軽にメモすることができます。
LINEの「ホーム」から、友達追加ボタン→グループ作成→友達を選択せずに「次へ」を押すと、自分だけのトークルームを作成することができます。
記録を残す際のポイントは次の通りです。
- 改ざんなどを疑われないために、手書きの場合は、消せないタイプのペンやボールペンなどで記録する
- 日記を記す際は、いつ、どこで、どのような時に、何をきっかけに、相手に何を言われたのか、どのようなことをされたのか、どう感じたのか具体的に記録する
- モラハラ被害を受けた場所が、飲食店や旅行先だった場合は、その場所に出かけたことがわかるレシートなども日記に添えておく
- 記憶が鮮明なうちに、記録を残しておく
具体的に記録に残すことで、モラハラの事実に信ぴょう性があると判断される可能性があります。
LINEやメールなどのやり取り
モラハラ相手から送られた、自分や自分の家族などに対する暴言や侮辱などのLINEやメールは、モラハラの証拠になる可能性があります。
このような記録は非常に不快なものですが、証拠となる可能性があるため、しっかり残しておきましょう。
携帯電話の機種変更では、LINEの履歴が消えてしまうため、スクリーンショットを取るなどしておくことが大切です。
医師の診断書や通院記録
パートナーのモラハラで、心身の不調が出て、心療内科や精神科などに通院した場合は、医師の診断書や通院の記録も証拠となります。
その際は、心身の不調がモラハラによるものであることを、医師に伝えておきましょう。
会話内容や心身不調の原因を記録したカルテ、診断書が証拠となります。
また、通院期間も複数回だけでなく、定期的に通院していた方が、モラハラの信ぴょう性が増します。
公的機関への相談記録
相手が暴力を振るってきたり、脅迫を受けたりして、警察など公的機関に相談した記録も、証拠となる可能性があります。
相談記録は、相談した機関に「相談記録の開示請求をしたい」と伝えれば、手続きの案内をしてもらえます。
モラハラの慰謝料を請求する際の2つのポイント
別居前に証拠を揃えておく
モラハラの慰謝料請求には証拠が欠かせませんが、モラハラの録音記録などは、同居していないと入手が難しいでしょう。
日記やメモ、通院記録や診断書などがあれば事足りる可能性もありますが、証拠が多いに越したことはありません。
身に危険が迫っているなどがなければ、別居を始める前に、証拠を揃えておくのが一番です。
事前に弁護士に相談しておく
モラハラによる離婚を検討した段階で、弁護士に相談しておくことも重要です。
弁護士に相談しておくことで、どの程度の証拠が必要か、どのくらいの期間証拠を集めればいいのか、離婚手続きの上で、不利にならないための注意点などのアドバイスをもらえます。
弁護士への相談は初回無料であるケースも多いです。
もし依頼時の費用が負担できないのであれば、次の方法で費用を抑えることができます。
- 法テラスで相場よりも安い金額で依頼する
- 慰謝料から報酬金を支払う
- 有料相談でアドバイスを受けながら、自分で手続きを行う など
弁護士費用や、費用を抑える方法、依頼のメリットなどは、関連記事で解説していますので、参考にしてみてください。
【関連記事】モラハラ離婚の弁護士費用の相場は?法テラスの費用や相談窓口も解説
モラハラ離婚で慰謝料を請求する手順
モラハラ離婚の慰謝料請求は、話し合い→離婚調停→離婚裁判の順で進みます。
自分で請求することもできますが、こじれて離婚が長引きそうな場合は、弁護士に依頼するのがおすすめです。
ここでは、モラハラ離婚で慰謝料を請求する手順を解説します。
まずは別居する
モラハラの証拠を集めたら、まずは別居から開始します。
同居しながら離婚を進めようとすると、モラハラ相手から執拗な攻撃を受けるなどして、冷静な判断や離婚を切り出すのが難しくなります。
離婚を求められたパートナーが逆上して、物理的な暴力を振るう恐れもあります。
まずは物理的に距離を取り、精神的な安定を得てから、相手と対峙しましょう。
ただし、黙って別居を開始すると「家庭を捨てた」などモラハラ相手が攻撃材料としてくることも考えられます。
可能であれば、メールや手紙などで別居する旨を伝えておきましょう。
話し合いで請求する
離婚やモラハラの慰謝料請求は、話し合いで請求できます。
これまで相手の言動に苦しめられて、離婚を決意したことや、モラハラに対する慰謝料を請求することを伝えましょう。
ただし、モラハラ相手と話し合いで離婚や慰謝料請求をするのは難しいことが多いです。
そもそもモラハラ加害者は、自分がモラハラ行為をしている自覚がないことも多く、離婚や慰謝料を求めても納得しないことが考えられます。
話し合いをしようとしても、さらに罵倒してきたり、大声で威圧的な態度をとってきたりする可能性があります。
話し合いを行うのであれば、第三者や弁護士に同席してもらうか、弁護士に依頼して自分の代わりに交渉してもらうのがおすすめです。
内容証明郵便で請求する
別居をしている場合や、相手と直接話し合いをしたくない場合は、内容証明郵便で慰謝料を請求するのも有効です。
内容証明郵便とは、いつ、誰が、誰に対して、どのような内容の手紙を送ったのか、郵便局が証明してくれる特殊な郵便のことです。
内容証明郵便で慰謝料を請求することで、相手が郵便を受け取っていないなどの主張ができなくなり、裁判でも強力な証拠となります。
法的措置を取る前に、内容証明郵便で請求するのが一般的であるため、相手にプレッシャーを与える効果も期待できます。
離婚調停で請求する
話し合いや内容証明郵便でも、相手が離婚や慰謝料の支払いに応じない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てましょう。
離婚調停は、調停委員に間に入ってもらい、離婚について夫婦で話し合い、解決を目指す手続きです。
夫婦はそれぞれ別々に調停委員に話をして、話し合いが進行するため、直接顔を合わせることはありません。
離婚調停では、調停委員という第三者が介入してくれるため、話し合いがしやすいです。
一方で、明確な証拠を提示して、モラハラの被害を理解してもらう必要があります。
調停委員がモラハラの被害を理解してくれれば、相手に対して離婚や慰謝料の支払いに応じるように説得してもらえる可能性が高まるでしょう。
【関連記事】離婚調停とは|離婚調停の流れや申立方法や期間をわかりやすく解説
離婚裁判で請求する
離婚調停でも離婚や慰謝料に応じない場合は、調停不成立になるため、裁判を申し立てて、裁判官に判断してもらうことになります。
裁判でも、モラハラの証拠を提示して立証することで、慰謝料だけでなく「婚姻を継続しがたい重大な事由」があるとして、離婚を認めてもらえます。
離婚調停までは、弁護士をつけずとも自分で対応できますが、裁判となると法的知識や複雑な手続きが必要となるため、弁護士に依頼するのがおすすめです。
いずれにしても、離婚を切り出す前に、離婚の進め方や注意点、今後の見通しなどのアドバイスをもらっておくようにしてください。
モラハラ離婚で慰謝料以外に請求できるお金
モラハラで離婚をする場合、慰謝料以外に請求できるお金があります。
請求できるお金をしっかりと把握して、離婚後の生活に困らないようにしましょう。
財産分与
財産分与とは、結婚生活の中で夫婦が協力して築いた財産を、離婚時に公平に分けることです。
財産分与の割合は、原則2分の1とされており、配偶者が稼いだ給料、預貯金、持ち家や車など、夫婦の協力で稼いだ共有財産が対象となります。
なお、夫婦の役割に関わらず、専業主婦であっても、仮に不倫をするなど有責配偶者であっても、財産分与を請求する権利があります(民法第768条)。
【関連記事】離婚の財産分与とは|財産分与の割合や対象となる財産や注意点
婚姻費用
婚姻費用とは、夫婦の収入や資産、社会的地位に応じた夫婦や未成年の子どもの生活を維持するために必要な生活費のことです。
夫婦は、結婚生活を維持する費用を分担する義務があります(民法第760条)。
別居期間では、まだ離婚が成立しておらず、夫婦であることに変わりはないため、収入が多い側が少ない側に対して、婚姻費用を支払う必要があります。
もし相手より収入が少ない場合は、別居期間中に婚姻費用も請求可能です。
【関連記事】別居中の生活費が気になる人へ。婚姻費用の請求について
養育費
養育費とは、未成熟の子どもが、経済的に自立するまでに必要な、生活費や教育費のことです。
養育費は、親権を得ていない親に支払う義務があります。
「養育費算定表」に基づいて、月々の養育費を算定して、請求することができます。
【関連記事】養育費とは|養育費の相場や支払い義務・取り決め方法や計算例を解説
不倫慰謝料
もし配偶者が不倫をしていた場合は、不倫慰謝料の請求が可能です。不倫慰謝料の相場は、50~300万円です。
ただし、モラハラと同様、不倫相手と肉体関係であることがわかる証拠(ラブホテルに出入りする写真など)を押さえておく必要があります。
【関連記事】不貞行為の慰謝料の請求方法とは?不貞行為の定義、慰謝料の相場を弁護士が解説
モラハラの離婚慰謝料でよくある質問
離婚後でもモラハラの慰謝料は請求できる?
離婚後でも、モラハラの慰謝料請求は可能です。ただし、次の条件を満たす必要があります。
- モラハラの証拠がある
- 離婚時に元配偶者と慰謝料に関する取り決めを行っていない
- 離婚から3年が経過して時効になっていない
モラハラの証拠が法的に有効かどうか、それにより慰謝料の金額も左右されます。
また、離婚協議書などの内容によっても、離婚後の慰謝料請求ができるかどうか異なります。
離婚後に慰謝料が請求できないケースもあるため、事前に弁護士からアドバイスをもらうようにしてください。
モラハラで慰謝料請求をされたら?
モラハラで慰謝料を請求された場合、モラハラの事実があるのか、冤罪かどうかによって対応が異なります。
モラハラの事実がなく冤罪なのであれば、モラハラだと主張する事実が何か、証拠はあるのか確認して、事実はないと否定しましょう。
モラハラとの指摘を受けて、暴言や威圧的な態度を取れば、モラハラの証拠となる恐れがあります。冷静に対処することが不可欠です。
もしモラハラの事実があり、相手が証拠を押さえている場合は、真摯に反省して、慰謝料の減額交渉をすることが考えられます。
不利になる恐れがあるため、弁護士に相談するのがおすすめです。
証拠がないとモラハラの慰謝料は請求できない?
証拠がなくても、相手がモラハラの事実を認めて、支払いに応じるのであれば問題ありません。
しかし、相手はモラハラの事実を認めないことが通常ですし、調停や裁判など第三者が介在する場合は、客観的にモラハラ被害を受けたとわかる証拠が不可欠です。
まとめ
モラハラで離婚をする場合の慰謝料の相場は、おおよそ50万円~300万円ですが、慰謝料請求には証拠が必須です。
モラハラで離婚や慰謝料請求を検討しているのであれば、事前に弁護士に相談して、有効な証拠収集の方法や離婚の手順などについてアドバイスをもらっておくのが一番です。
また、モラハラ相手との離婚が難しい場合や裁判に発展する場合は、弁護士への依頼を検討してください。
当事務所では、モラハラ相手との離婚や慰謝料請求などに豊富な実績があります。
交渉や調停などのお任せプランから、継続したアドバイスが可能なバックアッププランなどもありますので、お気軽にご相談ください。