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婚姻費用がもらえないケースは?払わないと差し押さえになる?

2025.04.18
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婚姻費用

婚姻費用は、別居中であっても夫婦が同程度の生活を送れるようにするための重要な制度です。

しかし、すべてのケースで必ず支払ってもらえるわけではなく、例外的に婚姻費用がもらえないケースも存在します。

たとえば、請求する側に離婚の原因がある場合などは、請求が認められない可能性もあります。

一方で、支払う義務がある場合に支払いを拒否し続けると、最終的に給与の差し押さえなどの強制執行を受けるリスクもあります。

本記事では、婚姻費用がもらえない具体的なケースや、支払いを怠った場合のペナルティなどについて詳しく解説します。

婚姻費用を受け取る側・支払う側、両者に向けて解説しますので、参考にしてください。

婚姻費用とは

婚姻費用とは、夫婦や未成年の子どもが、夫婦の年収や社会的地位に応じた生活を送るために必要となる費用であり、夫婦双方が負担すべきものです。

具体的には、衣食住などの生活費、子どもの教育費や医療費など、日常生活にかかる費用全般が含まれます。

ここでは、婚姻費用を支払う法的根拠や、金額の決まり方について解説します。

婚姻費用は基本的に支払う必要がある

婚姻費用は、民法第760条に定められており、夫婦は婚姻費用を分担する義務(生活保持義務)があると明記されています。

生活保持義務とは、双方が同程度の水準で生活できるように分担する夫婦の義務のことです。

夫婦が同居している場合、双方の収入に応じて生活費を分担しているため、婚姻費用は問題になりません。

しかし、別居した場合は、夫婦の財布は別になるため、収入や子どもにかかる費用に差が生じます。

そのため、婚姻費用を婚姻費用を負担するのは、夫婦で収入が多い側、もしくは子どもと同居して世話をしていない側です。

そして、別居していても法律上の婚姻関係が続いている限り、基本的に支払う義務があります。

婚姻費用算定表をもとに金額が決定する

婚姻費用の金額は、当事者同士の話し合いで自由に決めることも可能ですが、多くの場合は裁判所の婚姻費用算定表を参考にして決定されます。

婚姻費用算定表とは、夫婦それぞれの年収と子どもの人数・年齢などをもとに、適正な支払い額の目安を示したものです。

たとえば、夫が年収400万円で、妻の年収が300万円、15歳と10歳の子どもと一緒に別居している場合、婚姻費用算定表に基づいて月額6~8万円程度の婚姻費用が妥当と判断されます。

婚姻費用算定表③この表はあくまで目安であり、特別な事情がある場合には増減されることもあります。

しかし、基本的には裁判所に調停や審判を申し立てた場合も、婚姻費用算定表をもとに婚姻費用が決定される傾向があります。

【関連記事】婚姻費用とは|もらえるケースや内訳は?婚姻費用算定表や金額を解説

婚姻費用がもらえないケース

婚姻費用は法律で定められた夫婦の義務であるため、原則支払いを受け取れます。

ただし、以下の4つのケースいずれかに該当する場合は、婚姻費用がもらえない、もしくは減額される可能性があります。

  1. 別居を解消した・同居を再開した
  2. 離婚が成立した
  3. 有責責任者が婚姻費用を請求している
  4. 収入が多い側が子どもと同居している

以下では、受け取る側が婚姻費用がもらえないケース、支払う側が婚姻費用を支払わなくてよいケースを解説します。

別居を解消した・同居を再開した

婚姻費用をもらえないケース・支払わなくてよいケースは、夫婦が別居を解消して再び同居を開始した場合です。

同居を再開すれば、生活はひとつの世帯内でまかなわれることになり、生活費を別々に負担する必要がなくなるため、婚姻費用の支払い義務はなくなります。

ただし、同居中であっても、家庭内別居をしており完全に家計を分けて暮らしているという実情がある場合は、婚姻費用を請求できる可能性があります。

離婚が成立した

婚姻費用の支払い義務は、法律上の婚姻関係が継続していることが前提です。そのため、離婚が正式に成立した時点で、婚姻費用の支払い義務は終了します。

一方で、調停や裁判が長引いた場合は、離婚成立まで婚姻費用の支払い義務は残り続けます。

有責配偶者が婚姻費用を請求している

婚姻費用の請求者が有責配偶者である場合、判例上、婚姻費用の請求が認められない傾向にあります。

有責配偶者とは、夫婦のうち離婚や別居にいたる原因を作った側を指します。

不倫や暴力行為などで相手の信頼を裏切り、離婚や別居の原因を作った有責配偶者が、婚姻費用を請求するのは、社会常識や道徳上無効にすべき権利の濫用と考えられるためです。

ただし、すべてのケースで請求できないわけではありません。実務上は、別居の経緯や子どもへの影響なども考慮のうえ総合的に判断され、婚姻費用が減額されることもあります

親が不倫をして別居に至った場合でも、子どもには何らの責任もありません。

有責配偶者であっても子どもと一緒に別居している場合には、子どもの生活費に相当する婚姻費用を請求できる可能性があります。

収入が多い側が子どもと同居している

自分より相手の収入が多ければ、婚姻費用は請求できます。

例えば、夫の年収が300万円、妻の年収が400万円であれば、夫から妻に婚姻費用を請求できます。

しかし、収入の多い側が、子どもと暮らして世話をしている場合、婚姻費用の請求が認められない、もしくは減額される可能性があります。

これは、子どもと暮らして世話をしている側の方が、子どもへの支出を負担しているからです。

ただし、双方の年収や生活状況・子どもの年齢や人数などによっても異なるため、必ずしも婚姻費用が請求できないとは限りません。

同意のない別居でも婚姻費用は発生する?

離婚前に別居をする夫婦のなかには、相手の同意を得ずに一方的に別居を開始するケースもあるでしょう。

しかし、正当な理由なく同意のない別居を行うと、法律上離婚原因となる「悪意の遺棄」に該当し、別居した側が有責配偶者と判断される可能性があります。

では、正当な理由のない一方的な別居をした有責配偶者でも、婚姻費用を請求できるのでしょうか。

ここでは、同意のない別居があった場合での婚姻費用の扱いについてわかりやすく解説します。

同意のない別居は悪意の遺棄に該当する可能性がある

民法第752条では、夫婦は、同居・協力・扶助の義務をお互いに負っています。

(同居、協力及び扶助の義務)

第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

引用:民法第752条 – e-Gov

そのため、正当な理由もなく、夫婦の同居義務・協力義務・扶助義務を放棄した場合、「悪意の遺棄」として法律上の離婚原因となり、一方的に別居した側は有責配偶者とされる可能性があります(民法第770条)。

同意のない別居が「悪意の遺棄」に該当するかどうかは、その別居に「正当な理由」があるかどうかで判断されます。

悪意の遺棄に該当するケース 無断で家を出て帰ってこなかった

不倫相手と同棲したいがために、同意なく別居を開始した など

悪意の遺棄に該当しないケース 配偶者のDVやモラハラから身を守るために別居した

すでに夫婦関係が険悪だった

一時的な別居だった

【関連記事】悪意の遺棄とは|慰謝料の相場と具体例は?証明方法はある?

同意のない別居は婚姻費用が減額される可能性がある

たとえ同意がないまま別居を始めた場合でも、婚姻関係が継続していれば婚姻費用を請求できます。

ただし、正当な理由なく一方的に別居を開始した場合は、「悪意の遺棄」にあたる有責配偶者とみなされ、婚姻費用の請求が認められない、あるいは減額される可能性があります。

また、「悪意の遺棄」は離婚原因だけでなく、慰謝料請求の原因ともなるため、慰謝料を請求されるリスクもあります。

もっとも、正当な理由がないまま別居を開始した場合でも、子どもと同居している場合は、養育費に相当する部分について請求が可能です。

これは、親には子どもを扶養する義務があり、有責配偶者の行為について子どもに責任はないためです。

婚姻費用は実家暮らしでも発生する?

別居した配偶者が実家で暮らしていた場合でも、婚姻費用は発生します。

「別居先が実家であれば、家賃や生活費は実家の家族が負担しているのだから、婚姻費用は不要ではないか」という意見もありますが、扶養義務はあくまで配偶者にあります。

そのため、実家の親が生活費や家賃を負担していても、収入が多い側は、婚姻費用を支払う義務があります。

本来は、婚姻費用を受け取った側が、家賃や生活費の負担として、親に支払うことになります。

ただし、実家暮らしによって家賃の支払いが不要であったり、生活費の多くを援助されていたりする場合には、実情を考慮して婚姻費用の金額が調整されることもあります。

【請求する側】婚姻費用がもらえない場合はどうしたらいい?

離婚前に別居を開始したものの、相手側が婚姻費用の支払いに応じてくれず生活が苦しい方もいるかもしれません。

ここでは、別居後に相手が婚姻費用の支払いに応じない場合の対処法を解説します。

婚姻費用分担請求調停を申し立てる

相手が婚姻費用を支払ってくれない場合、まず検討すべきなのが家庭裁判所への婚姻費用分担請求調停の申し立てです。

この調停では、調停委員という第三者を介して、夫婦が直接顔を合わせずに話し合いを進めることができます。

婚姻費用分担請求調停の大きなメリットは、相手が支払いに応じないまま調停が不成立となった場合でも、自動的に審判手続きへ移行し、裁判官の判断で支払いが命じられる点にあります。

また、調停や審判で支払いが決定すると、裁判の確定判決と同じ効力を持つ「調停調書」または「審判書」が交付されます。

相手がその後も支払わない場合には、この調書や審判書をもとに、給与や預金などの差し押さえも可能です。

婚姻費用は、内容証明郵便や調停による請求を開始したときから発生するため、早めに調停を申し立てるとよいでしょう

【関連記事】婚姻費用分担請求とは|算定表の見方・自分で請求する方法

弁護士に相談する

婚姻費用の支払いがされない場合、弁護士に相談すれば、状況に応じて適切な対策をとってもらえます。

弁護士は、婚姻費用請求のための書面作成、家庭裁判所への調停申し立て、さらには調停や審判での対応まで一貫してサポート可能です。相手の対応状況に応じて、最適な方法で対処してくれます。

弁護士に依頼すれば、法的根拠に基づいた適正な金額で請求ができます。さらに、調停前に弁護士が相手と交渉することで、スムーズに支払いに応じるケースもあります。

離婚についても有利な条件で交渉できる可能性があります。

【関連記事】無料で離婚相談ができる窓口3つ|離婚相談は誰にすべき?

婚姻費用を差し押さえる

婚姻費用の支払いについて、調停や審判で金額が決まっているにもかかわらず相手が支払わない場合は、差し押さえも検討するとよいでしょう。

具体的には、「調停調書」または「審判書」をもとに、相手の住所地を管轄する地方裁判所に「債権差押命令」の申し立てを行うことで、手続きが可能となります。

差し押さえの対象は、相手の給与や預金口座などです。

たとえば給与を差し押さえる場合、勤務先に通知が届き、毎月の手取り額の最大2分の1が差し押さえられます。

支払う側にとっては大きな心理的プレッシャーとなり、支払いを促す効果があります。

ただし、実際に強制執行の手続きを進めるには法的な知識が必要となるため、弁護士に依頼するのが確実かつスムーズです。

婚姻費用を払わないとどうなる?

婚姻費用は、法律で定められた義務であるため、原則支払い義務が生じます。

また、別居している配偶者が実家で生活しており、親から援助を受けている場合でも、婚姻費用の支払いは必要です。

このような背景から「婚姻費用はおかしい」「払いたくない」と考える人も少なくないでしょう。

しかし、婚姻費用を支払わない場合、離婚する際に不利になったり、慰謝料請求や差し押さえを受けたりするリスクがあります。

悪意の遺棄に該当すると離婚で不利になることも

前述のとおり、夫婦には同居・協力・扶助の義務があります。

そのため、正当な理由もなく婚姻費用の支払いを拒否し続けた場合、夫婦間の扶助義務に違反したものとみなされ、「悪意の遺棄」に該当する可能性があります。

婚姻費用を支払わないことで有責配偶者と判断された場合、有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません

さらに、「悪意の遺棄」は民法上の不法行為にも該当するため、支払いを受けられなかった配偶者から慰謝料を請求されることも考えられます。

たとえば、収入が十分にあるにもかかわらず、別居中の配偶者や子どもに生活費を一切送らず、話し合いにも応じないなどの態度を取っていた場合、悪意の遺棄と認定されるおそれがあります。

最終的には婚姻費用の差し押さえを受けるリスクがある

婚姻費用の支払いを裁判所から命じられたにもかかわらず、無視して不払いを続けた場合、最終的には給与の一部や銀行口座の差し押さえを受ける可能性があります。

相手が調停調書や審判書をもとに、地方裁判所に差し押さえを申し立てることで、給与や銀行口座の差し押さえが実行されます。

給与の差し押さえを受けると、未払い分を支払い終えるまで、毎月手取り額の2分の1が強制的に回収されます。

さらに、給与の差し押さえは、裁判所からの命令で、勤務先から直接配偶者に支払われる形で行われるため、職場の経理担当者などに差し押さえの事実が知られることにもなります。

「婚姻費用を払いたくない」と思っていても、支払わないことで離婚の際に不利になったり、慰謝料請求や差し押さえといったリスクを負うことになります。

支払いが難しい場合は、後述するように減額交渉を検討することが重要です。

【支払う側】借金などがあり婚姻費用が払えない場合はどうしたらいい?

借金や住宅ローンなどの負担が大きく、婚姻費用の支払いが困難と感じる方もいるでしょう。

しかし、借金によっては、婚姻費用の算定に考慮されるほか、支払いが苦しい事情がある場合は、話し合いや調停によって婚姻費用の減額交渉を行うことも可能です。

以下では、借金があり、婚姻費用が払えない場合や、支払いが苦しい場合の減額交渉について解説します。

借金によっては算定に考慮されることがある

原則として、借金の有無は婚姻費用の支払い義務に直接影響しません。

例えば、個人で借り入れた借金がある場合でも、婚姻費用の金額には考慮されず、婚姻費用を優先的に支払う義務があります。

ただし、以下の借り入れについては、支払いの負担分を婚姻費用の算定に考慮される可能性があります。

  • 婚姻生活のために借り入れた借金の返済
  • 子どものために組んだ教育ローン
  • 婚姻費用を受け取る側が住んでいる家の住宅ローン

こうした負担を行っており、婚姻費用の支払いが苦しい場合は、配偶者に減額交渉を行うか、家庭裁判所に「婚姻費用減額調停」を申し立てるのが望ましいです。

婚姻費用の減額交渉をする

経済的な事情により婚姻費用の支払いが困難な場合は、配偶者に対して減額を交渉することも検討できます。

たとえば、以下のようなやむを得ない事情がある場合は、それを理由に減額または一時的な支払い猶予を求めることが可能です。

  • リストラや病気・事故などで収入がなくなった
  • 転職や部署異動で収入が減少した
  • 借金があり自己破産をした
  • 別居や離婚原因が相手にある など

交渉は口頭ではなく、文書やメールなど記録が残る方法で行うのが望ましいです。

収入証明や医療費の明細など、経済的に厳しい状況を客観的に証明できる資料を提示して交渉すると説得力が高まります。

配偶者との交渉によって合意に至らなかった場合は、家庭裁判所に「婚姻費用減額調停」を申し立てることも可能です。

調停の結果、現実的に支払いが困難であると判断されれば、婚姻費用が減額される可能性があります。

早急に離婚を成立させる

婚姻費用は、法律上の婚姻関係が続いている間に限って発生する義務です。

そのため、支払いが難しい状況が続くのであれば、できるだけ早く離婚を成立させることも選択肢の一つです。

離婚が成立すれば、婚姻費用の支払い義務は終了し、以後の経済的負担を軽減できます。

ただし、未成年の子どもがいる場合には養育費の支払いが必要になる点は留意しておきましょう。

離婚を進めるには、話し合いで協議離婚を成立させるか、調停を申し立てる必要があります。

婚姻費用の支払いが苦しい場合は、早期離婚によって金銭的な負担の区切りをつけることも検討するとよいでしょう。

【関連記事】離婚してくれない夫・妻と離婚する方法|応じない心理と対処法

まとめ

婚姻費用は、民法上の夫婦の相互扶助義務に基づいて支払わなくてはいけないものであり、別居中であっても婚姻関係が続いている限りは支払い義務が生じます。

ただし、状況によっては、婚姻費用がもらえないケースや、減額されるケース、相手の金銭的な事情により、物理的に支払いが受けられないこともあります。

婚姻費用で揉めている場合は、弁護士に相談して、解決に向けたアドバイスをもらうとよいでしょう。

婚姻費用の支払いを求める側は、弁護士に相談することで、請求方法や、請求する際に不利にならないための助言をもらえます。

一方で、婚姻費用を支払う側は、婚姻費用を支払わないことのリスクや、減額のためのアドバイスを得られます。

当事務所でも婚姻費用や離婚について豊富な実績がありますので、お困りの方はお気軽にご相談ください。

この記事の監修者

この記事の監修者

中間 隼人Hayato Nakama

なかま法律事務所
代表弁護士/中小企業診断士
神奈川県横浜市出身 1985年生まれ
一橋大学法科大学院修了。
神奈川県弁護士会(65期)