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生活費を入れない夫にはどう対応する?請求できる金額と離婚までの選択肢

2026.08.07
  • 婚姻費用

監修:中間隼人 弁護士(なかま法律事務所 / 年間400件超の離婚相談実績・横浜)

毎月決まった額が入らない、渡される額が家計に足りない、催促しないと出てこない。夫が生活費を入れない状態が続くと、日々の買い物から子どもの学費まで、自分ひとりで工面することになります。

それでも動き出せない理由はいくつもあります。自分もパートで働いているから請求できないのではないか、切り出したら関係が悪化するのではないか、そもそもこういう話をどこに持っていけばいいのかわからない。金額の話をするのが気まずくて、我慢のほうが早いと感じてしまうこともあるでしょう。

この記事では、夫が生活費を渡さない状態を法律がどう扱っているのか、いくらまで請求できるのか、話し合いから家庭裁判所の手続までの進め方、離婚を選んだ場合に受け取れるお金までを紹介します。同居している段階で読んでいる方に向けて、別居や離婚を前提としない対応から書いています。

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生活費を入れない夫に生活費を渡す義務があるか

夫婦の間には、収入の多い側が少ない側の生活を支える義務があります。これは民法が定めたもので、当事者の気持ちや家庭内の力関係で消えるものではありません。

見落とされやすいのは、この義務が同居しているかどうかで変わらない点です。「別居しなければ生活費は請求できない」と考えて動けずにいる場合がありますが、条文は別居を要件にしていません。

夫婦がお互いの生活を支え合う義務

民法は、夫婦が同居し、互いに協力し扶助しなければならないと定めています(民法752条)。あわせて、婚姻から生ずる費用は、夫婦がその資産・収入その他一切の事情を考慮して分担すると定められています(民法760条)。

この「婚姻から生ずる費用」を実際の場面で呼ぶときの言葉が婚姻費用です。夫婦と未成熟の子が生活していくために必要なお金全体を指し、収入の多い側が少ない側に対して分担する形になります。

婚姻費用の分担義務は、生活に余った分を分けるという性質のものではありません。夫婦は互いに同程度の生活水準を保てるようにする義務を負うと考えられており、支払う側が「自分の生活が苦しいから渡せない」と主張しても、それだけで義務がなくなるわけではありません。

同居中でも生活費を請求できる

法律上は、同居していても婚姻費用を請求できます。民法760条は別居を条件にしていないため、生活費が渡されていない状態そのものが分担義務に反していると評価されます。

ただし家庭裁判所の運用では、同居している間の請求は判断が難しくなる面があります。同じ家で暮らしていると、家賃や光熱費が夫の負担で支払われていたり、食費の一部が共有されていたりして、「まったく分担していない」とは言い切れない状態になりやすいからです。

そのため同居中の申立てでは、渡された額と家計の実態を数字で示せるかどうかが結論を左右します。反対に、夫が家計に一円も入れていない、あるいは渡す額が生活に必要な費用を大きく下回っているという事情を資料で示せる場合には、同居中でも分担額が定められるケースがあります。

共働きでも収入差があれば請求できる

妻に収入があっても、夫の分担義務は消えません。婚姻費用は双方の収入を比べて分担割合を決める仕組みなので、妻の収入が夫より低ければ、その差に応じて夫が支払う側になります。

「働いているのだから自分の生活費は自分で出すべきだ」と言われて引き下がってしまうことがありますが、これは法律上の考え方とは異なります。共働きであっても、収入の少ない側が多い側に分担を求められる関係は変わりません。

妻の収入が夫を上回っている場合は、逆に妻が支払う側になることもあります。判断のもとになるのは収入の多寡であって、性別や就業形態ではありません。

専業主婦・パートの場合に考えられる分担額

妻に収入がない、あるいはパート収入だけという場合、夫の負担額は相対的に大きくなります。パート収入があるときはその額を妻側の年収として当てはめますが、金額そのものが小さいため、分担額に与える影響は限られます。当てはめるのは現に得ている収入で、以前の収入をそのまま使う扱いにはなりません。

生活費として渡す必要がある費用の範囲

婚姻費用に含まれるのは、月々の食費や日用品だけではありません。住居費・水道光熱費・被服費・医療費・子どもの保育料や学費・通信費といった、生活を維持するために継続的にかかる費用が対象になります。

一方で、夫婦の一方が個人的な趣味や交際のために使う支出は含まれません。また、住宅ローンのように資産形成の側面をあわせ持つ支出は、そのまま全額が婚姻費用として扱われるわけではなく、負担のしかたを個別に考える必要があります。

夫が家賃や光熱費を直接支払っているケースでは、その分が分担の一部として考慮されるため、現金で渡されている額だけを比べても実態はつかめません。何をいくら負担しているのかを書き出しておくと、話し合いでも手続でも説明しやすくなります。

【関連記事】水光熱費・ケータイ代・インターネット料金は別居中の生活費から引かれるか(婚姻費用)

夫が生活費を渡さない理由と経済的DVの境目

同じ「生活費を入れない」という結果でも、背景はまったく違います。収入が落ちたことを言い出せずにいるのか、金銭で相手を従わせようとしているのかで、取るべき手段は変わります。

背景を見極めておく意味は、危険度の見立てにもあります。話し合いで解決に向かう状態と、話し合いそのものが危険になる状態があり、後者では家を出る準備を先に考える必要が出てきます。

家計の管理方法についての認識の違い

背景としてまず考えられるのは、家計をどう分担するかについて夫婦の認識がそろっていないケースです。夫が「必要なときに言えば出す」と考え、妻が「毎月決まった額を入れてほしい」と考えていると、渡す額も渡し方も噛み合いません。

催促しないと渡されないという状態は、この認識のずれから生じていることがあります。この場合は、金額と支払日を具体的に決めるだけで改善に向かうこともあります。

渡せる原資が残っていない場合

減収・転職・失業を家族に伝えられず、結果として渡す額が減っていることもあります。ギャンブル・買い物・投資で手元の資金を使い切っている場合や、借金の返済が生活費を圧迫している場合も、渡す意思の有無とは別に原資が残っていません。

借金があるからといって分担義務が当然に消えるわけではありませんが、金額の判断で考慮されることはあります。給与明細や源泉徴収票で収入の実態を確認し、収入と支出の資料をそろえたうえで金額を詰めることになります。

交際相手や別の生活のために使っている

生活費が渡されなくなった時期と、夫の帰宅時間や交友関係の変化が重なっている場合、家計以外の支出が疑われることがあります。この場合は、生活費の問題と不貞の問題が同時に進むことになります。

不貞行為があれば、婚姻費用とは別に慰謝料を請求できる可能性が出てきます。ただし証拠の集め方には注意が必要で、動き方によって後の手続で不利になることもあります。

生活費を握って相手を従わせようとしている

必要な額を把握しているのに意図的に渡さない、レシートの提出を求めて細かく問い詰める、外で働くことを認めないといった行為は、金銭を使って相手を支配する形になります。こうした行為は経済的DVと呼ばれます。

このタイプでは、話し合いで改善する見込みが小さく、請求を切り出したことをきっかけに態度が強まることもあります。身体的な暴力や暴言がともなう場合は、請求の手続より先に安全の確保を考える必要があります。

経済的DVやモラハラに当たるかを見分けるポイント

判断の目安になるのは、渡さない理由を説明できるか、家計の情報を共有できるか、話し合いの場を持てるかの3点です。理由を説明せず、収入も明かさず、話し合いにも応じないという状態が続いているなら、経済的DVに近い状況といえます。

自分の感覚だけでは判断しにくいところなので、第三者に事実を伝えて意見を聞くと見立てが立てやすくなります。判断がつかない段階でも、相談窓口や弁護士に事実関係を伝えることはできます。

【関連記事】経済的DVとは|生活費が足りない場合の対処法と相談先を紹介

生活費を入れない夫に請求できる金額の目安

婚姻費用の金額は、話し合いで自由に決めることもできますが、家庭裁判所の手続に進んだ場合は算定表という資料をもとに判断されます。金額は双方の年収・子どもの人数・子どもの年齢で決まる仕組みです。

「10万円しかもらえていないが、これは少ないのか」という疑問は、算定表に自分のケースを当てはめると見通しが立ちます。まず使う表を選び、次に年収を当てはめるという順番になります。

婚姻費用算定表が判断のもとになる

家庭裁判所が用いているのは、平成30年度司法研究の報告にもとづく算定表です。この報告は令和元年12月23日に公表され、2026年8月時点でこれが最新版となっています(出典:裁判所 平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について)。

算定表は養育費用と婚姻費用用に分かれていて、婚姻費用の表は表10から表19までの10種類です。子どもの人数と年齢の組み合わせで使う表が変わるため、まず自分のケースに合う表を選ぶことになります。

家族構成 使う表
夫婦のみ(子なし) 表10
子1人(0〜14歳) 表11
子1人(15歳以上) 表12
子2人(2人とも0〜14歳) 表13
子2人(第1子15歳以上・第2子0〜14歳) 表14
子2人(2人とも15歳以上) 表15
子3人(3人とも0〜14歳) 表16
子3人(第1子15歳以上・第2子と第3子0〜14歳) 表17
子3人(第1子と第2子15歳以上・第3子0〜14歳) 表18
子3人(3人とも15歳以上) 表19

子どもが4人以上いる場合や、子どもが父母のそれぞれと暮らしている場合は表にあてはまらないため、個別に計算することになります。

算定表に自分のケースを当てはめる手順

表を選んだら、縦軸で支払う側の年収を探し、横軸で受け取る側の年収を探します。縦軸と横軸が交差する欄に書かれた金額帯が、分担額の目安になります。

年収の欄は給与所得者と自営業者で分かれています。会社員は源泉徴収票の支払金額、自営業の場合は確定申告書の課税される所得金額をもとに当てはめる形になります。

算定表が示すのは目安であって、そのまま決まる金額ではありません。住宅ローンの負担・私立学校の学費・持病の医療費といった事情があれば、調整されることがあります。

月10万円しか渡されない場合の考え方

渡されている額が足りているかどうかは、額そのものではなく算定表の目安との差で見ます。夫の年収が高いのに渡す額が少ない場合は、金額の見直しを求める根拠が立ちます。

また、渡された額のうちどこまでが生活費なのかを分けて考える必要があります。10万円のうち家賃と光熱費が引かれていて手元に残るのが数万円という状態と、家賃を夫が別に払っていて10万円が丸ごと使える状態では、意味が変わってきます。

家計の内訳を書き出して、生活に必要な額と渡されている額を並べて示せるようにしておくと、話し合いでも手続でも説明が通りやすくなります。

妊娠中・育児中で自分の収入が減っている時期

産前産後や育児休業中は収入が下がるため、その分だけ夫の分担額は上がる方向に動きます。育児休業給付金を受け取っている場合、それを収入として扱うかどうかは争いになることがあります。

出産や育児で働けない時期に生活費が渡されないと、家計への影響がすぐに出ます。この時期は分担額を決めておく必要が高い時期でもあるので、早めに書面で取り決めておくほうが安全です。

請求が認められにくいケース

請求する側に離婚の原因がある場合や、収入の多い側が子どもと暮らしている場合など、請求が認められない、または減額されることがあります。同意のない別居が減額の理由として主張されることもあります。

自分のケースがこれに当たるかどうかを判断するには、経緯を含めて見る必要があります。あてはまるかもしれないと感じる場合は、動き出す前に弁護士に事実関係を伝えて見通しを確認しておくと、進め方を選びやすくなります。

【関連記事】婚姻費用がもらえないケースは?払わないと差し押さえになる?

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生活費を渡してもらうまでの4つの段階

生活費の請求は、いきなり家庭裁判所に持ち込むのではなく、段階を踏んで進めます。段階を踏むほど「請求したのに支払われなかった」という記録が残り、後の手続で使える材料になります。

段階を飛ばさないもう一つの理由は、後から金額を争うときに「いつ、いくらを求めたのか」を示す必要が出てくる点です。口頭のやり取りだけでは、この点を裏づけられません。

第1段階 金額と支払日を決めて記録に残す

まず、月にいくらを何日までに渡すのかを具体的に決めます。「もう少し入れてほしい」という伝え方では基準がないため、渡されなかったときに何が守られていないのかを示せません。

決めた内容は、メモの手渡しではなくメッセージやメールで残しておきましょう。夫が返信しなくても、送った事実と内容は残るため、請求した時期の証明になります。金額を伝えるときに算定表の目安と家計の内訳を添えると、感情のやり取りになりにくく、金額の話に絞りやすくなります。

第2段階 内容証明郵便で請求する

話し合いで動かない場合は、内容証明郵便で請求します。内容証明郵便は、いつ・誰が・誰に・どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明する制度で、請求した事実を客観的に残せます。

法的な強制力があるわけではありませんが、書面が届くことで支払いに応じるケースはあります。差出人を弁護士名義にすると、受け取る側の受け止め方が変わることもあります。

書面には、請求する金額・支払期限・振込先・支払われない場合に家庭裁判所の手続を取る意向を書きます。感情的な記述を入れると本題がぼやけるため、金額と期限を軸に組み立てます。

第3段階 婚姻費用分担請求調停を申し立てる

それでも支払われない場合は、家庭裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てます。申立てができるのは夫または妻で、申立先は相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定めた家庭裁判所です。

費用は収入印紙1200円分と郵便料で、郵便料は裁判所ごとに異なります。必要書類は、申立書とその写し・夫婦の戸籍謄本・申立人の収入関係資料(源泉徴収票・給与明細・確定申告書の写しなど)・事情説明書・進行に関する照会回答書・送達場所等届出書です(出典:裁判所 婚姻費用の分担請求調停)。

調停では調停委員が双方の話を交互に聞くため、夫婦が同席しない運用です。夫と顔を合わせずに進められる点は、話し合いが難しくなっている場合の安心材料になります。期日は1か月から1か月半ほどの間隔で入り、解決までに複数回を要します。

第4段階 審判・履行勧告を経て強制執行へ

調停で合意ができない場合、手続は審判に移り、家庭裁判所が金額を定めます。審判が確定すれば法的な効力を持つため、支払われないときに強制執行の申立てができます。

支払いが止まったときに使えるのが、家庭裁判所への履行勧告の申出です。履行勧告そのものに強制力はありませんが、裁判所から連絡が入ったことで支払いが再開するケースもあります。それでも応じない場合は、給与や預金の差押えに進みます。

給与の差押えでは、勤務先に裁判所から書類が届くため、支払う側にとって負担の大きい手続になります。この点が支払いを促す圧力として働くこともあります。

【関連記事】婚姻費用を払わないとどうなる?差し押さえ・強制執行の流れと注意点

弁護士が代理人として請求する場合の進み方

当事務所にご依頼いただいた場合、まず収入資料と家計の状況を確認して、算定表にもとづく請求額の見通しをお伝えします。そのうえで、書面による請求から調停申立てまでを代理人として進めます。

夫と直接やり取りをせずに進められるため、催促のたびに消耗する状態から離れられます。相手が収入を明かさない場合の資料の集め方や、同居のまま請求するか別居を先にするかの選び方についても、事情に応じてご提案します。生活費の不払いが続いている段階でしたら、お問い合わせフォームからご相談ください。

請求の前に押さえておきたい証拠と記録

生活費の請求で結論を左右するのは、「渡すよう求めた事実」と「渡されなかった事実」を示せるかどうかです。どちらも記録がなければ、後から言葉で説明しても認められにくくなります。

記録は請求してから集め始めるのではなく、請求する前から残しておくほうが確実です。過去のやり取りはさかのぼって作れないため、手元にあるものから確認していきます。

いつ・いくら渡されたかの記録

まず、生活費として渡された額と日付を時系列で書き出します。現金で渡されている場合は記録が残らないため、受け取った日と金額を自分でメモしておく必要があります。

振込であれば通帳や入出金明細がそのまま資料になります。あわせて家賃・光熱費・食費・子どもの費用を月単位で並べておくと、いくら足りていないのかを数字で示せます。

生活費を求めたやり取りの保存

生活費を渡してほしいと伝えたときのやり取りは、そのまま保存します。メッセージアプリやメールは画面の撮影だけでなく、日付が読み取れる形で残しておきます。

口頭でしか伝えていない場合は、伝えた日と内容をメモに残し、あらためてメッセージでも送っておきます。渡さない理由を夫が説明した内容も、そのまま記録に残す価値があります。

暴言をともなう場合は、録音が資料になることがあります。ただし記録を取っていることが相手に知られると危険が増す場面もあるため、身体的な危険を感じている状況では、安全の確保を先に考えましょう。

夫の収入を確認できる資料

分担額を決めるには夫の年収が必要です。源泉徴収票・給与明細・確定申告書の控え・住民税の通知書などが資料になります。

同居している間であれば、こうした書類が自宅に届いたり保管されていたりします。写真を撮って残しておくと、後で手元になくなっても年収を示せます。自営業の場合は確定申告書の課税される所得金額を見るため、申告書の控えも押さえておきましょう。

夫の収入がわからない場合の進め方

収入を明かしてもらえない場合でも、請求を諦める必要はありません。調停の手続の中で、家庭裁判所が相手方に収入資料の提出を求めるのが通常の流れです。

それでも提出されない場合は、裁判所を通じて勤務先や金融機関に資料の提出を求める調査嘱託という方法があります。前年の所得が推計されることもあります。

収入がまったくわからない段階でも、勤務先の名称・おおよその職種・生活水準がわかる情報を伝えられれば、進め方を組み立てられます。

過去の未払い分をさかのぼって請求できるか

過去の分をどこまで請求できるかは、いつ請求の意思を示したかで変わります。家庭裁判所の運用では、請求した時点以降の分が認められることが多く、それより前の分は認められにくくなります。

つまり、我慢していた期間が長いほど、取り戻せない期間も長くなります。金額の交渉に入る前でも、まず請求した事実を残しておくことが金額を左右します。

内容証明郵便を送っておくと、請求した日付が客観的に残ります。調停を申し立てた場合は、申立ての月から認められるのが一般的な扱いです。

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別居して生活費を請求する場合に確認しておくこと

別居すると、生活費が渡されていない事実がはっきりするため、婚姻費用として請求しやすくなります。同居中は家計が混ざって見えるのに対し、別居後は各自の支出が分かれるからです。

一方で、別居の進め方によっては請求する側が不利になることもあります。出るタイミングと理由を説明できる形にしておく必要があります。

別居後は婚姻費用として請求しやすくなる

別居すると、住居費・光熱費・食費が二重にかかるようになり、収入の少ない側の負担が明確になります。算定表も、双方が別に暮らしていることを前提に金額を示しています。

家庭裁判所の手続でも、別居中の申立ては争点が絞られやすくなります。渡されている額がゼロであれば、金額の妥当性だけが問題になります。

一方的な別居が不利に働く場合

理由を示さずに家を出ると、夫の側から「勝手に家を出た」と主張され、分担額の減額を求められることがあります。事情によっては、同居義務に反したと評価されることもあります。

一方で、暴力・暴言・生活費の不払いといった事情があって家を出た場合は、正当な理由がある別居と評価されます。出る前に事情を記録に残しておくと、後から説明しやすくなります。

【関連記事】悪意の遺棄とは|慰謝料の相場と具体例は?証明方法はある?

別居前に決めておく住まいと子どもの環境

別居先は、家賃だけでなく子どもの通学や保育園の送迎を含めて考える必要があります。転校を避けたい場合は、学区の内側で探すことになります。

生活費の受取方法も先に決めておきます。夫と顔を合わせずに済むよう、振込での受け取りにしておくほうが続けやすくなります。

住民票を移すかどうかは、児童手当や就学援助の手続に関わります。DVから避難する場合は、住民票の閲覧を制限する手続もあるため、自治体の窓口で確認しておきましょう。

別居中の子どもとの交流の取り決め

2026年4月1日に施行された改正民法により、婚姻中に別居している場合の親子交流について、父母の協議で定めることが明確にされました。協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の審判等で定めることになります(出典:法務省 父母の離婚後の子の養育に関するルールが改正されました)。

家庭裁判所の手続の中で、試行的に交流を実施する制度も設けられました。交流の可否と生活費の支払いは別の問題ですが、話し合いの時期が重なるため、どちらも見通しを持って進める必要があります。

【関連記事】別居中の生活費や養育費はどうやって決める?

生活費を渡さないことを理由に離婚できるか

生活費を渡さないことは、離婚が認められる理由になり得ます。ただし不払いがあれば当然に離婚できるというものではなく、程度・期間・経緯を含めて判断されます。

話し合いや調停で夫が離婚に同意すれば、理由の有無は問題になりません。争いになって裁判まで進んだ場合に、法律が定めた理由に当たるかどうかが問われます。

生活費の不払いは悪意の遺棄に当たる場合がある

民法は、配偶者から悪意で遺棄されたときを離婚の理由の一つとして定めています(民法770条1項2号)。悪意の遺棄とは、同居・協力・扶助の義務を正当な理由なく果たさない状態を指します。

生活費を渡さない行為は、扶助義務を果たしていない典型的な例として挙げられます。収入があるのに渡さない、家を出て連絡を絶ったまま生活費も送らないといった状況が当てはまります。

一方で、失業して支払えない場合や、夫婦間の合意で別居している場合は、正当な理由があると評価されることがあります。数か月渡されなかったという程度では認められにくく、期間の長さも判断に影響します。

慰謝料を請求できる場合とその考え方

悪意の遺棄が認められた場合、夫は離婚の原因を作った側と評価されるため、慰謝料を請求できる可能性があります。金額は不払いの期間・生活への影響・他の事情の有無によって変わります。

不貞行為がともなう場合は、慰謝料の金額が上がる方向に働きます。反対に、不払いの期間が短く生活への影響も限られている場合は、慰謝料が認められないこともあります。

慰謝料には請求できる期間の制限があるため、時期の見極めも必要になります。個別の事情により結論は異なりますので、金額の見通しは事実関係を確認したうえで判断することになります。

離婚で受け取れるお金

離婚するときに問題になるお金は、婚姻費用とは別にいくつかあります。婚姻期間中に築いた財産を分ける財産分与、子どもを育てる側が受け取る養育費、厚生年金の記録を分ける年金分割です。

財産分与では、預貯金・不動産・保険の解約返戻金・退職金などが対象になります。養育費は離婚後に子どもと暮らす側が受け取るもので、算定の考え方は婚姻費用と近いものの、配偶者の生活費が含まれないぶん金額は低くなります。

2026年4月施行の改正民法で変わった点

離婚に関わる制度は、2026年4月1日施行の改正民法で複数の点が変わりました。生活費の問題から離婚を考える場合、次の点が関係します。

項目 改正後の内容
財産分与の請求期間 離婚のときから5年(改正前は2年)。ただし2026年3月31日までに成立した離婚は2年
法定養育費 取決めがなくても、監護する側が暫定的に請求できる。額は子1人あたり月額2万円
養育費等の先取特権 婚姻費用の分担義務などに基づく定期金債権に先取特権が認められ、債務名義がなくても差押えができる場合がある。額は子1人あたり月額8万円を基準に算定
親権 協議離婚では、父母双方を親権者とするか一方とするかを協議で定める。虐待やDVのおそれがある場合は一方が親権者になる
婚姻中別居時の親子交流 父母の協議で定める。協議がまとまらない場合は家庭裁判所の審判等で定める

先取特権については、対象となる債権の範囲が民法308条の2に定められており、婚姻から生ずる費用の分担の義務に基づく定期金債権も含まれます。付与される額の算定方法は法務省令で定められています(出典:民法第308条の2の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令の概要)。

注意したいのは、施行日の前後で扱いが変わる点です。財産分与の請求期間は離婚が成立した時期で分かれますし、2026年3月31日までに成立した離婚については親権も単独親権のままで、変更するには家庭裁判所への申立てが必要になります。

当事務所の解決事例

夫から慰謝料と財産分与で330万円を請求されていた事案です。依頼者は40歳の女性で、子どもの出産をきっかけに夫婦の関係が悪化し、離婚の条件で折り合いがつかない状態でした。

争点は、夫の請求額をどこまで抑えられるかと、離婚が成立するまでの生活をどう支えるかの2点でした。当事務所は、夫に婚姻費用の分担義務があることを交渉の材料として用い、支払いが続く状態と早期に離婚を成立させる場合を比較して条件を詰めました。

結果として、解決金130万円を支払う内容で早期に離婚が成立しました。生活費の不払いや金銭の争いが続いている場面では、婚姻費用の支払義務が離婚条件全体の交渉に影響することがあります。事案の内容により結論は異なります。

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生活費が足りない間に頼れる公的支援と相談先

家庭裁判所の手続には時間がかかります。調停を申し立ててから金額が決まるまで数か月かかることもあるため、その間の生活を支える制度をあわせて確認しておく必要があります。

公的な支援は、住んでいる自治体の窓口で相談を受け付けています。制度の名前がわからなくても、状況を伝えれば該当する制度につないでもらえます。

自治体の窓口

生活の困りごとは、市区町村の福祉に関する窓口で相談できます。生活費・住まい・子どもの費用をまとめて相談できるため、どの制度を使えるかの見立てが立ちます。

女性が抱える困りごとの相談先として、都道府県には女性相談支援センターがあります。2024年4月1日に施行された困難な問題を抱える女性への支援に関する法律により、それまでの婦人相談所から名称が変わりました(出典:厚生労働省 困難な問題を抱える女性への支援に関する法律)。

DVに関する相談窓口

暴力や暴言をともなう場合は、DVの相談窓口を利用できます。どこに相談すればよいかわからない場合は、全国共通の電話番号#8008にかけると、最寄りの都道府県の配偶者暴力相談支援センターにつながります。

24時間の電話相談やチャットでの相談を受け付けているDV相談+(プラス)もあります(出典:内閣府男女共同参画局 DV相談について)。

別居中に確認できる手当や支援

児童手当は、離婚協議中で配偶者と別居している場合、児童と同居している側が受け取れます。別居している両親が生計を同じくしていない場合は、同居している人が児童を養育していると考えられるためです(出典:こども家庭庁 児童手当Q&A(配偶者と別居されている場合の取扱いについて))。

手続には、離婚協議中であることを示す資料が必要です。家庭裁判所の事件係属証明書や、弁護士が作成した離婚協議の進捗に関する報告書などが例として挙げられています。書類の用意が難しい場合は、市区町村への申立書で対応できることもあります。

児童扶養手当は、ひとり親家庭を対象とした制度です。離婚が成立していない場合でも、配偶者からの暴力でDV保護命令が出ているとき、または1年以上遺棄されているときは対象になります。金額は改定されるため、お住まいの自治体の窓口で最新の額を確認しておきましょう。

このほか、学用品費などを補助する就学援助・母子父子寡婦福祉資金の貸付・生活保護なども、状況に応じて利用を検討できます。

費用面が不安な場合の法的支援

弁護士費用を用意できない場合は、法テラスの民事法律扶助を利用できることがあります。収入と資産が一定の基準を下回る場合に、無料の法律相談や弁護士費用の立替えを受けられる制度です。

立替えた費用は分割で返していく仕組みなので、返済の要否と金額を確認したうえで利用を判断することになります。制度を使えるかどうかは、収入・資産・扶養家族の人数によって変わります。

弁護士に相談する判断の目安

夫が話し合いに応じない、収入を明かさない、請求すると態度が強くなるといった状況では、当事者だけで進めるのが難しくなります。自分で調停を申し立てることもできますが、金額の主張と資料の準備を一人で担うことになります。離婚まで考えるかどうかが決まっていない段階でも、事実関係を伝えていただければ進め方をご案内しますので、判断に迷う段階で当事務所へのご相談をご検討ください。

当事務所に生活費の問題を相談する場合

生活費の不払いは、離婚を決めていない段階でご相談いただける内容です。婚姻費用の請求だけを進めることもできますし、離婚を含めた見通しをお伝えしたうえで、どこから動くかを決めていく形もとれます。

ご相談の際に、渡された生活費の記録・家計の内訳・夫の収入がわかる資料をお持ちいただけると、その場で金額の見通しをお伝えしやすくなります。手元にそろっていない場合も、集め方からご案内します。

相談の流れと費用

初回相談は60分1万1000円(税込)です。面談時または面談当月中にご依頼いただいた場合は、相談料の相当額を着手金と事務手数料から減額しています。

ご依頼いただく場合の着手金は22万円(税込)から、報酬金は35万2000円(税込)からで、サポートプランにより変わります。着手金の分割払いも可能です。金額は2026年8月時点のもので、詳細はご依頼の流れ・費用のページに掲載しています。

初回相談を有料としている理由については、私たちが初回相談料をいただいている理由についてで説明しています。

相談しやすい体制

当事務所は弁護士2名で、女性弁護士も在籍しています。金銭や家庭内のやり取りについて男性に話しにくいという場合は、女性弁護士の担当をご希望いただけます。

対応は弁護士1名と事務員1名の担当チーム制です。来所のほかZOOMでの相談にも対応し、土日の相談もお受けしています。日常の連絡はLINEでのやり取りも可能です。

相談室は完全個室で、キッズスペースを備えています。事務所は関内駅から徒歩4分、日本大通り駅から徒歩6分の場所にあります。

当事務所の解決事例

常軌を逸したモラハラを受け、実家に身を寄せていた女性からのご依頼です。夫との話し合いが成り立たない状態だったため、離婚調停の申立てから進めました。

争点は、親権・養育費・離婚にともなう金銭の3点でした。調停の場で依頼者の事情を積み上げて主張したところ、親権・養育費・解決金について依頼者の希望がほぼ叶う形で調停が成立しました。

家庭内でのやり取りが難しくなっている場合でも、調停は当事者が同席しない形で進むため、代理人を通じて主張を届けられます。ただし結論は事案の内容によって変わる点にご留意ください。掲載している事例はお客様の声・解決事例のページでご覧いただけます。

よくある質問

生活費の請求では、自分が請求できる立場なのか、どこに持ち込めばよいのかで手が止まりやすくなります。判断の分かれ目になりやすい点を、疑問の形で補足します。

旦那が生活費をくれないとき、どこに相談すればよいですか?

生活の維持を先に考えるなら市区町村の福祉に関する窓口、金額の請求や離婚を考えるなら弁護士が相談先になります。暴力や暴言をともなう場合は、全国共通の#8008にかけると最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。都道府県の女性相談支援センターも相談先の一つです。どこが適切か判断しにくい段階では、複数の窓口に事実を伝えて構いません。

共働きで自分にも収入がある場合、夫に生活費を請求できますか?

請求できます。婚姻費用は双方の収入を比べて分担を決める仕組みなので、妻の収入が夫より低ければ、その差に応じて夫が支払う側になります。収入があること自体が請求を妨げる理由にはなりません。ただし収入差が小さい場合は分担額も小さくなり、妻の収入が夫を上回る場合は立場が逆になります。

これまで渡されなかった生活費を、まとめて請求することはできますか?

家庭裁判所の運用では、請求の意思を示した時点以降の分が認められることが多く、それより前の分は認められにくくなります。そのため、我慢していた期間の全額を取り戻せるとは限りません。内容証明郵便を送るなどして請求した日付を残しておくと、認められる範囲が広がります。個別の事情により結論は異なります。

夫の収入がわからないと、婚姻費用は請求できないのでしょうか?

収入がわからない状態でも請求はできます。調停の手続では、家庭裁判所が相手方に源泉徴収票などの提出を求めるのが通常の流れです。提出されない場合は、裁判所を通じて勤務先や金融機関に資料の提出を求める調査嘱託という方法があり、前年の所得が推計されることもあります。

生活費を渡さない夫と離婚した場合、子どもの親権はどうなりますか?

2026年4月1日施行の改正民法により、協議離婚では父母双方を親権者とするか一方とするかを協議で定めることになりました。虐待やDVのおそれがある場合など、共同で行うことが難しい事情があるときは一方が親権者になります。生活費を渡さなかったこと自体が直ちに親権の判断を決めるわけではありませんが、子どもの養育にどう関わってきたかは判断の材料になります。

生活費を入れない夫への対応で押さえておきたい点

生活費が渡されない状態は、夫婦の間の話し合いで済ませるしかない問題ではありません。民法は収入の多い側が少ない側の生活を支える義務を定めていて、この義務は同居しているかどうかや、妻に収入があるかどうかで消えるものではありません。

動き出すときの順番としては、まず金額と支払日を決めて記録に残し、応じない場合は内容証明郵便、それでも動かなければ家庭裁判所の調停に進みます。請求した時点以降の分が認められやすいため、早い段階で請求した事実を残しておくことが金額に影響します。手続を進めている間の生活については、児童手当の受給者変更や自治体の支援制度もあわせて確認しておきましょう。

離婚を選ぶ場合は、2026年4月1日施行の改正民法で財産分与の請求期間が5年に伸び、法定養育費や先取特権の制度も設けられました。離婚が成立した時期によって扱いが分かれるため、時期を踏まえて見通しを立てる必要があります。何から手をつけるか迷う段階でも、事実関係を伝えていただければ進め方をご案内します。

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この記事の監修者

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中間 隼人Hayato Nakama

なかま法律事務所
代表弁護士/中小企業診断士
神奈川県横浜市出身 1985年生まれ
一橋大学法科大学院修了。
神奈川県弁護士会(65期)