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離婚慰謝料と不貞慰謝料の違いを解説!両方請求するには?

2023.03.18
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ご自身の配偶者との離婚を検討されている方の中で、離婚の条件として慰謝料の支払いも求めたいとお考えの方は多いかと思います。また、離婚までは考えていないけれど、配偶者が不貞行為をしたので、その責任を追及して慰謝料の支払いをさせたいとお考えの方もいらっしゃると思います。

実は、こうした配偶者との関係で問題になりやすい「慰謝料」は、法律的に考えると、「離婚慰謝料」と「不貞慰謝料」という2つの異なる概念のどちらかに区別されるか、あるいは同時に当てはまりうる、少しややこしいものなのです。本記事では、「離婚慰謝料」と「不貞慰謝料」の違いは何か、それぞれ具体的にどのようなケースで請求できるのか、2つとも請求できる場合はあるのか、といった点について、弁護士が解説します。

離婚慰謝料と不貞慰謝料の違い

はじめに、離婚慰謝料と不貞慰謝料の違いについて解説します。大まかには、この2つの慰謝料は、「何を理由として請求する慰謝料か」という点が違っています。

離婚慰謝料とは

離婚慰謝料とは、慰謝料を請求する側とされる側が婚姻関係にあることを前提として、慰謝料を請求される側の当事者の有責行為によってその婚姻関係が破壊され離婚に至った場合、その「離婚に至った」こと自体を理由に請求する慰謝料のことです。専門用語では「離婚自体慰謝料」という言い方もされます。

不貞慰謝料とは

不貞慰謝料とは、夫婦のどちらかが第三者と不貞行為に及んだ時に、不貞行為をしていない側が不貞行為をした側または第三者、あるいはその両方に対して、「不貞行為に及んだ」ことを理由に請求する慰謝料のことです。専門用語では暴力等の、不貞行為と同様にその行為自体が不法行為(民法709条)となるような行為があったことを理由に請求する慰謝料を総称して「離婚原因慰謝料」という言い方もされます。

異なるポイント

不貞慰謝料は離婚しなくても請求可能

そもそも不貞行為とは、「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」を言います(判例)。不貞慰謝料はこのような「不貞行為に及んだ」ことを理由として請求する慰謝料ですので、離婚するかどうかという点は不貞慰謝料を請求できる権利が生じるか否かという問題には直接関係しないことになります。

ただし、離婚せずに不貞慰謝料を請求する場合、離婚する場合と比較して慰謝料の金額が低額になりやすいことに注意が必要です。つまり、最終的に認められる慰謝料の金額は、不貞行為の具体的な態様、不貞行為の相手の人数、属性、不貞行為をしていた期間、回数、頻度、その他事例ごとに様々な要素を考慮して決定されますが、離婚しない場合は、「その不貞行為は婚姻関係を破壊させるほどのものではなかった=悪質ではない」との評価に向かいやすいためです。

離婚慰謝料は、原則として不貞相手には請求できない

離婚慰謝料は、「離婚に至った」ことを理由として請求する慰謝料ですので、当事者の身分的な面ではあくまで婚姻関係の外側の第三者にすぎない不貞相手に請求することは原則としてできません。

もっとも、最高裁判所は、不貞相手に対して離婚慰謝料を請求できるかという論点について、「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。」との判断を示しており、例外を完全にあり得ないものとしている訳ではありません。しかし、この判例も結局は「これを本件についてみると、…上告人(注:判例の事案での不貞相手のことです。)は、被上告人(注:判例の事案での慰謝料の請求者のことです。)の妻であったAと不貞行為に及んだものであるが、これが発覚した頃にAとの不貞関係は解消されており、離婚成立までの間に上記特段の事情があったことはうかがわれない。」と結論づけており、判例のいう「特段の事情」に当たるような例外的な場合は極めて限られているのが実情です。

離婚慰謝料・不貞慰謝料を請求できるケース

続いて、離婚慰謝料・不貞慰謝料を請求できるケースについて解説します。

ただし、その前にまず、前提として総論的に注意したい点として「慰謝料を請求する理由となる事実を立証することができるか」という点があります。すなわち、以下で解説する慰謝料を請求できるケースにご自身の状況が該当するとお考えになったとしても、実際の状況の経過次第で、慰謝料を請求する理由を証拠によって立証する必要が生じる可能性があるということです。すなわち、実際に慰謝料を請求しても相手方から支払いを拒否されることは、残念ながらそう珍しいことではありません。このような時には、慰謝料請求の理由となる事実があることの証拠を示す必要が生じることがあります。そこで、離婚や不貞行為を理由に慰謝料を請求することをご検討中の皆様には、このような将来的な可能性に備えて、今のうちから、できる限り証拠となり得る資料を収集していただきたいと思います。

証拠や資料があればあるほど、以下に解説するケースに該当する時に、しっかりと慰謝料の支払いを受けられるようになっていきます。

離婚慰謝料を請求できるケース

離婚慰謝料を請求できるケースとは、一言で言うと、配偶者の有責行為によって婚姻関係が破壊され、離婚に至ったと評価できるケースです。

この点、有責行為とは、暴力行為や不貞行為のように、その行為自体が不法行為に当たるものはもちろん、その行為自体は法律的には不法行為とまではいえず、その行為だけを理由に慰謝料を請求することはできないものの、道徳的、倫理的な面からはなお非難に値するような行為も含む概念です。そのため、不貞慰謝料(または、暴力等のその行為自体が慰謝料請求の理由となる行為について請求する慰謝料)を請求する場合よりも、慰謝料請求が認められる範囲がより広がっているとみることができます。したがって、例えば、「配偶者と第三者との間に肉体関係はなかったが、キスやハグ程度の身体的接触はあった」という場合は、不貞慰謝料を請求することは難しいかもしれませんが、これが原因で離婚に至った場合は、離婚慰謝料の請求ならば認められる可能性があります。

もっとも、有責行為という考え方をめぐっては、具体的にどういった行為が有責行為に当たるのかという少し難しい問題があります。というのも、夫婦同士の単なる価値観の違いや性格の不一致については、それによって離婚に至ったとしても慰謝料の請求はできないと考えられているところ、「ある行為が有責行為といえるか、それとも当事者同士の性格の不一致の範囲内のことか」という線引きは容易ではありません。価値観や性格は人それぞれであり、それぞれのご夫婦の関係性によっても変わってくるものであるため、統一的な基準を作ることはできないからです。

したがって、離婚慰謝料を請求できるケースでは、相手方に具体的にどのような有責行為があるのか、その行為がなぜ有責行為といえるのか、その行為によって具体的にどのように婚姻関係が破壊されて離婚に至ったのか、といった点を、相手方に慰謝料を請求する過程においてしっかりと説明できるようにすることが重要であると考えられます。

不貞慰謝料を請求できるケース

不貞慰謝料を請求できるケースとは、一言で言うと、配偶者と第三者とが不貞行為を行っており、民法上で定められている消滅時効が完成していないケースです。

不貞慰謝料は、「不貞行為に及んだ」ことを理由としますので、原則配偶者に対してしか請求できない離婚慰謝料とは異なり、配偶者と不貞相手のそれぞれに請求することができます。この点、法律上は配偶者と不貞行為の相手の双方へ請求することも、どちらか片方のみに請求することも可能ですが、どちらか片方が慰謝料の全てを支払った場合、もう片方に対して支払った額の半額相当分の支払いを求めることができるため(求償請求といいます。)、注意が必要です。

また、消滅時効(民法724条)とは、何らかの権利が発生しても、一定期間が経つとその権利が消滅してしまう、つまり、請求ができなくなるという制度です。慰謝料請求の場面では、権利が消滅してしまうまでの期間は以下の2通りが定められています。

①損害及び加害者を知った時から3年間

②慰謝料請求の原因となる行為(不法行為)の時から20年間

不貞慰謝料を請求する場合は、①については「不貞行為があったということ及び不貞相手の氏名を知った時から3年間」と解釈されるでしょう。そのため、不貞行為が実際にあった時期と、不貞行為の存在と不貞相手の氏名を知った時期との間にある程度開きがあっても問題はないことになります。また、これらの時期の間に離婚をした場合も、消滅時効との関係では特に問題とならないことになります。ただし、実際に不貞行為があった時から20年を経過すると、②が適用されてしまうことになります。

なお、離婚慰謝料の場合は①については「離婚成立日から3年間」となると考えられます。そのため、「不貞行為の存在と不貞相手の氏名を知った時から3年過ぎてしまっているが、離婚成立から3年は経っていない」という場合は、配偶者に対しては離婚慰謝料として請求することが可能な場合があります。

離婚慰謝料と不貞慰謝料を両方請求可能であるか

請求可能なケース

離婚慰謝料と不貞慰謝料を両方請求可能なケースとは、この2つの慰謝料がカバーする範囲が重なっているケースです。つまり、配偶者が第三者との間で不貞行為を行った時に、その配偶者に対して、不貞行為それ自体と不貞行為によって婚姻関係が破壊されて離婚に至ったことの双方を理由として慰謝料を請求するケースです。

このケースでは、理論上は上記で解説したとおり、離婚慰謝料と不貞慰謝料とは区別されてはいるのですが、交渉や裁判の実務では離婚慰謝料に不貞慰謝料を包含させて、大きくひとまとまりにして請求することがほとんどです。

請求できないケース

離婚慰謝料と不貞慰謝料を両方請求することはできないケースについては、離婚慰謝料と不貞慰謝料のどちらか片方のみ請求できるケースと、どちらも請求できないケースに分けられます。

具体的には、前者のうち離婚慰謝料のみ請求できる主なケースは次のケースです。

・その行為自体を理由として慰謝料請求をすることはできないが、その行為は有責行為に当たり、その行為によって離婚に至った場合に、配偶者に対して慰謝料を請求するケース

・不貞行為の存在と不貞相手を知った時から3年は経ってしまっているが、離婚成立から3年、不貞行為の時から20年はそれぞれ経っていない場合に、配偶者に対して慰謝料を請求するケース

また、不貞慰謝料のみ請求できる主なケースは次のケースです。

・第三者(不貞相手)に対して請求するケース

・離婚していないケース

他方で、どちらも請求できない主なケースは次のケースです。

・離婚に至っていたとしても、有責行為がないケース(離婚の理由が価値観の違い、性格の不一致であるケース)

・不貞行為の存在と不貞相手を知った時から3年が、離婚成立から3年が経ってしまっている

・不貞行為の時から20年が経ってしまっている

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本記事では、配偶者との離婚という場面での慰謝料請求をとりまく理論を中心に解説しました。配偶者との離婚という場面での慰謝料請求は、総評して、簡単なようで奥が深く、個々のご事情次第で最終的な結論が変わりやすい分野であるといえます。そのため、専門的な知識や経験を持つ弁護士が関与することで、より良い解決に辿り着ける可能性があります。

特に、離婚慰謝料の請求のために必要な有責行為については、ご自身では相手方の行為はこれに当たらないのではと思われても、専門家の客観的な視点からは有責行為と言い得る事例もございますので、諦めない姿勢が肝心といえます。

弊所では、離婚事件の経験豊富な弁護士とスタッフが、あなたのお悩みに寄り添い、解決に全力を尽くします。平日18時までの初回相談は無料でお受けしておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 


この記事の監修者

この記事の監修者

中間 隼人Hayato Nakama

なかま法律事務所
代表弁護士/中小企業診断士
神奈川県横浜市出身 1985年生まれ
一橋大学法科大学院修了。
神奈川県弁護士会(65期)