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婚姻費用を払わなくていい場合とは|支払いが免除されるケースと注意点

2026.01.23
  • お金のこと

婚姻費用は、原則として婚姻関係が続く限り支払う義務がありますが、すべてのケースで必ず支払わなければならないというわけではありません。

しかし、誤った理解のまま支払いを止めてしまうと、調停や審判、差し押さえといった不利益につながるおそれがあります。

この記事では、婚姻費用の支払い義務が問題となる場面を整理したうえで、婚姻費用を払わなくてよいケースや、支払わない場合のリスク、適切な対応の考え方について解説します。

 婚姻費用に支払い義務はある?

婚姻費用は、別居や夫婦関係の悪化などケースによって、支払い義務が生じるのかが問題となります。

ここでは、婚姻費用の基本的な考え方を踏まえ、どのような前提で支払い義務が認められるのかを解説します。

【関連記事】婚姻費用がもらえないケースは?払わないと差し押さえになる?

婚姻関係が続く限り、原則として支払い義務がある

婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を維持するために必要な生活費を指し、民法上、婚姻関係が続いている限り、互いに分担する義務があるとされています(民法第760条)。

婚姻費用の支払い義務は、婚姻関係が継続していることを前提に発生するものであり、離婚が成立するまでは基本的に否定されないのが実務上の考え方です。

別居中でも婚姻関係が続く限り義務は残る

婚姻費用の支払い義務は、別居中であっても、法律上の婚姻関係が続いている限り原則として残ります。

別居に至った経緯や責任の所在、双方の収入状況などを踏まえたうえで、婚姻費用の支払い義務の有無や金額が判断されることになります。

【関連記事】別居中の生活費が気になる人へ。婚姻費用の請求について

収入差がある場合は高収入側が負担する

婚姻費用は、夫婦が同額を負担するものではなく、双方の資産や収入などの事情を考慮して分担されるとされています。

収入に差がある場合、生活水準を維持できるよう、高収入側がより多くの婚姻費用を負担する形になるのが一般的です。

そのため、収入が低い側が一方的に不利になるわけではなく、個別の事情を踏まえて、相当な分担額が判断されることになります。

離婚が成立するまでは支払い対象となる

婚姻費用の支払い義務は、離婚が成立するまで継続するのが原則です。

別居している場合や離婚協議・調停が進んでいる段階であっても、法律上の婚姻関係が続いている限り、婚姻費用の分担義務は消滅しません。

そのため、離婚の話が進んでいる、近く離婚する予定であるといった事情があっても、それだけで婚姻費用の支払いを止めることはできません。

婚姻費用は、あくまで離婚が成立した時点で終了するものであり、それ以前の期間については支払い対象となる点に注意が必要です。

婚姻費用を払わなくていい場合とは

婚姻費用は原則として支払う義務がありますが、すべてのケースで一律に支払いが求められるわけではありません。

ここでは、婚姻費用の支払い義務が問題となる場面を踏まえたうえで、支払いが免除される、または否定される可能性がある場合について解説します。

別居の原因が相手にある場合

婚姻費用の支払い義務が問題となる場面では、別居に至った原因がどちらにあるのかが考慮されます。

もっとも、別居の原因が相手にあるからといって、直ちに婚姻費用の支払い義務がなくなるわけではありません。

別居の経緯や責任の程度、双方の収入状況などを総合的に考慮したうえで、支払い義務が制限されるかどうかが判断されます。

相手に十分な収入があり扶養の必要がない場合

婚姻費用は、夫婦の一方が他方を扶養する必要がある場合に、その生活を支える目的で分担されるものです。

そのため、相手が安定した収入を得ており、自らの収入だけで生活を維持できる状況にある場合には、婚姻費用の支払い義務が否定されたり、減額されたりすることがあります

相手の収入額や生活水準、別居後の生活状況などを踏まえ、実際に扶養の必要性があるかどうかが判断されることになります。

相手に有責性がある場合

婚姻費用の支払い義務を判断する際には、婚姻関係が破綻する原因を作った側に有責性があるかどうかも考慮されることがあります。

たとえば、不貞行為や暴力、著しいモラハラなど、相手の行為によって婚姻関係が破綻したと評価される場合には、婚姻費用の支払い義務についても制限が加えられる可能性があります。

有責性の内容や程度、別居後の生活状況、双方の収入などを踏まえ、支払い義務をどの範囲で認めるかが個別に判断されます。

【関連記事】不貞をした妻からの婚姻費用請求は認められるか

婚姻関係がすでに実質的に破綻している場合

婚姻費用の支払い義務を判断する際には、婚姻関係が破綻する原因を作った側に有責性があるかどうかも考慮されます。

たとえば、相手の行為によって婚姻関係が破綻したと評価される場合には、婚姻費用の支払い義務についても制限が加えられる可能性があります。

婚姻費用を払わないとどうなる?

婚姻費用の支払い義務があるにもかかわらず、正当な理由なく支払いを行わない場合、どのような不利益が生じるのか不安に感じる人も多いでしょう。

ここでは、婚姻費用を支払わなかった場合に想定される手続きや、法的な影響について、実務上の流れを踏まえて解説します。

婚姻費用を払わないと調停や審判で支払いを命じられる

婚姻費用の支払いについて当事者間で話し合いがまとまらない場合、相手方から婚姻費用分担調停を申し立てられることがあります。

調停では、双方の収入や生活状況、別居に至った経緯などを踏まえ、婚姻費用の支払い義務や金額について話し合いが行われます。

調停が成立しない場合には、手続は審判に移行し、家庭裁判所が婚姻費用の支払いを命じる判断を下すことになります。

審判が出た場合には、当事者の合意がなくても、その内容に従った支払い義務が生じる点に注意が必要です。

婚姻費用を払わないと差し押さえを受ける可能性がある

婚姻費用について審判が確定したにもかかわらず支払いが行われない場合、相手方は強制執行の手続きを取ることができます。

具体的には、給与や預貯金、不動産などに対して差し押さえが行われる可能性があります。

差し押さえは、支払う意思がない場合だけでなく、対応を後回しにしていた結果として行われることもあります。

審判が確定した後は、放置せず、支払い方法や金額について早めに整理しましょう。

【関連記事】婚姻費用を払わないとどうなる?差し押さえ・強制執行の流れと注意点

婚姻費用を払わないと悪意の遺棄と評価されるおそれがある

正当な理由がないにもかかわらず婚姻費用の支払いを拒み続けた場合、状況によっては悪意の遺棄に該当すると評価されるおそれがあります。

悪意の遺棄とは、夫婦の協力義務に反して、生活を維持するための支援を正当な理由なく放棄する行為を指します(民法第752条)。

婚姻費用を支払わないことが直ちに悪意の遺棄に当たるわけではありませんが、長期間にわたり支払いを行わない場合には、判断上不利に働く可能性があります。

【関連記事】悪意の遺棄とは|慰謝料の相場と具体例は?証明方法はある?

婚姻費用を払わないと離婚条件や親権で不利に扱われる可能性がある

婚姻費用の支払い状況は、離婚調停や離婚訴訟において、当事者の姿勢や生活への配慮として評価されることがあります。

そのため、正当な理由なく婚姻費用を支払わない状態が続いた場合には、離婚条件の判断に影響を及ぼすおそれがあります。

また、子どもがいる場合には、生活費の負担状況が親権や監護に関する判断の一要素として考慮されるため、将来的な手続き全体を見据えた慎重な判断が求められます。

婚姻費用分担請求の流れ

婚姻費用について当事者間で話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の手続きを利用して、支払いの有無や金額を定めることになります。

ここでは、婚姻費用分担請求の基本的な考え方を踏まえたうえで、申立てから判断に至るまでの流れを解説します。

婚姻費用分担請求とは、別居中の生活費の分担を求める手続き

婚姻費用分担請求とは、別居などにより夫婦間で生活費の負担について合意できない場合に、家庭裁判所を通じて婚姻費用の分担を求める手続きです。

話し合いが難しい場合でも、裁判所が関与することで、双方の収入や生活状況などを踏まえた判断を受けることができます。

この手続きは、離婚の成立を前提とするものではなく、婚姻関係が続いている間の生活費をどのように分担するかを定める点に特徴があります。

離婚協議中や別居中であっても利用でき、生活費の確保を目的として用いられるのが一般的です。

婚姻費用は請求した時点から発生する

婚姻費用は、原則として分担請求を行った時点以降の分について認められるとされています。

そのため、別居が始まっていたとしても、請求を行っていなかった期間については、婚姻費用の支払いが認められないケースも少なくありません。

実務上は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てた時点、またはそれに準ずる形で支払いを求めた時点を基準として、婚姻費用の発生時期が判断されます。

婚姻費用分担請求調停の流れ

婚姻費用分担請求は、まず家庭裁判所に調停を申し立てることから始まります。

調停では、調停委員を介して、双方の収入や生活状況、別居に至った経緯などを確認しながら、婚姻費用の支払いの有無や金額について話し合いが行われます。

話し合いがまとまれば、その内容をもとに調停が成立し、合意内容に従って婚姻費用が支払われることになります。

【関連記事】婚姻費用分担請求とは|算定表の見方・自分で請求する方法

調停が不成立の場合は審判に移行する

調停による話し合いが成立しない場合には、手続きは審判に移行します。

審判では、これまでに提出された資料や調停での経過を踏まえ、家庭裁判所が職権で婚姻費用の支払い義務や金額を判断します。

審判は、当事者の合意がなくても裁判所の判断となるため、調停がまとまらなかった場合でも、婚姻費用の支払い関係を整理することが可能です。

婚姻費用分担請求を行うデメリット

婚姻費用分担請求は、生活費を確保するための有効な手続ですが、申立てを行えば必ずしもすべてが有利に進むとは限りません。

ここでは、婚姻費用分担請求を行う際にあらかじめ知っておきたい主なデメリットについて解説します。

申立てにより夫婦関係がさらに悪化する可能性

婚姻費用分担請求は、家庭裁判所を通じて行う正式な手続であるため、相手にとっては強い心理的負担となることがあります。

とくに、離婚の可否や条件について話し合いが続いている段階では、婚姻費用分担請求が対立を固定化させる要因となることもあります。

手続きを選択する際には、生活費の確保という目的だけでなく、その後の夫婦関係や手続き全体への影響も踏まえて検討することが必要です。

過去分の婚姻費用が認められない場合がある

婚姻費用は、原則として分担請求を行った時点以降の分について認められるものとされています。

そのため、別居開始から一定期間が経過していたとしても、請求をしていなかった期間の婚姻費用については、支払いが認められない場合があります。

離婚手続と並行して対応する負担が生じる

婚姻費用分担請求は、離婚協議や離婚調停と並行して行われることも多く、複数の手続きを同時に進める負担が生じる点はデメリットといえます。

書類の準備や裁判所とのやり取りが重なり、精神的・時間的な負担を感じるケースも少なくありません。

加えて、婚姻費用の問題と離婚条件が相互に影響することもあり、対応を誤ると手続き全体が長期化するおそれがあります

婚姻費用の支払いに悩んだとき弁護士に相談すべき理由

婚姻費用を巡る問題は、支払い義務の有無や金額だけでなく、別居や離婚の進め方とも密接に関わります。

ここでは、婚姻費用の支払いについて悩んだときに、弁護士へ相談することでどのような点を整理できるのかを解説します。

婚姻費用の支払い義務や減額・免除の可能性を整理できる

婚姻費用については、弁護士に相談することで、別居の経緯や双方の収入状況、有責性の有無などを踏まえ、支払い義務の有無や範囲を法的観点から整理することができます

加えて、 減額や免除が見込まれる場合であっても、その判断には一定の基準があるため、専門的な整理が重要となります。

調停や審判で不利にならない進め方を検討できる

婚姻費用を巡る調停や審判では、これまでの経緯や当事者の対応姿勢も踏まえて判断が行われます。

弁護士に相談することで、どの段階でどのような主張や資料を準備すべきかを整理し、不利な評価を避けるための進め方を検討することができます。

離婚や親権を見据えた対応を一体的に考えられる

婚姻費用の問題は、離婚条件や親権の判断と切り離して考えられるものではありません。

弁護士に相談することで、婚姻費用だけに着目するのではなく、将来的な離婚手続きや子どもの監護に関する問題も含めて、全体像を踏まえた対応を検討できます。

加えて、婚姻費用の支払い状況は、離婚調停や訴訟において当事者の姿勢として評価されることがあるため、早い段階から全体の見通しを立てておくことが必要です。

婚姻費用を払わなくていい場合に関連するよくある質問

審判が出ても婚姻費用を払わないとどうなる?

審判が出たにもかかわらず婚姻費用を支払わない場合、相手方から強制執行を申し立てられる可能性があります。

給与や預貯金などが差し押さえの対象です。

離婚調停中でも婚姻費用の支払い義務はある?

離婚調停中であっても、離婚が成立するまでは婚姻費用の支払い義務は原則として残るため、調停中であることを理由に、当然に支払いを止めることはできません。

婚姻費用が支払われない場合はどう対応すべき?

話し合いで解決しない場合には、婚姻費用分担請求調停を申し立てることで、裁判所に判断を求めることができます。

正当な理由なく支払いを止めると不利になる?

正当な理由なく婚姻費用の支払いを止めた場合、調停や離婚手続で不利に評価されるおそれがあります。

まとめ

婚姻費用は、原則として婚姻関係が続く限り支払い義務が生じるものですが、すべてのケースで一律に支払わなければならないわけではありません。

別居に至った原因や相手の収入状況、有責性の有無など、個別の事情によっては、支払い義務が否定されたり、減額が認められたりする場合もあります。

もっとも、正当な理由がないまま自己判断で支払いを止めてしまうと、調停や審判、差し押さえといった不利益につながるおそれはあります。

加えて、婚姻費用の支払い状況は、離婚条件や親権の判断に影響する可能性もあるため、慎重な対応が必要です。

対応に迷う場合には、早い段階で弁護士に相談し、支払い義務の有無や今後の進め方について法的な見通しを確認しておくことが、結果的に不利益を避けることにつながります。

この記事の監修者

この記事の監修者

中間 隼人Hayato Nakama

なかま法律事務所
代表弁護士/中小企業診断士
神奈川県横浜市出身 1985年生まれ
一橋大学法科大学院修了。
神奈川県弁護士会(65期)