離婚時に年金分割をしないとどうなる?請求期限と受給額は?
- 年金分割

離婚時に行う年金分割とは、結婚期間中に夫婦が納めた「厚生年金」の保険記録を公平に半分に分ける制度です。
厚生年金は、年収に応じて決定されるため、年収が多い方の保険記録を少ない方に公平にわけるのが年金分割の目的です。
しかし、中には「年金分割を知らずに離婚してしまった」「年金分割を忘れていた」という人もいるでしょう。
年金分割の請求には期限があるため、早急に請求する必要があります。
この記事では、離婚時の年金分割をしないとどうなるのか、以下の点を解説します。
※この記事は2025年1月の情報を元に作成されています。
目次
離婚の年金分割とは
年金にはいくつか種類があります。
①国民年金 | 日本に住む20~60歳全員が加入する年金 |
②厚生年金(旧共済年金含) | 会社員や公務員が国民年金の他に加入する年金 |
③私的年金 | ①や②の公的年金に上乗せできる年金 |
①の国民年金は対象年齢の国民全員が加入し、支払う義務があります。
会社員や公務員は①の国民年金に加えて厚生年金にも加入しているため、老後に受け取れる年金は、国民年金+厚生年金となります。
夫婦が離婚する際、これまで夫の仕事をサポートしてきた専業主婦の妻が、離婚後に国民年金しかもらえず生活が困窮してしまうのは不公平だという考えのもと、年金分割制度ができました。
離婚後は国民年金と、分割された厚生年金を受け取ることが可能です。
年金分割は、第3号被保険者か、そうでないかによって年金分割の方法が異なります。
第3号被保険者とは、厚生年金に加入している人の扶養に入っており、年収が130万円未満の人のことを指します。
合意分割 | 3号分割 | |
内容 | 結婚期間中の年金記録を夫婦で話し合い分割する制度 | 結婚期間中の年金記録を夫婦の合意なしでも分割できる制度 |
対象者 | 2008年4月1日以前に第3号被保険者だった人
共働きの人 |
2008年の4月1日以降に第3号被保険者だった人 |
分割方法 | 夫婦の話し合いや調停などで分割する | 年金事務所で一人で手続き可能 |
違い | 分割割合は最大で50%
夫婦の合意が必要 |
一律に50%
夫婦の合意は不要 |
年金分割の基本については以下の記事でわかりやすく解説しているため、参考にしてみてください。
【関連記事】年金分割とは?対象となる年金や年金分割の種類
離婚時に年金分割をしないとどうなる?
年金分割は離婚時に自動的に行われるわけではないため、自分で請求手続きをする必要があります。
しかし、「年金分割を知らなかった」「年金分割を忘れて離婚してしまった」という人もいるかもしれません。
離婚時に年金分割をしないと、老後に受け取れる年金額が減ってしまいます。
専業主婦の場合は国民年金のみとなり、共働きの場合でも収入の少ない側は自身が働いて得た厚生年金しか受給できません。生活設計に大きな影響を及ぼす可能性があります。
年金分割を知らなかった場合はすぐに請求する
年金分割の請求期限は以下のとおりです。
離婚した場合 | 離婚届が受理された日の翌日から数えて2年 |
元配偶者が亡くなった場合 | 元配偶者が亡くなった日から1か月 |
3号分割の場合、元配偶者の合意は不要です。そのため、すぐに年金事務所で手続きを行いましょう。
また、調停や審判を行っている最中に請求期限を迎えた場合でも、調停成立や審判確定日の翌日から6か月以内であれば、年金分割の手続きが可能です。
離婚後2年以内であればまだ間に合う可能性があるため、早めに元配偶者と話し合いを行うか、年金分割調停を申し立てて協議を進めましょう。
離婚時の年金分割額のシミュレーション
実際に離婚時に年金分割をした場合としない場合とで、シミュレーションをしてみましょう。
ここでは、年金分割の計算方法とシミュレーションを紹介します。
年金分割の計算方法
年金分割を計算するには、以下の書類が必要です。
50歳未満 | 「情報通知書」をもとに計算が必要
住所地を管轄する年金事務所に請求可能 |
50歳以上 | 住所地を管轄する年金事務所に請求すれば「年金分割を行った場合の年金見込額のお知らせ」が交付され具体的な金額がわかる |
情報通知書は配偶者に知られることなく請求できます。以下では50歳未満の場合に、情報通知書をもとに計算する方法を紹介します。
情報通知書を入手したら、以下の「対象期間標準報酬総額」と「按分割合の範囲」を確認しましょう。
年金分割の大まかな計算方法として、夫と妻の対象期間標準報酬総額を合算し、それを50%の按分で分け、「5.481÷1000」の給付乗率で計算することで算出可能です。
この給付乗率とは、厚生年金算出のために国で定めた係数で、年齢や婚姻期間によっても異なります。
対象期間 | 給付乗率 |
2003年3月以前の被保険者期間の場合 | 7.125 |
2003年4月以降の被保険者期間の場合 | 5.481 |
そのため、2003年3月以前から4月以降まで納付している場合は、期間別の給付乗率で計算する必要があります。
なお、年金額は物価や賃金などと連動しているため、毎年調整されます。そのため、計算可能なのはあくまでもおおよその金額です。
専業主婦の受給額
例えば、夫の対象期間標準報酬総額が5,000万円、専業主婦の妻は0円だった場合で計算してみます。
計算例: 夫の対象期間標準報酬総額5,000万円+妻の対象期間標準報酬総額0円=5,000万円 5,000万円×0.5(按分割合50%)=2,500万円 2,500万円×5.481÷1,000=約13万7,025円
夫の厚生年金を夫婦で半分に分けた場合、厚生年金の年間の年金受給額は約13万7,025円です。月にすれば約1万1,418円の厚生年金が受給できます。
なお、これは、婚姻期間に収めた年金であるため、婚姻期間外に納付した年金と国民年金が加算されます。
共働き夫婦の受給額
共働き夫婦で、夫の対象期間標準報酬総額が5,000万円、妻の対象期間標準報酬総額が2500万円だった場合を計算してみます。
計算例: 夫の対象期間標準報酬総額5,000万円+妻の対象期間標準報酬総額2,500万円=7,5000万円 7,500万円×0.5(按分割合50%)=3,750万円 3,750万円×5.481÷1,000=約20万5,537円
夫婦の対象期間標準報酬総額を半分に分けた場合、厚生年金の年間の年金受給額は約20万5,537円です。月にすれば約1万7,128円の厚生年金が受給できます。
妻が専業主婦でも、共働きでも、夫の年収よりも低い場合、夫の厚生年金の記録は夫婦の対象期間標準報酬総額として50%で按分されるため、夫からすれば受け取れる年金が減る可能性があります。
年金分割をしなかった場合の受給額
夫の対象期間標準報酬総額5,000万円、妻の対象期間標準報酬総額2,500円で年金分割をしなかった場合の受給額は以下のとおりです。
計算例 夫の場合:5,000万円×5.481÷1,000=約27万4,050円/年間 妻の場合:2,500万円×5.481÷1,000=約13万7,025円/年間
なお、厚生労働省の「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、年金分割前後で受給できる平均年金月額(国民年金含む)は以下のとおりでした。
分割方法 | 第1号改定者
※年金記録を分割した者 |
第2号改定者
※分割を受けた者 |
|
合意分割 | 改定前 | 14万6,961円 | 5万5,215円 |
改定後 | 11万5,363円 | 8万7,949円 | |
3号分割 | 改定前 | 13万9,271円 | 4万4,555円 |
改定後 | 13万1,139円 | 5万1,793円 |
年金分割をしなくてよいケース
以下のケースでは年金分割をしなくても問題ありません。
- 厚生年金に加入していない
- 年金加入期間が10年未満
- 請求期限が経過している
厚生年金に加入していない
年金分割の対象外なのが、会社員や公務員以外の自営業者です。年金分割は厚生年金だけが対象であり、国民年金を納付している自営業者は対象外となります。
年金加入期間が10年未満
年金を受給するには、最低でも10年以上年金を納付する必要があります。
そのため、夫が年金を納付した期間が10年未満の場合、分割できても妻が年金を受け取ることはできません。
請求期限が経過している
年金分割の請求期限が経過している場合、年金分割の請求はできません。
ただし、調停や審判の最中に請求期限を迎えても、調停成立や審判確定から6ヶ月以内であれば、年金分割の手続きが可能です。
請求期限を迎えていない場合は、早めに年金分割調停を申し立てましょう。
年金分割をする方法
年金分割を行う場合、専業主婦(主夫)、パート勤務、共働きの状況によって手続きが異なります。ここでは年金分割の方法を簡単に解説します。
専業主婦・パート勤務の場合
専業主婦(主夫)やパート勤務をしながら配偶者の扶養に入っていた場合、3号分割が利用できます。
この場合、配偶者の合意が不要ですので、そのまま年金事務所に行き「年金分割の標準報酬改定請求」の手続きをするだけです。
ただし、扶養でない時期があった場合、その期間の年金は3号分割で請求できません。
扶養の時期とそうでない時期で混在している場合は、合意分割を行うことになります。合意分割を行えば、別途3号分割を行う手間はありません。
共働きの場合
夫婦が共働きで働き、扶養の期間がなかった場合は、合意分割を行います。合意分割の手順は以下のとおりです。
- 年金事務所に情報通知書を請求する
- 夫婦で按分割合について協議する
- まとまれば離婚協議書に按分割合などを記載する
- まとまらない場合は、離婚調停の中で年金分割について話し合う
- 調停や裁判で按分割合が決定したら、年金事務所で「年金分割の標準報酬改定請求」の手続きを行う
合意分割では配偶者の合意が必要で、3号分割よりも手間がかかります。話し合いには時間がかかることもあるため、早めに協議を行うことが大切です。
【関連記事】年金分割の手続きの流れや必要書類
相手が年金分割に応じない場合の対処法
離婚時や離婚後に、相手が年金分割に応じない場合はどうしたらよいのでしょうか。
相手が合意分割に応じない場合は、「年金分割のための情報通知書」を家庭裁判所に提出し、離婚調停や年金分割調停を申し立てる方法があります。
年金分割は厚生労働大臣に対して請求するものであり、基本的に拒否できません。
請求期限が経過していなければ、調停で調停委員を介して話し合いを行い、決定しなければ、最終的に審判で判断されます。
なお、離婚時の協議で年金分割をしないと合意した場合でも、年金分割の請求権はなくなりません。後からでも請求できます。
離婚時の年金分割についてよくある質問
年金分割は拒否できる?協議離婚で合意したら後から請求できない?
年金分割は基本的に拒否できず、請求権を放棄させることもできません。
そのため、協議離婚で合意したり、離婚協議書に記載したりしても、後から請求が可能です。
もし年金の納付が夫婦の協力によるものだと言えないケースであれば、按分割合を50%以下にする方法が考えられます。
また、夫婦の協議の中で、財産分与を多めにするなどの調整もあるでしょう。
共働きは年金分割ができない?
共働き夫婦でも年金分割は可能です。共働きの場合、夫婦の期間標準報酬総額を50%に按分して、厚生年金を分けることになります。
共働きの年金分割では、収入が多い側の年金記録が少ない側に移されるため、収入が多い側からすればしない方が得だと感じるかもしれません。
しかし、年金分割は拒否できないため、夫婦で按分割合について話し合いを行いましょう。
年金分割制度は不公平でおかしい?
年金分割制度は、収入が多い側は、「なぜ自分だけの年金が分割されるのか?不公平でおかしい」と感じることがあるかもしれません。
しかし、年金分割の対象は夫婦双方の期間標準報酬総額であり、これに対して50%で按分される仕組みです。収入がある側だけが対象となるわけではありません。
この制度は、以前は専業主婦が多く、家庭で夫を支えてきた妻が離婚時に年金を受け取れないのは不公平という考えから生まれました。
年金分割の按分割合に納得がいかない場合は、配偶者と協議を行いましょう。
結婚年数が短い・事実婚でも年金分割はできる?
年金分割は、結婚年数が短くても、事実婚であっても可能です。
ただし、結婚年数が短い場合は、納付した年金保険料も少額であるため、高額とはならないでしょう。
また、事実婚の場合、第3号被保険者であった期間、つまり配偶者の扶養に入っていた期間がある人に限定されます。
これは、事実婚の場合、結婚期間を証明することが難しいためです。
年金分割ができなくても、財産分与の中で調整する方法もありますので、不安がある場合は弁護士に相談しましょう。
まとめ
離婚時に年金分割を行わないと、老後に受け取れる年金が減少する可能性があります。
年金分割の請求期限は、離婚届が受理された翌日から2年ですが、調停や審判中に2年を迎えても、調停成立や審判確定から半年以内であれば手続きが可能です。
離婚後2年が経過する直前でも間に合う可能性がありますので、早めに請求しましょう。
年金分割について不安がある場合は、なかま法律事務所にご相談ください。