専業主婦も離婚で財産分与が請求可能!平均額や家事をしない場合は?
- 財産分与
離婚をする場合は、結婚生活の中で、夫婦が協力して築いた財産を公平に分ける「財産分与」を請求する権利があります(民法第768条)。
そのため、専業主婦(主夫)であっても、離婚時に財産分与を求めることができます。
「働いていないのに、財産をもらえるのだろうか?」「実際いくらくらいもらえるの?」「家事育児をしてない場合はもらえない?」など疑問が尽きない人も多いでしょう。
この記事では、専業主婦の財産分与について、次の点を解説します。
- 専業主婦が離婚時にもらえる財産分与の割合
- 専業主婦の財産分与の割合が低くなるケース
- 財産分与の割合を少しでも多くする方法、離婚時に請求できるお金
- 専業主婦の財産分与の注意点
離婚後に困らないよう、財産分与について理解しておきましょう。
離婚の財産分与は専業主婦でも受け取れる
専業主婦の財産分与の割合
離婚時の財産分与の割合は、原則2分の1で公平に分けるとされています。これは専業主婦でも変わりません。
専業主婦の財産分与の相場や平均額
専業主婦が財産分与で受け取れる金額は、各夫婦が築いた財産によって異なります。
なお、2023年の司法統計によると、離婚調停や審判で決定した財産分与の取り決めの金額は次の通りでした。
- 100万円以下:20.2%
- 200万円以下:12.4%
- 400万円以下:13.9%
- 600万円以下:8.3%
- 1000万円以下:11.4%
- 2000万円以下:10.3%
- 2000万円を超える:5.8%
- 決まらず・算定不能:17.7%
これは婚姻期間の長さに限らず、調停や審判で決定した財産分与の金額です。
財産分与では、100万円以下の取り決めが最多でした。
熟年離婚など、結婚期間が長ければその分、築いた財産も高額となり、得られる財産も増えることが考えられます。
なお、この統計では、共働きか、片方が専業主婦かどうかまではわかりません。
専業主婦が離婚時の財産分与を受け取れるのはおかしい?
「専業主婦は働いていないのだから、財産分与を受け取るのはおかしい」と考える人もいるようです。
確かに、家計の主な財産を形成したのは、労働して収入を得ていた側ですが、それは、家事育児を担う人の協力があったから築けた財産だと考えられます。
そのため、夫婦の役割は違えど、両者の協力で得られた財産として、専業主婦でも2分の1を受け取ることができます。
また、夫婦が協力して築いた「共有財産」は働いている側の名義であることがほとんどでしょう。
専業主婦の場合、主に家事育児に従事しているため、収入がないからです。しかし、名義に関係なく共有財産が財産分与の対象となります。
関連記事:離婚の財産分与とは|財産分与の割合や対象となる財産や注意点
専業主婦の離婚で財産分与の対象になる財産
財産分与の対象となるのは、結婚生活中に夫婦が協力して築いた共有財産です。共有財産には次のものがあります。
- 家
- 年金
- 退職金
- 貯金やへそくり
- その他共有財産(車、生命保険や学資保険、家電や家具、株などの有価証券)
家
財産分与の対象となるのは、結婚後に夫婦が協力して購入した持ち家です。
持ち家は、現金のようにきれいに二つに分けることができないため、次のような方法で分けることになります。
- 自宅を売却し、現金化して分ける
- 所有する側が査定額の半分を支払う
- 一部の財産をもらう代わりに、同等額の財産を分ける
また、注意したいのはローン残高が残っている場合です。
例えば、持ち家を売却せず、住む側が所有者に家賃を払って住み続けると決めたとしても、所有者がローンの返済を怠れば、自宅は売却されることになります。
年金
夫婦の年金も財産分与の対象です。年金を公平に分ける制度を年金分割と言います。
財産分与の対象となる年金は、会社員の厚生年金や、公務員の共済年金です。
年金分割を理解するには、年金制度について理解しておく必要があります。
年金は二階建て構造になっており、誰もが負担する国民年金、会社員や公務員が加入する厚生年金や共済年金があります。
会社員は厚生年金を払うことで、将来国民年金と厚生年金を受け取れます。
専業主婦の場合は、配偶者の扶養として第三号被保険者となり、保険料を納付しなくても国民年金が受給できます。
ただし、第三号被保険者は、厚生年金などに加入している人と比べると、老後に受け取れる年金は少ないです。
夫婦は老後も一緒に暮らすのを前提に、夫婦の年金を分け合えば生活できるという設計になっています。
離婚をすると、第三号被保険者は受け取れる年金が減ってしまうため、厚生年金などに加入している配偶者の年金の記録を、第三号被保険者に分けるのが年金分割です。
年金分割には次の2つの方法があります。
- 合意分割:夫婦の話し合いで年金を分割する
- 三号分割:年金事務所に情報通知書の請求手続きをして行う
三号分割は、2008年4月1日以降に三号被保険者の期間がある人が利用できます。
2008年4月以前の期間は合意分割をする必要があります。
退職金
退職金も、結婚している期間については、財産分与の対象となります。
ただし、退職まで10年以上ある場合、退職金が支払われる可能性が低いと判断され、対象とならないケースもあります。
そもそも勤めている会社が退職金を支給するかどうかにもよりますので、就業規則や退職金支給規定などを確認しましょう。
退職金の計算は難しいため、弁護士に相談するのがおすすめです。
貯金やへそくり
結婚生活の中で貯めた貯金はもちろん、へそくりも財産分与の対象となります。
結婚前から同じ口座を利用している場合は、通帳などから、結婚生活以降に貯めた貯金を確認しましょう。
一方で、結婚前に自分で貯めた貯金は、特有財産といって財産分与の対象外です。
財産分与では、この特有財産を切り離して、共有財産について公平に分けることになります。
その他共有財産
他にも、財産分与の対象となる共有財産には次のものがあります。
- 結婚後に購入した車
- 生命保険や学資保険
- 家電や家具
- 結婚生活のためにした借金
- 株などの有価証券 など
分け方としては、いずれも現金化して分けるか、所有する側が同等額の現金を支払って分けることになります。
なお、結婚生活のためにした借金、住宅ローンや車のローン、生活のためにした借金も夫婦で負担することになります。
関連記事:財産分与の対象にならないものは?退職金や親からの贈与はどうなる?
財産分与を決める流れ
財産分与は、まず夫婦で話し合いを行い、財産をどのように分けるのか決めます。
話し合いで双方が合意すれば、どのような割合で分けるのか、柔軟に決めることができます。
もし話し合いで決まらなければ、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて、調停委員を介して協議をします。
調停が不成立となった場合は、裁判を申し立てて決めることになります。
協議で決定すれば柔軟な取り決めが可能ですが、裁判の場合は基本的に2分の1で決定すると考えられるでしょう。
関連記事:離婚調停とは|離婚調停の流れや申立方法や期間をわかりやすく解説
専業主婦の財産分与の割合が低くなるケース
前述の通り、財産分与は専業主婦であっても、原則2分の1で分けることになります。
しかし、裁判で審理が行われた場合に、専業主婦の財産分与の割合が低くなるケースもあります。
専業主婦なのに家事や育児をしない場合
専業主婦なのに、家事や育児を放棄している場合、財産分与の割合が修正される可能性があります。
民法には、夫婦の協力義務が定められています。
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
そのため、専業主婦が家事や育児を放棄していれば、夫婦の協力義務に反すると考えられるでしょう。
配偶者が、家事や育児を放棄していると、客観的な資料や証拠にもとづいて立証や主張をした場合に、取り分が少なくなる可能性があります。
配偶者の収入が資格や特殊なスキルによる場合
専業主婦の財産分与の割合が低くなるもう1つのケースは、配偶者の収入が、その配偶者の資格や特殊なスキルによる場合です。
例えば、医師や会社経営者、芸能人、スポーツ選手など、資格や本人のスキルで得た収入の場合は、働いている側の財産形成への貢献度が高いと判断される可能性があります。
自分が有責配偶者の場合
自分が離婚原因を作った側である「有責配偶者」の場合、受け取れる財産分与が少なくなる可能性があります。
例えば、不倫やDVをしていたようなケースです。
こうした不法行為があり、相手に損害を与えた場合、有責配偶者は慰謝料を支払う必要があります。
財産分与は、結婚生活で築いた財産を公平に分けることで、慰謝料とは全く別の話ですが、財産分与の中で、慰謝料を調整して分けるケースもあります(慰謝料的財産分与)。
そのため、財産分与から慰謝料分を差し引いた金額が分与されたり、財産分与とは別に慰謝料を請求されたりする可能性があります。
専業主婦の財産分与の割合を多くするには
離婚を切り出す前に財産を把握しておく
専業主婦の財産分与の割合を少しでも多くするには、離婚を切り出す前に財産を把握しておくことがポイントです。
家計管理をしていたとしても、働いている側がこっそり貯金をしていたり、別の保険に加入していたり、株などで利益を出していることも考えられます。
へそくりや保険、株の利益もすべて、共有財産として財産分与の対象です。
離婚を切り出してしまうと、こうした財産を把握するのが難しくなる可能性があります。
また、話し合いの段階で、相手が財産を開示しないことも想定されます。
そのため、日頃から、配偶者に届く封書や手紙などを把握しておきましょう。
例えば、どこの銀行口座があるのか、保険会社からの手紙などは、郵便でも確認できます。
細かい財産がわからなくても、弁護士に依頼することで調べてもらえる可能性があります。
調停や裁判を申し立てる
公平な財産分与を求めるのであれば、離婚調停や裁判を申し立てる方が良いケースもあります。
例えば、配偶者にモラハラ気質があり、話し合いで財産分与が決められないこともあるでしょう。
離婚調停や裁判であれば、調停委員や裁判官など第三者が介在し、公平な財産分与がまとまる可能性が高まります。
離婚調停は自分で対応することも可能です。
裁判となると弁護士の力も必要となりますが、費用の心配から、依頼を決めかねる人もいるでしょう。
その場合でも、ある程度の財産を把握しておけば、どの程度もらえそうか、弁護士費用と比較して、依頼すべきかどうかアドバイスを受けられます。
自分の貢献度を主張する
専業主婦が財産分与の割合を少しでも多くするのであれば、自分の家事や育児の貢献度を主張する方法もあります。
ただし、主張するには具体的な証拠にもとづいて、立証する必要があり、証拠を集めておくにも時間がかかります。
そのため、離婚を決意した段階で弁護士に相談し、どのような証拠を残すべきなのかアドバイスをもらっておきましょう。
配偶者の浪費で使い込まれた財産があれば主張する
配偶者の浪費で使い込まれた財産があれば、それを主張するのも一つの方法です。
浪費された財産を考慮して、財産を分けることも考えられます。
ただし、それには配偶者が浪費した財産を立証する証拠が必要になります。
これも立証が難しいケースがありますので、必要な証拠について弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。
専業主婦が離婚時に請求できるお金
専業主婦が離婚する際に重要なのは、離婚後の生計をどう立てるかです。財産分与だけでは不十分と感じることももあるでしょう。
もし条件に当てはまれば、財産分与以外で請求できるお金があります。
相手に不法行為があれば慰謝料
前述の通り、相手に不法行為や離婚原因があれば、慰謝料を請求することができます。
例えば、不倫やDV、モラハラ、理由のない同居の拒否、生活費の支払いの拒否、性行為の拒否などが考えられます。
典型的な事例として、不倫が挙げられます。
この場合、配偶者が不倫相手と肉体関係にあったことを証拠立てて主張すれば、慰謝料の支払いが認められます。
ただし、それぞれの慰謝料を請求するには、それぞれの証拠を押さえる必要があります。
モラハラなどは、時間をかけて証拠を集める必要があるため、そもそも慰謝料請求が可能かどうか、どういった証拠が必要か、慰謝料の相場について事前に弁護士に相談しておくのが得策です。
関連記事:精神的苦痛によって離婚する場合の慰謝料請求のポイントとは?
別居している場合は婚姻費用
もし別居をするのであれば、別居中の生活費として婚姻費用を請求することができます。
夫婦は、収入を考慮して、生活費を分担する義務があります(民法第760条)。
そのため、別居をしても離婚が成立していないのであれば、収入が多い側が少ない側に生活費を支払う義務があります。
婚姻費用には、衣食住にかかる費用、生活費、子どもの教育費、医療費などが含まれます。
ただし、婚姻費用の請求が認められないケースもあるため、注意が必要です。
- 一方的な別居の場合:夫婦の同居義務に違反する恐れがあり、慰謝料請求の対象となる可能性がある
- 有責配偶者の場合:離婚原因を作った側だから
別居をするのであれば、配偶者に断りを入れておきましょう。
また婚姻費用は、請求時点から離婚成立まで請求できます。
請求の意思を示した段階から請求可能となるため、別居時に配偶者に内容証明郵便を送るか、婚姻費用分担請求調停を早めに申し立てましょう。
親権を得たなら養育費
もし親権を得たのであれば、子どもと同居してない親に養育費を請求することができます。
養育費は、夫婦の年収や子どもの人数や年齢によって金額が異なり、裁判所が作成した養育費標準算定表で算出するのが一般的です。
養育費は成人までと決める考え方もありますが、実務上は二十歳まで、もしくは大学卒業までと取り決めるケースもあります。
話し合いで離婚ができる場合は、離婚協議書に、月々いくらの支払いで、子どもが何歳になるまで支払うのか、支払いが遅れた場合どうするのかなどをまとめておきましょう。
関連記事:養育費を公正証書に残す際の記載内容とは?
専業主婦が財産分与をする際の注意点
離婚後の財産分与には時効がある
財産分与は離婚後に請求することも可能です。
ただし、離婚後の財産分与には時効や除斥期間があるため、注意が必要です。
- 財産分与の取り決めが終わっている場合:離婚協議書などに合意して取り決めが決まった時点から10年
- 財産分与の取り決めが終わっていない場合:離婚成立から2年
財産分与を請求する権利は離婚成立から2年の期間が設けられています(除斥期間)。
取り決めがある場合は、取り決めが決まった時から10年で、財産分与を請求する権利が時効となります(時効)。
なお、2024年5月には民法の改正が国会で可決され、2026年までに施行されることになります。
その影響で、財産分与の除斥期間は5年に延長されることが考えられます。
ただし、この民法が施行されるまでに2年が経過した場合は適用されないため、注意が必要です。
また、財産分与をしないまま離婚をしてしまうと、相手も財産を処分する恐れがあります。離婚時に取り決めてしまった方が良いでしょう。
財産を隠したり処分したりしない
自分の取り分を増やそうとして、共有財産を隠したり、勝手に処分したりするケースもあります。
しかし、共有財産を隠したり、勝手に処分したりすると、不利に働く恐れがあります。
共有財産を隠して自分のものにすれば、損害賠償請求の対象となる可能性があります。
また、財産を勝手に処分しても、それを考慮して財産分与が行われることになるため、やめましょう。
いくら財産を隠しても、弁護士に依頼されたり、裁判をされたりすると、財産の調査も可能となるため、発覚するリスクがあります。
お金を勝手に引き落とさない
同様に、婚姻費用の名目でお金を銀行から勝手に引き落とすケースも考えられます。
ただし勝手に引き落としたお金は、財産分与に考慮されるため、引き落とすと、その分財産分与が少なくなる可能性があります。
婚姻費用は婚姻費用として別途請求が可能なので、勝手に引き落としをせず、調停などで請求するようにしましょう。
扶養的財産分与を受けるのは難しい
離婚時の財産分与は、結婚生活で築いた財産を平等に分ける清算的財産分与を指すのが一般的です。
また、前述の通り、慰謝料を調整して財産分与に反映させる慰謝料的財産分与のほかに、離婚後配偶者が困窮しそうな場合に、扶養的な意味合いとして財産分与をするケースがあります。
離婚後も安定した職につけないなど、経済的な不安がある場合に、収入の多い側が少ない側に対して、財産分与の名目で、一定期間生活を援助するものです。
例えば、生活が安定するまでの期間、月々一定額を支払う、もしくは、その点を考慮して財産分与の割合を決めるなどがあります。
育児で働けないような場合は、扶養的財産分与を求めることも考えられるでしょう。
ただし、認めてもらうハードルは高い可能性があります。
やはり、離婚後の生活や生計を立てる手段を確保してから離婚した方がよいでしょう。
まとめ
夫婦の役割に関係なく、専業主婦でも財産分与は原則として2分の1を受け取ることができます。
ただし、場合によっては財産分与の割合が少なくなるケースもあるため注意が必要です。
公平な財産分与を受けるためには、離婚を切り出す前に財産を把握しておくことが重要です。
また、話し合いで決めるのが難しい場合は、調停や裁判手続きを検討しましょう。