熟年離婚の財産分与|専業主婦や共働きは?持ち家や年金の分け方
- 財産分与
離婚の財産分与とは、結婚生活の中で夫婦が協力して築いた財産を公平に分けることです。
熟年離婚では、結婚生活が長いため、財産が多く、揉める可能性があります。
この記事では、熟年離婚の財産分与について、次の点をわかりやすく解説します。
- 熟年離婚の財産分与で専業主婦や共働き夫婦がもらえる割合
- 熟年離婚の財産分与の平均額
- 持ち家や年金、退職金の分け方
熟年離婚の財産分与の割合
専業主婦の場合
財産分与では、専業主婦(主夫)でも、公平に財産の2分の1を受け取ることができます。
例えば、片方が働いて得た収入でも、片方が家事育児を担い支えてきたから得られた財産だと判断されるためです。
関連記事:専業主婦も離婚で財産分与が請求可能!平均額や家事をしない場合は?
共働き夫婦の場合
共働き夫婦の場合、自分の方が収入が多いのだから、稼いだ分を半分で分けるのは納得がいかないという人もいるでしょう。
しかし、共働き夫婦であっても、財産分与は基本的に2分の1で分けることになります。
これは専業主婦と同様、夫婦に収入差があっても、両者の協力で得られた財産だと判断されるためです。
ただし、収入が多い理由が、本人の資格や特殊なスキルによるものである場合、それに応じた割合に変更されることがあります。
熟年離婚の財産分与の相場や平均額
熟年離婚の財産分与でもらえる金額は、その夫婦が結婚期間中に築いた財産によって異なります。
なお、2023年の司法統計によると、結婚期間20年を超える夫婦が調停や審判で財産分与を取り決めた金額は次の通りでした。
- 100万円以下:7.9%
- 200万円以下:7.3%
- 400万円以下:12.5%
- 600万円以下:10.3%
- 1000万円以下:16.1%
- 2000万円以下:16.9%
- 2000万円を超える:11.3%
- 決まらず・算定不能:17.7%
3割程度の夫婦は、財産分与の金額が1,000万円を超えています。
熟年離婚の財産分与で対象になる財産とならない財産
財産分与の対象になるのは、結婚期間中に夫婦が協力して築いた「共有財産」です。
一方、財産分与の対象にならないのは、結婚前の貯金や、夫婦の協力とは無関係に得た「特有財産」です。
対象となる共有財産
財産分与の対象となる共有財産は次のものが該当します。
- 持ち家
- 年金
- 退職金
- 名義に関係なく貯金
- へそくり
- 生活に必要な借金
- 結婚後に購入したもの
- 生命保険の返戻金
- 家電や家具
- 株などの有価証券 など
対象とならない特有財産
財産分与の対象とならない特有財産は次のものが該当します。
- 結婚前に貯めていた貯金
- 結婚前に購入したもの
- 親から贈与された財産
- 人からプレゼントされたもの
- 事故で受け取った保険金や賠償金
- 個人でした借金
- 子どもなど第三者名義の財産
- 別居後に得た収入
- 衣類や下着など自分しか使用しないもの など
そのため、結婚前から同じ口座を使用している場合は、通帳などを遡って、どこからどこまでが自分の貯金か確認しなければなりません。
関連記事:財産分与の対象にならないものは?退職金や親からの贈与はどうなる?
熟年離婚で持ち家を分ける方法
熟年離婚の財産分与で揉める可能性があるのが、持ち家の分け方です。
貯金であれば、綺麗に半分に分けることができますが、持ち家の場合そうはいきません。
ここでは、「住宅ローンを払い終えた持ち家」を分ける方法を紹介します。
住宅ローンが残っている場合は、その住宅ローンの支払いについても注意点があるため、後述する内容を参考にしてください。
片方が持ち家に住む場合
持ち家がある場合、なじみの家なのでこのまま住み続けたいというケースも多いです。
片方が持ち家に住む場合は、今の家の査定を行ってもらい、家に住む側が査定額の半分を相手に支払うことになります。
もし持ち家の購入時に、親が頭金を支払ったような場合は、親が支払った頭金だけ「特有財産」として財産分与の対象外となります。
その場合は、査定額から頭金の割合を差し引いて、算出した金額の半分を持ち家に住まない側に支払います。
例
- 持ち家購入時の価格:3000万円
- 親が頭金として支払った金額:1000万円
- ※3分の1は親が負担した特有財産となり、財産分与の対象外
- 今の持ち家の査定額:1500万円
- 1500万円から3分の1の500万円は財産分与の対象外
- 残りの1000万円を夫婦で分ける
上記の場合は、持ち家に住む側が、持ち家に住まない側に半分の500万円を支払うことになります。
なお、持ち家の名義も住む人に変更しておきましょう。
例えば、持ち家の名義が夫で、妻が住む場合、名義変更をしないと、名義人が勝手に持ち家を処分できてしまうためです。
自宅を売却する場合
夫婦双方が持ち家に住まない場合は、自宅を売却し、売却代金を二人で半分にすれば分けることができます。
熟年離婚で退職金を分ける方法
熟年離婚の段階で支払われている退職金は、財産分与の対象となります。
財産分与の対象となるのは、勤続年数から、婚姻期間中に該当する範囲です。
一方で、熟年離婚の段階で退職金が支払われていない場合は、そもそも勤務先が退職金を支給しているのか、実際に支給されるかどうかによって異なります。
勤務先に退職金の規定があり、支払われる可能性が高いのであれば、財産分与の対象として計算します。
退職金が支払われている場合
すでに退職金が支払われている場合は、次の式で計算することができます。
退職金×結婚期間(結婚の同居期間)÷勤続年数=財産分与の対象となる金額
例:
- 退職金1000万円、結婚期間30年、勤続年数40年の場合
- 1000万円×30年÷40年=750万円
上記の場合、財産分与の対象となるのは750万円なので、750万円を半分ずつ夫婦で分けることになります。
なお、別居期間は財産分与の対象とならないため、結婚期間から差し引いて計算することになります。
退職金がまだ支払われていない場合
熟年離婚の段階で、退職金の支給が確実な場合は、現時点で退職したと仮定して計算する方法と、退職時に受け取る予定の退職金で計算する方法の2つがあります。
現時点で退職したと仮定して計算する方法は、前述した方法で計算が可能です。
一方で、定年退職に受け取る予定の退職金の場合は、計算方法がやや複雑です。
定年退職時に受け取れる退職金から、結婚前と離婚後の労働分を差し引きます。
その上で、将来受け取れる退職金を早くもらったと解釈できるため、早く受け取った分だけ発生する「中間利息」を差し引いて計算します。
まだ支払われていない退職金については、そもそもいくらになるのか、退職までの期間はどのくらいか、会社の就業規則に退職金の支払いがあるかどうか、転職の有無などによっても異なります。
計算も複雑となるため、弁護士に直接相談するのが一番です。
熟年離婚で年金を分ける方法
熟年離婚では、年金も財産分与の対象となります。ただし、対象となる年金は、厚生年金や共済年金です。
例えば、会社員や公務員として働いている場合、国民年金だけでなく厚生年金や共済年金に加入することになります。
年金は年収や扶養によって、支給される金額が異なります。
老後も一緒に生活をするのであれば、支給された分を家庭内で分けることができますが、離婚をしてしまうと、支給額が少ない側は、生活が苦しくなる可能性があります。
離婚時に年金記録の多い方から少ない方に分割する制度が年金分割です。
年金分割の場合も、基本的には一律50%で分けられることになります。
年金分割をする方法は、夫婦で合意する合意分割と、扶養されていた第三号被保険者であった人に適用される三号分割があります。
三号分割は、2008年4月1日以降に離婚している人であれば、年金事務所に情報通知書の請求手続きをすることで手続き可能です。
一方共働きの場合は、夫婦の話し合いで割合を決定することになりますが、合意が得られないのであれば、離婚調停や審判で決定することになります。
熟年離婚で財産分与をする手順
まずは、結婚生活で築いた共有財産と、自分の特有財産をリストアップして整理することから始めます。財産額が確認できる次のような資料があるとスムーズです。
- 預貯金の通帳
- 持ち家や車の売買契約書や査定に関する書類
- 保険の返戻金が計算できる契約書
- 証券会社の取引履歴など
共有財産と特有財産をリストアップしたら、夫婦で話し合って分与する方法を決めます。財産分与は次の方法で行うことができます。
- 持ち家や車などは、所有する側が査定額の半分を支払う
- 共有財産を換金して現金で分ける
- 一部の財産をもらう代わりに、同等額の財産を分けるなど
夫婦の話し合いで財産分与が決定できた場合は、他の離婚条件も含めて、離婚協議書にまとめておいてください。
これは、合意内容について後からトラブルになることを防止するためです。
相手が協力をしてくれなかったり、揉めてしまったりする場合は、弁護士への相談や調停の利用も検討しましょう。
熟年離婚で財産分与をする際の注意点
自分の取り分を主張できる証拠を準備しておく
少しでも多く取り分を主張したい場合は、自分の取り分の主張を裏付ける証拠を準備しておきましょう。
例えば、今利用している口座のうち、自分が結婚前に貯めていた貯金があるなら、結婚前の通帳があれば、特有財産の証拠となります。
証拠があれば、相手を説得できる可能性がありますし、離婚調停となった場合も、調停委員に対して主張できます。
しかし、熟年離婚の場合は、財産も多岐にわたり、そもそもどこからどこまでが共有財産、特有財産なのか線引きも難しいでしょう。
離婚を切り出す前に、どういう財産があるのか洗い出し、弁護士に相談して方針を決めておくのがおすすめです。
財産分与は離婚時に行う
財産分与は離婚後に請求することもできますが、取り決めをしてから離婚するのが一番です。
離婚後に財産分与の請求をしても、相手が財産を処分してしまったり、支払ってくれなかったりする可能性があります。
財産分与の取り決めをしないまま離婚した場合に、離婚後に財産分与を請求できる期限(除斥期間)は、離婚成立から2年です。
また、2024年5月には民法の改正が国会で可決され、2026年までには、離婚後に財産分与を請求できる期限は5年に延長される予定です。
なお、取り決めがなされていれば、請求の時効は取り決めから10年となります。
ただし、前述の通り、相手が財産を処分する可能性があるため、やはり離婚時に財産分与を行うのが一番でしょう。
不法行為があれば慰謝料を請求する
もし相手に不法行為がある場合は、不法行為に対して慰謝料を請求することができます。
例えば次のケースが挙げられます。
- 配偶者が不倫をしていた
- 配偶者に暴力を振るわれていた
- 配偶者にモラハラをされていた など
ただし、それが何年前の話なのか、証拠があるかどうかによって、請求できるかどうか異なります。
離婚を切り出してしまうと、こうした証拠を押さえるのが難しくなってしまうため、離婚を切り出す前に弁護士に相談してください。
熟年離婚で住宅ローンが残っている場合の注意点
前述の通り、熟年離婚の財産分与で分け方が難しいのが持ち家です。
また、住宅ローンがまだ残っている場合は、そのローンについて誰が負担をするのか、また購入時と今の自宅の価値が変化したかどうかによっても分け方が異なります。
住宅ローンが残る家の分け方
住宅ローンが残る持ち家を売却してしまうのであれば、財産分与は難しくありません。
持ち家の今の価値が高い(いわゆるアンダーローン)のであれば、売却した金額から残債を差し引いた金額を分けることができます。
例:
- 持ち家の今の価値:2500万円
- 住宅ローンの残債:2000万円
この場合、持ち家の価値は500万円となるため、持ち家を所有する側が、配偶者にその半分の250万円を分与することになります。
オーバーローンの持ち家の分け方
問題は、負債が大きく、片方が住む場合です。
例:
- 持ち家の今の価値:1500万円
- 住宅ローンの残債:2000万円
このように、持ち家の価値が、住宅ローンの残債よりも少ない場合、財産分与の請求権は発生しません。
離婚をして、妻が持ち家に住む場合、通常は名義変更を行いますが、住宅ローンが残っている場合、金融機関は名義変更を認めません。
片方が住む場合は、次の方法で分けることが考えられます。
- 住宅ローンの名義人が所有して、ローンを負担していく
- 住宅ローンの名義人が所有して、二人でローンを負担する
- 名義人でない配偶者が住んで、名義人に住宅ローンを支払う
残債は金融機関から住宅ローンを借り入れている名義人が負担することになります。
名義人でない配偶者が住んで、名義人に住宅ローンを支払う方法もありますが、名義人が住宅ローンの支払いを怠れば、持ち家は金融機関によって売却され、住まいを失う危険性があります。
また、夫婦片方が連帯保証人であるケースも多いため、支払いが遅れれば、連帯保証人にも請求される恐れがあります。
オーバーローンで持ち家を売却する場合
前述の通り、名義人以外が住んでも、名義人が住宅ローンを支払えなくなった時に、持ち家を失い、連帯保証人が請求を受けるリスクがつきまといます。
それであれば、オーバーローンの持ち家は、売却してしまい、残債を二人で負担した方が、片方が住んだ後で家を失い路頭に迷う危険性はありません。
いずれにしても、連帯保証人やペアローンを残したまま離婚をしてしまうと、支払いが滞った場合に多額の借金を負うことになります。
住宅ローンが残る持ち家があるのであれば、どのように分けるべきか、弁護士に相談するのが安全です。
熟年離婚の財産分与でよくある質問
熟年離婚を弁護士に依頼した場合の費用はいくら?
熟年離婚を弁護士に依頼した場合の費用は、交渉、調停、裁判によって異なります。
また、財産分与など、金銭的な利益があった場合は、得られた金額に対して一定の割合が報酬金となります。
- 着手金:依頼時に発生する費用で相場は20~50万円
- 報酬金:離婚成立に対する報酬金は30~50万円、それとは別に、財産分与や慰謝料など、金銭的な利益ごとにおおよそ10~20%
例えば、離婚成立に対して30万円、財産分与は得られた金額に対して10%、慰謝料は10%といった形で金額が異なります。
ただし、各法律事務所によって料金体系や支払い方法は異なります。無料相談を活用して、いくらかかるのか、自分はいくらもらえそうなのか確認して、判断するのがおすすめです。
当事務所の場合は、ご契約の流れ/報酬についてを参照にしてください。
長年支払われなかった生活費を請求できる?
民法では、夫婦は結婚生活で生じる費用の分担や、協力する義務があります(民法第760条、752条)。
そのため、離婚するまでの結婚期間や別居期間で、収入が多い側が少ない側に対して生活費を支払ってくれなかった場合、請求できる可能性があります。
例えば、相手が浪費した分について、財産分与の際に考慮してもらうことが考えられます。
また、別居した場合は、婚姻費用として生活費の請求ができます。
ただし、請求時期や、別居の経緯、どちらに離婚原因があるかなどによっても異なるため、弁護士に相談して進めるようにしてください。
子どもの相続はどうなる?
離婚をしても、子どもの相続権は失われないため、元配偶者が亡くなった場合は、子どもが財産を相続することができます。
熟年離婚の財産分与で損をしない離婚のタイミングは?
熟年離婚の財産分与を考えた場合に、損をしない離婚のタイミングは、一概にいつがベストか断言できません。
ただし、お子さんがまだ学生で、相手が養育費を支払わなくなった場合、自分で負担をする必要があります。
また、離婚から定年退職までの期間が長い場合は、退職金が財産分与の対象とならない可能性もあります。
なお、離婚をしてしまうと、配偶者の相続権を失うことになります。
金銭面だけでいえば、離婚をしない方が養育費の負担が少なく、相手の財産を相続できる可能性があるでしょう。
もっとも、配偶者といることで、心身に不調をきたすほどストレスが大きいのであれば、金銭的な安定と比較して、離婚をするという選択肢もあり得ます。
まとめ
熟年離婚の財産分与は、財産が多岐にわたり、持ち家や年金、場合によっては株などの有価証券など金銭に換算するのが難しい財産もあります。
長年の確執がある場合は、話し合いで離婚をするのが困難なこともあるでしょう。
「熟年離婚を有利に進めたい」「自分の取り分を主張したい」「相手の法外な要求を受けたくない」という人は、弁護士を味方につけましょう。