養育費とは|養育費の相場や支払い義務・取り決め方法や計算例を解説
- 養育費
養育費は、子どもを育てる上で欠かせない費用です。
しかし、「養育費の取り決め方がわからない」「相手と関わりたくない」などの理由で、養育費の取り決めがされておらず、親子が苦しい生活を送っているケースは少なくありません。
養育費は子どものためのお金です。そのため、養育費に関する知識を得て、子どもが受ける不利益を減らすことが大切です。
この記事では、養育費について次の点をわかりやすく解説します。
- 養育費とは?
- 養育費の決め方や相場
- 養育費を支払ってもらう方法
養育費とは
養育費とは、子どもが社会的、経済的に自立するまでの監護(面倒を見ること)や、教育に必要な費用のことです。
養育費を支払うのは、男女関係なく、離婚後に子どもと同居しておらず、直接面倒を見ていない親です。
民法877条1項では、親は子どもに対して、生活に余裕がなくても、自分と同程度の生活を送れるようにする生活保持義務があるとされています。
この養育費の支払い義務は、自己破産をしても免除されません。
生活が苦しいから支払いができないという理由でも支払い義務を免れることはできず、生活水準を下げてでも支払う必要があるとされています。
関連記事:養育費を支払うことは義務?
養育費に含まれるもの
子どもの自立までに要する費用全般
養育費に含まれるものは、子どもの自立までに必要とする費用全般です。
例えば、衣食住にかかる食費や家賃、光熱費、そのほか教育費、医療費、適度な娯楽費などが含まれます。
養育費に含まれるものというのは、養育費を決める際に参考とされる養育費算定表にもとづいて考えられています。
養育費には最低限の学費も含まれる
養育費には、最低限の学費も含まれます。
この最低限の学費とは、公立幼稚園から平均的な公立高校を卒業するまでに必要な授業料や教科書代などです。
大学や私立学校に通う場合は、後述する「特別費用」として父親と母親の話し合いで取り決めが可能です。
養育費に含まれない特別費用とは
特別費用とは、子どものために生じる一時的に大きな出費のことで、養育費(養育費算定表)に含まれないとされています。
例えば、次のものは養育費に含まれませんが、特別費用として相手に請求することができます。
- 私立高校に通うための入学金や授業料
- 進学塾の授業料
- 大学進学に必要な入学金や学費
- 病気やケガの治療にかかる費用
- 海外留学のための費用 など
特別費用は突発的に発生するため、離婚の段階で具体的な金額まで合意するのは難しいでしょう。
特別費用は離婚時などに、支払うことやどの程度負担するのか合意だけしておき、出費が発生した際に請求することが考えられます。
養育費の支払い義務はいつまで?
原則として子どもが20歳になるまで
養育費の支払いは、原則として子どもが20歳になるまでとされています。
これは、20歳になる頃には経済的に自立すると考えられていたためです。
ただし、養育費の支払い期限はいつまでと法律では明確に定められていません。
そのため、成人年齢が18歳に引き下げられたからといって、支払い期限が一律に18歳までになるわけではありません。
子どもが経済的な自立を果たす年齢は、個々の家庭によって異なります。
そのため、原則は20歳までとされていますが、子どもの状況に応じて、「就職をしたので18歳まで」や「大学を卒業する22歳まで」といったように柔軟に取り決めることができます。
また、子どもが20歳を過ぎても、障害や病気で自立できないなどの事情があれば、それを考慮して養育費を取り決めることもあります。
養育費の相場は算定表を参考にする
実際に養育費はいくらくらいになるのでしょうか。
養育費の相場は、裁判所が作成した「養育費算定表」を参考に決定するのが一般的です。
引用:養育費算定表|裁判所
養育費算定表は、2003年に東京家裁と大阪家裁の裁判官が考案したのが始まりで、2019年に今の養育費算定表に改定されました。
養育費算定表は、父親の収入、母親の収入、子どもの年齢を参考に、月々の養育費を算定することができます。
そのため、養育費の相場は、両親の収入と、子どもの年齢によって異なります。
なお、厚生労働省が公表している「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要」によると、養育費を受け取っている割合と、平均月額は次の通りです。
- 離婚した父親から養育費を受けている割合:28.1%
- 平均月額:約5万円
- 離婚した母親から養育費を受けている割合:8.7%
- 平均月額:約2万6,000円
支払い方法は振り込みが一般的
養育費の支払い方法は、毎月定額を振り込むのが一般的です。
相手が支払いをしないリスクがあるため、養育費を一括で支払ってほしいと考える人もいるでしょう。
養育費を一括で請求することはできますが、それだけの金額を一括で支払うのは現実的ではありません。
また、それだけの金額を一括で受け取ると、「必要と認められる範囲」を超えるため、贈与税が課税される可能性があります。
相手の未払いが不安なのであれば、後述する差し押さえが可能となるような対策を講じておく方法があります。
養育費を決める方法
養育費を支払ってもらうには、養育費の取り決めをしていることが前提です。
例えば、口頭で支払うと約束してもらっても、相手が支払わない場合、無理やり支払ってもらうことはできません。
差し押さえの手続きをするにも、「こんな風に具体的に養育費について取り決めをしたのに、支払わないんですよ」とわかってもらえる証拠が必要になります。
次のような書面化された証拠があれば、差し押さえが可能です。
- 離婚調停が成立した際に交付される調停調書(ちょうていちょうしょ)
- 審判で決定した際に交付される審判書
- 公正証書化(執行文付与)した離婚協議書や合意書
養育費は支払い義務があるため、「話し合いで決定できない」「相手が応じない」という場合は、調停や審判の手続きを活用することで、支払いを決定してもらえます。
夫婦の話し合いで決める
養育費は、離婚時の話し合いや、離婚後の話し合いで、柔軟に決めることができます。
話し合いをする際は、次の点を取り決めましょう。
- 毎月の養育費の金額
- 支払い期間(支払い開始日と終了日、例:〇年〇月〇日~〇年〇月〇日までとする)
- 支払い時期(毎月何日に支払うのか)
- 支払い方法
- 特別費用についてどう負担するか
私立学校や大学の進学費用、突発的な病気やケガの医療費は特別費用として、次のように取り決めておくと良いでしょう。
- 発生した際に別途交渉をする
- 費用の半分を請求する
- 収入に応じた割合を分担するなど
また、相手が養育費を支払わない場合を想定して、次の点を検討する方法もあります。
- 支払いが遅れた場合の遅延損害金(支払い遅延に対する賠償金)を定めておく
- 合意書を執行文付きの公正証書で作成する
公正証書は、公証役場で作成できる公文書です。
「執行文」を付与してもらうと、差し押さえの手続きができるようになります。
いずれにしても、取り決め内容は証拠として、離婚協議書や合意書などに書面化して残しておいてください。
合意書については、政府の公式ページでひな形を配布していますので、活用しましょう。
参考:よく話し合って決めておきましょう、「養育費」と「親子交流」|政府広報オンライン
「こどもの養育に関する合意書作成の手引きとQ&A」について|法務省
関連記事:養育費を公正証書に残す際の記載内容とは?
離婚調停や養育費請求調停で話し合う
離婚をする段階や離婚後では、「対面で条件面を話し合いたくない」「相手が話し合いに応じない」ということもあるでしょう。
その場合は、相手の住所を管轄とする家庭裁判所に、調停を申し立てて話し合いを行います。
離婚をする際は離婚調停を、離婚後は養育費請求調停を申し立てましょう。
調停を申し立てると次のようなメリットがあります。
- 調停委員を挟んで話し合いができ、夫婦は顔を合わせる必要がない
- 申し立て費用も少なく、弁護士に依頼しないで対応も可能
- 成立すれば、調停調書が作成され、合意書を作る手間がはぶける
- 養育費の未払いがあっても、調停調書があれば差し押さえができる
関連記事:養育費請求調停における流れを解説!有利に進めるために必要なこととは?
家庭裁判所の審判や裁判で決定する
調停が不成立に終わった場合は、家庭裁判所の審判や裁判で決定が下されることになります。
離婚調停の場合は、養育費以外にも争いがあれば、離婚の裁判を申し立てて決着をつけることになります。
一方、養育費だけを話し合う養育費請求調停の場合は、その後「審判」という手続きに移行します。
裁判官がこれまでの話し合いや双方の事情を考慮して、養育費に関する決定をします。
いずれにしても、公的な手続きを利用することで、養育費の支払い義務を前提とした判断を下してもらえます。
審判の場合も、審判書が作成され、万が一支払いがされない場合は、それを用いて差し押さえの手続きをとることができます。
養育費算定表の計算例
養育費算定表には、子どもが0~14歳までのものと、15歳以上のものがあります。
ここでは、子どもを一人、受け取る側の年収が給与所得者として100~200万円と仮定し、養育費を支払う側の年収に応じた計算の例を紹介します。
年収300万円の場合
支払う側の年収が300万円の場合、養育費の月の相場は次の通りです。
子どもが0~14歳の場合
- 給与所得者:2~4万円
- 自営業者:2~6万円
子どもが15歳以上の場合
- 給与所得者:2~4万円
- 自営業者:4~6万円
支払う側が自営業者の場合、受け取る側の年収が100万円であれば、養育費は4~6万円になります。
受け取る側の年収が200万円であれば、養育費は2~4万円です。
年収400万円の場合
支払う側の年収が400万円の場合、養育費の月の相場は次の通りです。
子どもが0~14歳の場合
- 給与所得者:2~6万円
- 自営業者:4~6万円
子どもが15歳以上の場合
- 給与所得者:4~6万円
- 自営業者:6~8万円
年収500万円の場合
支払う側の年収が500万円の場合、養育費の月の相場は次の通りです。
子どもが0~14歳の場合
- 給与所得者:4~6万円
- 自営業者:6~8万円
子どもが15歳以上の場合
- 給与所得者:4~8万円
- 自営業者:8~10万円
年収600万円の場合
支払う側の年収が600万円の場合、養育費の月の相場は次の通りです。
子どもが0~14歳の場合
- 給与所得者:4~8万円
- 自営業者:8~10万円
子どもが15歳以上の場合
- 給与所得者:6~8万円
- 自営業者:8~12万円
養育費が未払いになった場合の対処法
すでに取り決めが済んでいる養育費が未払いになった場合の対処法を解説します。
相手と交渉をする
養育費が未払いになった場合は、相手と交渉する方法があります。
養育費には、元配偶者の生活費は含まれていませんが、支払う側として「元配偶者の生活費になるなら払いたくない」「使途が不明なので払いたくない」などの言い分があることがあります。
そのため、実際に何にいくらかかっているのか、資料などを提示して支払いをうながすということも考えられます。
また、場合によってはケガや病気、あるいはボーナスカットなどで収入が減ってしまったなどの事情もあるかもしれません。
支払いが遅れた分について、いつ頃なら支払いができるのかなどを確認しましょう。
面会交流をする
支払う側に親としての自覚をうながすためにも、面会交流を実施することも大切です。
離婚原因が相手にある場合や、離婚時に揉めている場合、あのような配偶者に子どもを会わせたくないと思う人もいるかもしれません。
しかし、面会交流は、両親に愛されていると子どもが実感して成長するために必要な子どもの権利です。
相手のモラハラや、子どもへの影響などが不安な場合は、間接的な面会交流として、手紙や写真の交換、もしくは各自治体などの面会交流の支援事業を利用することも検討しましょう。
裁判所に強制執行を申し立てる
相手が養育費を支払わない場合は、調停調書や審判書、執行文が付与された離婚協議書や合意書を用いて、裁判所に差し押さえの手続きを申し立てることができます。
差し押さえを行う場合は、相手の住所地を管轄とする地方裁判所に「債権差押命令」の申し立てをします。
申し立てが認められれば、裁判所から相手の銀行や職場(第三債務者)に通知が届き、相手の代わりに未払いの養育費を確保してもらえるため、銀行や職場に連絡して支払ってもらいます。
給料の差し押さえに関しては、手取り額の2分の1まで差し押さえ可能です。
相手が転職をして勤務先がわからなくても、「財産開示手続き」や「第三者からの情報取得手続き」で相手の勤務先を知ることができます。
なお、差し押さえができるのは、支払い日が来ても支払いをされなかった分だけです。
まだ支払い日が来ていないものに関しては、差し押さえはできません。
養育費を回収してくれるサービスを利用する
自分で差し押さえの手続きを行うのが難しい場合は、養育費を回収してくれるサービスを利用するのも一つの方法です。
例えば、次のようなものが挙げられます。
- 弁護士が行う養育費の回収代行サービス
- 民間の養育費保証サービス
- 自治体による立て替え・回収サービス
②と③の場合、民間企業や自治体が養育費を一時的に立て替えて、相手に請求する方法です。
民間企業の場合は、民間の保証会社と保証契約を行いますが、保証料が発生します。
また、本来回収できるのは弁護士だけと決められており、弁護士法に違反しているとの指摘もあります。
当事務所でも完全成功報酬制の養育費回収プランがあるので、気になる人はご相談ください。
養育費は離婚後に変更も可能
養育費を取り決めても、その後双方の事情により状況が変わることもあるでしょう。
養育費は離婚後に増額や減額できる場合があります。
養育費が増額できるケース
養育費の増額を請求できるケースは次の通りです。
- 子どもが病気やケガによって継続的に高額な医療費が必要になった
- 子どもが私立学校や大学に進学した
- 養育費を受ける側が、病気やリストラ、倒産などで働けなくなった
- 支払い側の年収が増えた など
ただし、両者の収入や子どもの年齢、さまざまな事情を考慮して決定されるため、必ずしも支払いが受けられるとは限りません。
交渉の余地はあるため、話し合いや調停を申し立てて決定しましょう。
関連記事:養育費を増額するために必要な条件とは?増額を請求する方法まで弁護士が解説
養育費が減額できるケース
同様に、養育費が減額できるケースは次の通りです。
- 支払う側が病気やリストラ、倒産などで働けなくなった、もしくは収入が減った
- 受け取る側の年収が増えた
- 再婚により、支払う側に子どもができた
- 受け取る側が再婚をして、再婚相手と子どもが養子縁組をした など
収入が減少してしまい、支払いが苦しい場合には、養育費減額調停を申し立てて交渉しましょう。
養育費に関するよくある質問
養育費とは別に学費を請求できる?
子どもが私立高校や大学進学を希望する場合は、養育費とは別に特別費用として、学費を請求することができます。
支払う側が合意すれば、養育費とは別に学費を支払ってもらうことも可能です。
また、両親がもともと私立に通っていたり、収入があったりするような場合は、子どもも同程度の教育が保障されるべきとして、支払いが認められる可能性があります。
話し合いがまとまらない場合は、調停を申し立てましょう。
養育費に時効はある?
養育費の請求権にも時効があります。
すでに取り決めをしていて、支払い日に支払いが行われない場合は、支払い日の翌日から5年で時効となり、請求ができなくなります。
例えば、2020年1月25日に支払われるはずだった養育費の時効は、2025年の1月26日に成立します。
一方で、調停や審判で養育費の支払いが決定した場合は、決定後に支払われなかった養育費の時効は10年となります。
例えば、調停で離婚し、2年間は支払われていた養育費が、3年目以降支払われていない場合、3年以降の養育費については、調停から10年以内であれば請求できます。
いずれにしても、未払い分については早めに請求するようにしましょう。
取り決めをしていない過去の養育費を請求できる?
取り決めをしていない過去の養育費については、交渉で相手に請求することはできます。
相手が合意すれば、支払いを受けることも可能です。
ただし、調停や審判では、原則として、取り決めをしていない過去の養育費をさかのぼって請求することはできません。
養育費の請求権が発生するのは、調停や審判を申し立てた時や、離婚協議書などで合意した時からとされているためです。
もっとも、調停などで、過去に負担してきた養育費を考慮して決定されることもあります。
いずれにしても、養育費の請求はすぐに行うようにしてください。
不倫をした側は養育費は受け取れない?
仮に自分の不倫が原因で離婚することになっても、養育費は受け取れます。
離婚原因や不倫の事実と、子どもの養育費は全く別の問題だからです。
同居しない側の親に養育費を請求できます。
まとめ
養育費は、子どもが成長する上で、子どもにとって必要な費用であり、親には支払う義務があります。
しかし、「相手との交渉が苦痛で取り決めをしていない」などのケースもあるため、調停を利用したり、弁護士に代理交渉を依頼したりして、取り決めを行いましょう。
また、弁護士に相談することで、取り決める方法や条件、適切な養育費の金額、未払いを防止する方法などについて、適切なアドバイスを受けることができます。
「相手に支払ってほしい」「支払いが苦しいから交渉したい」など養育費や子どものことでお困りの場合は、お気軽にご相談ください。