養育費の未払いは強制執行で回収できる?流れ・費用・注意点を解説
- 養育費

養育費の未払いが続く場合、強制執行(差押え)によって支払いを求めることが可能です。
ただし、すぐに差押えができるわけではなく、公正証書や調停調書などの債務名義が必要です。
相手に財産がなかったり、勤務先が分からなかったりする場合には、手続きが長期化することもあります。
この記事では、養育費の強制執行の仕組みや流れ、よくあるトラブルのほか、弁護士に依頼した場合のメリットについて解説します。
目次
養育費の未払いによる強制執行とは?
養育費の強制執行とは、裁判所を通じて相手の財産から支払いを強制的に行う法的手続きを指します。
この手続きは、民事執行法第22条に定められており、公正証書・調停調書・判決文など、支払義務が明記された正式な書面(債務名義)が必要です。
個人の判断で勝手に差押えを行うことはできず、あくまで裁判所を通じた手続きによって実行されます。
養育費の未払いは強制執行で回収できる?
養育費を支払ってもらえない場合でも、法律に基づいた手続きによって回収できる可能性があります。
ここでは、どのような条件で強制執行が行えるのか、その根拠や注意点を解説します。
公正証書や調停調書があれば強制執行できる
公正証書や調停調書には、相手が養育費を支払わない場合に強制執行できる旨の文言が記載されます。
そのため、裁判所を通じて相手の給与や預貯金を差し押さえる手続きが可能です。
しかし、離婚時に公正証書を作成していなかった場合や、調停を経ていない場合には、家庭裁判所で養育費請求の調停や審判を申し立て、新たに債務名義を取得する必要があります。
未払い分を過去にさかのぼって請求できる場合もある
養育費の支払いが止まってから時間が経っていても、原則として過去5年分までは未払い分を請求できるとされています。
ただし、相手に支払いを求める意思を伝えないまま長期間が過ぎると時効が成立することがあるため、注意が必要です。
養育費は子どもの権利であり、正当な請求として扱われる
養育費は、親同士の問題ではなく子どもの生活を守るための法的な権利です。
強制執行は、相手を罰するための行為ではなく、支払うべき義務を果たしてもらうための正当な手続きです。
冷静に手続きを進めることで、結果的に子どもにとっても安心できる環境を整えることにつながります。
【関連記事】養育費を払ってくれない相手から回収する方法や相談先は?
養育費の強制執行を行うために必要な条件
強制執行を行うには、法律で定められた一定の条件を満たしている必要があります。
ここでは、強制執行を行うために必要な条件を解説します。
債務名義を取得している
養育費を強制的に回収するには、単に払ってくれないと訴えるだけでは認められません。
裁判所が手続きを受け付けるには、養育費の金額・支払期限・相手の義務が法的に確定していることが必要です。
法的要件を満たしていないと、せっかく申立てをしても却下されることがあるため、慎重に準備を進めましょう。
養育費の金額・支払期限の定めがある
強制執行を実行するためには、差押えの対象となる財産を特定する必要があります。
相手がどこで働き、どの銀行に口座を持っているかといった情報が分からなければ、差押えの手続きを進めることができません。
相手の住所や勤務先など、財産情報の特定ができている
強制執行を実行するためには、相手がどこで働き、どの銀行に口座を持っているかといった差押えの対象となる財産を特定する必要があります。
財産が特定できないまま申立てをしても、回収できないまま終わる可能性があるため、確実に回収を目指すなら、事前の情報収集が手続きが必要です。
口約束や私文書のみでは強制執行できない
離婚時に口頭で「毎月養育費を払う」と約束しただけでは、法律上の効力が弱く、強制執行の対象にはなりません。
加えて、自分たちで作成したメモや私文書も、裁判所から見れば、任意の合意書に過ぎないため、法的拘束力はありません。
この場合は、改めて公証役場で公正証書を作成するか、家庭裁判所に調停を申し立てて正式な書面を整える必要があります。
【関連記事】養育費を公正証書に残す際の記載内容とは?
養育費の強制執行の流れ
強制執行は、裁判所への申立てから実際の回収までいくつかの段階を経て進みます。
ここでは、主な流れと注意点を解説します。
債務名義の内容を確認して準備を整える
養育費の金額や支払条件が明記されていない場合、執行申立ては受理されません。
公正証書や調停調書を確認し、記載に誤りがないかを事前に確認する必要があります。
加えて、相手の勤務先や銀行口座など、差押え対象となる財産情報もこの時点で整理しておくとスムーズです。
裁判所へ強制執行の申立てを行う
申立ては、相手の住所地を管轄する地方裁判所で行います。
申立書に債務名義の写しや住民票、差押えたい財産に関する資料を添付し、印紙代・郵便切手代として5,000〜1万円前後を納付します。
書類に不備があると何度も補正を求められるため、正確な書類準備が欠かせません。
相手の財産から養育費を差押さえる手続きを進める
裁判所が申立てを受理すると、差押命令が発令され、勤務先や金融機関に通知が送付されます。
給与差押えの場合は、勤務先から毎月の給与の一部が直接差し引かれて支払われます。
預金差押えでは、相手の口座から未払い分が回収されますが、財産が不足している場合や、口座残高がない場合は、回収が一部にとどまることもあります。
差押結果に基づいて回収手続きを完了させる
差押命令が実行されると、裁判所から通知が届き、回収された金額が支払われます。
養育費は毎月の支払いが前提となるため、継続的な手続きが必要になる場合もあります。
加えて、相手が転職・退職した場合は、再度勤務先を特定して新たな申立てを行う必要があります。
養育費の強制執行にかかる費用と期間
強制執行の申立てには、書類の準備や裁判所への手続き費用がかかります。
申立て内容や財産の特定状況によって変わることがあるので、ここではおおよその目安を説明します。
申立て費用などの実費は5,000〜1万円前後である
申立ての際には、裁判所に納める印紙代や郵便切手代として、合計で5,000〜1万円前後が必要となります。
費用の内訳は裁判所によって多少異なりますが、給与や預金の差押えであればこの範囲で収まることが多いです。
ただし、書類の補正や再申立てが発生した場合には、追加の費用がかかることもあります。
弁護士費用は10〜20万円ほどが目安である
弁護士に相談・依頼するときの費用は、案件の難易度や回収額、使用する手続きによって大きく変わります。
未払い養育費の回収を依頼する場合、交渉段階では10〜20万円前後ですが、調停・審判・訴訟を含む手続きになると、数十万円〜数百万円になるケースもあります。
依頼前には、以下の点を確認しておくとよいでしょう。
- 着手金が費用の中に含まれるか
- 成果(回収)に応じた報酬金の計算方法
- 実費(郵便、交通、コピー代など)が別計算かどうか
- 手続きの種類(交渉・調停・訴訟など)で追加費用が出る可能性
【関連記事】養育費を弁護士に無料相談する方法|弁護士費用の相場を解説
手続き期間は1〜2か月程度が目安である
相手の勤務先や口座など、差押えの対象がすでに分かっている場合は、申立てから回収までおおむね1〜2か月程度で進むことが多いです。
申立て書類の確認や差押命令の発令に要する期間は、裁判所の混雑状況にも左右されますが、書類が整っていれば比較的スムーズに処理されます。
給与差押えの場合は、命令が勤務先に届いてから実際に支払いが始まるまでにタイムラグがある点にも注意が必要です。
財産が分からない場合は回収まで長期化する
相手の財産情報が十分に分からない場合は、照会制度を利用して勤務先や口座を調べる期間が追加され、手続き全体が数か月に及ぶこともあります。
加えて、相手が財産を隠している可能性があるときは、動産や不動産など、他の差押え対象を検討することもあるため、相手の状況によっては長期化することがあります。
養育費の強制執行は自分でもできる?
養育費の強制執行は、弁護士に依頼しなくても自分で行うことが可能です。
ただし、申立てから回収までの過程には多くの手続きがあり、正確さと時間が求められます。
ここでは、自分で行う場合の流れと注意点を解説します。
【関連記事】養育費を払ってくれない相手から回収する方法や相談先は?
強制執行は自分で申立てを行うこともできる
公正証書や調停調書など、債務名義が手元にある場合は、本人が裁判所に申立てを行うことができます。
ただし、財産の特定や差押命令の申立てなど、細かい判断や記載内容に誤りがあると、補正を求められたり申立てが却下されることもあります。
裁判所の職員は手続き方法を教えてくれますが、内容の相談や判断まではできないため、慎重な準備が必要です。
自分で行う場合は書類作成や手続きに時間がかかる
強制執行の申立てには、複数の書類を正確にそろえる必要があります。
とくに、相手の財産情報(勤務先・口座など)が不明な場合、自力で調査するのは難しく、照会制度も個人では利用できません。
書類に不備があると補正手続きに時間がかかり、結果として申立てから回収までの期間が長引く傾向にあります。
弁護士に依頼すると手続きが正確で回収率が高まる
弁護士は財産調査や照会制度の利用も行えるため、相手の勤務先や口座の特定から回収までをスムーズに進めることが可能です。
個人で行う場合に比べて、書類不備や差押えミスのリスクが少なく、結果的に回収率が高くなるケースが多いです。
【関連記事】養育費を弁護士に無料相談する方法|弁護士費用の相場を解説
養育費の強制執行をするデメリットは?
強制執行は、未払い養育費を回収するための有効な手段ですが、手続き上や心理面での負担も避けられません。
ここでは、手続きを進める際に生じやすいデメリットを解説します。
相手の勤務先に差押通知が届く可能性がある
給与の差押えを行う場合、裁判所からの差押命令が勤務先へ通知されます。
そのため、相手が職場で養育費の滞納を知られることになり、精神的な反発や関係悪化につながる可能性があります。
ただし、通知は法的な手続きに基づくものであり、受け取った勤務先が情報を外部に漏らすことは法律で禁止されています。
相手との関係が悪化するおそれがある
強制執行を行うと、相手から反発を受けることがあります。
子どもの面会交流などがある場合には、感情的な対立が子どもにも影響するおそれがあります。
しかし、養育費は子どもの生活を守るための権利であり、支払いの義務を明確にする目的で行われる手続きです。
相手の転職・退職で差押が無効になることがある
差押命令が出たあとに相手が退職や転職をすると、給与の差押えが無効となるため、新しい勤務先を特定して再申立てを行う必要があります。
加えて、個人事業主や自営業の場合は給与差押えができないため、口座差押えなど他の方法を検討する必要があります。
財産がない場合は回収が難しいこともある
相手に給与や預金などの差押え対象となる財産がない場合、強制執行を行っても回収できないことがあります。
フリーランスや無職の状態では差押えが難しく、現実的な回収見込みが立たないケースもあります。
強制執行してもお金が取れない場合の対処法
強制執行を行っても、相手に差押え可能な財産がない場合や、所在が分からない場合には、回収が長期化することがあります。
しかし、適切な手続を取ることで、再び回収の可能性を高めることは十分可能です。
ここでは、回収できないときに検討すべき法的な対処法を解説します。
財産調査を弁護士に依頼して特定してもらう
強制執行で回収できない最大の理由は、相手の財産情報が把握できていないことです。
このような場合、弁護士を通じて、第三者からの情報取得手続(民事執行法204条の2〜204条の9)を利用できます。
申立てには債務名義(公正証書や調停調書など)の写しが必要であり、対象機関に照会して得た情報をもとに、再度の差押えを申し立てることができます。
相手が自己破産しても養育費は非免責債権である
相手が自己破産を申し立てた場合でも、養育費の支払い義務は原則として免除されません。
破産法253条1項2号により、養育費は非免責債権と定められており、破産手続を終えても債務が消滅しない性質を持ちます。
したがって、破産後であっても、相手に収入が生じた段階で再度強制執行を申し立てることが可能です。
再度の未払いには間接強制を検討できる
相手が支払い能力を有しているにもかかわらず、強制執行後も養育費の支払いを拒み続ける場合には、間接強制(民事執行法172条)を申し立てることができます。
間接強制とは、裁判所が「支払わない場合は金銭的な制裁(過料)を課す」と命じ、支払いを促す制度です。
ただし、裁判所は、相手の収入状況・資産・支払拒否の経緯などを総合的に判断するため、相手が本当に支払能力を欠いている場合には認められません。
養育費の強制執行を弁護士に相談するメリットは?
養育費の強制執行は、自分でも行うことができますが、専門知識が求められる場面は多くあります。
ここでは、弁護士に依頼することで得られる主なメリットを解説します。
必要書類や申立書の作成を任せられる
強制執行の申立てでは、申立書・債務名義の写し・送達証明書など、複数の書類を正確に整える必要があります。
弁護士に依頼すれば、書類の作成・提出・補正対応をすべて任せることができ、申立て後のトラブルを防ぎやすくなります。
相手との直接交渉を避けてトラブルを防げる
強制執行を行うと、相手が感情的になり、直接のやり取りが難しくなることがあります。
弁護士が代理人として関与すれば、相手との連絡や交渉をすべて代行してもらえるため、精神的な負担を大幅に軽減できます。
相手からの嫌がらせや圧力を避けたい場合には、弁護士が窓口になることで安全な環境で手続きを進めることが可能です。
回収できない場合でも他の法的手段を提案してもらえる
財産が見つからない、自己破産されたなど、強制執行だけでは回収が難しい場合もあります。
そのようなときでも弁護士であれば、他の有効な法的手段を提案できます。
調停・訴訟などの追加手続きを見越したサポートや、中長期的に支払いを継続させる仕組みを構築することもできます。
弁護士が介入することで相手が支払いに応じやすくなる
弁護士が代理人として介入した時点で、相手が任意に支払いに応じるケースも少なくありません。
弁護士からの正式な通知書(内容証明郵便)は、心理的なプレッシャーを与えるだけでなく、後の訴訟や差押えにも有効な証拠となります。
養育費の強制執行に関するよくある質問
相手の勤務先が分からないときはどうすればいい?
相手の勤務先が不明な場合は、弁護士を通じて第三者からの情報取得手続を利用できます。
これにより、金融機関や年金機構、市区町村などから勤務先情報を照会できます。
相手が自己破産しても養育費の強制執行はできる?
養育費は非免責債権に該当するため、相手が自己破産しても支払義務はなくなりません。よって、強制執行は可能です。
【関連記事】養育費を支払うことは義務?
養育費の強制執行には時効がある?
養育費の支払請求権は、原則5年で消滅時効にかかります(民法169条)。ただし、時効は相手への請求や裁判上の手続によって中断できます。
まとめ
養育費の未払いは、子どもの生活を直撃する深刻な問題です。
強制執行は、支払いを確実に実現するための正当な法的手段であり、公正証書や調停調書などの債務名義があれば、自分で申立てることも可能です。
ただし、財産調査や書類作成には専門的な知識が必要で、申立てが却下されたり、差押えが無効になるケースもあります。
弁護士に依頼すれば、第三者照会制度を利用した財産特定や、間接強制などの追加手段も含めて、状況に応じた対応が可能です。
養育費は、子どもの生活を守るための法的支援のため、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

養育費は減額できる?再婚・生活が苦しいときの見直し条件と注意点
養育費は公正証書にすべき理由|効果・作成方法・強制執行の方法
養育費を払ってくれない相手から回収する方法や相談先は?
養育費をちゃんとほしい