離婚「知っトク」ブログ

熟年離婚で相手に慰謝料を請求するには?

2023.03.14
  • 慰謝料
  • 男女トラブル

ご自身の配偶者との離婚をご検討されている方の中で、長年の婚姻生活の中であった配偶者の行動や出来事を理由に慰謝料を請求したいとお考えの方は決して少なくはないと思います。では、法律上はどういった理由であれば慰謝料をもらうことができるのでしょうか?本記事では、熟年離婚で慰謝料をもらえるケースともらえないケースの双方熟年離婚で慰謝料以外に請求できる可能性のある金銭、及び熟年離婚で慰謝料を請求する場合の注意点について弁護士が解説します。

熟年離婚で慰謝料をもらえるケース

熟年離婚で慰謝料をもらえるケースは、一方の配偶者の行動によって他方の配偶者が受けた苦痛がお金によって償わなければならないほど重大であると法律的に評価できるケースです。以下、具体例を挙げます。

暴力・暴言

暴力行為は原則としてその行為自体が不法行為(民法709条)に該当します。そのため、慰謝料請求自体は基本的に認められ、その金額がいくらになるかということが争点になりやすい類型だといえます。他方で、暴言行為は、暴力行為と異なり、その行為があったことが直ちに慰謝料を請求できる理由になるとは限りません。すなわち、その暴言行為が身体的な暴力と同等以上の精神的な暴力といえる程度のものである必要があります。

暴力・暴言行為を理由とする慰謝料の金額は、暴力・暴言行為の具体的な態様、怪我をした場合はその怪我の内容、暴力・暴言行為があった期間、回数、頻度、その他事例ごとに様々な要素を考慮して決定されます。

不貞行為

不貞行為とは、「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」です(判例)。不貞行為は、その行為自体が不法行為(民法709条)に該当すると解されているため、慰謝料請求自体は基本的に認められ、その金額がいくらになるかということが問題になりやすい類型だと考えられます。

不貞行為を理由とする慰謝料の金額は、不貞行為の具体的な態様、不貞行為の相手の人数、属性、不貞行為をしていた期間、回数、頻度、その他事例ごとに様々な要素を考慮して決定されます。

また、不貞行為を理由とする場合は、配偶者だけでなく不貞行為の相手にも慰謝料請求をすることができます。この点、法律上は配偶者と不貞行為の相手の双方へ請求することも、どちらか片方のみに請求することも可能ですが、どちらか片方が慰謝料の全てを支払った場合、もう片方に対して支払った額の半額相当分の支払いを求めることができるため(求償請求といいます。)、注意が必要です。

悪意の遺棄

「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)とは、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」(民法752条)という同居、協力、扶助の義務を正当な理由なく放棄することをいいます。ただし、実務上は、単に別居状態にあるという事情や、生活費を支払わないといった事情があるというだけでは「悪意の遺棄」と認められることは難しいです。なぜなら、この類型では、上記の「正当な理由」の存在が比較的広く肯定されることが多いためです。典型例としては、前者については「すでに婚姻関係が破綻しているから別居状態にある」、後者については「働くことができないため生活費を支払うことができない」といった理由が「正当な理由」と認められます。

したがって、この類型は、ある行為が「悪意の遺棄」に当たるといえれば慰謝料請求の対象になるものの、その行為が「悪意の遺棄」に当たると認められるためのハードルが高いという性質があります。

以上から、配偶者が別居を開始したことを理由として慰謝料請求をすることを検討されている方は、注意が必要です。

セックスレス

セックスレスを理由とする慰謝料請求が認められる前提として、セックスレスの状態が一方の配偶者による一方的な性交渉の拒否によって起きているといえることが必要です。すなわち、双方ともに性交渉に消極的である場合等はこの前提から外れることになります。

さらに、一方の配偶者による一方的な性交渉の拒否があるとしても、その拒否に合理的な理由がある場合は慰謝料請求の対象にはなりません。例えば、心身の不調や女性の場合の妊娠・出産等で性交渉ができない状態にある場合や、拒否されている側の配偶者に暴力や暴言、不貞行為等の有責行為がある場合が典型例となります。

反対に、拒否している側の配偶者が、自身の配偶者との性交渉は拒否しているにも関わらず第三者との間で不貞行為をしている、性交渉を拒否しながらポルノ雑誌に異常な関心を示して自慰行為をしている等の事例で、一方の配偶者による一方的な性交渉の拒否に合理的な理由はないと裁判所に判断された事例が存在します。

したがって、この類型によって慰謝料請求をするためは、セックスレスの状態に至った経緯がどのようなものであるかが重要であるといえます。

熟年離婚で慰謝料をもらえないケース

熟年離婚で慰謝料をもらえないケースは、もらえるケースとは反対に、一方の配偶者の行動によって他方の配偶者が苦痛を受けているものの、法律的にはお金によって償わなければならないほど重大とはいえないと評価せざるを得ないケースです。以下、具体例を挙げます。

離婚原因が性格の不一致のみの場合

上記の場合に慰謝料を請求できない理由は、「性格の不一致」に当たる個人の価値観、考え方の違いは夫婦のどちらにも責任のない事象だからです。つまり、いわゆる「お互い様」のことであるため、慰謝料を請求することはできません。

離婚原因が自分にある場合

自分自身が配偶者に暴力を振るった又は不貞行為をした等の理由で離婚に至った場合、当然離婚に際して慰謝料を請求することはできません。

不法行為が時効になっている場合

法律には、何らかの権利が発生してから一定期間が経つとその権利が消滅してしまうという制度があります。これは消滅時効(民法724条)といい、熟年離婚で慰謝料を請求する場合にも適用があります。

熟年離婚で慰謝料を請求する場合に、その権利が消滅してしまうまでの時間は以下の2つがあります。

①損害及び加害者を知った時から3年間

②慰謝料請求の原因となる行為(不法行為)の時から20年間

離婚原因となった行為と慰謝料請求の原因となる行為は基本的には同じと考えられますので、①が適用されて「離婚成立日から3年間」となる場合が多いと考えられます。

他方で、不貞行為があった場合等で、離婚成立後に当該慰謝料請求の原因となる行為が判明した場合は、その判明の時から3年間となると考えられます。ただし、その不貞行為の時から20年以上経っている場合は、②が適用されるため権利は消滅してしまっているとの結論になるでしょう。

また、不貞行為の場合は不貞行為の相手に対しても慰謝料の請求ができますが、不貞行為の相手との関係では、「不貞行為そのものと不貞行為の相手の名前を知った時から3年間」となると考えられます。つまり、配偶者との関係での消滅時効とは別個に進行していくこととなるため、注意が必要です。

熟年離婚で慰謝料以外に請求できるもの

以上では慰謝料を請求できるケース、できないケースのそれぞれについて解説しましたが、慰謝料を請求できないケースに当たる方の中には、それでも何らかのお金を支払ってもらえないと納得ができないとお考えの方もいらっしゃると思います。また、慰謝料を請求できるケースの場合でも、その他にお金を支払ってもらえることはあるのか、と疑問に思う方もいらっしゃると思います。以下では、熟年離婚で慰謝料以外に請求できる可能性のあるお金について解説します。

婚姻期間中における財産の財産分与

婚姻期間中は、基本的に夫婦で協力し合って財産を形成していくと考えられます。この財産を離婚時に清算するのが財産分与という制度(民法768条)と解釈されています。財産分与では、原則は財産を形成するための夫婦の貢献度は同程度と考え、婚姻期間中に得られた財産を折半することになります。具体的には、婚姻後に購入した不動産、自動車、株式や、加入した生命保険、預貯金、退職金のうち婚姻期間に相当する分等が対象の財産となります。他方で、独身時代からの財産や相続で得た財産等の、夫婦で協力し合って形成したとはいえない財産はいわゆる「特有財産」(民法762条1項)と呼ばれ、財産分与の対象にはなりません。

熟年離婚の方は、婚姻期間が長いため、財産分与の請求をする方が望ましいケースが多いです。

退職金

退職金のうち、婚姻期間に相当する分、すなわち、退職金総額を独身時代も含めたその人の全就労年数で割り、その数値に婚姻時から退職時までの年数をかけた金額については、財産分与としてこの半額を支払ってもらえることが基本です。

ただし、熟年離婚の場合は特に、退職金が既に元勤務先から支払われてしまっているかという点に注意する必要があります。

というのも、財産は日々流動することが普通であり、協議のためには必然的に財産分与の対象となる財産の存在・価値を算出する基準となる時点を決める必要があります。そして、その基準時は原則、離婚前に別居していた場合は別居時、していない場合は離婚時とされます。つまり、この基準時前に既に退職金が支払われて預貯金等の他の財産と混ざり合った場合は、基準時に預貯金として現存している分のみを分与すればよいことになります。熟年離婚の場合は協議開始時点で既に定年退職を経ていることも珍しくないため、今一度ご確認いただくことをお勧めします。

年金

婚姻期間中に配偶者が厚生年金に加入していた期間があり、配偶者の納めた保険料の方が多い場合には、配偶者が婚姻期間中に納めた保険料の実績記録の分割を請求することができます。この制度は年金分割と言われ、基本的には分割の割合は半分(0.5)になります。受給額そのものを分割する訳ではないため、受給額が劇的に増える訳ではありませんが、請求することのデメリットは特にないため、請求することをお勧めします。

熟年離婚で慰謝料を請求するときの注意点

慰謝料を請求できるケースに共通する注意点として、「慰謝料を請求する原因となる配偶者の行動を立証することができるか」という点があります。すなわち、ご自身の状況が本記事で慰謝料を請求できるケースとして紹介した事例に該当するとしても、実際の状況の経過次第で、慰謝料を請求する原因を証拠によって立証する必要が生じる可能性があるということです。

具体的には、話し合いの段階ですぐに相手が慰謝料の支払いに応じれば問題にはならず、支払いを拒否した場合に問題となります。この場合は、お互いの主張が平行線を辿ってしまっている以上、そのままではいつまで経っても慰謝料をもらえません。そのため、その状況を打開するためには訴訟等の裁判所を使う手続きに移行せざるを得ないことになります。

この点、裁判所はどちらの当事者に対しても中立、公平な存在であり、また、慰謝料を請求する原因の存在を直接見聞きすることもできません。そのため、ただ「○○ということがあった。だから慰謝料を請求する。」と主張するだけでは、裁判所はこの主張を受け入れてはくれません。そのため、その主張が真実であると裁判所側が納得するだけの証拠を示さなければならないということになります。

熟年離婚において慰謝料を請求することをご検討中の皆様には、このような将来的な可能性に備えて、配偶者に話し合いを持ち掛ける前の段階から、できる限り証拠となり得る資料を収集していただきたいと思います。どのような資料を収集すべきかは慰謝料を請求する原因によって違ってくるものではありますが、なるべく客観的な資料(録音、録画データ、写真や画像データ、医師の診断書等)が多い方が望ましいです。

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熟年離婚の慰謝料請求においては、どのような状況があれば慰謝料を請求できるのか、金額はどれくらいになるのか、慰謝料支払いを拒否される場合はどう対応すればよいのか、他の金銭請求との関係はどうなるのか等、個々の事情次第で結論が変わりやすい場面が多いです。そのため、それぞれの具体的な状況、事情を踏まえた専門的な判断を加えた方が望ましい事例が少なくありません。

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