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養育費を増額するために必要な条件とは?増額を請求する方法まで弁護士が解説

2024.04.27
  • 養育費

養育費をいったん無事に決めることができたものの、その後その養育費を増やしてもらう必要性が出てくることは、よくある法的問題です。では、養育費を増額してもらうためには、どのように行動すればよいのでしょうか。弁護士が解説します。

養育費の増額請求のために必要な条件の具体例

まず、法律実務ではどのような時でも養育費の増額が認められるという訳ではありません。理論上、法律的にも養育費の増額を認めることができる基準として、

①養育費を決めた後に起こった変化が、養育費を決めた当時には予測できなかったこと

②既に決まっている内容を維持し続けると、当事者同士の公平に反してしまうこと

といった枠組みが考案、運用されています。

したがって、当事者同士で話し合いをして増額の合意ができる場合はともかく、話し合いができない場合や増額を拒否された場合には後記の調停手続等の法的な手続の利用を考えることとなりますが、その際は最終的にその法的な手続で増額が認められるかどうかの予測を上記の基準で立てておいた方が賢明ということになります。

そして、上記基準に当てはめた場合、養育費の増額が認められる傾向にある典型的なケースは以下のものがあります。

受け取る側の収入が減少

病気、怪我で働けなくなってしまった場合、その分を養育費によって補填してもらえないと、子供の生活も立ち行かなくなってしまう可能性があります。そうだとすると、このような場合は、その病気や怪我が予測できず、当事者同士の公平にもそぐわないということで、養育費の増額が認められる方向となりやすいでしょう。

ただし、働ける状態であるにも関わらず自分の意思で働かないと判断されてしまい得る場合は、注意が必要です。そのような場合にも養育費を増額することが当事者にとって公平かどうか、話し合いや調停の場において議論の対象となることは避けられないでしょうし、仮に「養育費を変更しましょう」という方向で話が進んだとしても、実際の年収ではなく、「働いたとしたら得ることができるであろう年収」を基準に算定される可能性があるためです。

支払う側の収入が増加

支払う側の収入が増加した場合、当初の金額よりも多い金額を負担できる状態となります。また、一般論として、支払うべき養育費の金額の目安として「養育費を支払う自分自身と同程度の生活レベルを子供も維持、確保できる金額」という考え方があります。そうすると、支払う側の収入が増加して生活レベルが上がった場合は、子供にもそれを維持、確保する必要があるという結論につながります。

とはいえ、例えば当初に養育費を取り決めた際と同じ勤務先に勤め続け、昇進等で年収が上がったといった場合だと、当初の取り決めの際に勤務先の給与体系、人事等が考慮されていた、すなわち、昇進して年収が上がることも予測されていたと判断される可能性があります。かといって、転職、起業で年収が増えた場合だと、受け取る側に相手側の状況に関する具体的な資料が十分ないということも多く、いくら増加したのかということの認定が困難となり、変更後の養育費を算定できないといった別の問題にもなり得ます。

したがって、受け取り側の立場から見た場合、支払う側の年収増加を理由に養育費の増額を求めることは、現実には一筋縄ではいかない印象です。

子供の教育費、医療費の増加

・子供の教育費が増加した場合

子供の大学や私立学校への進学で教育費が増加した場合、上記基準との関係では、初めに養育費を決めた時に子供が進学することがどの程度確実であったかどうかということが重要になります。例えば「養育費を決めた時には子供はまだ未就学児で、大学や私立学校に進学するかどうかはまだ未知数であった」という場合であれば、養育費を決めた時に大学や私立学校に進学することの「予測」まではできなかったといえ、大学や私立学校に進学することが決まった時点で養育費の増額を求めることができるという結論になるでしょう。

他方、「養育費を決めた時に既に大学や私立学校に合格していた等、大学や私立学校に進学することが確実であった」場合であれば、養育費を決める際に大学や私立学校に進学するという事情も考慮できたといえるため、増額は難しいという結論になってしまうかもしれません。

・子供の医療費が増加した場合

子供が突然の怪我や病気に見舞われた場合、それによって発生した医療費が社会通念上標準的な金額の範囲内に収まる場合は、既に決まっている養育費の金額の中に織り込み済みであると評価されることが多いです(「養育費標準算定表」という裁判所が作成した表を用いて養育費を決めた場合は、この表の元になった理論自体で標準的な医療費分が考慮されていることから、「標準的な金額の範囲内の医療費は考慮済みである」と判断されてしまうことが通常です。)。

他方で、医療費が標準よりも高額になってしまうような重い怪我や病気の場合は、養育費を決めた時にはそのような事情は考慮されていないといえ、その時点からの増額を求めることができる可能性があります。

養育費の増額請求が認められないケース

以上、養育費の増額請求が認められ得る典型的なケースをご紹介しましたが、共通しているのは、やはり、①養育費を決めた後に起こった変化が、養育費を決めた当時には予測できなかったこと ②既に決まっている内容を維持し続けると、当事者同士の公平に反してしまうこと という基準に当てはまるということかと思います。

そのため、例えば、高額な旅行や高級な飲食店に行きたいといった理由や、子供には関係のない出費を補填して欲しいといった理由では増額は認められないということになります。

養育費の増額請求の方法・流れ

当事者間で話し合い、合意内容を公正証書にする

まずは、いきなり裁判所に話を持って行くのではなく、当事者同士で話し合いができないか試みることがよいでしょう。裁判所の手続は、確実に解決に向けて進めていくことはできても、素早さとは無縁であるのが実情であるからです。初めに当事者同士で話をしてみて、それで特に揉めることなく合意ができるのであれば、それに越したことはありません。

また、当事者同士で話し合って合意をすることができたならば、その内容を公正証書とすることをお勧めします。公正証書に残しておくことで、いつ、どのような内容の約束をしたかということを後から確認することができますし、「強制執行受諾文言」という文言を公正証書内に加えることで、万が一約束を破られてしまった時に「強制執行」という、支払いを強制できる手段を利用することができるようになります。

養育費増額調停

当事者同士で話し合いができない場合や増額を拒否されてしまった場合は、養育費増額調停の申立てを行うことを検討しましょう。調停も話し合いの手続ではありますが、合意ができず調停不成立となった場合でも、後記の審判に移行するため、最終的には何らかの結論を得ることができるためです。

養育費増額審判

前記のとおり、養育費増額調停が不成立で終了した場合は、自動的に「審判」という手続きに移行し、裁判官が当事者双方の主張を踏まえて養育費増額の是非について判断することになります。この段階では、法律的にどのように考えられるか、すなわち、上記基準に当てはめてどのようになるかということが非常に重視されるといえるでしょう。養育費増額を求める最初の段階で「最終的に増額が認められるかどうかの予測を立てておいたこと」が活きるということになります。

増額できる養育費の相場

家庭裁判所が作成した、養育費の金額を簡単に決めるためのツールとして、「養育費標準算定表」という表が存在します。この表は、統計資料等の客観的な資料から導かれた計算式を元にしているため、法的な公平性のあるものとして広く法律実務の現場で用いられているものです。そして、この表は、当事者の年収と子供の年齢・人数を当てはめるものであるため、年収の増減を養育費増額の理由とする場合は、これを用いて算出することになろうかと思います。

他方で、子供の医療費、教育費の増加を理由とする場合は、この表では対応しきれない側面があります。具体的にどれくらい増加するか、支払期限はいつ頃かといったことが分かる客観的な資料を提示しながら、養育費増額の必要性を丁寧に説明することが求められるでしょう。

養育費でお悩みの方は弁護士法人なかま法律事務所へ

以上、本記事では養育費の増額請求のために必要な条件を解説しました。弊所では、養育費増額請求の対応経験豊富な弁護士とスタッフが、あなたのお悩みに寄り添い、解決のために全力でサポートをさせていただきます。平日18時までの初回相談は無料でお受けしておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。