離婚「知っトク」ブログ

貞操義務とは?違反時の慰謝料請求について弁護士が解説

2023.03.20
  • 慰謝料
  • 男女トラブル

夫婦は、独身の人に比べ、結婚していることにより法律上様々な権利と義務を持ちます。夫婦の義務について規定している民法752条を見ますと、次のように書かれています。

◆民法752条(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

夫婦は、同居する義務があり、互いに協力する義務があり、助けあう(扶助)義務があることが分かります。

しかし、夫婦はもう一つ、大切な義務を負っています。それが、貞操義務です。

貞操義務とは

「貞操」とは、夫婦がお互いに性的な純潔を守ること、つまりお互いに相手以外の人と肉体関係を持たないことを意味します。よって、貞操義務とは、夫婦がお互いに相手以外と肉体関係を持たない義務ということになります。

しかし、この貞操義務は、先ほどの民法752条には書かれていませんでした。では、法律上どこに夫婦の貞操義務が規定されているのでしょうか?

実は、夫婦が裁判で離婚を求める場合の条件について規定している民法770条に、その答えがあります。

◆民法770条(裁判上の離婚)

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

1 配偶者に不貞な行為があったとき。

(以下略)

判例によれば、不貞行為とは、配偶者がいる人が、自分の意思で配偶者以外の人と肉体関係を持つことを意味します(最判昭和48年11月15日)。民法770条では、この不貞行為をした場合、離婚の訴えを提起できると規定されていますから、不貞行為をすれば結婚している状態を維持できなくなることになります。よって、不貞行為をしない義務すなわち貞操義務があることがこの条文から明らかになるのです。

貞操義務違反の例

では、具体的にどのような行為が貞操義務違反となるのでしょうか?

⑴配偶者以外の人との性交渉

先ほど、貞操義務とは、「夫婦がお互いに相手以外と肉体関係を持たない義務」とご説明しました。とすれば、配偶者以外の人と肉体関係を持つすなわち性交渉をすることが、貞操義務違反ということになります。

⑵その他の行為について

しかし、いわゆる不倫と呼ばれる行為には、配偶者以外の人との性交渉の他にも、キスやハグ、デートやメールのやり取りなども考えられるところです。

先ほどの貞操義務の定義からすれば、これらの行為をしたとしても、貞操義務違反にはならないといえます。ただし、現在の裁判所は、少なくとも慰謝料請求の場面では、配偶者以外と肉体関係を持つことだけでなく、夫婦の平穏な婚姻生活を侵害する行為であれば、慰謝料請求の原因になると捉えているようです。

貞操義務違反で慰謝料請求できるのか?

貞操義務違反による慰謝料請求先

貞操義務違反による慰謝料請求先としては、まず貞操義務違反をした配偶者が考えられます。また、配偶者と不貞行為をした相手に慰謝料請求をすることも考えられます。2人に対し慰謝料請求することもできますし、どちらか一方に対してのみ慰謝料請求をすることもできます。

貞操義務違反で慰謝料請求できないケース

ここで注意しておきたい点としては、貞操義務違反があるのに、慰謝料請求できない場合があることです。

⑴婚姻関係が破綻していた場合

貞操義務違反があった時点で、既に夫婦の婚姻関係が破綻していた場合には、慰謝料請求ができません。婚姻関係が破綻していたと評価される具体例としては、長期間別居していて連絡を取っていない、離婚することでお互い合意していたなどが考えられます。

⑵不倫相手が、配偶者の婚姻生活が破綻していたと過失なく信じていた場合

慰謝料を請求するためには、「不倫相手が、自身の不倫相手(配偶者)が既婚者であり、夫婦として婚姻生活を営んでいる(破綻していない)ことを知っている(故意)か、知ることができたはずなのに知らなった(過失)」という要件が必要になります。この点について、不倫相手から、実際には婚姻関係が破綻していなかったものの、不倫相手は婚姻関係が破綻していたと信じていたという主張をするケースがあります。不倫相手のこの主張が認められれば、慰謝料請求の要件を満たさないことになるので、慰謝料請求をすることはできません。しかし、この主張が裁判で認められることは通常ありません。既婚者であるかどうかは、指輪などで容易に確認することができますし、既婚者であることが分かっていたら、たとえ婚姻関係が破綻していると言われていたとしても、それを鵜呑みにすべきではなく、慎重に確認することが期待されるからです。

⑶自分も有責行為をしていた場合

配偶者に貞操義務違反があったとしても、自分が同じように貞操義務に違反していたり、DVをしていたりするなど、同じように有責行為をしていた場合、慰謝料請求ができない場合があります。

⑷既にお金を受け取っていた場合

配偶者や不倫相手から、貞操義務違反を理由として既にお金を受け取っている場合、損害が補填されていると評価され、受け取った金額に相当する部分の慰謝料は請求できなくなると考えられます(受け取った金額と請求できる慰謝料額に差がある場合には、差額分を請求することは可能です)。なお、受け取ったお金の名目が「慰謝料」ではなく「解決金」など別の名目のものであったとしても、貞操義務違反に対するお金の支払いと評価されるものであれば、既に慰謝料を支払ったものと評価されます。

⑸時効が成立している場合

貞操義務違反の慰謝料請求には、時効が存在します。

①配偶者の場合

配偶者に対する慰謝料請求の時効は、貞操義務違反があったことを知ったときから3年です。なお、離婚する場合には離婚のときから3年です。

②不倫相手の場合

不倫相手に対する慰謝料請求の時効は、貞操義務違反があったこと及び不倫相手が誰なのかを知ったときから3年です。

また、①②いずれの場合でも、貞操義務違反から20年たった場合も、時効が成立します。

これらの時効期間が経過してしまうと、慰謝料を請求することができなくなってしまいます。

⑹証拠がない場合

証拠がない場合には、相手が認めない限り慰謝料の支払いを訴訟で認めてもらうことはできません。このケースは、上記の⑴から⑸までの理由とは少し違うケースになります。上記⑴から⑸の場合は、「貞操義務違反はあったけど、慰謝料の請求は認められない」という判断になるのに対し、⑹の場合は、「そもそも貞操義務違反が存在しないので、慰謝料の請求は認められない」と判断されるためです。

貞操義務違反による慰謝料の相場金額

貞操義務違反による慰謝料の相場金額は、100万円から300万円ほどになるケースが多いです。しかし、個別具体的な事情によりその金額は大きく変動します。慰謝料の金額に影響を与える事情としては、婚姻期間、婚姻関係(良好なのか険悪なのか)、不貞行為の態様(回数など)、夫婦の離婚、小さい子の存在などが挙げられます。

慰謝料請求する場合に押さえておきたいポイント

慰謝料請求をする場合に押さえておきたいポイントがいくつかあります。

⑴証拠を集める

もっとも重要なことは、何といっても証拠です。証拠の存在は、慰謝料請求が認められるか否かはもちろん、慰謝料の金額にも影響を及ぼします。不貞行為を撮影した動画や、ラブホテルに入っていくところを撮影した写真、不貞行為を認める内容の音声データや書面などがあれば、有力な証拠といえます。しかし、そのような強力な証拠がなくても、様々な証拠を組み合わせることで貞操義務違反を立証することも可能です。

⑵時効に注意する

前述のとおり、時効が成立している場合、慰謝料請求をすることができなくなってしまいます。せっかく証拠があっても、訴訟で慰謝料請求をすることができなくなってしまうので注意が必要です。

いずれにしても、スピーディーに動くことが大切といえます。

慰謝料請求する手順

慰謝料請求をする手順は、次のようになるのが一般的です。

①内容証明を送付する

慰謝料の支払いを求める内容証明郵便を相手に送ります。これによって相手が交渉に応じてくれるのであれば、訴訟に移行する必要はありません。また、このときに合意ができるのであれば、公正証書などの書面にしておくことで、のちの紛争を防止できます。

②調停を申し立てる

内容証明を送っても無視されたり、慰謝料の支払いを拒否されたりした場合、調停を申し立てることが考えられます。ただ、調停も当事者間でのお話合いがベースになります。明らかに慰謝料の支払いをする気がない相手に対しては、調停をするメリットは乏しく、はじめから訴訟提起することを検討した方がよいでしょう。

③訴訟提起する

任意の支払いに応じてもらえない場合には、最終的に訴訟提起することになります。訴訟において自分の主張が認められれば、慰謝料の支払いを受けることができます。また、訴訟の途中で和解による解決ができる可能性もあります。

貞操義務違反の慰謝料請求を弁護士に依頼すべき理由

貞操義務違反の慰謝料請求を弁護士に依頼すべき理由には次のようなものがあります。

①勝訴可能性を高める

訴訟は、自分だけで提起することも可能ですが、自分の主張を裁判所に認めてもらうためには、法的知識が不可欠です。また、具体的事実から何を主張するのが効果的なのか判断したり、相手の反論に対し適切に再反論したりするためには、法的知識に加え、分析力や経験も必要といえます。このような力を持つ弁護士に依頼することで、勝訴可能性がぐっと高まります。

②裁判所や相手方との対応を任せられる

慰謝料請求をするためには、相手方とのやり取りが必要不可欠です。しかし、相手方は自分に精神的苦痛を与えた人ですから、相手方とのやり取りの際に感情的になってしまったり、相手方とのやり取りのたびにつらい記憶を思い出し傷ついたりしてしまうおそれがあります。また、調停や訴訟になれば、裁判所ともやり取りしなければならなくなります。裁判所は平日しか開きません(しかも、基本的に17時まで)ので、お仕事などがある人が裁判所とやり取りすることはときに困難です。弁護士に依頼することで、相手方や裁判所への対応のほぼすべてを弁護士に任せられますので、精神的負担や時間的負担を大きく減らすことができます。

 

この記事の監修者

この記事の監修者

中間 隼人Hayato Nakama

なかま法律事務所
代表弁護士/中小企業診断士
神奈川県横浜市出身 1985年生まれ
一橋大学法科大学院修了。
神奈川県弁護士会(65期)