不倫された側の離婚時における慰謝料請求のポイントとは?
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配偶者が不倫をしたことをきっかけに離婚をお考えになっている方の中には、離婚時に不倫についての慰謝料を請求したいと思われている方も多いと思います。
本記事では、不倫された側の離婚時における慰謝料請求のポイントについて、弁護士が解説します。
目次
不倫の慰謝料を請求する際のポイント
不倫の慰謝料請求の可否
大前提として、法律上は、「不倫」に当たる行為の全てについて慰謝料請求ができる訳ではありません。
というのも、慰謝料請求を法律上の権利として行うための根拠となる民法の規定は、以下のようなものだからです。
どういうことかというと、他人の違法な行為によって受けた被害をその者にお金で償わせるということを法律上の権利として行うためには、この条文に書かれている条件を満たす必要があるということです。具体的には、配偶者のある行為を理由に慰謝料請求をする場合は、その配偶者の行為があなたの「権利又は法律上保護される利益を侵害」するものだと法的に評価できる必要があります。
この点、「不倫」と似た意味の言葉に「不貞行為」という言葉があります。日常的にはこれらの言葉はあまり区別されないかもしれませんが、法律的には「不倫」と「不貞行為」は別の概念であると考えられています。すなわち、法律実務においては不貞行為は「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と定義づけられており、性的接触に満たない身体的接触や単なるデート等は「不貞行為」には当たらないと理解されているのです。
そして、民法では夫婦がお互いに対して「貞操義務」すなわち「夫婦がお互いに配偶者以外の者と肉体関係を持たない義務」を負っていると解釈されています。したがって、「貞操義務」に反する行為、すなわち「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶ」行為である不貞行為が「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為であると断じられるので、法律上の権利として慰謝料を請求することができるという理屈になるのです。
以上から、配偶者の不倫について慰謝料請求ができないか検討するにあたっては、まずはその不倫が「不貞行為」に当たるかどうかを検討することになります。
請求可能期間
配偶者の不倫について慰謝料請求を検討する場合は、「消滅時効」という制度にも注意をする必要があります。民法では、以下のように定められています。
この文章を慰謝料請求の場面に引き直すと、第1項については「不貞行為があったということ及び不貞相手である第三者の氏名を知った時から3年間で慰謝料請求ができなくなる」、第2項については「不貞行為それ自体があった時から20年間で慰謝料請求ができなくなる」と読むことになります。第2項の規定についてはともかく、第1項の3年間という時間は意外とあっという間です。したがって、配偶者の不倫が「不貞行為」に当たることや、その不倫の相手が誰かということが判明した場合は、できる限り早く慰謝料請求をするか否かの決断をすべきといえるでしょう。
不倫の慰謝料請求は配偶者、不倫相手のどちらにも請求可能
不倫の慰謝料は、配偶者と第三者が不貞行為を行ったことを理由に請求する慰謝料です。そのため、この慰謝料は、不貞行為を行った配偶者のみならず、配偶者と不貞行為を行った不倫相手にも請求することができます。また、配偶者と不倫相手の両方ともに請求することも、どちらか片方のみに請求することも可能です。
ただし、不倫相手のみに請求する場合、大きな注意点があります。それは、その不倫相手が最終的に合意されたまたは認められた慰謝料の金額の全てを支払った場合、その不倫相手から配偶者に対して、その不倫相手が支払った額の半額相当分の金銭の支払いを求めることができるという点です。これは専門用語で求償権と呼ばれているものですが、これをそのままにしておくと、せっかく不倫相手に慰謝料を支払わせたとしても、その半額相当分については結局夫婦間でお金が循環したにすぎないという結果に終わってしまいます。特に配偶者と同居している場合は、家計が同一である以上お金は実質的には動いていないということにもなり、慰謝料請求をした意味が失われてしまいかねません。そこで、不倫相手のみに請求する場合は、交渉の中で、不倫相手に対して求償権を放棄するよう働きかけることが重要になります。
接触の禁止
交渉の中での働きかけが重要になることは、不倫相手に対する求償権の放棄以外にももう一つあります。それは、配偶者と不貞行為の相手方となった不倫相手がこれ以上接触することを禁止することです。このような接触の禁止の約束は、万が一不貞行為を理由とする慰謝料請求が話し合いで解決できず訴訟となり、かつ訴訟内でも和解できず判決となった場合は、判決の中に入れ込むことはできないこととなっています。
したがって、配偶者に不倫をされたことを理由とした責任追及をご検討されるにあたっては、ご自身の本当の望みや重視する価値観がどこにあるのかということをなるべく早い段階で整理、検討されることをお勧めします。「お金よりも配偶者と不倫相手の人間関係を断つ方が優先である」とお考えであれば、話し合いの段階で解決すべき必要性が高いということになり、具体的な交渉の方法もそれに合わせたものとすべきといえるからです。
法的に慰謝料を請求できる権利があるのは配偶者のみ
上記「不倫の慰謝料請求可否」で記載したように、民法では夫婦がお互いに対して「貞操義務」を負っているということ、不貞行為はこの義務に反する行為だからこそ慰謝料請求の対象となるということからは、法的に慰謝料を請求できる権利があるのは配偶者のみということになります。
したがって、ご本人が行動を起こさない中で、その周囲の人がご本人に代わってご本人の配偶者や不倫相手である第三者に慰謝料を請求するといったことはできないこととなります。
不倫慰謝料を請求できないケース
それでは、不倫慰謝料を請求できないケースとは、どういったケースなのでしょうか。
この質問の答えについては、「初めから請求できないことが確実なケース」と「結果的に請求ができないケース」とに分けられます。
さらに言うと、前者の「初めから請求できないことが確実なケース」については、上記の各項目の中で既に表れています。つまり、
①配偶者と不倫相手が行った行為が、法律上の「不貞行為」の定義に当てはまらないケース(→上記「不倫の慰謝料請求の可否」の項目をご参照ください。)
②不貞をされた側が配偶者の不貞行為があったということ及び不貞相手である第三者の氏名を知った時から既に3年以上が経っているケース(→上記「請求可能期間」の項目をご参照ください。)
③不貞行為から既に20年以上が経っているケース(→上記「請求可能期間」の項目をご参照ください。)
というように整理をすることができます。これらのケースは、法律実務上の定義や法律の規定に抵触することが明らかであるため、初めから請求できないことが確実といえる、ということになります。
他方、後者の「結果的に請求ができないケース」については、配偶者または不倫相手、あるいはその両方に慰謝料請求をしたものの、必要な証拠が不足していたために結果的に請求が認められなかったというケースが考えられます。この「必要な証拠」については、下記の「慰謝料請求のために必要な証拠」の項目で詳しくご説明します。
浮気・不倫慰謝料の相場
不倫慰謝料を請求することを考える時、やはり「どれくらいのお金がもらえるのか?」という相場観は気になる方が多いと思います。この点、結論から言うと、このような不倫慰謝料、すなわち不貞行為を理由とする慰謝料請求をした時に最終的に認められる金額には、はっきりとした相場はありません。慰謝料というのは、他の人と比較をすることが難しい心の中の怒り、悲しみ、辛さといった苦痛を、「このような事案であれば、一般的にはこれくらいの苦痛を感じるだろう」と評価してお金に換算するものだからです。
もっとも、個別の背景事情のパターンごとに、ある程度の傾向は存在します。
離婚・別居・夫婦関係を継続、のパターン別の相場
・不貞行為の結果、離婚や別居に至ったパターン
この場合の相場は、おおむね100~300万円というところかと思います。
生じた結果が婚姻関係の破壊という、精神的な苦痛が大きいと一般的に考えられるものである以上、相場もこれに比例して大きくなるといえます。
・不貞行為があっても夫婦関係は継続するパターン
この場合の相場は、おおむね数十~100万円というところかと思います。
「不貞行為の結果、離婚や別居に至ったパターン」よりも金額が安くなってしまうのは、夫婦関係が継続している、あるいは同居が続いているという場合は、どうしても離婚や別居に至ったパターンよりももたらした結果の程度(精神的な苦痛)が小さいという評価につながってしまうためです。
慰謝料請求の流れと注意点
離婚する場合
配偶者と離婚する場合は、慰謝料請求と並行して、配偶者との間で離婚それ自体についてや他の離婚条件(例えば財産分与、親権、養育費、面会交流等)についての話し合いを行う必要が生じます。不倫相手に対しては慰謝料請求をしないということであれば、話し合いの相手方は配偶者一人のみということになりますが、不倫相手に対する慰謝料請求も同時に行う場合は、配偶者・不倫相手の二人を同時に相手取って話し合いをする必要が生じます。そうすると、話し合いに伴う心的な負担がより大きくなることが予想されるうえ、こちら側の主張や請求について、配偶者に対するものと不倫相手に対するものとで事実的にも法的にも整合性を維持する必要も生じます。すなわち、このようなケースでは、話し合いが複雑化、専門化しやすいといえ、これが注意点となります。
夫婦関係を継続し、不倫相手に慰謝料を請求する場合
夫婦関係を継続し、不倫相手に慰謝料を請求する場合は、不倫相手のみを相手取って、不貞行為を理由とする慰謝料請求のみを話し合っていくことになります。弁護士に話し合いの代理人をご依頼いただく場合は、まず慰謝料請求をする旨記載した内容証明郵便を送り、書面でやりとりをすることが基本です。
また、上記の「不倫の慰謝料請求は配偶者、不倫相手のどちらにも請求可能」の項目でもご説明したとおり、「結局夫婦内でお金が循環しただけだった」となってしまうことを避けるためには、不倫相手が配偶者に対して有する求償権を放棄させることが重要です。
その他、「浮気・不倫慰謝料の相場」の項目でもご説明したとおり、離婚する場合と比べて慰謝料が安くなる傾向があるということも注意が必要でしょう。
慰謝料請求のために必要な証拠
必要となる証拠
前提として、証拠については、法律実務では、「ターゲットとなる事実が存在することを『直接』立証できる証拠」と「ターゲットとなる事実が存在することを『推認する』事実を立証する証拠」に分けられます。この点、不倫慰謝料請求の場面では、「ターゲットとなる事実」は何よりもまずは「配偶者と不倫相手が不貞行為に及んだ事実」となります。そうすると、具体的には、前者に該当しうる証拠は、配偶者が不倫相手とラブホテルに入って数時間出てこなかったことが書かれている探偵の報告書、配偶者や不倫相手が不貞行為を認めている音声の録音データやLINE・メール等の文章や手紙、念書等が挙げられます。一方で、後者に該当しうる証拠は、配偶者と不倫相手が単にやりとりをしているLINEやメールの履歴、相手に宛てた手紙やプレゼント、ツーショット写真、配偶者や不倫相手の手帳や日記の記載等、前者よりも幅広く観念することができます。
この点、どちらかというと望ましいのは、ターゲットとなる不貞行為の事実を直接立証できる、前者に該当しうる証拠が存在することですが、例え前者に該当しうる証拠がなかったとしても諦める必要はありません。というのも、法律実務では、ターゲットとなる事実が本当にあったかどうかということを判断するにあたっては、「今、このような資料が残っているということは、過去にこういうことがあったと考えるのが自然だろう」という視点が用いられているためです(専門的には「経験則」と言います。)。つまり、「過去に不貞行為があったと考えるのが自然である」というレベルに到達しさえすれば、後者に該当しうる証拠を複数積み重ねていくという方法でも問題がないのです。
証拠を集める際の注意点
・「過去に不貞行為があったとしたら、どういう資料が残るだろうか」という視点に立つ
上記「必要となる証拠」の項目において、よくある証拠の具体例を挙げましたが、実際にどういった資料が証拠になるのかというのは、ケース毎に変化しうるのが実情です。というのも、配偶者と不倫相手の人物的な属性(何歳か、どこに住んでいるのか、働いているのか等)、配偶者と不倫相手はいつどこで知り合ったのか、不貞関係が始まったきっかけは何か、不貞関係はどれくらい続いているのか等、あらゆる事情によって後に残る資料は変わってくるといえるためです。例えば、旅行好き同士ということで知り合って不貞関係が始まったのであれば、旅行先で撮った写真が残っているはず、といった具合です。したがって、証拠を集める際は、まずはご自身の配偶者がどのような人物かというところからアタリをつけて資料を探してみるのが良いと思います。
さらに、上記「必要となる証拠」の項目においてご説明した「今、このような資料が残っているということは、過去にこういうことがあったと考えるのが自然だろう」という視点を応用して、「過去に不貞行為があったとしたら、どういう資料が残るだろうか」という視点のもとで、ありそうな資料を列挙してみて、それらが実際にないかを探してみるということも効果的でしょう。上記「必要となる証拠」の項目にて具体的に列挙したものもこの視点に準拠しているので、まずはこれをご活用いただいても良いでしょう。
・配偶者の不倫を察知しても、すぐにそれを配偶者や不倫相手に告げない
配偶者の不倫を察知してすぐの時点は、実際に不貞関係が始まってからの日も浅いということが往々にしてあります。このような場合は、ある意味当然かもしれませんが、不貞関係を示す資料も十分に生まれていないのが常です。後々訴訟に発展してしまった場合は証拠の存在がどうしても重要になってきますから、例え配偶者の不倫を察知しても、ぐっと我慢して、まずは黙って不貞行為を立証する証拠を集めることに注力してください。また、上記「不倫の慰謝料請求の可否」の項目でもご説明したとおり、「不貞行為」でなければ法律上慰謝料請求の対象とできませんので、その意味でも、不倫を察知してもすぐにそれを追及するのは抑えて、証拠を集めることを優先させた方が良いです。
証拠が集められない際の対処
どうしても証拠がない場合は、できる限り話し合いの中で解決するということを意識しましょう。というのも、そもそも慰謝料を支払うか、ということや、支払うとしても金額はいくらか、といった点で折り合いがつかなければ、解決のためには訴訟を提起せざるを得なくなります。この点、訴訟において最終的に結論を下す裁判官は中立、公平な立場であり、かつ不貞行為の存在を実際に確認できる訳でもないため、不貞行為があったか否か、あったとしてもどれくらいの精神的苦痛を与えるものか、といった点は、どうしても証拠によって認定しなければなりません。そうだとすると、こちら側に証拠がない場合は、こちらに有利な判断を下すことはできない=慰謝料請求は認められないということに必然的になってしまうのです。
したがって、どうしても証拠がない場合は、多少相手側に譲歩をしてでも話し合いの中で解決するという方針を取る方が、結果的に有利な結果で解決できる可能性が高いです。
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