離婚「知っトク」ブログ

配偶者が不倫で妊娠した、させた場合の対処法とは?

2023.06.22
  • 慰謝料
  • 子供のこと

不倫で妊娠が発覚した際に対応すべきこと

配偶者が不倫によって妊娠してしまった、あるいは配偶者が不倫相手を妊娠させてしまった場合は、どのように対処するべきなのでしょうか。ただ配偶者が不倫をしていたというだけでも精神的なショックは避けられないのに、更に妊娠した、させたとなるとその大きさは図りしれないものとなるでしょう。今回は、そのような中で皆さんがどのように行動すべきか、配偶者が不倫で妊娠した、させた場合の対処法を弁護士が解説します。

妊娠の事実確認

まずは、配偶者に対して、妊娠の事実が本当に存在するかを確実に確認してもらいましょう。月経が遅れているというだけでは妊娠したとは断言できないため、妊娠検査薬を用いて検査をしたうえで、産婦人科を受診するように要請しましょう。特に、配偶者が妊娠をさせた側である場合は、不貞相手が嘘を吐いている可能性もあるので、受診に同行してもらう等、可能な限り妊娠の事実を配偶者自身の目で確認してもらうようにしましょう。

妊娠している子供をどうするか話す

妊娠の事実が本当に存在することが確実である場合は、妊娠している子供を生むか、中絶するかということの話し合いをすぐに始めるようにしましょう。中絶が可能な時期は法律により妊娠21週までと定められているほか、中絶が遅くなるほど母体にかかる肉体的、精神的な負担も大きくなるためです。

この点、不倫をされた側としては、不倫によって妊娠した子供は生んで欲しくないというのが本音かもしれません。しかし、法的には、妊娠している子供を生むか、中絶するかという決定権は妊娠をした女性の「自己決定権」という権利に含まれていると考えられています。すなわち、妊娠をした女性に対して話し合いの中で中絶をお願いしたり勧めたりすることはできても、最終的に本人が生むことを希望した場合は、それ以上に中絶を強制することはできません。そして、「子供を生む」ということで決着した場合は、その子供について後に述べるような更なる話し合いが必要になります。このような面からも、妊娠している子供を生むか、中絶するかということの話し合いは、妊娠の事実を確認したらすぐにでも行うべきです。

今後の方向性を話し合う

妊娠している子供を生むか、それとも中絶するかということについて決着できた場合は、次に、今後の方向性を話し合う必要があります。子供を生む場合、中絶する場合とで具体的に話し合うべき内容が変わります。以下、代表的、典型的なものを列挙します。

・子供を生む場合

①不貞相手に認知をさせることについて、又は配偶者が認知をすることについて

下記「妊娠が発覚した際の注意点」にて詳しく解説します。

②生まれてくる子を誰の元で監護、養育するのか

不貞行為によって妊娠し、生まれてくる子供の場合、その子供の両親は婚姻関係にないことから、別居状態にあるということが通常でしょう。そうすると、生まれてくる子供を父親と母親のどちらが引き取って育てるかということが問題となります。

これについて、法律は特定の誰かに引き取ることを強制する規定を置いている訳ではないため、基本的には話し合いによってどちらが引き取るかを決める必要があります。この点、上記「妊娠している子供をどうするか話す」の項目で解説したとおり、子供を生むか否かの最終的な決定権は妊娠をした女性にある以上、子供を生むという選択をした女性が引き取って育て、男性側は養育費を支払うことで決着する場合が多いように思われます。「そのようにしなければならない」ということでは一切ありませんが、話し合いの際のご参考としていただくことはできるでしょう。

③養育費について、誰がいくら負担するのか

下記「妊娠が発覚した際の注意点」でもお伝えするとおり、生まれてくる子供の両親のうち、その子供を引き取らない側は、その子供を育てる側に対して、その子供の養育費を支払う義務を負います。この義務は、配偶者との間にも子供がいるということを理由に免れることはできませんが、子供同士の平等という観点から、配偶者との間の子供の生活水準を必要以上に下げてまで多額の養育費を支払う必要はないと考えられています。

具体的な養育費の金額については、家庭裁判所が定める「標準算定表」という表によって決定することが多いですが、上述のような配偶者との間にも子供がいる場合にはこの「標準算定表」が使用できないため、「標準算定表」の元になった計算式に当事者の収入、子供の年齢・人数を直接当てはめて算出することになります。この計算式はやや複雑なため、正確な養育費の金額の算出結果を把握されたい場合は、弁護士へのご相談をお勧めします。

・中絶する場合

①中絶費用について、誰がいくら負担するのか

下記「誰が中絶費用を負担するのか」にて詳しく解説します。

②中絶をすることについて、慰謝料請求をするのか、又はされているのか

下記「中絶に対する慰謝料」にて詳しく解説します。

妊娠が発覚した際の注意点

【男性側】妻が不倫で妊娠した際の注意点

妻が不倫で妊娠した際、上記「妊娠している子供をどうするか話す」の項目で解説したとおり、子供を生む、生まないを最終的に決める権利は妻にあります。そのため、妻に対して不貞相手の子供を生まないよう要請することはできても、それ以上に中絶を強要してはいけません。

他方、妻が子供を生むことを選択した場合でも、血縁上も法律上もあなたとその子供は他人同士でしかないため、あなたはその子供に対して扶養義務(民法877条)を負うことはありません。もっとも、妻はその子供の母親として扶養義務を負っているため、間接的にその子供への支援に関わる可能性はあるかもしれません。また、あなたがその子供と養子縁組をした場合、その子供はあなたの実子と同視されます(民法727条)ので、扶養義務が発生します。

【女性側】夫が不倫相手を妊娠させた際の注意点

夫が不貞相手を妊娠させた場合、上記「妊娠している子供をどうするか話す」の項目で解説したとおり、子供を生む、生まないを最終的に決める権利は不貞相手にあります。そのため、夫に対して不貞相手へ子供を生まないよう要請することを求めることはできても、それ以上に中絶を強要することはできません。

不貞相手が子供を生むことを選択した場合、夫がその子供を認知するか否かという問題が生じます。仮に拒否をしても、不貞相手から認知調停を申立てられた場合や認知の訴えを提起された場合は、最終的にはDNA検査等で夫とその子供の親子関係が確定し、夫がその子供を認知する旨の裁判所による判断が下ります。そのため、不貞相手を妊娠させたのが夫であることが確実な場合は、認知を拒否する実益は乏しいでしょう。

夫が子供を認知した場合かつ不貞相手がその子供を育てていくことになった場合、夫にはその子供の養育費を支払う義務が生じます。もっとも、あなたとの間にお子様がいらっしゃる場合は、法律上、そのお子様とその子供は公平に取り扱われます。つまり、お子様の生活水準を必要以上に下げてまで、その子供の援助をする必要はないということになります。また、この場合の具体的な金額については、あなたと夫、不貞相手の年収、あなたと夫の間のお子様の人数、年齢を所定の計算式に当てはめて計算します。この計算式はやや複雑なため、正確な養育費の金額をお知りになりたい方は、弁護士へのご相談をお勧めします。

中絶する場合の注意点について

誰が中絶費用を負担するのか

合意の上での性交渉かつ話し合いによって中絶を決めた場合であれば、当事者である男性と女性とが自らの行動を自らで決定したということになるため、その結果として発生する中絶費用は当事者である男性と女性とで折半することが原則です。

もっとも、強姦された場合や男性に避妊していると嘘をつかれていた場合は、女性側が妊娠の可能性について正しく認識していないといえるので、男性側に中絶費用の全額の支払いを求めることが可能です。

不倫で妊娠した・させた場合に生じる慰謝料

不貞行為に対する慰謝料

不貞行為は夫婦がお互いに対して負う貞操義務に違反する行為、又は夫婦の婚姻共同生活を平穏に維持する権利・利益を侵害する行為として、慰謝料請求の対象となります。

この場合、慰謝料請求ができるのは、不貞行為をされた側であり、慰謝料請求を受けるのは不貞行為をした配偶者及び不貞相手です。法律上、慰謝料請求をする側は、不貞行為をした配偶者のみに対してでも、不貞相手のみに対してでも、あるいは双方を相手取っても良いとされています。もっとも、誰を相手取るかによって、注意すべきポイントが多少異なってきます。詳しくは、「不倫された側の離婚時における慰謝料請求のポイントとは?」 をご覧ください。

中絶に対する慰謝料

まず、前提として、中絶をすることを理由とする慰謝料請求は、中絶を実際に行う女性本人がその女性を妊娠させた男性本人に対して行うことになります。そのため、例えばあなたの妻が不貞相手の子供を妊娠し、中絶することを選択した場合、中絶をすることを理由とする慰謝料請求をするかどうかは妻に委ねられており、あなたが妻の代わりに請求することはできません(なお、不貞相手に対しては、あなた自身の権利として、不貞行為を理由としての慰謝料請求は可能です。)

そして、強姦された場合や男性に避妊していると嘘をつかれていた場合、または、妊娠の判明後に中絶を強要された場合は、中絶に至るまでのプロセスに男性側の違法行為が含まれているといえるため、請求が認められる可能性が高くなります。

他方で、合意の上での性交渉かつ話し合いで中絶を決めた場合は、女性は自ら決定した自らの行動の結果を受けているだけで、男性側にはその責任を問うことはできないということになるため、基本的には請求が認められることは難しいと言わざるを得ません。

もっとも、合意の上での性交渉であった場合でも慰謝料の支払いを認めた裁判例(東京高判平成21年10月15日判時2108号57頁)が存在します。この裁判例の事例は、男性側が子供を生むか、中絶するかについての具体的な話し合いを女性側としようとせず、女性側にその選択を委ねるのみであったというもので、裁判所は、

・女性側は中絶によって直接的に身体的及び精神的苦痛を受けるうえ、経済的負担もせざるを得なくなる。

・それらの苦痛や負担は、男性側と女性側が共同で行った性行為を原因とするので、男性側と女性側とで等しくそうした不利益を分担すべきである。

・そうすると、直接的に身体的及び精神的苦痛を受け、経済的負担を負う女性側は、共同行為の結果中絶させられる胎児の父となった男性側から、それらの不利益を軽減し、解消するための行為の提供を受け、あるいは、女性側と等しく不利益を分担する行為の提供を受ける法的利益を有する。

・したがって、それらの不利益を軽減し、解消するための行為をせず、あるいは、女性側と等しく不利益を分担することをしないという男性側の行為は、慰謝料請求の対象となる。

と判断しています。

この裁判例のように、男性側が全く話し合いに応じない、中絶費用の負担もしようとしないという場合は、合意の上での性交渉の場合でも慰謝料請求が認められる可能性があります。

離婚する場合の慰謝料

不貞行為を原因として離婚に至った場合は、その「離婚に至ったこと」を理由としての慰謝料請求も認められます。

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本記事では、配偶者が不倫で妊娠した、させた場合の対処法を中心に解説しました。男女関係のトラブルに子供の妊娠を伴う場合は、一つ一つの決断が重くなってしまうことが避けられず、その分、当事者の方の心身の負担も大きくなってしまいます。他方で、内容が内容だけに、周囲の人に相談しづらいと感じる方もいらっしゃるでしょう。このような時こそ、専門的な知見を持つ弁護士にご相談いただくことで、少しでもご負担を軽減しながら、少しでも良い未来に向かって歩み始めることができます。弊所では平日18時までの初回相談は無料でお受けしておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

この記事の監修者

中間 隼人Hayato Nakama

なかま法律事務所
代表弁護士/中小企業診断士
神奈川県横浜市出身 1985年生まれ
一橋大学法科大学院修了。
神奈川県弁護士会(65期)