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婚約破棄で慰謝料請求は可能か?請求するためのポイントを弁護士が解説

2023.06.24
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婚約破棄とは

婚約破棄とは何かについて理解するためには、まず「婚約」とは何か、を理解する必要があります。「婚約」とは、近い将来に結婚することについての合意のことをいいます。つまり、「婚約破棄」とは、近い将来に結婚することについて合意したことを破棄すること意味します。ただし、当事者が合意して結婚することを取りやめた場合には、婚約という状態が消滅しても問題はないといえます(このようなケースは、婚約破棄ではなく婚約解消といいます。)。よって、「婚約破棄」とは、近い将来結婚することについて合意していたのに、一方当事者がその合意を取り消すことを意味します。

婚約破棄による慰謝料請求ができるケース

では、婚約破棄された場合に、慰謝料を請求することはできるのでしょうか?慰謝料を請求する根拠としては、不法行為(民法709条)又は債務不履行(民法415条1項)が考えられますが、どちらを根拠とする場合でも、相手が不法・違法なことをしたことによって損害が発生したといえる必要があります。相手方が婚約を破棄したとしても、それがやむを得ない理由であった場合には不法・違法とは評価されず、慰謝料の請求はできません。言い換えると、正当な理由がないのに、相手方が婚約を破棄した場合には、相手方の行為は不法・違法なものと評価され、それによって生じた損害を慰謝料として請求できることになります。このことを前提にすると、正当な理由のない婚約破棄として慰謝料を請求できるケースとして、以下のようなものが考えられます。

相手方の浮気(不貞行為)

浮気(法的には不貞行為といいます)は、離婚訴訟における離婚の理由になると同時に、慰謝料が発生する理由になります。婚約の段階で相手方が不貞行為をした上で、相手方に婚約を破棄された場合にも、慰謝料を請求することができるといえるでしょう。

相手方から虐待、暴行、重大な侮辱を受けた

相手方から虐待、暴行、重大な侮辱を受けた場合にも、不貞行為の場合と同様に、離婚訴訟における離婚の理由となると同時に、慰謝料の発生原因となります。よって、婚約の段階で相手方から虐待、暴行、重大な侮辱を受けた上、相手方から婚約を破棄された場合には、不貞行為があった場合と同様に慰謝料を請求することができます。なお、ここでいう「重大な侮辱」とは、相手方の人格を否定するような発言(例えば、相手方のことを「無能」などと罵る)や行動(例えば、相手方のことを汚物扱いしたり、第三者に対して相手方の名誉毀損するような言動をしたりする)を取ることを指し、喧嘩でとっさに出てきた悪口のレベルでは当てはまりません。

相手方が行方をくらました

相手方が行方をくらました結果、結婚ができなくなったすなわち婚約破棄された場合には、行方をくらました相手方に落ち度があるといえ、正当な理由のない婚約破棄と評価されます。よって、行方をくらませた相手方に対し、慰謝料を請求することができます。

その他、社会常識を逸脱したような言動がある

社会常識を逸脱したような言動があり、婚約破棄に至ってしまった場合、このような言動をした相手方には婚約破棄になったことにつき責任があるといえます。よって、社会常識を逸脱したような言動をした相手方からの婚約破棄には正当な理由がないといえ、相手方に対し慰謝料を請求することができます。ただ、「社会的に逸脱したような言動」というのは、定義があいまいです。誰が見ても明らかにおかしい言動といえるようなレベルの言動があって、はじめて慰謝料が請求できるといえ、そのハードルは高いものと考えられます。一例として、男性が披露宴において、女性の親戚に対して最小限度の礼儀も尽くさなかったほか、新婚旅行でも食事や入浴を一人で済ませた上女性に対し強引に性交渉を求めた等の行為を理由とする女性からの婚約破棄について、正当な理由を認めた裁判例があります(福岡地裁小倉支部昭和48年2月26日判決)。

婚約破棄による慰謝料請求が難しいケース

逆に、婚約破棄による慰謝料請求が難しいケースとしては、以下のようなものが考えられます。

相手方への暴力・暴言

こちらが相手方に対して暴力を振るったり、暴言を吐いたりした場合、これを理由に相手方から婚約破棄をされたとしても、慰謝料の請求をすることは難しいです。まず、相手方への暴力や暴言は、前述したとおり離婚訴訟における離婚の理由になります。結婚している夫婦は、婚約している当事者以上にその地位が法的に保護されるところ、結婚している夫婦であっても関係解消に正当な理由があると認められる以上、婚約している当事者が婚約破棄する場合でも正当な理由があると認められるのです。しかも、相手方からの婚約破棄に正当な理由が認められるだけでなく、こちらの暴力・暴言を理由として、相手方からの慰謝料の請求までも認められる可能性すらあります。

不貞行為

こちらが不貞行為をした場合、これを理由に相手方から婚約破棄をされたとしても、慰謝料の請求をすることは難しいです。暴力・暴言と同じく、不貞行為も離婚訴訟における離婚の理由になるからです。こちらが慰謝料請求される可能性があることも、暴言・暴力を理由とする婚約破棄と同様です。

病気などで子どもが望めない場合や余命が短い場合

こちらの病気などで子どもが望めない場合や、こちらが難病に罹患しており、長く生きることができないような場合には、それを理由とする婚約破棄に正当な理由があるとして慰謝料の請求が認められない可能性があります。ただ、この場合、子どもを授かることが当事者間でどれほど重要視されていたのかや、難病に罹患していることによって余命がどの程度あるのかなどの具体的事情によって、慰謝料請求の可否やその金額は大きく変わってきます。

悪質な嘘をついていた場合

婚約をする際には、当事者はそれぞれ相手方がどのような人物であるのかをさまざまな事情を基に判断します。その上で、お互いが、相手方を結婚するにふさわしい人物であると判断した場合、婚約をすることになります。しかし、相手方が嘘をついていた場合、相手方が結婚するにふさわしい人物であるかの判断が正確にできないことになります。よって、当事者は不正確な情報に基づいて婚約をしたことになりますから、嘘が明らかになった結果相手方にこちらが結婚をするにふさわしい人物ではないと判断されてしまい婚約を破棄されたとしても、この婚約破棄は正当な理由があるといえますので、慰謝料を支払う必要はありません。ただ、嘘であれば何でもよいのではなく、あくまで「悪質な嘘」です。具体的には、職業、年収、年齢、前科等で嘘をついていた場合には、悪質な嘘といえるでしょう。

婚約破棄に対する慰謝料請求の流れ

婚約破棄に対する慰謝料請求をする場合の流れは、以下のようになるのが一般的です。

話し合いをする

慰謝料を請求する場合、いきなり裁判所の手続に進むのではなく、まずは任意の交渉から行うのが一般的です。もしも任意の交渉で相手方が慰謝料の支払いに応じてくれるのであれば、わざわざ裁判所を介して慰謝料請求をしなくてすむ分、時間的コストを削減できます。また、慰謝料請求を弁護士に依頼する場合、後述する調停や訴訟に移行する前に任意の交渉で事件が解決する方が、通常は弁護士費用を低く抑えることができます。よって、まずは任意の交渉で慰謝料を請求する方がよいのです。ただし、あくまで「任意」の交渉にすぎないので、相手方に話し合う気がない場合や、慰謝料の支払義務を否定しているような場合には、話し合いで慰謝料請求を実現することは不可能と言わざるを得ません。この場合には、後述する調停や訴訟など、裁判所を介した手続に移行せざるを得ません。

慰謝料請求調停の申立て

相手方が任意に慰謝料の支払いをしてくれない場合、すぐに訴訟提起することもできますが、慰謝料請求調停を申し立てることもできます。調停とは、裁判所を介して当事者同士が話し合いをする手続きです。調停では、当事者がそれぞれ自分の言い分を調停委員という人を介して相手方に伝えます。そのやり取りを双方が繰り返し、最終的に双方が合意できる点を模索し、合意に達すれば調停成立となり、慰謝料を請求することができます。ただ、調停もあくまで裁判所を介した「話し合い」です。相手方に話し合う気が全くなかったり、慰謝料の発生を争っていたりしているのなら、調停を申し立てても意味がありません。その場合には、速やかに訴訟提起に移行した方がよいでしょう。

訴訟提起

任意の交渉がまとまらなかったり、調停が成立しなかったりした場合には、最終手段として訴訟を提起します。訴訟の場合、双方が自分の言い分を主張し、それをもとに裁判官が判決を下すことになるので、相手方が慰謝料請求の話し合いに応じなくても、慰謝料の発生を争っても、こちらの言い分が認められれば慰謝料請求が認められます。ただ、訴訟は一定の「お作法」のようなものがあり、弁護士に依頼せずに自分だけで進めることは難しいです。また、訴訟は1年程度かかることもある上、当事者に対する尋問などもされる可能性があり、時間的、精神的負担は大きいです。

慰謝料請求の確実性を高めるポイント

慰謝料請求をより確実に行うためには、どのようなことに注意する必要があるでしょうか?

証拠の確保

何といっても重要なのは、証拠を確保することです。婚約破棄を理由として慰謝料を請求する場合、相手方はまず婚約の成立から争う可能性があります。「婚約していない以上、その破棄も考えられないのだから、婚約破棄による慰謝料の支払義務はない」という理屈です。そこで、相手方がこのような反論をしてきた場合には、まず婚約が成立したことを証明する必要があります。結婚指輪の購入、親族への顔合わせ、友人・知人への結婚の報告、結婚式や新婚旅行の準備などの事実があれば、婚約の成立が認められやすくなります。そのため、このような事実を証明する証拠の確保が大切です。結婚指輪の領収書、親族、友人、知人と顔合わせをしたことを示す写真、メールやLINE、結婚式場や旅行会社との打ち合わせ等の記録、書面などが証拠として考えられます。なお、口頭でプロポーズされたことをもって婚約と主張する場合、そもそも相手方がプロポーズしたことを証明する証拠の確保が難しい上、相手方がどれだけ本気で結婚を意識していたのかが分からず、婚約の成立を主張することは困難になります。可能な限り、客観的な証拠を集め、婚約の成立を主張することが大切です。

次に、婚約は成立しているとしても、相手方が婚約破棄に正当な理由があるとして、慰謝料の発生を争う可能性があります。この場合、婚約破棄に正当な理由がないことを主張するとともに正当な理由がないことを証拠により証明する必要があります。この点について、一例として以下のような証拠を確保することが考えられます。

・不貞行為…探偵の調査報告書、不貞行為の相手方とのメールやLINE、不貞行為の相手方との性交渉を撮影した動画や写真など

・暴力・暴言…診断書、怪我の部位の写真、(同居している場合)暴行によって家具や家の設備が破壊されているところを写した写真、発言内容を録音した音声データなど

・社会常識を逸脱したような言動…言動を録音した音声データ、言動が記された手紙、言動の相手方の証言など

なお、いずれの証拠も、一般的に時間がたてばたつほどその確保が難しくなります。相手方の行動に少しでも違和感や不満がある場合には、相手方の行動を逐一記録しておくことを意識しているとよいでしょう。

適正金額での請求

婚約破棄による慰謝料は、必ずしも定型化しているわけではなく、個別具体的な事情により慰謝料額は変わってきます。ただ、一般的には金額が50万円から200万円ほどの幅に落ち着くケースが多いです。そのため、例えば1000万円を超えるような金額を請求しても、その請求が認められる可能性は極めて低い上、かえって事件の解決を長引かせてしまうリスクもあります。よって、慰謝料の金額については、相場を意識して決める必要があります。ただ、初めから妥当な金額を提示してしまうと、その後交渉する余地がなくなってしまいます。したがって、最終的に折り合える慰謝料が100万円だとしたら、まずは300万円を提示するというようなやり方が適切といえます。

時効前の請求

慰謝料を請求する権利は、前述のとおり、法的には不法行為(民法709条)又は債務不履行(民法415条1項)のいずれかを根拠とします。不法行為の場合、損害及び相手方を知ってから3年経つと時効によって権利が消滅し(民法724条)、債務不履行の場合権利を行使することができることを知ったときから5年経つと、時効によって権利が消滅してしまいます(民法166条1項1号)。婚約破棄の場合、相手方から婚約を破棄する旨を伝えられた時点で、精神的苦痛等の損害が発生しているといえますし、加害者が相手方であることも明らかです。よって、不法行為に基づく慰謝料請求は、婚約破棄の時から3年で時効が成立してしまいます。また、債務不履行すなわち結婚するという約束を果たさなかったときから慰謝料を請求することができると考えられるので、債務不履行に基づく慰謝料請求も、婚約破棄の時から5年が経つと時効が成立してしまいます。時効が成立してしまうと、相手方が任意に支払いに応じない限り、慰謝料を請求することはできなくなり、せっかく時効成立前であれば請求が認められたようなケースでも、慰謝料を支払ってもらえなくなってしまいます。婚約破棄による慰謝料を請求したい場合には、早め早めに行動するようにしましょう。なお、実務的には債務不履行よりも不法行為に基づいて慰謝料請求することが多いです。そのため、婚約破棄を理由とする慰謝料請求のタイムリミットは、婚約破棄のときから3年と考えておいた方がよいでしょう。

婚約破棄による慰謝料請求でお悩みの方は弁護士法人なかま法律事務所へ

婚約破棄による慰謝料を請求したいとお考えの方は、ぜひ弁護士法人なかま法律事務所へご依頼ください。弊所へご依頼いただくメリットとして、以下のものが挙げられます。

①家事事件に精通した事務所で専門的なサポートを受けることが可能

家事事件の場合、他の一般的な民事事件よりも事件処理の進め方や相手方への対応等が特殊かつ複雑です。弊所は、離婚関係の事件をはじめとして、家事事件を多数扱っていますので、特に家事事件を多く扱っているというわけではない法律事務所に比べ、ノウハウが蓄積されています。

②相手方と直接交渉する必要がない

婚約破棄による慰謝料請求をする場合、ご依頼者の方は婚約破棄をされたことに強いショックを受けていらっしゃるケースが多いです。また、相手方に対して負の感情を募らせていることも多いです。このような場合に、当事者間で話し合いをしようとしても、話がまとまらないことがほとんどです。話し合いが平行線を辿り時間ばかり経つ一方、相手方との交渉で精神的に疲弊し、過去を思い出してさらに気持ちが重くなる方がたくさんいらっしゃいます。弊所にご依頼いただいた場合、弊所の弁護士がご依頼者様の代理人として、相手方と交渉いたします。そのため、ご依頼者様が相手方と直接のやり取りをすることは基本的になくなりますので、精神的な負担を大幅に軽減できます。

③事件解決への見通しが立つ

弁護士は、類似する他の事件等と比較して相手方と交渉をします。当事者間での交渉ですと、お互いの主張をぶつけ合うだけのやり取りになり、譲歩しながら交渉を進めていくことが難しいことも多く、いつまでたっても事件が解決しない可能性があります。弊所にご依頼いただいた場合、一定の見通しを立てながらご依頼者の方にもご納得いただける妥協点を探り、相手方と交渉します。そのため、いつまでも紛争が続き、終わりが見えないといった状況になることを防ぐことが可能です。

初回相談は平日1時間無料で承っております。婚約破棄による慰謝料請求をご検討されている方は、ぜひ一度お問い合わせください。