離婚「知っトク」ブログ

まだ慰謝料請求は可能?不倫の時効とは

2023.07.29
  • 慰謝料

不倫(法的には不貞行為といいます)によって精神的苦痛を被った方は、慰謝料を請求したいとお考えになるはずです。しかし、不貞行為を原因とする慰謝料は、いつまでも請求ができるわけではありません。時効があるからです。そこで、今回は、不貞行為を原因とする慰謝料請求はいつまで可能なのか、慰謝料の相場、慰謝料請求における注意点等について弁護士が解説します。

不貞行為の時効における2つのパターン

慰謝料支払請求権は、法的には不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求権と構成されます。この不法行為に基づく損害賠償請求は、「被害者~が損害及び加害者を知った時から3年間」(民法724条1号)が経過すると、時効によって請求権が消滅してしまいます。また、「不法行為の時から20年間行使しないとき」(民法724条2号)も、慰謝料請求ができなくなってしまいます。上記の条文の規定を不貞行為を原因とする慰謝料請求に当てはめると、どのような結論になるのでしょうか?

不貞行為を原因とする慰謝料請求における「損害」とは

そもそも、不貞行為を原因とする慰謝料請求をする際の「損害」とは何を指すのでしょうか?これには、2つの考え方があります。

1つ目は、不貞行為をされたことそのものによって発生する精神的苦痛を「損害」と捉える考え方です。2つ目は、不貞行為をされたことによって家庭が崩壊し、離婚してしまったことに対する精神的苦痛を「損害」と捉える考え方です。1つ目の考え方であれば、配偶者が不貞行為をしていたことを知ったときに精神的苦痛が発生するので、このときから3年が経過すると時効が成立することになります。他方、2つ目の考え方であれば、離婚するときになってはじめて精神的苦痛が発生することになりますので、離婚から3年が経過すると時効が成立することになります。

不貞行為を原因とする慰謝料請求における「加害者」とは

不貞行為を原因とする慰謝料請求の対象となる加害者として考えられるのは、不貞行為をしていた当事者すなわち配偶者と不貞行為の相手方です。

では、不貞行為を原因とする慰謝料請求における「損害」と「加害者」がわかったところで、それぞれのパターンについて検討してみましょう。

①配偶者に対する不貞行為を原因とする慰謝料請求の場合

配偶者に対して、不貞行為を原因とする慰謝料請求をする場合、加害者は明らかですので、問題となるのは「損害を知った時」になります。不貞行為をされたことそのものによって発生する精神的苦痛を「損害」と捉える考え方の場合、不貞行為があったときに損害が発生しますので、不貞行為があったことを知ってから3年が経過すると、配偶者に対して慰謝料の請求はできないことになりそうです。しかし、実は民法には、「夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」という規定があります(民法159条)。よって、結論としては、離婚しない限りは、不貞行為から3年が経過しても慰謝料請求権は時効によって消滅しませんし、不貞行為から3年が経過した後に離婚したとしても、離婚から6か月以内であれば慰謝料を請求することができるのです。他方、不貞行為をされたことによって家庭が崩壊し、離婚してしまったことに対する精神的苦痛を「損害」と捉える考え方の場合、自分の問題である以上離婚時に離婚の事実を知ることになりますので、離婚から3年が経過すると慰謝料請求権は時効によって消滅することになります。なお、不貞行為から20年間が経った場合も、慰謝料請求権は時効によって消滅します。

②不貞行為の相手方に対する、不貞行為を原因とする慰謝料請求の場合

不貞行為をされたことそのものによって発生する精神的苦痛を「損害」と捉える考え方の場合、不貞行為があったときに損害が発生することは配偶者に対する慰謝料請求の場合と同様です。しかし、配偶者の場合とは異なり、不貞行為の相手方は必ずしも明らかではありません。そこで、不貞行為の相手方に対する慰謝料請求の場合、不貞行為があったことと不貞行為の相手方が誰であるかの両方を知ったときから3年が経過すると、慰謝料請求権は時効によって消滅します。では、不貞行為をされたことによって家庭が崩壊し、離婚してしまったことに対する精神的苦痛を「損害」と捉える考え方の場合はどうなるのでしょうか。実は、不貞行為の相手方に対して離婚に至ったことを損害として慰謝料請求することは、不貞行為の相手方が夫婦を離婚させようとして夫婦関係に不当な介入をした場合など、極めて例外的な場合でなければ認められないというのが、最高裁判所の考え方なのです(平成31年2月19日付最高裁判決)。最高裁判所は、夫婦が離婚に至ったとしても、その離婚の原因が必ずしも不貞行為のみにあるとは限らないことや、夫婦が離婚するかどうかは夫婦が決めることであることから、第三者である不貞行為の相手方は、基本的には夫婦が離婚に至ったことについて責任を負わないと考えているようです。したがって、不貞行為の相手方に対しては、不貞行為があったことと不貞行為の相手方が誰であるかの両方を知ったときから3年間が、慰謝料請求のタイムリミットとなります。

慰謝料請求権の時効の完成の延長

慰謝料請求権の時効の完成を延長させることは可能なのでしょうか?

時効の完成を延長させる4つの方法

法律上時効が完成するのを延長する手段として、以下のものが挙げられます。

①相手方に慰謝料請求権の存在を認めさせる

相手方が、不貞行為があったことを認め、これを原因とする慰謝料請求権(相手方からすれば慰謝料支払債務)があることを認めることを、「債務の承認」といいます。債務の承認があると、いままで進行していた時効期間はリセットされます(民法152条1項)。慰謝料支払債務があることを前提に、その支払いを猶予するよう求めたり、慰謝料を一部支払ったりした場合には、債務の承認にあたります。なお、不貞行為を積極的に認め、慰謝料を支払うと相手が言ってきた場合には、後に約束を反故にされないように、書面に残しておきましょう。

②訴訟提起する

訴訟を提起すると、それに対する判決が確定するまでの間は、時効が完成しません(民法147条1項)。そして、判決の確定があると、今まで進行していた時効期間はリセットされます(民法147条2項)。

③調停を申し立てる

調停を申し立てると、調停が終了するまでの間は時効が完成しません(民法147条1項)。そして、調停が成立すると、今まで進行していた時効期間はリセットされます(民法147条2項)。

④催告をする

裁判所外で慰謝料請求をすることを「催告」といいます。催告をすると、催告から6か月間は時効が完成しません(民法150条1項)。ただし、6か月が経過してしまうと時効が成立してしまいますから、催告後すぐに上記①から③の手段を講じる必要があります。

離婚後に不倫の慰謝料請求は可能であるか

離婚後に不貞行為を原因とする慰謝料請求をすることは可能でしょうか?

離婚時に慰謝料を請求していないケース

離婚後に慰謝料を請求する大前提として、離婚時に慰謝料を請求していないことが必要です。ここで気を付けたいのが、離婚時に合意書等を作成していて、その合意書の中に「当事者間に一切債権債務がない」といった内容の条項が盛り込まれている場合、慰謝料の請求ができないということです。このような条項を清算条項といい、この条項があると、たとえ「慰謝料」という名目で金銭を受け取っていなかったとしても、すでに当事者間の債権や債務は清算済みなのであるから、今更蒸し返して支払いの請求をすることはできないということになってしまうのです。

離婚時に配偶者が不倫していたことを把握していなかったケース

前述のとおり、不貞行為を原因とする慰謝料請求は、「損害及び加害者を知った時」から時効が進行します。そこで、離婚時には配偶者が不倫していたことを把握していなかった場合、損害の発生に気づいていないため、離婚後でも慰謝料を請求することが可能です。ただし、この場合でも前述の清算条項を入れた合意書等を作成してしまっている場合、慰謝料請求をすることはできません。

離婚時に配偶者の不倫を把握していたが、不倫相手を把握していないケース

離婚時に配偶者の不貞行為を把握していた場合、配偶者に対しての時効は進行してしまいます。しかし、不貞行為の相手方が不明の場合、不貞行為の相手方との関係では、「加害者を知った時」とはいえないため、離婚後でも慰謝料請求をすることが可能です。なお、ここでいう「加害者を知った時」というのは、加害者の氏名及び住所を知っていることをいうと考えられています。単に顔を知っているというだけでは、「加害者を知った時」には該当しません。

不倫における慰謝料の相場

不貞行為を原因とする慰謝料請求の際の慰謝料の相場は、おおむね100万円から300万円ほどです。ただし、慰謝料は個別具体的な事情によって金額に大きな違いが発生します。当事者の年齢、結婚していた期間、子どもの有無及び年齢、職業・地位・収入、不貞行為時の夫婦関係、不貞行為に至った経緯、不貞行為の期間・態様・回数等様々な事情が総合考慮されます。なお、慰謝料そのもののほか、慰謝料を請求するために弁護士に依頼しなければならなくなった結果発生した弁護士費用も、併せて請求することが可能です。ただし、この弁護士費用は実費を請求できるわけではなく、請求額の1割を請求することが一般的です(300万円を請求している場合、弁護士費用は30万円として請求することが一般的です。)。

慰謝料を請求するために必要な条件と請求時の注意点

慰謝料を請求するためには、どのような条件が必要で、どのような点に注意する必要があるでしょうか?

訴訟で慰謝料を請求するためには、不貞行為を証明する証拠が必要です。例えば、探偵が作成した調査報告書、写真、ビデオ等で、不貞行為が記録されている場合や、録音データ、メール、LINEなどで、不貞行為がなければ残されないような文章がある場合、不貞行為を認める旨の書面がある場合などは、不貞行為を証明できるといえるでしょう。

また、前述のとおり、不貞行為を原因とする慰謝料請求では、不貞行為をされたことによって精神的苦痛を感じたり、不貞行為をされたことによって家庭が崩壊し、離婚してしまったことによって精神的苦痛を感じたりすることを損害と考えています。とすると、不貞行為の時点で夫婦関係が破綻していた場合には、不貞行為があったとしても精神的苦痛は生じないと考えられますから、慰謝料を請求することはできません。

不倫相手への請求は可能であるか

不貞行為の相手方に対して慰謝料を請求する場合には、配偶者に対して慰謝料を請求する場合の要件に加え、不貞行為の相手方が、配偶者が既婚者であることを知ることができた状態であったといえなければ、慰謝料の請求はできません。不貞行為の相手方が、配偶者が独身であったと過失なく信じていた場合、夫婦関係を破壊したことに対して故意過失がないため、不法行為に対する責任を追及できないのです。

慰謝料請求に関するお悩みの方は弁護士法人なかま法律事務所へ

不貞行為を原因とする慰謝料請求の場合、不貞行為をされたということに対するショックが大きいと考えられます。そのような状態で、配偶者や不貞行為の相手方と話し合いをすることは、それ自体精神的苦痛を感じてしまい、疲弊してしまう可能性が高いです。弁護士法人なかま法律事務所は、離婚事件に特化した事務所です。離婚事件の取り扱い件数は他の法律事務所よりかなり多いものと自負しています。そのため、事務所所属弁護士はみな離婚事件の経験が豊富であり、もちろん慰謝料請求事件の取り扱い経験もございます。弁護士に依頼した場合、ご自身で配偶者や不貞行為の相手方と話し合いをする必要はなくなりますから、精神的な負担は大きく軽減されるでしょう。平日10時から18時までの初回相談は無料で承っておりますので、不貞行為を原因とする慰謝料請求に関してお悩みの方は、ぜひ一度弁護士法人なかま法律事務所へお問い合わせください。