離婚「知っトク」ブログ

養育費の未払い分の回収方法や差押え時のポイントを弁護士が解説

2023.12.27
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  • 養育費

「離婚するときに養育費を決めたけど途中から支払われなくなった」「一方的に金額を減らされた」「未払いの養育費が溜まっているけど夫に連絡するのが怖い」「未払いの養育費を払ってほしいけど、夫には連絡したくない・連絡先がわからなくなった」・・様々な理由で、養育費の未払いに困っているシングルマザーの方は多くいらっしゃいます。

養育費は、子どもが健やかに成長するために必要な費用です。養育費の未払いに困ったら、弁護士に相談することで適切な回収方法を見つけることができます。

未払い養育費の回収を目指す際には、まず夫に連絡がつくようであれば連絡とって払うよう求めるかと思いますが、それですんなり払われることはあまりありません。

そのため、基本的には、強制執行という法的手続を利用することを検討する必要があります。強制執行とは、裁判所の決定を基に債権を回収する手続きです。もちろん、費用がかかりますが、未払いの養育費を手堅く回収するためにとても有用な手続きです。

弁護士は債権回収の専門家ですので、養育費が未払いの状況であれば、弁護士に相談することで、ご自身の状況に適した回収方法を提案してもらえます。様々な回収方法から、最も効果的で費用対効果が高い方法を選ぶことができます。

ただし、差押えるには、相手の財産や収入情報を正確に知ることが必要です。この点、令和2年の民事執行法改正により、養育費の強制執行にあたり、元配偶者の預金や勤務先を調べる情報取得手続が新設された(民事執行法206条、207条)こともあり、弁護士が介入することで、未払養育費の回収が実現する可能性はかなり高まりました。

未払い養育費の回収は、一般の方にとっては,まだまだ複雑で神経をすり減らす作業です。しかし、弁護士の支援を受ければ、法的な手続きがスムーズに進み、子どもの未来を支える大切なお金を確保できます。弁護士による適切なサポートは、精神的な負担を軽減し、問題解決を前進させる強い味方になるでしょう。

未払い養育費の回収方法

養育費の未払いは、子供の成長に必要な経済的な支えを奪う深刻な問題です。万一未払いに直面した場合、有効な回収手段のひとつが強制執行です。相手方の給与や財産を差し押さえ、未払い養育費を回収できます。

強制執行は法的な知識と正確な手続きの理解がないとうまくいきません。強制執行の申立てには費用と時間がかかることもあるため、事前に相談機関や離婚問題をよく扱う弁護士に相談してみることをお勧めします。

子どもの将来のため養育費の確実な回収にはこれらの方法の理解と活用が求められます。困難を感じた場合には迷わず法的支援を求め、子供が必要とする経済的支援を確保しましょう。

以下,未払い養育費を回収する方法と流れを説明していきます。

電話やメールによる督促

初期対応としてまずは電話やメールでの督促です。電話やメールでの督促が効果がない場合は、法的対応に移行しましょう。養育費支払いを拒んでいる相手には、未払い分の回収を図る差押えなどの法的措置が可能です。弁護士から適切なアドバイスを受け、子どもの権利を守るための一歩を踏み出しましょう。

内容証明郵便による督促

電話やメールの他には、有効な手段の一つとして、内容証明郵便を用いた督促が考えられます。内容証明郵便は、書面に記された内容と送付した日時が郵便局によって証明されるものです。ただし、よく勘違いされがちですが、強制力はありません。「なんかそれっぽいし書類が届いたぞ・・」と思わせて、事実上、相手に心理的プレッシャーを与える程度です。

これで回収に成功することは多くありませんが、費用も数千円で済みますし、手軽ですので、まずは内容証明送って様子を見るのも一つの選択肢でしょう。

養育費調停の申立て

電話やLINEを送っても無視、内容証明を送っても無視された、という場合は、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てましょう。家庭裁判所の調停委員があなたと相手方双方の言い分を聞いて、双方にとって納得のいく解決を目指します。調停で合意した養育費の支払いは、裁判所の決定に基づきます。相手が支払いを履行しない場合、強制執行によって未払い分を回収できます。ただし、あくまで合意を形成するための手続きですので、金額や支払い方法で折り合いがつかなかったまたは相手方が出廷しなければ、調停は不成立(終了)となります。その場合は、審判で裁判所が決定します。

履行勧告・履行命令の申立て

調停や審判を経て養育費の支払い命令を勝ち取ったにもかかわらず、元配偶者からの支払いが滞っている場合、効果的な手段が「履行勧告」及び「履行命令」の申立てです。家庭裁判所があなたの代わりに元配偶者に介入し、相手方に養育費の支払いを求めます。

履行勧告は相手方に対して穏やかに支払いを促す方法ですが、支払いがなされない場合は履行命令へと移行します。履行命令では法的強制力を強く示し、無視すると罰金(10万円以下。家事事件手続法290条5項)や強制執行など厳しい法的措置が伴います。

これらの手続きを通じて、あなたとお子様の権利を守り、支払義務者に法的責任を果たさせることができます。

差押え(強制執行)の実施

履行勧告・履行命令によっても回収が難しい場合は,差押えによる強制執行を行います。

これは,「直接強制」と言って,支払義務を果たさない相手の財産や給与を裁判所の決定によって強制的に取り立て,養育費に充てるものです。

具体的には、債権者(養育費の支払いを求める人)は,債務者(養育費を払う義務がある人)の住所地を管轄する家庭裁判所に執行の申立てをします。その後,執行文という書面を取得し,債務者の財産に対する差押え命令を得るために裁判所に申立てをします。対象は銀行預金、給与、不動産など様々あり,対象財産により,手続きや書類が異なります。

東京地裁民事執行センターのホームページで,申立手続の詳細や,書式等確認することができます。

裁判所 債権執行に関する申立ての書式一覧表

差押えは時間がかかることもありますが、養育費を回収する有力な手段です。養育費の強制執行をご検討の方は,ぜひ弁護士に一度ご相談してみることをお勧めします。

未払い養育費を差押える際のポイント

迅速にかつ対象財産ごとに適切な手続きを行うこと

差押えを成功させるには,裁判所に提出する書類の準備と正確な流れを理解する必要があります。対象財産ごとの手続きについて以下,説明します。

給料を差押える場合

元配偶者が会社員の場合,まず検討すべきなのは給料の差し押さえです。債務者の雇用主に直接養育費の支払いを求め、雇用主は債務者の給料から養育費を直接差し引いて債権者であるあなたに支払うこととなります。そうすることで債務者を介さずに養育費を受け取ることができます。

① 必要な書類

ア 債務名義正本

調停で合意している場合は調停調書,公正証書を作成している場合は,公正証書が債務名義正本になります。なお,公正証書は,強制執行認諾文言が明記されている必要があります。手元に見当たらなければ,裁判所・公証役場で再発行してもらいましょう。

イ 執行文(不要な場合もあります)

調停調書が債務名義の場合は,執行文は不要です。強制執行認諾文言付き公正証書が債務名義の場合は,公正証書を作成した公証役場に申立を行い,執行文をもらいましょう。

ウ 送達証明書

アの債務名義が債務者に送達されたことを証明する書類です。調停調書が債務名義の場合は裁判所,公正証書の場合は公証役場で取得する必要があります。

エ 申立書

申立先の地方裁判所で申立書を提出する必要があります。添付書面や記載例等は,各裁判所のHPで確認することもできます。

例)横浜地方裁判所:https://www.courts.go.jp/yokohama/saiban/tetuzuki/index.html

東京地方裁判所:

https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section21/huyougimu_teikikin_saiken/index.html

② 注意事項

ア 差し押さえることができるのは手取給与額の2分の1まで

給料全額を差し押さえることはできません。民事執行法152条3項により,養育費等の「扶養義務等債権」に関しては,差し押さえることできるのは,「手取額」,つまり支給額から通勤手当,所得税,住民税,社会保険料を控除した残額の2分の1まで,です。なお,この残額が66万を超えるときは,33万を控除した残額が差押対象となります。

イ 一度差し押さえれば将来分も執行可能

「一度差し押さえても,また払わなくなったらどうするの・・?」と疑問に思った方もいらっしゃるかと思います。しかし,養育費に関しては,毎回差押手続をする必要はありません。民事執行法151条の2に基づき,確定期限未到来の養育費債権も執行可能とされています。

なお,将来分もまとめてもらえるという趣旨ではありません。将来分も毎月毎月きっちり支払いがされる,という趣旨です。

預貯金・不動産を差押える場合

養育費の強制執行の際,債務者の預貯金・不動産を対象として手続をすることは民事執行法上可能ですが,実務上はほとんどありません。養育費の場合,差押後も継続的に支払われないと意味がないところ,預貯金や不動産を差し押さえる場合は,給料と違って,確定期限未到来の将来の養育費債権に効力が及ばないためです(不動産の場合は,高額の予納金を収める必要がある,またはほかの抵当権者の存在等を理由に費用倒れに終わる可能性が高いことも理由です)。そのため,預貯金や不動産を執行対象とするのば,債務者が給与所得者ではない場合等例外的な場合に限られます。

給料を差し押さえる場合の手続の流れ

ですので,養育費を回収する際は,基本的に,元配偶者の給料債権の差し押さえを検討すればよい,ということになります。給料債権の差押え申立ての流れをまとめると概ね以下のの通りです。

① 債務名義正本を確認する

調停調書・公正証書を用意しましょう。

② 調査等(相手の住所や勤務先がわからない場合)

元配偶者の住所がわからなければ,弁護士に依頼することで,住民票や戸籍等の公的書類を取り寄せて調査することが可能です。

また,元配偶者の現在の勤務先がわからなければ,財産開示手続,第三者からの情報取得手続を利用して調べることが可能です。

③ 執行文の要否を確認し,必要な場合は執行文を取得する

④ 送達証明書を取得する

⑤ 元配偶者(債務者)の住所地を管轄する地方裁判所に申立書類を提出する

申立時には,申立書のほか,当事者目録,請求債権目録,差押債権目録等必要な添付書類を作成・提出する必要があります。

養育費の消滅時効

未払養育費の回収を考える際には,時効期間を確認しておきましょう。養育費の消滅時効は,基本的に,発生(毎月の支払日の翌日)から5年です(民法166条1号)。調停で確定した未払養育費の場合は調停成立から10年です(民法169条)。

財産開示について

財産開示とは

財産開示とは,執行力のある債務名義正本を有する債権者の申立てにより,債務者を執行裁判所に呼び出し,財産開示期日において,債務者に宣誓の上,その財産について陳述させる手続のことを言います(民事執行法196条)。

要するに,元配偶者を裁判所に呼び出して,預金や給料について調べることができる制度です。

財産開示の流れ

①債務者(元夫)の住所を管轄する地方裁判所に申し立て

②申立てが要件を満たす場合,裁判所が実施決定を発令

③債務者(元夫)を財産開示期日に呼び出す

④債務者(元夫)が,財産目録を裁判所に提出

⑤債務者(元夫)が,財産開示期日で財産を陳述

⑥財産開示が終了したと認められる場合,財産開示手続終了

第三者からの情報取得手続について

第三者からの情報取得手続とは

執行力のある債務名義正本を有する債権者の申立てにより,執行裁判所が,市町村や厚生年金保険の実施機関といった第三者に対し,債務者の財産に係る情報の提供を命じる決定をし,係る情報提供命令を受けた第三者が,執行裁判所に対して,提供を命じられた情報を提供する手続です(民事執行法197条)。令和元年の民事執行法改正により新設されました。

要するに,元配偶者の現在の勤務先が分からない場合に,勤務先を調べる手続きです。

第三者からの情報取得手続の流れ

本記事では,養育費回収で実務上多く使われる「給与債権に係る情報取得」の手続について説明します。

①財産開示手続の前置が必要

給与債権に係る情報取得手続をするには,その前に,上記で説明した財産開示手続を経ている必要があります。

②債務者(元夫)の住所を管轄する地方裁判所に申し立て

③執行裁判所が,第三者(市町村,日本年金機構,公務員共済組合等)に対し,債務者の給与債権に係る情報提供命令を発令

④命令を受けた第三者が債務者に関する情報を執行裁判所に提供

⑤執行裁判所が当該情報の写しを申立人に送付

まとめ

養育費の未払い問題に直面しているシングルマザー向けに、弁護士が支援する養育費回収方法を解説してきました。なかま法律事務所では,年間400件を超える離婚相談に対応してきた実績を活かして,養育費の回収に積極的に取り組んでいます。

養育費をしっかり回収したいシングルマザーの方はお気軽にお問い合わせください。