離婚「知っトク」ブログ

養育費を支払うことは義務?

2024.02.20
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お子様がいらっしゃるご夫婦が離婚される場合に問題となる「養育費」とは、法律的にはどのように考えられているのでしょうか。本記事では、養育費についての法律的な考え方について解説します。

養育費とは

養育費とは、「子どもを監護・教育するために必要な費用のこと」と定義されています。具体的には、未成熟の子どもの生活費、教育費、医療費等、子どもの面倒を見るために必要な費用の全般を意味します。なお、ここでいう「未成熟の子ども」とは、「未成年者」ではなく、「経済的・社会的に自立していない子ども」を指します。したがって、成人であっても学生である場合等は養育費を支払う必要があると解されていますので、注意が必要です。

養育費の支払い義務

では、養育費を支払うことは義務なのでしょうか。結論から申し上げますと、養育費の支払義務は法律の明文で定められています。その明文とは、以下のような条文です。

民法第877条第1項

直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

この条文の「直系血族」に親子の関係が含まれているため、「子どもを監護・教育するために必要な費用」である養育費の支払いが義務となるのです。

また、具体的な養育費の決め方についても、法律の明文があります。

民法第766条第1項

父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

 

民法第766条第2項

前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。

養育費はこの条文の「子の監護に要する費用」に含まれていると考えられています。そのうえで、この条文では、養育費はまずは離婚する夫婦が協議をして定めることとされていますが、この協議が調わなければそれ以上は何もしなくてよいということではなく、最終的には家庭裁判所が定めると規定されています。このような規定ぶりからも、養育費の支払いは義務であると考えられていることが読み取れます。

養育費の条件に関して決めるべき事項

それでは、養育費の支払いは法律上の義務であるとして、具体的にどのような行動をすればその義務を果たしたことになるのでしょうか。この点、養育費の支払いの義務を果たすための行動プロセスは、大まかに以下の2つで構成されているといえます。

①まずは民法第766条第1項にも記載されているとおり、相手側と話し合いをすること

②話し合いをして合意に至った内容を守ること

です。そのうえで、まずは相手側と話し合いをして決めるべき項目は、(a)支払期間、(b)金額、(c)“特別の費用”についてが典型的です。以下、一つずつご説明いたします。

支払期間

養育費をいつからいつまで支払うかという点です。基本は離婚した月からお子様が20歳の誕生日を迎えた月までと考えられています。(※成人年齢は18歳に引き下げられていますが、養育費の支払いという場面では基本は20歳までと考えられている点に注意が必要です。)

これに加えて、お子様が大学生の場合(または、大学に準じる高等教育機関に在籍されている場合)、あるいは、将来的に大学等に進学する予定がある場合は、支払い終期を大学等の卒業月まで延長するかどうかも話し合われることがあります。この点、養育費を話し合う時点でお子様が既に大学生等である、またはまもなく大学等に進学するという事情があれば、お子様が20歳を過ぎても養育費を支払うべき「未成熟な子ども」に当たると評価される向きになりますが、お子様がまだ乳幼児である等で大学等に進学するかどうかは未知数という場合は、必ずしも大学等の卒業月まで支払い終期を延長する法律上の義務まではありません。もっとも、その場合でも、「原則は子どもが20歳になるまで支払うが、子どもが20歳になった時点で大学等に在学している場合は、大学等の卒業月まで延長する」といった約束とすることがあります。

金額

養育費をいくら支払うかという点です。通常は、毎月一定額を支払うこととされます。養育費は上述のとおり、生活費等日々の生活の中で発生する費用のことをいうものですので、支払う側も毎月少しずつ負担すればよいと考えられています。そのため、まれに、子どもが20歳になるまでの養育費合計相当額を一括で支払いたい/支払って欲しいというご提案をされる当事者の方がいらっしゃいますが、相手側とそれで合意できるのであればともかく、基本的には養育費の支払いは一括払いには馴染まないとご説明することになります。

そして、毎月支払うべき具体的な金額については、家庭裁判所が作成している養育費標準算定表、またはこの表の元になった計算式に当てはめて算出します。養育費標準算定表を使うことのできるケースでは、複数ある表のうちお子様の年齢と人数で使う表が決まり、その表に夫婦の年収を照らし合わせて算出します。他方、養育費標準算定表を使うことのできないケース(例えば、夫婦のどちらかの年収が表の上限を超えている、お子様が4人以上いる等)は、表の元になった計算式に当てはめて算出します。養育費標準算定表は家庭裁判所のホームページにありますので、こちらをご参照いただければ、ご自身で目安を算出していただくことができます。他方、養育費標準算定表を使うことのできないケースに該当される場合は、表の元になった計算式は複雑なものですので、法律相談の場等で弁護士に個別に算出してもらうことをお勧めします。

“特別の費用”について

上記の養育費標準算定表では、

・私立の小学校~高校の学費のうち、公立学校のそれとの差額

・大学、大学に準じる高等教育機関の学費

・不慮の事故に遭った場合や大病を患ってしまった場合の高額な医療費

等は考慮されていません。このような「特別の費用」を負担することは必ずしも法律上の義務とまではいえませんが、実務の現場では両親の道義的な責任として、「このような費用が発生した際は、(元)夫婦できちんと話し合うように」といった約束とされることが多いです。

養育費の支払い義務を果たさなかったらどうなる?

以上、養育費の支払いは義務であるということと、義務を果たすためにすべき行動についてご説明しましたが、もし万が一、以上のような行動を取らずに養育費の支払い義務を果たさなかったとしたら、どうなってしまうのでしょうか。

結論から申し上げますと、養育費を支払ってもらう側(お子様の親権者側)が然るべき手順を踏めば、給与や預金をはじめとする財産が差し押さえられてしまう可能性や、養育費を支払ってもらう側が申し立てた法的な手続きに協力しないことで最悪の場合懲役刑や罰金刑という刑事罰が科される可能性があります。

より詳しくご説明すると、養育費の支払いについての約束が公正証書や調停調書といった公文書でなされている場合、養育費を支払ってもらう側は「強制執行」という手続きを取ることができるようになります。この「強制執行」は、給与や預金をはじめとする財産を差し押さえて、その差し押さえたものを未払いの養育費に充てるといった手続きです。強制執行は、養育費に限らず、家賃の滞納等色々な未払いの場面で利用される手続きですが、特に養育費の場面における注意点として、一度強制執行を申立てられてしまうと、将来の養育費の分についても差し押さえの対象とさせられてしまう可能性があるという点があります。つまり、一度でも強制執行をされたが最後、延々と給与の一部が差し押さえられてしまうということになりかねません。

それならば勤務先を辞めてしまえばよい、とお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その場合でも、養育費を支払ってもらう側には「財産開示手続」という手続きが用意されています。この手続きでは養育費を支払ってもらう側が把握していない財産や新たな勤務先の情報も含めて全て開示する必要があり、仮に手続を無視したり、開示に応じなかったりすると、上記の刑事罰が課せられる可能性があります。また、場合によってはさらに進んで、市町村等の公的機関に勤務先の情報を照会する手続きを取られる可能性があります。

また、養育費の支払いについての約束が公文書でされていなければ安心、ということにもなりません。上述の民法第766条第2項に記載されているとおり、養育費の支払いにもその協議にも応じなかったとしても、最終的には家庭裁判所が養育費の支払い義務の具体的な内容を定めることができ、その定めた内容は公文書に残るため、結局は「強制執行」や「財産開示手続」の対象になることは避けられないためです。

そのため、まずは養育費を支払ってもらう側から養育費について取り決めるよう求められた際は協議に応じるべきですし、協議の結果約束した内容はきちんと守るようにしましょう。

養育費の減額、変更可否

「そうは言っても、約束した養育費をどうしても支払うことができない…。」とお悩みの方がいらっしゃるかもしれません。そうした場合は、相手に無断で支払いをやめるのではなく、まずは現状の約束では養育費をどうしても支払うことができないため、養育費を決め直したいということを相手に伝え、話し合いをすべきです。

そのうえで、相手が話し合いに応じてくれない、話し合いで合意ができない場合は、養育費減額調停という制度が用意されています。この手続きも行うことは話し合いではありますが、最終的に「審判」といって、裁判官が妥当な養育費の金額を決め直すことで解決が図られます。この「審判」では、養育費を決めた後に再婚してその相手との間に新たに子どもが生まれた等、養育費を決めた当時には予測できなかった事情により養育費の支払いが難しくなっている場合は、養育費を減額してもらう判断が期待できます。したがって、約束した養育費の支払いが難しくなっている場合は、相手に話し合いを持ちかける、養育費減額調停を申し立てるといった、法律上正当な方法を取ることを心がけましょう。

養育費に関してお悩みの方は弁護士法人なかま法律事務所へ

以上、本記事では養育費についての法律的な考え方を解説しました。弊所では、養育費取り決め時の交渉や合意後の減額交渉の経験豊富な弁護士とスタッフが、あなたのお悩みに寄り添い、解決のために全力でサポートをさせていただきます。平日18時までの初回相談は無料でお受けしておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。