【内縁】内縁が認められるとどうなるか
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1,はじめに
前回のブログでは、内縁の成立要件についてお話しました。
そこで、今回は、内縁が成立した場合に、どのような法的効果が認められるのか,お話しします。
2,同居扶助義務(民法752条準用)と婚姻費用分担義務(民法760条準用)
(1)ご相談事例
私は、内縁の夫と10年同居している専業主婦です。
出産のために一時的に実家に戻っていました。
しかし、出産を終え、内縁の夫の元に帰ろうとしたところ、夫に拒否されてしまいました。理由はわかりません。
私は専業主婦であったため、夫から生活費をもらえないと生活もできません。
子供も産まれたばかりなので困っています。
婚姻届けを出している友人夫婦の間では、別居後に生活費を請求し、家庭裁判所の調停手続で生活費をもらえるようになったようです。
でも、私は婚姻届けを出しておりません。どうしたらよいでしょうか?
(2)回答
ア 内縁関係にある夫婦であれば、法律婚をしている夫婦と同様に同居扶助義務が生じます(民法752条準用)。
また、内縁関係にある夫婦は、婚姻から生ずる費用(要は、生活費のことです)を分担する義務があります(民法760条準用)。
夫婦間相互の分担額については、資産や収入などの一切の事情が考慮されます(収入が少ない方が多い方に生活費の支払いを求めることができるということです)。
したがって、一時的に別居していても、内縁関係が存続していれば、生活費を支払うよう請求(婚姻費用分担請求といいます)をする権利があります。
相手が任意に支払わない場合は、家庭裁判所に調停又は審判を申し立てることもできます。
また、同居を求めて家庭裁判所に調停又は審判を申し立てることもできます。
イ もっとも、法律上の婚姻関係とは異なり、
内縁は一方の当事者の解消の意思表示と事実上の婚姻関係の廃絶があれば解消されてしまいます。
したがって、夫の同居拒否と生活費の不払い等の行為が内縁解消の意思表示ということであれば、
婚姻費用分担請求も同居の請求も認められません。
この場合は、財産分与や、不当な解消に対する慰謝料請求をすることになるでしょう。
3,貞操義務
(1)ご相談事例
内縁の夫が、他の女性と浮気をしているようです。探偵に依頼してホテルに入った証拠写真も撮りました。
内縁の夫やその浮気相手に対して慰謝料を請求することはできるのでしょうか?
(2)回答
ア 内縁の夫婦の間には、相互に貞操義務があります(直接の条文はありませんが、民法752条、770条1項1号から導かれる義務です)。
これに反して夫が不貞関係を持った場合、
その不貞関係によって精神的苦痛を被った妻は、夫やその浮気相手に対して慰謝料を請求することができます(当然ですが、妻が不貞行為をした場合は、夫が慰謝料請求をすることができます)。
もっとも、浮気相手の女性が、内縁関係の存在を知らなかった場合は、その女性は慰謝料を支払う責任を負いません。
また、不貞関係に至った時期に、内縁関係が既に破綻状態にあった場合は、原則として、夫も浮気相手も慰謝料を支払う責任を負いません。
さらに、内縁関係が破綻に至っていなくとも、疎遠になっていた場合は、慰謝料の金額が低くなります(東京地裁判決昭和33年12月25日)。
イ なお、重婚的内縁(法律婚をしている夫又は妻がいるが形骸化しており、内縁関係にある夫又は妻がいる場合)の場合であっても、
個別的事情を判断の上、内縁の夫又は妻が不貞行為に対する慰謝料を請求することが認められる場合があります(最高裁判決昭和44年9月26日)。
ただし、請求が認められる場合であっても、
「法律上の妻があって、内縁の妻のおかれた地位が安定したものでないことの覚悟があるはず」として、
重婚的内縁の場合は慰謝料を減額すべきとした裁判例があります(東京地裁判決昭和62年3月25日)。
4,日常家事債務の連帯責任(民法761条本文準用)
(1)ご相談事例
妻が家具屋で椅子を購入しましたが、代金を支払っていないらしく、夫である私に請求が来ました。
妻とはいっても婚姻届けを出した法律上の妻ではなく内縁関係に過ぎません。
私が支払う必要があるのでしょうか?
(2)回答
ア 内縁の夫婦は、
日常家事債務、すなわち夫婦が共同生活を送るうえで日常的に必要となる物を購入した債務については、
連帯して返済する義務があります(民法761条本文準用)。
妻が家具屋で購入した椅子については、
夫婦が共同生活を送るうえで日常的に必要となる物と考えられるため、夫も連帯して家具屋に対する支払義務を負います。
なお、どこまでの範囲のものが日常家事債務に含まれるかは、
夫婦の社会的地位・職業・資産・収入、その夫婦が生活する地域の慣習によって異なります(最高裁判決昭和44年12月18日)。
仮に夫婦の収入が低く、
椅子が高価なアンティーク品か何かで日常家事債務に含まれないという場合、原則として、夫は家具屋に対する支払義務を負いません。
イ また、民法761条ただし書は、「第三者に対して責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない」と定めております。
したがって、夫が予め家具屋に対して「妻がこの店で買い物をしたとしても、私は支払いをしない」と予告していた場合、
夫は妻の買った椅子について支払義務を負わないことになります。
5,相続権
(1)ご相談事例
内縁の夫が死亡しました。
内縁の夫の身内は弟だけですが、その弟が夫の財産を独り占めしようとしています。
私は妻なのですから相続権がありますよね?
その弟は、私に対し、
今まで夫と一緒に住んでいた自宅の借家についても、賃借権は弟が相続したといって出て行けと言ってきています。
(2)回答
ア 内縁関係においては、相続権が認められないというのが判例です。
また、死亡による内縁関係の終了の場合には財産分与請求権もありません。ですから,借家の賃借権を含めて夫の全財産を弟が相続することになります。
しかし、弟が、内縁の妻が夫と一緒に住んできた借家から、妻を追い出すことは権利の濫用として認められません。
イ また、内縁関係継続中に形成した財産については、原則として、名義にかかわらず、夫婦の共有財産となります(民法762条準用)。
したがって,たとえば夫名義の貯金であっても、妻の持ち分が原則として半分あるため(民法250条)、
妻は弟に対し、夫名義の貯金の半分を主張することができます。その他の内縁関係族中に形成した財産についても同様に妻の持分を主張することができます。
6,おわりに
今回のブログでは、内縁が成立した場合の法的効果について解説させていただきました。
次回は、内縁の解消に伴う法律問題についてお話したいと思います。