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精神的苦痛によって離婚する場合の慰謝料請求のポイントとは?

2023.06.09
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離婚をお考えの方で、怒りや悲しみといったネガティブな感情を全く抱いていないという方は滅多にいらっしゃらないでしょう。このような離婚とは切っても切れない関係にある精神的苦痛に対して慰謝料請求をしたいと思われるのも、当然のお気持ちです。もっとも、法律上は、どのような場合であっても慰謝料請求ができる訳ではないのが実情です。

本記事では、精神的苦痛によって離婚する場合の慰謝料請求のポイントを弁護士がご説明します。

離婚する時、精神的苦痛で慰謝料請求できるケース

精神的苦痛を理由に慰謝料請求ができるケースというのは、その精神的苦痛が法律的に見てもお金で償う必要があると評価されるケースです。この点、まずは慰謝料請求をする際の根拠となる具体的な条文を引用します。

不法行為による損害賠償

第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

つまり、その精神的苦痛が法律的に見てもお金で償う必要があると評価されるケースというのは、その精神的苦痛がその人の「権利又は法律上保護される利益を侵害」されたといえるケースということになります。典型的なケースと、それぞれのケースで侵害されていると考えられる権利又は法律上保護される利益は以下のとおりです。

・暴力を振るわれている→心身の安全という権利又は法律上保護される利益を侵害されている

・不貞行為がある→夫婦がお互いに負う貞操義務を相手に履行してもらうという権利又は法律上保護された利益を侵害されている、夫婦として平穏な共同生活を送る権利又は法律上保護される利益を侵害されている

・正当な理由なく生活費を支払わない→夫婦がお互いに負う協力扶助義務を相手に履行してもらうという権利又は法律上保護された利益を侵害されている、夫婦が経済的に協力し合って生活を送る権利又は法律上保護される利益を侵害されている

離婚する時、精神的苦痛で慰謝料請求できないケース

精神的苦痛を理由に慰謝料請求ができないケースというのは、できるケースとは反対に、その精神的苦痛は法律的に見るとお金で償う必要があるとまではいえないケース、すなわち、その人の「権利又は法律上保護される利益を侵害」されたとは評価できないケースです。具体的には、口論や喧嘩等、夫婦のどちらかが一方的に悪いとはいえない場合に感じた怒り等のネガティブな感情については、その人の「権利又は法律上保護される利益を侵害」しているとまではいえないため、慰謝料請求の対象にはならないということになります。

離婚する際に決めるべきこと

精神的苦痛によって離婚する場合、慰謝料を請求するか否かや、請求するとしてその金額をいくらにするかということの他には、どういったことを決めるべきでしょうか。この点、単に離婚届を提出して離婚するだけでは、決まるのは離婚するということそれ自体と、夫婦の間に未成年のお子様がいる場合はそのお子様の親権者が誰かということのみです。しかし、法律上は、より多くのことを決めることができますし、あるいは決める必要があります。以下、詳しく見ていきましょう。

財産分与

財産分与請求権とは、夫婦が婚姻期間中にお互いに協力して形成した財産を、離婚という婚姻関係の清算に伴って、半分ずつ分け合うことを求めることができる権利です(民法第768条)。半分ずつ、というのは、一般的に夫婦が協力して形成した財産に対するそれぞれの貢献度は同程度だと考えられているためです。例え夫婦のどちらか一方のみに収入があり、もう一方は家事に専念していたというような場合であっても、もう一方が家事に専念することで一方が収入を得る助けになっていたと判断されるため、同程度の貢献があったと考えます。

もっとも、半分ずつというのはあくまで原則で、夫婦の一方が特殊な才能、技術により相当多額の収入を得ていた場合等、6:4等の例外が認められた事例もあります。しかし、裁判例の傾向を見ると、この例外に該当すると認められるハードルはそれなりに高いと言わざるを得ません。

別居した場合の婚姻費用

離婚をご検討されている方の中には、配偶者のDVやモラハラ行為等のためにやむを得ず離婚前に別居を開始する方もおられるでしょう。この場合、相手の収入が自分の収入より高いならば、まずは婚姻費用の請求を行うことをお勧めします。婚姻費用とは生活費のことで、法律上、配偶者に対しては自己の生活費の一部を負担するよう求めることができるためです(婚姻費用分担請求権、民法第760条)。

具体的な婚姻費用の金額は、夫婦それぞれの年収、お子様の年齢と人数を家庭裁判所が定める「標準算定表」に当てはめて算出します。(なお、「標準算定表」に当てはめきれない事例の場合は、「標準算定表」の元になった計算式に直接当てはめて算出します。)

親権

夫婦の間に未成年のお子様がいる場合、離婚にあたって必ずそのお子様の親権者をどちらにするかということを決める必要があります。万が一、親権について争いになった場合は、最終的には裁判所が関与する手続き(調停、訴訟)において、裁判官が親権者を誰にするか判断することになります。そして、この判断は、何よりも「誰を親権者にすることが子供にとって最善か」という視点に立ってなされます。より具体的には、「誰がどのくらい育児に関わっているか」「子供との関係性は良好か否か」「子供の意思」「双方の経済状況や環境」「育児を手伝ってくれる人の存在」等、非常に多岐にわたる要素を、上記の視点に立って考慮していくことになります。

養育費

未成年のお子様の親権者になった場合、親権者ではない側に対して、養育費を請求することができます(民法第766条)。具体的な養育費の金額は、上記の婚姻費用の場合と同様に、夫婦それぞれの年収、お子様の年齢と人数を家庭裁判所が定める養育費用の「標準算定表」に当てはめて算出するのが基本です。(なお、「標準算定表」に当てはめきれない事例の場合は、「標準算定表」の元になった計算式に直接当てはめて算出します。)

もっとも、「標準算定表」では、私立学校や大学の学費、医療費等の突発的な出費まではカバーできません。そのため、これらの項目をどうするかということは、別途夫婦間の協議によって決める必要があります。

精神的苦痛を理由とした離婚と慰謝料請求の手順

ここまで、精神的苦痛を理由として離婚をする場合に検討すべき慰謝料のことやその他の事項について解説しました。それでは、実際に離婚を進めていく場合は、どのような手順を取ることが望ましいのでしょうか。

離婚に向けた準備

まずは、本記事や本ブログの他の記事をご参考にしていただき、離婚のために知っておく必要のある知識を踏まえていただいたうえで、どういう条件で離婚するかということをきちんと配偶者に提案できるように、ご自身のお気持ち、ご意向を固めることをお勧めします。

というのも、離婚をするための一番簡単な方法は、配偶者との間で話し合いをして、離婚自体と離婚条件について合意に至ることだからです。話し合いを始める前に配偶者に提案する内容をしっかりと考えておくことは、建設的で冷静な話し合いを促し、合意に至りやすくなるといえます。

専門家の力を借りて別居する

それでも話し合いが暗礁に乗り上げてしまった場合や、DVやモラハラが酷い等の理由でそもそも話し合いができる状況にない場合は、物理的に距離を置くことが話し合いのために有用な場合があります。

この点、配偶者が夫婦の同居義務(民法752条)を盾に連れ戻そうとしてくる場合や、別居後の住所や連絡先を教えたくないというご希望がある場合は、弁護士を代理人として、弁護士の力を借りて配偶者の主張に適切に防御したり、弁護士の事務所宛に連絡をするよう要請したり等の対処をすることをお勧めします。

離婚調停の申し立て

話し合いの中で配偶者の提案や要求が過大であると感じた場合や、そもそも2人だけで話し合いをすることが難しい場合は、配偶者の住所地を管轄する家庭裁判所に離婚調停を申し立てることをご検討ください。離婚調停も実質は話し合いですが、①調停委員という裁判所の職員が中立・公平な立場で仲介する、②相手と直接顔を合わせずに済む、③裁判所という法律実務の価値観が前提となる場で話し合いができる、等と直接本人同士で交渉する時にはないメリットが多いため、本人同士で直接話し合ってうまく合意できなかった場合でも、調停での話し合いならうまく合意できる場合があります。

調停で決着がつかない場合は裁判

もし、離婚調停の中で話し合っても合意に至ることができなかったという場合は、最終手段として離婚訴訟を行うことが考えられます。この離婚訴訟は、原則は離婚調停を経てからでないと提起することができません(配偶者が行方不明の場合等、およそ調停で話し合いができる状況ではないという場合は、例外的に離婚調停を経ないで提起することが許されています。)。

離婚訴訟では、最終的には裁判官が法律の規定や実務の考え方に従って、離婚するか否か、離婚する場合はどのような条件で離婚するかということを「判決」という形で判断します。これまでご紹介してきた手順のうち、最も法律の知識の要求される手続といえるため、万が一離婚訴訟にまで至ってしまった場合は、弁護士に代理人をご依頼されることをお勧めします。

精神的苦痛による慰謝料請求に関するお悩みの方は弁護士法人なかま法律事務所へ

本記事では精神的苦痛を理由として離婚する場合の慰謝料請求のポイントを中心に解説しました。弊所では、離婚に伴う慰謝料請求を含めた離婚交渉全般に精通する弁護士とスタッフが、あなたのお悩みに寄り添い、解決に全力を尽くします。平日18時までの初回相談は無料でお受けしておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。