離婚「知っトク」ブログ

【判例解説】同居中に飼育していた犬の飼育費用負担を認めた事例

2023.04.12
  • 財産分与

夫婦同居中に飼育していた犬について,財産分与の扶養的要素を考慮して,飼育費用の負担を認めた事例(福岡家裁久留米支部令和2年9月24日)

事案概要

■A(夫)とB(妻)は,同居中,ゴールデンレトリバー,雑種(中型犬),ラブラドールレトリバーの3頭を飼育していた。

■Aが平成24年8月に別居。以降Bは,上記犬3頭の餌代を負担し飼育を継続。

■Aが離婚訴訟を提起。

■Bは,Aが一方的に別居して婚姻関係を破たんさせたものとして慰謝料200万円を請求。

■さらにBは,Aに対し,犬を飼育しつつ経済的な自立を図ることの困難を補填する扶養的財産分与として,犬3頭が生存している間,毎月家賃相当の4万5000円を負担すべきであると主張した

判旨

裁判所は以下の様に述べ,Aの離婚請求を認容するとともに,BのAに対する慰謝料200万円の請求と,犬の飼育費用の負担として,犬が生存する限り,月額1万5000円(B宅家賃の一部)及び一頭当たり月額900円(餌代の3分の2)の支払いを認めました。

1 離婚請求について

別居の原因はBにはなく,Aは特に理由なく一方的に別居を開始したと言わざるを得ないものの,別居期間は8年を超え婚姻関係修復の見込みはない。また,Aが別居期間中に,Bの家賃,水道光熱費を負担し,経済的に支援していたことから,Aの離婚請求が信義則に反するものとは言い難い。よって,離婚請求は理由がある。

2 被告の反訴(慰謝料)

AとBは,15年以上にわたり共同生活を続けていたにもかかわらず,Aは,理由なく一方的に別居して婚姻関係を破たんさせ,被告は,その意に反して離婚を強いられ精神的苦痛を受けたものとして,慰謝料200万円の支払いを認める。

3 被告の反訴(財産分与)

⑴ 犬3頭については,財産分与の一環として,これらの帰属等を明確にしておくのが相当である。

⑵ 証拠によれば,Aが犬3頭を引き取ることは困難と認められるから,事実上,今後もBが犬3頭の飼育を継続せざるを得ない。しかし,犬3頭の飼育の為には,B宅を確保するために家賃の支払い及び3頭分の餌代その他の費用を負担する必要があるところ,その全額をBが負担することは公平を欠く。

⑶ そこで,犬3頭はAとBの共有と定め,民法253条1項(※1)により,AとBが持ち分に応じて飼育費用を負担するものとしておくことが相当と考えられる。

⑷ そして,Aは定職があり持ち家も有しているのに対し,Bはアルバイトで稼働していきたもので,現在は無職であり借家住まいであることに照らすと,持分割合はA2:B1として,同割合で費用を負担することが実質的な公平に適う。

⑸ また,同条項には民法649条(※2)にあるような前払いの規定はないが,B宅家賃及び餌代が今後も発生し続けることは明らかであるため,その3分の2については,人事訴訟法32条2項(※3)によりAに支払いを命ずることが相当である。

⑹ Aは,Bに対し,B宅家賃4万5000円のうち,飼育場所確保に必要な費用として2万5000円程度として,その3分の2である1万5000円,一頭当たりの餌代月1400円の3分の2である900円を,毎月支払うべきである。

弁護士中間のコメント

婚姻中に飼育していた犬について,離婚後の飼育費用の負担を命じる裁判例は先例が乏しく,一つの事例として参考になる裁判例といえるでしょう。ただ,あくまで事例的判断であって,婚姻中にペットを飼育していた夫婦全てにおいて妥当する考え方とは言えませんので,留意する必要があります。

 

※1 民法253条

「各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。」

※2 民法649条

「委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。」

※3 人事訴訟法32条

「裁判所は、申立てにより、夫婦の一方が他の一方に対して提起した婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、子の監護者の指定その他の子の監護に関する処分、財産の分与に関する処分又は厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第七十八条の二第二項の規定による処分(以下「附帯処分」と総称する。)についての裁判をしなければならない。

 前項の場合においては、裁判所は、同項の判決において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。」

【引用文献】

家庭の法と裁判第43号 日本加除出版株式会社 101頁~106頁