離婚「知っトク」ブログ

養育費を後から変更(増額・減額)することは可能?

2024.01.15
  • 養育費

「養育費は既に決まっているが、決めた後で収入が変わるなど生活に変化があったので、養育費を決め直したい」というご相談を受けることは珍しくありません。とはいえ、法律実務では、養育費を決めた後に変化が起きたということであれば何でも養育費の変更(特に減額)が認められるという訳ではないのが実情です。それでは、どのような場合であれば養育費を後から変更することができるのでしょうか。

変更が可能な範囲

冒頭に記載したとおり、法律実務ではどのような変化であっても養育費の変更(特に減額)が認められる訳ではありません。どんなに些細なことでも変化があれば養育費を変更することができるとすると、その都度当事者同士で話し合わなければならなくなり、お互いに立場が不安定になってしまうためです。特に、養育費はお子様のための費用であるため、「毎月一定額をもらう/支払う」という立場を安定させる要請は大きいといえます。

このような考慮があるため、法律実務では養育費の変更が可能な事情が限定されることになるのですが、その基準として、

①養育費を決めた後に起こった変化が、養育費を決めた当時には予測できなかったこと

②既に決まっている内容を維持し続けると、当事者同士の公平に反してしまうこと

といったものが考えられています。そして、養育費減額の場合はこの基準が厳しい方向に、増額の場合は緩やかな方向に適用されるといったイメージとなります。

養育費の変更方法と変更時の注意点

それでは、上記の基準を実際の場面で用いる場合は、どのように考えられていくのでしょうか。まずは、上記の基準を適用して変更が可能となり得る典型的な例について解説します。

変更が可能である条件とは

減額の条件(支払側の再婚及び扶養家族の増加/受取側の再婚及び再婚相手と子の養子縁組/支払側の収入の減少/受取側の収入の増加)

支払側の再婚及び扶養家族の増加

支払側に養育費の支払対象のお子様以外に扶養すべき人物が生じたケースです。注意点として、単に再婚したというだけでは、例え再婚相手が専業主婦(夫)であったとしても、養育費の減額は難しいという点が挙げられます。一般的な成人であれば基本的に就労は可能である一方、養育費の支払対象となる未成熟子は就労が難しいということの考慮が背景にあるといえます。

他方で、再婚相手との間に子が出生した場合は、支払側はその子に対しても扶養義務を負うことになりますので、元々の養育費の支払対象の子と新たに出生した子との間の公平を確保する必要があります。したがって、この場合は養育費の減額が可能となり得ます。

受取側の再婚及び再婚相手と子の養子縁組

逆に、受取側の家族関係に変化があった場合も、同様に受取側が単に再婚したというだけでは養育費の減額は難しいです。なぜなら、例え現実には一緒に暮らして生活を共にするようになったのだとしても、再婚相手と子は法律上の親子関係にはないためです。

他方で、再婚相手と子が養子縁組をした場合は、再婚相手と子に法律上の親子関係が生じ、再婚相手も子に対して扶養義務を負うこととなりますので、養育費の減額が可能となり得ます。

支払側の収入の減少

まず、支払側の収入の減少については、養育費を決めた時に予測ができた事情であれば、養育費の減額は難しいです(上記基準①より)。例えば、給与所得者で、養育費を決めた時から賞与が減ったため収入が減少したものの、勤務先自体に変更はないという場合です。この場合は、勤務先の給与・賞与体系や業績が多少上下する可能性については養育費を決めた時に織り込んでいると評価され、減額の理由にはならないと結論づけられることが想定されます。自営業者の場合も、合意時に数年分の平均年収をとって決定することが多いため、その後の業績悪化もある程度のものは合意時に予測ができたと評価される向きになりがちです。

さらに、収入減少に至った経緯・背景についても、「自らの意思で退職した」等、支払側が自身の意思で低い収入に甘んじていると認められてしまう場合は、やはり養育費の減額は難しいです(上記基準②より)。また、このような場合は、実際の収入そのものではなく、「その人が潜在的に持つ働く能力(専門用語で「潜在的稼働能力」と言います。)ではどれくらいの年収が得られるか」という基準で算出されることもあります。

結局、支払側の収入の減少で養育費の減額が認められるのは、養育費を決めた時に予測できなかった心身の故障で働けなくなった場合や勤務先の倒産等、社会的にみて収入の減少に本人の非がなく、養育費の減額がやむを得ないような場合に限られると考えられるでしょう。

受取側の収入の増加

受取側の収入の増加については、論理的には、上記基準①・②をクリアする事情といえれば養育費の減額理由にはなり得ます。

ただし、現実的には受取側の収入の増加を理由に養育費を減額するということはかなりハードルが高いと思われます。なぜなら、たいていのケースは上記基準①・②のどちらかをクリアできなかったり(例えば、「養育費を決めた時には無職であったが、パート勤務を始めたので収入が増加した」という場合であるならば、社会的に「離婚を機に子供との生活のために仕事を始める」ということは予測ができるといえ、上記基準①に触れるといえるためです。)、離婚後の相手側の就労状況や収入状況を把握することがそもそも困難であったりするためです。

増額の条件(子供の学費の増加/怪我・病気による医療費の発生/受取側の収入減少または支払側の収入増加)

子供の学費の増加

子供の学費が増加する場合の最も典型的な例は、子供が大学に進学することが決まった、といった事情ではないかと思います。この点、上記基準との関係では、養育費を決めた時にお子様が大学に進学することがどの程度確実であったかどうかということが重要になります。例えば「養育費を決めた時にはお子様はまだ小学生で、大学に進学するかどうかは“可能性”にとどまっていた」という場合であれば、養育費を決めた時に“予測”まではできなかったといえ、大学に進学することが決まった時点で養育費の増額を求めることができるという結論になるでしょう。他方、「養育費を決めた時に既に大学進学を間近に控えていた」場合であれば、養育費を決める際に大学に進学するという事情も考慮できたといえるため、後になっての増額は難しいかもしれません。

以上のような、“可能性”にとどまっていたか、それとも“予測”できていたか、という判断手法は、大学進学以外の場面、例えば私立学校への進学についても同様に当てはまります。

怪我・病気による医療費の発生

突然の怪我や病気に見舞われた場合、それによって発生した医療費が社会通念上標準的な金額の範囲内に収まる場合は、養育費を決める時に養育費の金額に織り込み済みだと評価されることが多いです(「養育費標準算定表」という裁判所が作成した表を用いて養育費を決めた場合は、この表において標準的な医療費分は考慮されていることになります。)。

他方で、医療費が標準よりも高額になってしまうような重い怪我や病気の場合は、養育費を決めた時にはそのような事情は考慮されていないといえ、その時点からの増額を求めることができる可能性があります。

受取側の収入減少または支払側の収入増加

収入関係の事情については、養育費を減額したい場合における(支払側の収入の減少/受取側の収入の増加)とパラレルに考えられます。つまり、この場合も結局は上記基準をクリアできているかで判断されることとなるでしょう。

養育費を変更する際の注意点

相手方の現在の情報(特に住所)を可能な限り収集する

単に養育費を減らして欲しい/増やして欲しいと打診するだけであれば、メールアドレスやLINEアカウントを知っていれば可能です。しかし、話し合いがまとまらない場合に養育費減額/増額調停を申立てる場合や、弁護士に交渉を依頼する場合には、相手方の現在の住所がどこかということを把握しておく必要があります。

約束が守られなかった場合の対策を立てる

相手方が養育費の減額/増額に応じてくれたとしても、その約束が口約束のみであったら、万が一反故にされてしまった時に対処することが難しくなってしまいます。そのため、合意内容を公正証書化する、養育費減額/増額調停を申立てて調停調書を得るといった方法で、合意内容を明文に残すことが推奨されます。また、受取側の場合であれば、これらの書面を作成することで約束が破られた時に支払いを強制できる手段(「強制執行」といいます。)を利用できるようになる(公正証書の場合は「強制執行受諾文言」という専用の文言を加える必要があります。)ので、その点でもメリットがあります。

養育費に関してお悩みの方は弁護士法人なかま法律事務所へ

以上、本記事では養育費を後から変更する場合に知っておいていただきたい基本的な知識をご説明しました。弊所では、養育費請求の経験豊富な弁護士とスタッフが、あなたのお悩みに寄り添い、解決のために全力でサポートをさせていただきます。平日18時までの初回相談は無料でお受けしておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。