離婚「知っトク」ブログ

不貞行為の立証は難しい?|立証のための要件と証拠集めのポイント

2023.09.22
  • 男女トラブル
  • 離婚の原因

配偶者の不貞行為があった場合、それを理由として慰謝料請求をすることを検討される方は多いと思います。もっとも、不貞行為を理由として慰謝料請求をするためには、慰謝料請求をする側の方で不貞行為の存在を「立証」しなければならないことが基本です。

本記事では、不貞行為の立証をテーマとして解説していきます。

不貞行為とは

まず、法律上は、「不貞行為」の定義はどのようなものと考えられているのでしょうか。結論から言うと、不貞行為とは「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と定義付けられており、性的接触に満たない身体的接触や単なるデート、食事に行く行為等は「不貞行為」、すなわち慰謝料請求の対象となる行為には当たらないと考えられています。

このような理解のされ方は、一般的な感覚よりは狭いと感じられるのではないでしょうか。では、なぜ法律上の定義はこのように狭く理解されているのでしょうか。

(1)“不法行為”に当たること

そもそも、不貞行為を理由として慰謝料請求ができるのは、不貞行為が“不法行為”に当たると考えられているためです。不貞行為と不法行為は一文字違いの単語ですが、不貞行為は前述のとおり「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」という定義となるのに対して、不法行為はもっと広く、例えば「自動車を運転していて、他人の自動車にぶつけてしまったこと」「SNSで他人の名誉を毀損してしまったこと」等の行為も含まれる概念です。

このような不法行為を理由として、法律上被害者側から加害者側に対して損害賠償を求めることができると明記されています。具体的には、民法第709条という条文で、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定められています。つまり、自分が受けた被害を加害者にお金で償わせたいのであれば、この条文に書いてあることに自分のケースが当てはまらなければならないということになります。

このことを不貞行為を理由とする慰謝料請求の場面に引き直して考えると、不貞行為が法的にみてあなたの「権利又は法律上保護される利益を侵害」するレベルのものといえるからこそ、慰謝料請求ができるということになります。

(2)「貞操義務違反」という考え方と「婚姻生活を平穏に送る権利の侵害」という考え方

それでは、なぜ「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」である不貞行為が不法行為に当たるのでしょうか。この点、法律学的には2つの考え方があります。

1つ目は、「夫婦がお互いに配偶者以外の者と肉体関係を持たない義務」、すなわち貞操義務が法律上の義務として存在するところ、この義務に違反するから、という考え方です。わかりやすい考え方ではありますが、現代的な考え方にはそぐわない、という批判もあるところです。

2つ目は、法的な権利、または法律上保護される利益として夫婦はそれぞれ「婚姻生活を平穏に送る権利」を有しており、それを侵害しているから、という考え方です。この考え方は、個人を尊重する現代の価値観に適うものではありますが、権利の内容がやや抽象的であるという面もあります。

これら2つの考え方は、強いて言えば2つ目の考え方を採用する裁判例が多い傾向にありますが、どちらかが絶対的に正しいということはありません。いずれにせよ、こうした複数のアプローチから、不貞行為は慰謝料請求ができるような行為に当たると考えられています。

不貞行為が認められるケース

以上の定義についてのお話を踏まえて、不貞行為があると認められる具体的なケースはどのようなものがあるのでしょうか。まず一番に挙げられるのは、不貞行為の存在それ自体を後から直接振り返ることができる資料(例えば、まさにその場面を記録した写真、動画等)がある場合といえますが、慰謝料請求を請求する側(不貞行為をしていない側)がこのような資料を発見することはやや難しい面があるため、実際には以下のようなケースが典型的です。

・不貞相手と2名でホテルに一定時間滞在していることが分かる探偵の報告書

・不貞相手とのLINEやメールのやりとりで、不貞行為について言及があること

・不貞相手と2名で一定期間旅行に行ったことが分かるLINEやメールのやりとり、写真等

これらのケースに共通していることは、いずれも、「不貞行為の存在が立証できている」ということです。「不貞行為の存在が立証できている」とは、どういうことでしょうか。以下の項目で解説します。

不貞行為における証拠とは

不貞行為を理由に慰謝料請求を行う場合、請求された側が自らの不貞行為を否定したり、慰謝料の支払いを拒否したりすることは残念ながらそう珍しいことではありません。そうした時、慰謝料請求をする側、慰謝料請求をされる側、双方に対して中立公平な立場にある裁判官は、どのように判断するのでしょうか。

この点、法律の理論では、「裁判所が何らかの請求を認める場合、その請求が認められて利益を受ける側の当事者が、その請求の裏付けとなる事実を立証しなければならない」と考えられています。そうだとすると、上記のような、請求された側が自らの不貞行為を否定したり、慰謝料の支払いを拒否したりした場合で、その請求の裏付けとなる事実、つまり不貞行為があったという事実の立証ができていなかったとなると、裁判官はその請求は認められないという判断を出さざるを得なくなります。

したがって、不貞行為を証拠によって立証できるか否かということは、不貞行為を理由に慰謝料請求を行うにあたって非常に重要といえるのです。

不貞行為における証拠の収集方法の注意点

それでは、具体的にどのような資料をどれくらい集めれば、裁判官が不貞行為があったという事実を認定できる証拠となり得るのでしょうか。

この点、上記のとおり、不貞行為が「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と定義づけられていることからは、この定義に近い位置にある事実を立証できる証拠であればあるほど証拠として強くなるといえます。つまり、上記「不貞行為が認められるケース」の項目で触れた、「不貞行為の存在それ自体を後から直接振り返ることができる資料」があれば、それは「不貞行為があった事実を直接立証できる証拠(法律の理論では「直接証拠」と呼びます。)」になります。

また、こうした直接証拠がなくても、「不貞行為が存在したことを推認できる事実(法律の理論では「間接事実」と呼びます。)」を立証できる証拠(法律の理論では「間接証拠」と呼びます。)」を複数提出して、間接事実を複数積み重ねることでも、不貞行為の存在を立証することはできます。現実的に多いのはこちらのパターンです。

例えば、「配偶者が第三者とラブホテルに入って数時間出てこなかった」事実を示す探偵の報告書から立証できる事実は、不貞行為の存在そのものではなく、あくまで「配偶者が第三者とラブホテルに入って数時間出てこなかった」事実です。しかし、法律の理論や実務の世界では、ある事実が存在するか否かを認定する場面で「今、このような資料が残っているということは、過去にこういうことがあったと考えるのが自然だろう」という視点が使われています。これは、「経験則」と呼ばれる考え方で、この考え方を使うことで、ある間接事実からある事実の存在が推認できる、と導いていく、ということになります。

これを「配偶者が第三者とラブホテルに入って数時間出てこなかった」事実で考えてみると、ラブホテルは一般的に性行為が行われる場所で、そのような場所に数時間滞在した、ということは、それはつまりそこで性行為をしたと考えるのが自然、ということになります。そうだとすると、「配偶者が第三者とラブホテルに入って数時間出てこなかった」事実は、間接事実として、「配偶者と第三者の不貞行為の存在」という事実を立証できるということになります。

このように、「配偶者が第三者とラブホテルに入って数時間出てこなかった」事実を示す探偵の報告書は、それ単独でも不貞行為の存在を立証できる力のある証拠といえます。他方で、このような証拠がなくても、すぐに諦める必要はありません。上記のとおり、間接証拠を複数提出して、間接事実を複数積み重ねるという方法も許されているためです。

例えば、配偶者と第三者のLINEのやりとりがあるということのみでは直ちに不貞行為があったと断言することは難しいかもしれません。しかし、これに加えてLINEのやりとりにリンクした他の資料(LINEで旅行の約束をしていたのであれば旅先でのツーショット写真、ホテルに行く約束をしていたのであればホテルを予約したメール等)があれば、それらの資料を複数提出して間接事実を複数積み重ねることで、「今、このような資料が残っているということは、過去にこういうことがあったと考えるのが自然だろう」という経験則の考え方が適用されて、不貞行為の存在を立証できる可能性があります。

つまり、以上を整理すると、不貞行為の存在を立証するために証拠を収集する際は、「今、このような資料が残っているということは、過去にこういうことがあったと考えるのが自然だろう」という経験則の視点に立つことで、どういった資料が残っていそうか、どういった資料を集めれば立証に十分といえるか、ということが分かってきます。

したがって、具体的には、LINEやメールのやりとり、配偶者と第三者が写っている写真、ホテルに宿泊したり食事に出かけたりした際の領収書…等々、不貞行為に関係しそうな資料をとにかく可能な限りたくさん集め、その中から、経験則の視点に立った場合に不貞行為の存在を導けそうな組み合わせを選んでそれを証拠として提出する、というやり方がお勧めということになります。

証拠がない場合の慰謝料の請求可否

もし万が一どうしても証拠がない場合は、できる限り話し合いの中で解決するということを意識しましょう。たとえ証拠がなくても、慰謝料を「請求すること」自体は可能だからです。他方で、話し合いで解決できなければ、解決のためには訴訟を提起せざるを得なくなりますが、上記のとおり、請求された側が自らの不貞行為を否定したり、慰謝料の支払いを拒否したりしている中で、その請求の裏付けとなる事実、つまり不貞行為があったという事実の立証ができていなかったとなると、裁判官はその請求は認められないという判断を出さざるを得なくなります。そうだとすると、どうしても証拠がない場合は、訴訟に行った場合はやはり、こちらの請求が認められるという結果で終わることができる可能性は低いと言わざるを得ません。このように考えると、多少相手側に譲歩をしてでも話し合いの中で解決するという方針を取る方が、結果的に有利な結果で解決できる可能性が高いといえます。

パートナーの不貞行為に関してお悩みの方は弁護士法人なかま法律事務所へ

以上、本記事では不貞行為の立証をテーマとして、専門的な理論も交えながら解説しました。このように、不貞行為を理由とする慰謝料請求の場面を深く掘り下げていくと、なかなか一朝一夕には理解することが難しい概念が関係していることが分かります。また、不貞行為を理由とする慰謝料請求の場面では、本記事で解説したような不貞行為の立証についての問題だけでなく、慰謝料として請求する金額はどれくらいが妥当なのか、相手方とはどのように話し合いを進めていけばよいのか…等々、何かと悩みどころが多いです。さらに、こうした悩みどころは、それぞれの状況や事情次第で最適解が変わってくる厄介さもあります。

このようなことに鑑みると、不貞行為を理由として慰謝料請求をすることをお考えの場合は、お一人で悩まれず、早い段階から弁護士によるそれぞれの具体的な状況、事情を踏まえた専門的な判断を加えることが強く推奨されることになります。

弊所では、不貞行為を理由とする慰謝料請求の経験豊富な弁護士とスタッフが、あなたのお悩みに寄り添い、解決に全力を尽くします。平日18時までの初回相談は無料でお受けしておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

この記事の監修者

中間 隼人Hayato Nakama

なかま法律事務所
代表弁護士/中小企業診断士
神奈川県横浜市出身 1985年生まれ
一橋大学法科大学院修了。
神奈川県弁護士会(65期)